憲法投稿その4 両院は何が違うのか?2002.07.12

クラークY様より投稿いただきました。(2001.07.11)

憲法を読んで見ました。
初めてメールさせていただきます。クラークYと言います。
ここ半年、貴兄のこのページは私の必読HPであり、常識の確認をさせてもらっています。また憲法のページでは具体的な文言について考察を聞いたのは自分の記憶では初めてであり、その主張は正に同感です。

ところで全く別の動機から、国会の機能について憲法の条文に一通り目を通したのですが、その際感じたのは、この日本国憲法に記された政治のしくみからは具体的な理念が読み取れない、と言うことでした。
私が特に注目したのは参議院の役割についてですが、衆参両議員の任期、半数改選、法案成立の手続き等は規定されているのですが、両院がそれぞれどのような責任を負うか、についての条文がないのです。これは明文化せずとも二院制を採る限り自明のことなのかも知れませんが、私は不勉強のせいか、議会制において二院制が常識とは理解できていません。
戦前の貴族院は比較的その役割は理解し易く、またローマの元老院も説明を聞けばなんとなく理解できます。子供の頃には参議院は良識の府という説明を聞いたような気がしますが、憲法の条文にそのことを意味する文言はありません。

総じて貴兄のご指摘通り、日本国憲法は日本語になっておらず、思想的な寄せ集めのバラック建てという印象を受けます。
これは私の偏見で言えば、起草した人達に想いがなかったためではないでしょうか。
つまり、原文作者は日本に想いがなく、翻訳者は命令で仕方なく、内容の本質を理解する時間はなく、直訳的な言葉をつないで体裁だけを作った。それを審議した国会もここまで手つかずに生き延びるとは全く思わず、とりあえず憲法がなければ何もはじまらないと考えた、と言うところが実態に近かったのではないでしょうか。
憲法が我が国の政治のあり方を規定するものとすれば、現行憲法はその思想的統一性、整合性において疑問があり、国語としての格調に劣り、また戦後60年近くの時代変化に大きく遅れてしまっている、欠陥法とでも言うべきものでしょう。
ここまで憲法を放置し改善の提案を封止して来た我が国人文系学問世界の偏狭さと知的怠慢に呆然としてしまいます。
戦後先ずは経済を立て直し国民の生存を確保すべく皆が頑張っていた時に、憲法学者共がかろうじて発信したメッセージが、護憲と改正限界説だけでしかなかったことは国民にとって不幸としか言いようがありません。
貴兄のこのページは唯一曇りのない眼で素直に憲法と向き合っている貴重なメッセージだと思います。引き続き各条項についての分析を期待しています。その際に抜け落ちている理念のような条項についての考察もご検討いただければ幸いです。
ありがとうございました。


二院制の意義!
クラークY様、過分なお褒めをいただき、穴があったら入りたい境地です。
私の同志には法学を修めたという方がいらっしゃいます。それに引き換え素人の私には専門的な論争になると荷が重いかと思います。
でも私はISO的憲法解釈というスタンスですので(逃げ道?)それなりに存在意義はあろうかと思います。
本日はクラークY様のご提案に則り、ひとつ両院は何が違うのか?を考えてみました。


  憲法から該当事項をまとめると、、
項目衆議院参議院
任期 4年
ただし解散あり
 6年
法律の可決参議院で否決しても衆院で再度2/3以上で可決すればよい絶対的否決権なし
予算審議先議権あり衆院議決後審議
裁判官の弾劾弾劾裁判所に参加弾劾裁判所に参加

クラークY様のおっしゃるとおりわずかに衆院が権限(本当を言えば権限ではなく権力でしょう)があるようですが、その差は明確ではなく、役割に至ってはまったく規定されていません。

  ひとつ、日本国憲法の元ネタアメリカ憲法を拝見しましょう。
項目下院上院
任期 2年 6年
被選挙権 25歳以上 30歳以上
弾劾権下院の議長の弾劾裁判権すべての弾劾権
大統領、裁判官など
予算審議先議権あり下院議決後審議
法律の可決両院の可決を必要とする両院の可決を必要とする

  注)日本の憲法は被選挙権の年齢を決めていません。

アメリカ憲法を読みますと、わずかに予算先議権があるものの下院は上院の文字とおり下だなと感じます。 絶対的な権限が異なります。
そして実際に下院は上院議員候補生が集うところとなっています。

GHQははじめ一院制を支持したそうですが、日本側が反対して二院制になったというのはよく言われています。
日本側が反対した理由は一時の激情に駆られた決議を避けるために必要というものでした。

そう言えば一院制議会は共産主義国家に多かったですね。
なぜか? 素人考えですが、信任投票、信任決議の一党独裁ならば二院制にする意義はないと考えたならそれは正しい選択だったことでしょう。(なにせ、手間隙が省けますもんね)
過去、ローマ帝国でもどこでもほとんどの共和制あるいは議会制民主主義において二院制はスタンダード(標準)でした。
上院(セネター)というのはローマ元老院から来ています。



私は日本において二院制の価値を如実に示した事例を知っています。
  そんな昔ではありません。
  それは1995年6月9日のことです。
この日参議院議員は衆院が可決した『不戦決議』を事実上否決した。

過去幾たびも二院制の存在意義を問われ、存在を否定されそうになっている参院ですが、この一事を持って私は参院の存在意義そして二院制の存続の意義ありと断じます。

なぜなら、このとき参議院は日本人の誇りを守ったのですから。

『不戦決議』とは名は体を現さず、実態は『日本人が悪うございました』という自虐史観を国会で決議しようとしたことです。


もちろん、クラークY様のおっしゃるとおり、両院の役割が不明確、権限のあいまい、選挙制度の変遷により性格が類似してきたなど改善すべきところは多いと感じます。
でも二院制の価値は証明されました。


クラークY様よりお便りをいただきました。(2001.07.13)

早速の解説ありがとうございます。クラークYです。
特に米国上下院の規定について知りたいと思っていた矢先でしたので、完璧にご指導いただいたというところです。
どうやら西欧世界では、憲法に明記しなくても二院制というものの理念が常識として理解されており、立候補する方も投票する方も区別しているものと思われます。
しかし我が国の場合は、特に立候補する側に問題があるのかも知れませんが、うまく機能していないような気がします。これもまた国民の常識の問題であり教育の問題につながります。
それにしても、現憲法の二院制の存在理由が一時の激情にかられた議決を避けるため、というのはちょっとさびしい気がします(これも憲法学者は何と言っているのでしょうか)。
議員とて常に冷静ではない、ということを前提に政治のしくみを構築するならば、他の条項との整合はとれているのでしょうか。
いずれにしても困った憲法ではあります。


クラークY様、お便りありがとうございます。
拙文をお読みいただき、感謝いたします。

『一時の激情』ですが、もとの表現は『慎重な審議』であったように記憶しています。
まあ、婉曲話法(えんきょくわほう)と見れば同じでしょう。
最近はこの手の婉曲話法が多くて話す際には注意が必要ですね、
 片手落ち → 一方的でなくと言わないといけません。
 めくら穴 → 貫通していない穴というのでしょうか?
 こじき  → 対価を提供せずに金品を受領して生活する人
あっ、これって現在の国会議員じゃないですか!
私は既に申し上げておりますが、法律にはまったくの門外漢です。
しかし、日本語として、一字一句を読めば分かるはず、分からないのは文章が悪いと言うスタンスです。
クラークY様、今後ともぜひ私の文章を批判願います。

ただし『判例では』というのはご辞退します。


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