Keisuke Hara - [Diary]
2000/03版 その1

[前日へ続く]

2000/03/01 (Wed.)

2月26日(土曜)朝に東京に移動、 金融財政事情なんとかという財団のセミナーハウスで、 準モンテカルロ法について講演をする。 内容はサーベイトークだが、 前日の I 大先生、W 大先生、当日午前の Y 大先生という、 確率論の大巨頭三人の講演に続いて講演するという、 私にとっては震えが来るような企画である。 私の講演の首尾については、あえてここでは語るまい。

さらに日曜、月曜、火曜と他にもなんだかんだと 東京での私事や公務があり、京都に帰ってきたのは、今日一日(火曜)の午後。 この出張中にメイルが読めないようにあえて モデムカードを持っていかなかったのだが、 その間に事件がいくつか発生し、 これがマーフィーの法則というものだろうか、と思ったり。 ほとんどの用事を登校後一時間でかたづけ、 その後ファイナンス研究科でのセミナーに出席。 内容はなかなか面白くて勉強になった。 スピーカーの U 先生を囲んで食事をして帰宅。

東京で久しぶりにお会いした I 大先生に数学の宿題をたくさん出されて、 ゆっくり時間をかけて考えたいところだが、 本来は暇ななずの三月もばたばたとしそうだ。
しかし、二日間の講演会の打ち上げの宴会のさらにその後、 ホテルのバーで数学をし、 さらにバーに追い出された後まで、 ホテルの部屋で数学を話しっぱなしの I 先生のスタミナには脱帽しました。 偉い数学者はやっぱりスタミナが違うのかも…


2000/03/02 (Thurs.)

大学に行って、いろいろと雑務。

数学科の A さんがこの日記を読んだらしく、 東京でのファイナンススクール終了後の打ち上げで、 「やっぱり綺麗な数学じゃないとダメ」 などと叱られた。 いや、もちろん僕も数学者ですから、 数学者としての共通の美学を有していると思うのですよ。 それに単に根性でどんどん計算すれば、 その果てにわけもわからず答が出る、 みたいなのは僕も好きではないです。 野崎昭弘先生の言葉だが、 「けっきょく、美しい数学とは、大切なこと、しかも一般性のあることを、 すっきりと、ムダのない言葉で述べたものである。 美しい数学とは、つまり詩なのです」。 僕もまったくその通りだと思う。 とは言え、自分の趣味が出てくるのは仕方がないことで、 僕は割と具体的な計算を好み、 色々と複雑なおもちゃで遊んでみて、 その背後にあるからくりみたいなものに気付いてうまくやってのける、 というようなのが好きだったりする。 またあまり数学的に深いかどうかわからない、 トリッキーなアイデアに耽溺する悪癖もある。 これは正統的に美しい数学だという所から、 ちょっとズレたようなことを面白がるのも、 けっして趣味が良いとは言えない。

ふと思うとこういう良くない傾向は、 明らかに全て師匠から受けついだものである (問題発言により後に削除の可能性あり)。 だいたい弟子というものは先生の悪い所から順番に似るものらしく、 私もまさにそうである。 私の先生は親切な指導者とは全く言えなかったが (問題発言により後に削除の可能性あり)、 やはり「美学」や「傾向」は知らない間に刷り込まれてしまう。 また個性の強い先生ほど弟子はその矮小化されたコピーに 終わってしまう可能性が高い。 などなどと思うと、 僕のようにそれほど指導の責任のない立場で、 ちょっと卒研程度を見るだけではあっても、 人を指導するということは物凄く恐しいことであるな、 と思うのである。


2000/03/03 (Fri.)

