第93条1項 (2003.11.01)
「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。」

はい、本日は久しぶりに憲法を考えることとします。
憲法論は久しくご無沙汰でした。
いえ、たいそうな理由はないのですが、憲法を論じるとなりますと「独り言」のようにでたらめではいけないし、「うそ800」のように持論を持っていて言葉が溢れてくるようなわけにもいきません。
時間の取れるときにじっくりと考えませんとね、
えっ、誰です?「憲法論もでたらめだ!」とおっしゃるのは?
本当のことを言っちゃ駄目でしょう。  それはこのウェブサイトのオヤクソク
本条項は第1項とはありませんが、第93条ではなく第93条第1項であることをお忘れなく。
まずはじめに「地方公共団体」とはなんでありましょうか?
痴呆広狭団体(狭い道を広がって歩くボケ老人の団体)ではありません。
れっきとした定義(言葉の意味)があるのです。
man1.gif
地方自治法(昭和二十二年四月十七日法律第六十七号)
第二条第3項  市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。ただし、第五項に規定する事務のうち、その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては、当該市町村の規模及び能力に応じて、これを処理することができる。
第5項 都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。

なるほど、地方公共団体とは都道府県や市町村をいうのだそうです。
「ちょっと待ってください、なんか気になるんですよね、」(コロンボの口まね)
みなさんもお気付きでしょう?
だって憲法で決めていない地方公共団体の定義を下位文書である法律で決めていいものでしょうか?

実はこの条文はマッカーサー草案とはそうとう言い回しが異なります。
もともとのマッカーサー草案は理念を述べているだけでありながら意外と具体的なんですよ。
第87条 首都地方、市及町ノ住民ハ彼等ノ財産、事務及政治ヲ処理シ並ニ国会ノ制定スル法律ノ範囲内ニ於テ彼等自身ノ憲章ヲ作成スル権利ヲ奪ハルルコト無カルヘシ
マッカーサー草案では本条項に対応するのは87条です。
マッカーサー草案では地方公共団体には議会を置くなんていっていません。それどころか地方公共団体という言葉さえ使っておりません。
言ってることは「首都や市町村の住民は法律の範囲内で政治を行う権利を有する。」ということなのです。
なぜこの文言そのままにしなかったのでしょうか?そうすれば誰が見ても誤解のない文章ではなかったでしょうか?
なお、マッカーサー草案に従いますと、議会を置かずに直接民主主義をとることも可能ですよ。そうすればちいさな自治体であれば選挙なんて無駄なことをせずにみなでワイワイして本当の地方自治ができたのではないでしょうか?
今現在、過疎となっている自治体では人口が数百人なんてところもあります。お金をかけて選挙する必要もなく、選挙のたびに「誰が誰を支持したのか?」のかなんてことを騒ぐこともなく全員集まって議論したほうがよさそうです。
更に驚くことに、マッカーサー草案ですと外国人にも地方参政権(選挙権ではない)を認めていることになります。
いつも私は日本国憲法とともにマッカーサー草案をけなしておりますが、本当を言えば、マッカーサー憲法草案のほうが現憲法より論理的にはまともです。
しかし、それに比べて憲法のこの条文の言い回しも気に入りませんねえ〜
「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。」という言い回しをどうお考えになりましょうか?
この言い回しからではなにか憲法より法律のほうがエライような気がしてきます。
正しい表現としては「何をするのか」を憲法で言い切って、細かいことを下位文書である法律に振るのではないでしょうか?
私が思うに「地方公共団体にはその議事機関として議会を設置し、その手順は法律で定めるところによる。」とするのが正しいような気がします。
付け加えますと、現行のほとんどの法律では「すること」を法律で定めて「その具体的方法」を施行令で定めているようであります。



さて、本日のまとめでございます。

本当を言いまして、この条項の改善策は私の手に負えそうがありません。
三割自治なんて言葉がありましたが、議会をおいても住民に権利を与えていないなら憲法制定時から自治権を与えていないことではないですか?

womankomatta.gif 憲法第94条で地方公共団体に法律の範囲内で条令を制定する権利を与えているじゃないか?とは言わないでください。
地方公共団体とは法人、この法人に条例制定権を認めているのであって、住民に自治権を認めているのではないのです。
だから日本では国民の意識が低いのかもしれません。



尊敬する某氏よりお便りをいただきました。(2003.11.05)

さて、憲法第93条第1項のコラムについて、一言表現させて頂きます。
なお、マッカーサー草案に従いますと、議会を置かずに直接民主主義をとることも可能ですよ。
いやいや、何もマッカーサー草案に従うことなく、通説において地方公共団体は、議会を置かずに直接民主制を採用すること自体、理論上何ら問題のないこととしています。
反対説は、ほぼ無いと言って良い状況です。
というか、私は聞いたことがありません。

