第29条2項 (2004.10.24)
「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」

本題に入る前に少し準備運動をいたします。
ルイスキャロルの理髪師のパラドックスというものをご存じでしょうか?
三人の理髪師A・B・Cが働いている床屋がある。
Aは体が弱いので、Aが外出するときはBが付き添わなくてはならない。
また店を空にしてはいけないので三人そろって外出してはならないことになっている。
quest.gif
 すると、
Cが外出しているとき、Aが外出しようとするとBは店に残らなければならない。
これはAが外出するときはBが付き添わなくてはならないということと矛盾する。
つまりCは外出してはいけないことになる。
この問題をまじめに考えている人々が古今いるのであります。
あるいは一読してバカバカしいとお考えになる方もいらっしゃるでしょう。
確かに実際の生活に役に立つとは思えませんね、
でもまあそのような問題なら簡単に作れそうです。
私もひとつひねりました。
親は子に体罰を与えてはいけない。
もっとも何を体罰というかは一概に言えない。
×
そして時と場合によっては体罰が必要なときもある。

さあ、あなたはお子さんに体罰を与えてはいけないのでしょうか?
 ときと場合によってはしても良いのでしょうか?
こんなくだらないことはいくらでも考え付きます。なにせ私の頭はダジャレと不真面目しか詰まっていないのです。
結婚記念日には奥様にプレゼントをしなければいけません。
でも持ち合わせがなければプレゼントできなくてもそれはしかたありません。
そんなときは気持ちだけでもいいのです。

あなたの奥様はプレゼントをもらいそこねてしまいました。
 
佐為ジジイめ、とうとう狂ってしまったか? なんてご心配召されるな。
こういったことは論理学の初歩、まじめに考えると頭の体操になります。もっとも前に申し上げましたように、人によっては「くだらない」で終わりです。
現実の世の中ではそんな論理の遊びのようなことってあまりありません。
・・・・と思いたいのですが・・・・

事実は小説より奇なり。世の中は思いもよらないようなことがあるものです。
憲法第29条をみてみましょう。
第1項 財産権は、これを侵してはならない。
第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
第3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


パラドックスとは

ぎゃくせつ【逆説】〔paradox〕
(1)通常の把握に反する形で、事の真相を表そうとする言説。「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」の類。
(2)相互に矛盾する命題がともに帰結し得ること。また、その命題。
おお、日本国憲法にも立派なパラドックスがありました。
文章を読みますとスラスラと頭に入り、当たり前に感じて疑問を持たないかもしれません。でも記号を使って記述するとちょっとおかしい。
AはBである。
Aがどんなものであるかは時と場合によって変わる。
だから場合によってはAはBでない。
これってもはや論理ではありません。落語のご隠居が八さん、熊さんに語る講釈とか、小学生の会話のレベルではありませんか?
それともわたしのたとえが間違っているでしょうか?

ISO9000とかISO14000に関わっていて、この文章に疑問をもたなければ、その方は間違いなく偽物です。
絶対コンサルなどにたのんではいけません。

この条文の3つの項はお互いに矛盾してます。
もちろん私が考え付くようなことはすでに多くの学者が気づき、いろいろな論を展開しているそうです。
本を読みますと肯定・否定、絶対論・相対論といろいろな学説があるようです。
  • 第1項は無制限なものではなく制度的保証を示し、第2項がより重要であり財産権は法律で見直されていくものである。
  • 前述の解釈は第1項の憲法規範としての意味を失うのでオカシイ
  • 絶対的保証ではなく、司法的救済を確保したものと解すべきである
  • などなど
水戸黄門ひかえおろう、ワシを誰だと思ってんじゃ?
私は無学なので、そのようにむずかしく解釈する理由がわかりません。単純、無邪気にこの条文が論理的でなく間違っているとしか思えません。
既に大勢の憲法学者(土井たか子個人商店主も参加しているのかどうかは知りません)が論じているので、私がいまさら論ずるまでもないでしょう。

なにせ、私は水戸のご老公と呼ばれており、めったなことでは下々のことに口を挟んではいけないのです。 


本日のまとめ

憲法は国の形を示すだけでなく、パラドックスあるいはパズルに関して考えさせてくれる論理学のテキストでもあったのです。
嗚呼、日本国憲法は偉大なり!

でも、論理学の勉強とか頭の体操のためならともかく、
憲法の条文で言葉の遊びをしてよいものでしょうか






これだけでは終わりません。続きがあります。
私がダジャレだけでできていると思われるといささか癪でございます。
ダジャレばかりでなく力仕事もできますし、忍耐強く調査をすることもできるのです。

