ISO事務局講座 その9 2006.12.24

役割・責任及び権限
えー、本日もまたくだらない話を一席・・・はじめにお断りしているのですから話を聞いてから金返せというようなご苦情はご遠慮くださいね。
ISO14001規格では、役割・責任及び権限を決めて文書にして関係者に周知しなさいとあります。
どんなことでも二人以上の人間が集まり効率的な活動をしようとすると組織がないといけません。烏合の衆という言葉がありますが、人間がたくさん集まっても役割分担を決めておかないと、何事も前に進みません。
昔、労働組合は春闘のシーズンになりますとオルグなんていいまして、組合員を集めてわけのわからないことについてしち面倒くさい説明会をしましたね、これはズバリ組織化ってことでございます。組合の方針を組合員に理解させ協力させようという不条理でございます。なぜ組合員の意向を汲み取り組合が運動しないのでしょうか?
私はこの組合のむずかしい話(くだらない話?)を聞くのって小学校のときの朝礼と同じく、苦痛でありました・・

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恐竜が滅んだよう
に社会党は滅んだ
当時私は組合員は労働組合と交渉するための組合を作らないといけないなと考えておりました。だって一般組合員の意思が組合の方針に全然反映されなかったのですから。なぜ上位組織が決めた政治目的のために我々下々が動かなければならないんだ、というのが素朴な疑問でした。
政治的目的を排除して、組合員の賃金・生活・福祉というものをメインテーマとしたのは1970年代以降でしょう。60年代の労働運動とは政治運動だったというのが一労働者の実感です。
当時ガリバーであった社会党は恐竜のごとく滅びましたが、それは私が感じていたようなことを私の所属した組合に限らず全国の多くの組合員が感じていたということでしょう。

くだらない話が続きます。
一心同体とは言いますが、夫婦だってまったく同じ考えであるはずがありません。晩御飯の献立をどうするかということなど家族運営においてもデシジョンメーキングは多々あり、意見が一致してから行動するという取り決めでは晩飯も食えません。そのため、たいていどちらが主導権を握ります。私の家ではもちろん家内が第一階級、私が第二階級という身分制度で30年以上運営しております。
昔のSF小説に「断絶への航海」ってのがありました。この中にでてくる未来の国家では行政組織がない。行政だけでなく立法、司法でもそのときどきで一番の適任者が自推他推で指導者となりものごとを決定遂行する。小さな政府の極限といえましょう。まあ、ちょっとこれは現実的には無理ではないでしょうか。

システムとは組織化すること、ISO9001とかISO14001というのはマネジメントシステム規格と称していますので、当然会社や工場あるいはNPOなどのいかなる組織においても組織・権限について決めることを要求しています。具体的な項番としはISO14001規格の4.4.1などです。
もっともISO9001もISO14001も範囲限定の規格ですから、そこで要求している責任権限の決定事項は品質管理に関してあるいは環境管理に関してのみ書いてあります。だから規格で記述している責任権限を定めれば規格適合ではありますが、それだけでは会社が動かないことも確実です。
だって品質マネジメントシステムだからって品質に関わる責任権限だけを決めていた会社があったとしたら、人事考課とか出張旅費清算の責任権限をどうしましょうか? 
まあISOの審査登録のためには、とりあえず品質あるいは環境に関する責任を決めなければなりません。
まず管理責任者というものの理解については何度も話していますが、原語は経営層を代表する者(Management representative)ですから、品質担当役員や環境担当役員を意味します。その方は会社の品質システムや環境マネジメントシステムを構築し維持するだけでなく、経営層いやその会社を代表して対外的に交渉したり広報したりする責任者であるはずです。
世の中には、工場の一介の品質管理課長や環境管理課長などを管理責任者にアサインする事例があります。
というよりそんな会社・工場が多いのでは?
まあ、それは単純な勘違いといえますが・・私は最大の不適合であると思います。だって完璧に4.4.1項への不適合でしょう?
現実にはどの審査機関も重大な不適合どころか不適合にすらしないでしょうけれど・・