午後から大学へ。 臨時の学系会議のため。

夜、久しぶりにチェロを弾く。 開放弦を弾くだけで心が落ちつくが、 近所迷惑ではあるだろうなあ。

愛妻、いやチェロを連れていくために、 飛行機のチケットを二枚取った。 チェロは人間ではないから、 団体旅行の一員だと言い張ることは出来ないので、 いわゆる格安チケットのような割引は出来ない。 したがって正規のエクストラシート料金になる、 と言われて弱っていたのだが、 さらに交渉を続けた結果、 アジア系の路線で格安料金でシートに乗せても良い、 という所を見つけることに成功した。 ソフトケースに入れて強引に搭乗口まで行ってしまうと、 ごり押しの結果(タダで)乗せてくれることもある、 とチェロの先生が言っていたので、 最悪の場合その手でいくか、と思っていたのだが、 ほっと一安心したことであった。


2000/03/04 (Sat.)

京都は雨。 先週から非常な多忙だったのでようやくほっとした空白の一日で、 家でぼうっとしていたかったが、 珈琲が切れており中毒の私は珈琲豆を仕入れるために三条に出る。 ついでに CD 屋を見ていたら、 最近練習しているベートーヴェンのト長調メヌエットを カザルスが弾いているものがあったので購入。 家に帰って CD を聞いてみて、 「こういう曲だったのか」と気付いてみたり。

数学者の結婚する相手が非数学者だと、 当然ながら結婚式の参加者の多くは非数学者である。 その時のスピーチで数学者が話すと、 それを無視していわゆる「数学ジョーク」をやってしまい、 部屋の真中あたりに物凄い温度差を作り出してしまうという話を良く聞く。 まあ例えば、空手踊りがどうしたとか、 局所コンパクトがどうとか、弧状連結性がどうとかいう、お寒いジョークである。 大体、数学者には浮世の常識を知らぬ奇人変人が多いので、 またそういう人が滅茶苦茶に偉い数学者だったりして余計話がややこしくなるのだが、 ジョークくらいならまだしも、 とんでもないことを言い出してしまって、 新郎新婦の行く末を暗澹たるものにしてしまうという話すら耳に入ってくる。 まったくおそろしいことである。

何が言いたいかというと、来週の S さんの結婚式を大変楽しみにしている、 ということです。;-)


2000/03/05 (Sun.)

朝から久ぶりに衣笠へ。午後には用事も終了し、 三条の Cafe R***** で読書など。 夕方には自宅に戻って、確定申告書作成等。

今日の読書。 「メサイア」(B.スターリング、アーティストハウス)
一気に読ませるが、 最近のサイコサスペンスはどう上手く書けていても、 「羊たちの沈黙」の二番煎じに思えてしまうのが宿命か。


2000/03/06 (Mon.)

朝から衣笠へ後期入試の採点に行く。
この採点について、 同僚の T 先生からある情報を聞いていたのだが、 あまりに面白い話なのでてっきり T 先生らしい スパイシーなジョークかと思っていた。 しかし、採点が始まる直前に、 ひょっとするとひょっとするかもとの思いがよぎり、 その情報を予定に入れて戦略をたててみた。 とすると、なんとその予言通りのことが起こり、 しかも T 先生の予言通り一言一句の違いもない電話がかかってきた。 どうやら周知の事実だったらしい。 うーむ、おそるべし。 大学教官の世界とは奥の深い世界である。

とにかく、事前情報のおかげで大過なく採点業務は終了した。 クラウゼヴィッツをとくまでもなく情報は兵站と並んで戦の命である。 結局採点が午後三時には終了、 さらに集計やチェックなども含めて五時には全て終わり、 ふらふらになりながら帰宅。


2000/03/07 (Tues.)