財産権の内容は法律でどのように定められているのでしょうか?
財産権という言葉を用いている法律は42本、施行令は6本あります。
それら法令のなかで財産権というものが定義され定められているのか? 検索機能を使いひとつひとつみてみました。
ところが、明確に「財産権」を定義しているというのがありません。
    第2条の定義で財産権という言葉を取り上げているのは、
  • コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律(平成十六年六月四日法律第八十一号)
    第二条 三号 コンテンツに係る知的財産権(知的財産基本法第二条第二項に規定する知的財産権をいう。以下同じ。)の管理
  • 知的財産基本法(平成十四年十二月四日法律第百二十二号)
    第二条 2 この法律で「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。
  • 無限連鎖講の防止に関する法律(昭和五十三年十一月十一日法律第百一号)
    第二条 この法律において「無限連鎖講」とは、金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。
  • 日本勤労者住宅協会法施行令(昭和四十一年八月十八日政令第二百九十号)
    第二条 法第二十六条第一項の規定により日本勤労者住宅協会(以下「協会」という。)が前条第一号に掲げる団体に委託することができる業務は、協会が賃貸し、又は譲渡する住宅、法第二十三条第四号の施設(以下「利便施設」という。)及び宅地に係る賃貸料その他の対価(敷金、共益費及び損害金を含む。)の徴収並びにその徴収に関連して取得した動産、不動産又は所有権以外の財産権の管理及び処分に関する業務とする。
  • 滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(昭和三十二年五月二日法律第九十四号)
    第2条三項「その他の財産権」とは動産、不動産、船舶、航空機、自動車、建設機械、小型船舶及び債権以外の財産権をいう。
  • 連合国財産補償法(昭和二十六年十一月二十六日法律第二百六十四号)
    第2条5項 この法律において「財産」とは、動産、不動産、これらのものの上に存する権利、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、債権、株式、出資に基く権利その他これらに準ずる財産権をいう。


    以上、6本です。いずれも他のものを説明(定義)するのに財産権という言葉を使っており、財産権を説明してません。

    憲法と同じく財産権を尊重せよという文言があるのは
  • 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成四年六月五日法律第七十五号)
    第三条 この法律の適用に当たっては、関係者の所有権その他の財産権を尊重し、住民の生活の安定及び福祉の維持向上に配慮し、並びに国土の保全その他の公益との調整に留意しなければならない。
  • 自然環境保全法(昭和四十七年六月二十二日法律第八十五号)
    第三条 自然環境の保全に当たつては、関係者の所有権その他の財産権を尊重するとともに、国土の保全その他の公益との調整に留意しなければならない。
  • 自然公園法(昭和三十二年六月一日法律第百六十一号)
    第四条 この法律の適用に当たつては、自然環境保全法(昭和四十七年法律第八十五号)第三条で定めるところによるほか、関係者の所有権、鉱業権その他の財産権を尊重するとともに、国土の開発その他の公益との調整に留意しなければならない。
  • 文化財保護法(昭和二十五年五月三十日法律第二百十四号)
    第四条3項 政府及び地方公共団体は、この法律の執行に当つて関係者の所有権その他の財産権を尊重しなければならない。


    などがあります。
これらを読んで、また新たな疑問を感じました。
その1ですが、財産権の内容は法律で定めるといいながら、「財産権とは・・・である」と明示している条文は見当たりません。いろいろな文章から「これが財産権の内容を決めたものなんだろう」と想像することになるようです。
おっと、「そんなのは法律の読み方として当たり前だ、おまえさんが無学なんだよ」などという論はお待ちください。定義が明確でないことについて論じるのは時間の無駄、
ご存じでしょうか「あいまいを敵としては神々の戦いもむなしい」って言葉を?

ISO9000とかISO14000の世界で「そう読むんだ!」なんていったら
その方はそれでオワリですね。
言葉を大事にしない人はISOの世界では生きていけません。


第二の疑問です。
憲法レベルならともかく、法律レベルで「財産権を尊重しなければならない。」と記述することの意味はなんなのでしょうか?
見方を変えれば、この文言がない残り1800本の法律の適用にあたっては「財産権を尊重しなくてもよい」のでしょうか?
ああ、だから外国人犯罪が多発し、治安が悪くなっているのですね!


いやあ、憲法は論理学の勉強に大変有効です。 







解法者様よりお便りを頂きました。(2004.10.30)
憲法第29条。
第1項 財産権は、これを侵してはならない。
第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
第3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

これは「法文」というものではない。
わたしだったら、次のようにする。

第1項 財産権は、公共の福祉に反しない限り保障される。
第2項 財産権が公共の福祉に反して制限される場合は、その損失を補填しなければならない。
その補填については法律で定める。

「財産権」の内容が「法律」で規定されていない。
 本当かいな? 目を疑った。
誰が「財産権」の内容を決定するのか? まさか、裁判所?
「立法権」の<放棄>だ。

「佐為」さんは、いつものことですが「慧眼」ですね。
「法律家」、真っ青だな。
解法者様、ご指導ありがとうございます。
まず、いつも申し上げておりますが、私は憲法を論じているのではありません。
護憲論者を揶揄しているのです。

ありがたがっている仏像が実は由緒あるものでも、心のこもったものでもなく、60年前にアメリカの何も知らない軍人が遊び半分に作ったものだよ!と語っているの過ぎません。

解法者様にこそ、真の日本国憲法各条解説をお願いしたいです。
ぜひ、護憲論者の論を完膚なきまでに打ちのめすものを期待いたします。



日本国憲法の目次にもどる