Keisuke Hara - [Diary]
2000/02版 その1

[前日へ続く]

2000/02/01 (Tues.)

大学に行き、雑務をこなす。書類を書き書き。 その後、大学院講義「数理科学特論」のレポート採点。 さすがに院生になると、レポートがレポートの体を成している。 実際は資料のほぼ丸写しであったとしても、 ちゃんとそのレポートだけで完結していて形になっており、 建前が建前として成立しているのである。 なかには講義中に出した問題を解いたり、 紹介したアルゴリズムを実装して実行結果を報告しているものもあり、 立派なものであると感心した。 もちろんこれが当然であるのだが、 あまりに「確率現象論」レポートのショックが大き過ぎたもので…

夜は、月末のファイナンス関係の講義のために、 準モンテカルロ法でオプション価格の計算をするといった論文を読んだり。 数値計算屋は数値計算屋で楽しいだろうなあ、と思ったり。

岩波文庫の新シリーズで出ている小平先生の初等幾何の本を立読みする。 初等幾何はもちろん数学としては大昔に終わった分野だし、 初等幾何マニア(高校の先生なんかに多い)が、 いくら見事な新しい定理を見つけても、 数学者にとっては「ああ、そうですか」という程度の重要さしかない。 とは言え、それは現代数学から見れば「おもちゃ」であっても、 非常に立派なおもちゃであって、ホンモノの数学である。 どこからみても明らかな公理から始まって、 論理の組み立てだけで、意外な定理が導かれてしまう面白さ、 ふとひらめいた一本の補助線で、魔法のように問題が解ける爽快さに、 数学を志すことになった人もいるのではないかと思う。 しかし、初等幾何が教育現場で不当に軽視されてから久しく、 かなりの期間に渡って消えない傷跡を日本に残すのではないかなあ。

例えば九点円定理なんか子供の頃、本で読んで感動したもんですけどね。 「三角形の三辺の三つの中点と、三つの垂線の足と、 それら垂線の足と垂心を結ぶ三線分の中点三つの、 計九つの点は一つの円周上にある」 という非常に美しい定理ですが、証明は意外にやさしいです。


2000/02/02 (Wed.)

大学へ。雑務を色々の後、卒論ゼミ。 ちなみに私が卒論の指導をしている学生は六人いる。 本当はもう少しいるらしいが、詳細は謎である。 卒論提出は約二週間後なので、今まさに佳境にはいっているようだ。 「みかん絵日記」を読みながら、現状報告を聞き指導らしきものをする。 なかにはきわどい学生もいるが、何とかなりそうな気配である。 今一番気になっている心配事は、 猫のぼたんの今後だろうか…(冗談です)。 学生の皆さんは大変でしょうが、後二週間がんばって下さい。

ゼミ中に、数学科の Nk 先生が同僚の S 先生を探しに来られたので、 何かネットワーク系のトラブルだろうか、 と、思っていたら、数学科ローカルどころか、 情報のネットワークも相当広い範囲でダウンしていたようだ。 さては今はやりの「黒客」?
ゼミの後、大学院講義の成績評価をつけて事務に報告したり、 雑務を少々の後、帰宅。

通勤時にゲリファンドとシーロフの超関数論の教科書を読む。 発散積分の正規化とか。結構面白いことが色々と書いてあって、 良く考えてみると今まで超関数論をきちんと勉強したことがなかったなあ、 と反省する。またしても解析屋失格の点を発見。


2000/02/03 (Thurs.)

京大でのシンポジウムに参加。 講演はなかなか興味深かったが、英語を聞いて疲れた。

この前 W 先生に電車で会った時に、 以前に書かれた論文に興味があると話したのだが、 今日、会ったらちゃんとその論文のコピーを作って渡して下さり恐縮する。

どうも大学のネットワークが昨日から変だなあ。 まだ立ち直ってないようだが、大丈夫なのだろうか。


2000/02/04 (Fri.)

大学へ。今日も京大のシンポジウム二日目に参加したかったのだが、 色々と気になる問題があり R 大に登校。 夕方から学系会議、その後、さらにまた会議。 終了は七時半。
帰宅が遅くなったので、今日はチェロを弾く時間はなし。 弓は使わないで左手の練習だけする。 弦の音を聞かないと寂しいので、CD で無伴奏などを聞く。

卒研を見ていると、みんな最近まで怪しかったのに、 やはり直前になるとどんどん形になってきていて、 「なんだこいつらも結構やるじゃないか」 という気持ちになってくる。 先生が「みかん絵日記」を読んでいる間に大進歩である(って、おい)。 私は工学的センスというものに憧れはあるのだが、 もちろん自分自身にはそのセンスはない。 学生達がこの前までは十行も書けなかったプログラミングで、 色々と試行錯誤しながらも自力でアルゴリズムを実装して、 楽しそうに動かしているのを見ると、 ちょっとうらやましいような気持ちさえするのである。


2000/02/05 (Sat.)