それよりも笑っちゃうのはISOをするんだ(というのも意味不明ですが)ということで、新たな組織を作ったりするんですよ。
ここでいう組織とは部門(部・課)ではなく、組織体制(ハイラルキー)を作るということです。
しかしISO対応の組織表を作っても、その体制で明日から会社の仕事をするっていうわけではないんですよ。単に品質マニュアルとか環境マニュアルに載せるだけのものです。それって一体どんな意味があるのか?
私の言っている意味がわからないですか?
あなたの会社・工場には組織表ってありますよね? 一番上に社長とか工場長とかがいて、その下に総務部長とか営業部長とかがいて、更にその下に総務課、経理課、などなどがならんでいるあれですよ、あれ。そしてそこに職務分担が書かれていたりします。
現実の会社はその仕組みで動いているのですから、ISOのマニュアルにもそのまま載せたらいいのではないでしょうか?
エツ!管理責任者がいないですって?
ふつうの会社には品質保証責任者とか環境管理責任者なんて職制(あるいは機関)はありませんよ。ついでに言えば安全衛生管理責任者とか情報管理責任者なんてのもありません。
でも品質保証担当役員とか環境担当役員あるいは個人情報担当役員なんてのは設けているはずです。
いないですって?
そりゃISO審査どころか会社存続が危ういですよ 
品質マニュアルでも環境マニュアルでも元からある会社の組織表をそのまま転用し、取締役総務部長(環境管理担当役員)とか取締役製造部長(品質保証担当役員)あるいは監査部長(品質監査及び環境監査の責任者)とか書いてあれば完璧ではないでしょうか?
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そうそう、内部監査が会社業務に内部化されていないってのが多いんですよ。
本当は監査役とか監査部がするのが内部監査。
品質保証課なんてのがしているのはウソ監査。
エッツ! ISOのためにしている品質監査とか環境監査は、監査役とも監査部とも関係ないですって!
それは困りましたね・・・品質の内部監査とか環境の内部監査が会社組織の監査部と縁がないというのでは内部監査の効果は期待できるわけありません。いったい全体そのISOに基づくマネジメントシステムは意味のないバーチャルというか架空のものなのでしょう!
そういったQMSとかEMSあるいはISMSを作って「システム構築しました」とか「私はシステム屋です」なんて語っている事務局がいるなら水戸黄門に頼んで退治してもらわなくては・・

なんかいつもの語っているISOはあるがままというお話の繰り返しでありましたね。
でも、あるがままを示すことができない組織(会社・工場)が多いんですよね。
あなたの会社の品質マニュアルあるいは環境マニュアルを確認してください。管理責任者とか監査責任者なんてのがマニュアルの4.4.1の組織表に載っていませんか?
載っているでしょう 

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ではあなたの会社の正式(?)な職掌表に管理責任者とか監査責任者なんてありますか? たぶんないのでは?
正式な職制になくてどうしてマニュアルにあるんでしょうねえ〜

ハイビジョンテレビなんか見てますと、リビングにいてイグアスの滝でもサハラ砂漠でも南極でも自分がそこに行っているような感じになります。パソコンが発達しテレビゲーム(ビデオゲーム)もリアルそのものになってきました。そういったバーチャル体験がおおはやりですが、会社の組織までバーチャルでは困りますよね?
現実の会社の組織をそのまま『わが社はこうだ! ISOのための組織なんてありません』と言い切る度胸がないんでしょうかね?


新年の誓

バーチャルな組織を見かけたら百叩きの刑に処す




ふっくん様からお便りを頂きました(07.03.07)
役割・責任及び権限? 佐為さま
単純に質問です。
ISO14001の条項4.4.1に「組織のトップマネジメントは(中略)任命すること。その管理責任者は次の事項に関する定められた役割、責任及び権限を、他の責任に関わりなく持つこと。」以下略
とありますが、これはひとつの例として、ある工場管理責任者が、排水の管理責任者に任命されて排水管理をしていて、社内基準で定められた排水基準以上の水が出た場合、たとえ工場の操業を止めてでも、(自社のマネジメントシステムで守ると定めた以上)排水管理の復旧を最優先する。すなわち工場を操業させるという責任に関わりなく、任命された以上は排水管理を行う権限と責任を持つということなのでしょうか?よろしくお願いします。

ふっくん様 ご無沙汰しております。
えー、私はこの文章にこだわりといいますか、引っかかりは感じませんでした。
企業において責任ある地位にある人は決裁に当たってはその担当している職責にとどまらず総合的に判断して決定していると思います。
経営に参画している方なら、例えば人事担当取締役という職責を担っていても会社の全体について責任を負い、それはとりもなおさず会社の活動すべてに発言権を持つということです。
その意味で誠実な上級管理者であればこの文章は不要であると思っていました。
管理責任者は上級管理職(あるいは経営層)であることが求められていますから、その人は環境マネジメントシステム構築維持のみならず経営全般についての責任を負うと考えます。
管理責任者の原語は経営層を代表する者です。
そう考えると職務遂行上の矛盾といいますか、義理と人情といったコンフリクトはありえないと思います。
当然、どの会社もコンプライアンスを最上位としているはずですから、排水基準以上の水を出しても操業を継続するという発想は管理責任者であろうとなかろうと出るはずがないのですが・・・

いずれにしても排水基準を満たさない排水を流し続けても操業を続けようという判断をすることはありえないと思います。
もしそんなことがあれば、環境方針に反しますし、運用管理、監視測定などなどに不適合であることはいうまでもありません。

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