事務局講座12 2007.03.20

事務局の力量
ISO審査員に限らず事務局を担当する者は専門性が必要だと思う。専門家でないと仕事にならないのである。
今では審査員は専門分野というのを設けなくなったが、私はそれは間違いだと思っている。私は過去自分が従事していた業種においては工場を一瞥しただけで、しっかりした会社か改善の宝庫であるかはすぐわかる。
よく、ISO審査員になるとたくさんの工場を見ているのでどんな業種でも良し悪しが分かるようになるという。それは確かにそうだろうが、実際にその業種の工場の管理をしたか不良対策に汗を流し歩留まり向上に努めたかというような経験がなければわからないところはある。

もちろんこの道何十年なんて経験者でなければならないとか、すべてを知っていることを期待しているのではない。逆にこの道何十年なんていうと他に能がないのではないかと疑われる。 しかしこの道3年とか5年とかの経験が必要だと思う。
その理由は簡単である。その程度の経験知識がなければ仕事が務まらないからだ。規格を読んでも意味するところを理解できないのではないかと思う。

簡単な例をあげよう。文書管理という項番がある。ここでは審査、決裁、発行管理、版管理などなどを決めている。文書管理というものをしたことがない方はこの項番の要求を読んでその意味を理解しても、現実にいかほどの重み、重要性があるのかどういった方法をとればよいかを理解できないだろう。
他方、文書管理というものに一度でも関わった者にとっては書いてあることがすべてスッと頭に入ることは間違いない。要するに仕事をしたことがなければ規格を理解することができないといっても過言ではない。規格に書いてある文書管理に関する要求事項は必要最低限のことであり、誰が文書管理に関するルールを作ろうとするとまったく同じになるだろうことを保証する。
もっとも、最近はIT技術のおかげで版管理、発行管理が非常に楽になった。
もっと例をあげようか。
環境では順守評価という項番がある。組織が適用を受ける法規制を守っているかを確認しなければならないという要求である。
法規制は4.3.2で調べたわけだから、それに対応してどんな方法で順守評価するかを考えればよいわけだが・・・・実際に仕事をしている人ならそういう発想ではなく、業務の管理として何をしているかと思い巡らすだろう。なぜなら法に関わる業務あるいは義務といってもその種類というかニュアンスというか一様ではなく、当然点検方法も一様にはできない。
そしてなによりも過去より順守評価なんてしているからだ。
廃棄物を処理委託する都度交付するマニフェストについての順守評価と、何年に一度発生するかわからない工場長の異動による公害防止統括者の届けの順守評価方法が同じであるとは思わないだろう。
そんなことさえも知らない人が事務局を勤めている会社を知っている。
その事務局担当者と話をしたことがあるが、もう勘弁してくれという感じですね。
ISO規格の理解という以前に、会社を営んでいく上での法規制とかまあ社会通念を知らずして・・・もう共通の基盤がありません。
ISO規格の歴史とか、規格ではこう書いてあるとか、審査員が言ったからとか、物の本によるととか・・そんなことはどうでもよくて、私は数年間 実務に就いた方が良いのではとしか言いようがなかった。
といってもそんなことを言わず去ってきたのであったが・・ 

是正処置とか予防処置といっても業種によって想定される手段、手法というのはまったく異なる。具体例をあげれば製造業であっても工場における予防処置と、本社の管理業務における予防処置は意味するところも手段も全然違う。
極端に言えば方法が違うだけでなく、規格の読み方・理解の仕方を変えないとならないこともある。

順守評価というと通常は組織が適用を受ける組織内の運用管理についての順守評価であるが、私の経験では子会社に行う遵法点検を当てはめた例もある。規格とおり読めば「適用を受ける法規制はありません」と言うべきかも知れない。
会社法の統制という観点とISO14001の順守評価は異なる
しかし、規格の意味するところと違うといったとしても、現実にその会社が社会的責任や環境行政の有効性を考えればそれは当然であると思う。
といって新たによけいな仕事をすることもないから現実を当てはめたというわけだ。
それが会社にとって有効であり、社会に対しての責任をまっとうするならばよろしいのではないか?
規格では・・・なんて切りかかってくるならば切り捨てるまでのこと
実務に役立たない規格なんて捨てればいいだけ、いえ、実務に役立つように読むだけのこと。

そういった業種、業態によって同じ規格文言であってもいかに対応するかは異なってくるわけで、だから自分の組織(会社・工場など)を知らなければ事務局など務まるわけがない。
私はコンサルなんて自称したことはないが、あちこちでISO9001やISO14001の指導をしたりしている。そんな企業で事務局として新たに採用しましたという話や、採用されましたなんて方にお会いするが果たしてどうなのであろうか? 単にワープロを打つとか書類の整理、窓口業務ならよいだろうが、仕組みを考えるという役目を果たすには不向きだと思う。いやできないだろうと思う。
じゃあお前は人様の会社に行って指導ができるのか? というご質問を受けることは間違いない。
正直言ってひとさまの会社に行って指導はできても、その会社の事務局を努めるのはできないに違いない。
いずれにしても私は過去の経験からその会社を知るということが必須であると知っている。指導を引き受けるとまずその会社を知ることに努める。建屋、敷地、組織、設備、工程、そして社内にある文書、帳票などなどを調べる。
そんなことをしてたらコンサルなんて割に合わないと思われるかもしれない。
当然だ。人様の会社を良くしてあげましょうとか人様の会社のISO認証を請け負いましょうなんてことはハンパな仕事ではない。そういった苦労をいとうならコンサルなんてしてはいけない。
オット私はコンサルでお足をいただいたことはありません。
すべて無給のボランティアなのです。 

その理屈から事務局は専門家でなければならないし、その会社を知り尽くしていなければならないのである。

ジョンソンは「組織のことは組織の人が一番知っている」と語ったが、同じく「組織のことを知っている人が事務局にならなければならない」のである。


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