今日の読書。「死にゆく者への祈り」(J.ヒギンズ、ハワカワ文庫)。
うーむ、何度読んでも感動。しかし、 後書によれば「フラッシュゴードン」のマイク・ホッジス監督で映画化されていて、 しかも主人公ファロンをミッキー・ロークがやったそうだ。 酷過ぎる仕打ちである。作品に対する冒涜ではなかろうか。 ミッキー・ロークもいい俳優だとは思うが、 ロンドンデリーの処刑人と恐れられた元 IRA 将校である一方、 トリニティカレッジ卒のインテリでオルガンの名手、 小柄で物静かな紳士ファロン博士、 自己憎悪と神への不信を抱え逃亡生活を送る苦悩の殺人者、 死神ファロンがミッキー・ロークで良いのか。 ファロンとはアイルランド古語で 「野営の篝火の外からきたよそもの」 という意味なのだぞ、フラッシュゴードンでいいのか、 ミッキーでいいのか。 まあ、きっと観ないからどうでも良いのだが…

心を落ち着けて、オルガンでも聞きながら数学の勉強しよう。 今日の音楽。「J.S.バッハ、オルガン作品集」(G.レオンハルト演奏)。


2000/02/06 (Sun.) 水瓶座時代

朝起きて TV をつけると、 堺屋太一経済企画庁長官が「水瓶座の逆襲で通信革命が起こっている。 経済学の三派、新古典派、ニューエコノミクス派、 パラダイムシフト派で言うと私はパラダイムシフト派だ」 などとファンタスティックなことを言っていた。 これはトワイライトゾーンに迷い込んでしまったに違いないと確信し、 心を落ち着かせて二度寝する。 再び起きて、 今度は悪夢に飲み込まれないように、冷静に珈琲を飲み、食事をし、 四月からの外留先に手紙を書いたりして過す。 どうやら、今度は正常な世界にいるらしい。 トワイライトゾーンはいつも我々の傍に潜んでいる。 気をつけねば。 夕方から買物がてら少し外出。久しぶりに髪を切ったり。

数学には色々と不思議なことがあるが、 「解析接続」ってのも神秘の一つではないかなあ。 と、発散積分の勉強をしていて思った。

恒例、今日のアルジャーノン・ゴードン効果。
せっかく煎れた珈琲をカップではなく、 何故か流し台に注ぐ(しかもカップ一杯分全部)。 それを冷静に見ていた自分がまったく謎。 三十代の若年性痴呆症がはやってるらしいですね…


2000/02/07 (Mon.)

大学へ。いよいよ切羽つまってきた卒研ゼミ。 かなりヤバい感じの学生もいる中、一人ずつ話を聞いてコメントする。 今日は「みかん絵日記」を読んでいる暇もなし。

夜は、 今京都に来ている TK 大の白井君と S 大の H さんと、 T 師匠、院生の Y 君とで河原町の「魚棚」で食事。 その後、白井君と H さんと三人で「Re-Birth」で飲んで、 タクシーで帰宅。 こういう人達と会うと話題に刺激されてもっと数学の研究をしないと、 と思うなあ。

秘書の方から、今日出したメイルの返事がすぐ来た。 イギリスでの私の住まいは既に用意されているようで一安心。 数学科まで徒歩三分で、リビング、ベッドルーム、キッチン、 バスルームからなるフラットだそうな。素晴しい。

ますます加速中で憐れみの声も届けられている今日この頃。 今日のアルジャーノン・ゴードン効果。
ゼミで学生達からあずかった卒論草稿を全てゼミ室に忘れて取りに戻るが、 さらにコーヒーカップを忘れて取りに戻り、 さらに T 君に頼んだスキャンの資料を忘れて取りに戻り、 合計三回、個研とゼミ室を往復する。


2000/02/08 (Tues.)

飲んだ次の日、爽快に目が覚めるのは何故。 今週、学科のほとんどの先生方が入試の採点をしているはずだが、 私は排除、いや失礼、免除されている。 念のために言っておくと、痴呆症のせいではない。

午後はヴィデオで映画を観て、 メイルをいくつか書き、三条をぶらぶらし、 CD を買って、ちょこちょこと計算をした。 超関数ってスゴイなあ。(今頃…)

最近、放心症が激しいので、 たくさんの方からお見舞いの言葉を頂いている。 まあ、ニュートンも卵を見ながら時計を茹でたそうだし、 えーとだれだったっけ、 なんとかいう数学者は自宅を訪ねてきた客と話をした後、 「そろそろ失礼します」と言って自分の家を出ていったと言うし、 それに比べればまだまだ大丈夫という気がします。


2000/02/09 (Wed.)

寒い。気温が急に下がったせいか風邪気味。 雪の降る中、大学へ。卒研ゼミ。 もう来週に卒論提出が迫り、緊迫感が増してきた。 僕は適当にコメントするだけだが、 学生本人達は頑張って欲しいものである。 その他、雑用をしたり、会議に出たり。

Noble Cat 名古屋スペシャル飲んでみたい… Km さん、今度おごって下さい :-) でも確かに Km さんって、 「君の男性遍歴に納得がいかない」とか言いそうだし、 開けるのに256手かかる寄せ木細工が 扉の鍵になってるバーに行ってそうです(偏見)。


2000/02/10 (Thurs.) もし僕らのことばがウィスキーであったなら

今日も非常に寒い。 "She" など口ずさみつつ大学へ。 院生のT君が修論のおそらく最終稿を見せに来た。 そういえば、もう来週15日が提出日である。 論文の修辞については、 指導教授である T 先生がチェックして下さっているので、 もうほとんど手を加える所もなさそうだし、 彼に関してはまあ安心か、と。

今日の読書。 「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」(村上春樹、平凡社)。
酒好きのハートを鷲掴みにする本です。 二部に分かれていて、第一部はスコットランドのアイラ島、 第二部はアイルランド。

「アイラ島に行って、その名高いシングル・モルト・ウィスキーを
心ゆくまで賞味し、それからアイルランドに行って、
あちこちの町や村をまわりながらアイリッシュ・ウィスキーを楽しもうと。
それはじつに素晴しいアイデアだねと多くの人が
(もちろん全員が酒飲みなわけだが)、誉めてくれた」 (同書、前書きより)

それはじつに素晴しいアイデアだね… アイラ島では生牡蠣にアイラ・モルトを垂らして食べるんだそうな、 それは、じーつに、素晴しい、アイデアだね…


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp, kshara@mars.dti.ne.jp

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