基本的に、地方公共団体の議会運営や組織作りに関しては、法に委譲されていますからね。
ご指導ありがとうございます。
お教えいただいた説は存じております。シティマネージャーという制度も知っています。
しかし、日本国憲法で地方自治に関わる条項は下記のとおり
  • 第92条 省略
  • 第93条1項 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
  • 第93条2項 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
  • 第94条  地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
  • 第95条 省略
第93条1項に従い、議事機関として議会を設置しなければなりません。
例外規定がありませんので「ISO的文字解釈」では議会を置かない例外を認めることはできません。
しかし、その場合でも住民全員で議会を構成することができるなら直接民主制も可能となります。
では、住民全員で議会を構成することができるのでしょうか?
第93条2項では「議会の議員・・・は住民が、直接これを選挙する。」とあります。
これを住民全員で議会を構成することもできると解釈できるのでしょうか?
日本語の選挙とは選挙権を持つ人がいくつかの選択肢からひとつまたは複数のものを選択する意思を表明することと理解します。
英語原文を読みますと、
・・・, the members of their assemblies, 略 shall be elected by direct popular vote within their several communities.
となっております。
英英辞典で「elect」を調べますと、「to choose or select」であり「いくつかの中から選ぶ」という意味であり「全部がなにかになる」という意味はありません。
これだけ明確に記述されておりますので「ISO的文字解釈」では選挙するしかありません。抽選するとか、話し合いによる選出とか全員で議会を構成すると理解するのは無理です。
議会の定数を有権者の数とするという条例を制定するという発想もあります。
しかし、現行の地方自治法の第90条と第91条で定数の上限を定めており、定数を有権者数とするという条例は不可です。
別な見方で、第94条では「地方公共団体は条例を制定することができる。」といっているだけで、議会が条例を定めると書いてありません。しかしながら第93条1項で「議事機関」と称するならばそのアウトプットは条例なのか?と想像します。それとも違うのでしょうか?
「諮問機関として選挙で議会を選ぶのだが、政策決定の機能はそれとは別に直接民主制で審議決定する」という考えでしょうか?

私が読むかぎり現憲法では「議会を置かずに直接民主主義をとることは違憲です。」




尊敬する某氏よりお便りをいただきました。(2003.11.11)

議会を置かずに直接民主制を採用できるのは、町村のみでした。(よく考えたら当たり前ですよね。町でも不思議なくらい。)
先日、佐為さんのコラムを読んで、「ん!?」と反応したのです。
地方で直接民主制を行うことについて、理論上できることは既に6年前、地方自治について勉強し始めた当初に、ボスから確認していること。
ボスが言うんだから理論的に可能なことは問題のないことだろう。(おいおい、自分で確認しろよ!)
理論的に無理、という意見を見たことも聞いたこともないし。(反対説の不存在)
地方公共団体の議会運営や組織作りに関しては、法に委譲されている。

なので佐為さんにメールを送ったわけです。(かなり無責任、反省しています)
(シ_ _)シ  ハンセ〜

で、「違憲です」という佐為さんのご意見に、私ひっくり返っちゃったわけです。

「なるほど〜。そりゃあ、佐為さんの解釈は、素直な解釈やなぁ。」
「よう考えてみると、議会設置が必要のない法的根拠ってなんや?考えたこと無かったわ!」ということに気付いたわけです。情けないことです。
で、調べました。

地方自治法に規定されています。
第94条 町村は、条例で、第89条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。
第95条 前条の規定による町村総会に関しては、町村の議会に関する規定を準用する。

佐為さんによりますと、この条文は「違憲だ」ということになるのでしょうね。
ご指導ありがとうございます。
私はあなたのような弁護士ではありませんが、あの文を書く前に地方自治法と施行令を見ました。そして考えたのですが、やはりこれは違憲ではないでしょうか?
決して直接民主制が悪いとか反対という気持ちはありませんが、これが合憲なら憲法9条の違憲・合憲を論じること自体がおかしいとおもいます。そう思いませんか?
なお、ISO規格を持ち出すまでもなく、私の日常相手をしている廃掃法とか水濁法の解釈ではこのような文字解釈が普通です。

既に地方自治法が存在するのだから違憲ではないという論理はありませんよね、
自衛隊を冠する法律は7本ありますが、いまだ違憲だと語る政党があるのですから。
そして私は本心から違憲であると考えているのです。

またご指導いただけたらうれしいです。




日本国憲法の目次にもどる