昨夜十時頃から今朝の九時頃まで丸太のように寝る。 起きたら疲れが取れているような気がしたので、 午後から大学に出てみる。 しかし小さな雑務をいくつかこなしていたら、 猛烈に眠くなってきた。 これ以上仕事が出来るとは思えず、 四時頃帰宅することにする。 帰り道で軽食を買い、家で食べて、ただちに寝る。

二時間ほど熟睡して目が覚めた。 チェロを一時間ほど弾いてから、数学をする。

楽曲を弾いても全然音楽になっていないので、 我ながら哀しいものがある。 音程があやしいのはともかく、 主に右手の弓づかいの問題であろうと思う。 音楽の音楽らしい抑揚や情感は右手の運弓から出てくるものである。 チェロを習い始めた時、 「なにゆえに左手で音程を取り、右手で弓を動かすのであろうか」 と疑問を持った。 こんなことを思うのもシロートの偉大な(?)所だが、 複雑な運指をあまり動かない不器用な左手でやっていると、 ストレスがたまって、これが右手ならば僕だって…、 とついつい思ってしまう。 どうせ右手は弦の上で弓を行ったり来たりさせているだけではないか、 思い切って左手と右手を交換する「ハラ式逆奏法」を提案してはどうか、 とまで思った。しかし今に思うに、 音程をとるというメカニカルなことを左手でやって、 「音楽を作る」と言う極めて複雑な運動を右手でやるのは全く正しい。

ヴァイオリニストのイザイ曰く、
「左手の指の操作はどんな愚か者でも出来るが、 右手は芸術家が取り扱うべき分野の作業である」
どんな愚か者でもって、それが出来れば苦労はしないのだが。


2000/03/08 (Wed.)

午後から大学へ。 雑務を色々。 数学でも考えようかなあと思っていたのだが、 (と言っても、僕は大学で数学をすることはほとんどない)、 やはりまだ疲れがとれず激しく眠いので、 全然やる気が起きない。 ちょっと息抜きと思って、 Kurt Vonnegut の "Cat's Cradle" を読み始めたら、 面白くて読みふけってしまい、 一時間以上つぶしてしまう。 丸善に行った時に、 ずいぶんお洒落なデザインのペーパーバックが平積みになっていて、 おもわず何冊か購入しておいたものの一つである。 Penguin の Essential Penguin というシリーズらしい。 コレクションの趣味も渋いし、デザインも斬新。 Penguin とは思えないカッコ良さでお勧め。 その内、同僚の T 先生が数学の話をしにきた。 いたるところ不連続な関数で連続な関数を近似する、 というちょっと奇妙な話で、僕もなんだかあやふやな回答をしてしまったが、 よくよく考えると色々と適切な設定がありうるような気がする。 その後、ゼミなどして、今日もまたさっさと夕方に帰宅。

昨日の話で、それは右利きの人の場合であろう、という指摘もあった。 確かにそれはそうで、ごくたまにであるが、 左利きの人がヴァイオリンやチェロを逆に構えているのを見ることがある。 もちろん弦も逆向きに張ってあると思われる。 有名な例では、チャーリー・チャップリンがそうであった。 しかし、左利きの人は皆そうするというわけではなく、 むしろほとんどの場合は、 弦楽器だけは右利きの人と同じに構えるよう強制されるそうである。 また、右脳左脳の機能分離説によれば、 左手を支配する右脳は情緒的で、右手を支配する左脳は論理的であるから、 むしろ実体と逆なのではないか、と言う興味深い意見もいただいた。 私はそもそも機能分離説をあまり信用していないのだが、 右脳がある程度、空間把握や視覚などに優位的で、 左脳が言語や解析に密接な関係があるというのはそう嘘でもないようである。 とすれば、指板の地理を完全に把握していなくてはならない左手を、 空間把握に優位な右脳が担当し、 音楽と言うある種の言語表現を担当するのが右手(左脳)である、 というように考えればそれほど外れてもいないのではないかと思う。


2000/03/09 (Thurs.)

午後から大学に行く。 "Cat's Cradle" を読んでいる間に、学系会議。 今日は終わる時間が確実に決まっていたのでハッピーだった。 全ての会議をそうすべきだ。 終わる時刻が分かっている会議…まるで夢のようだ。 「いつ終わるのかが分かっていれば、どのような苦痛にだって耐えられる」 と言ったのは誰だったろうか。至言である。 もし私にそういう権限があれば、 まず第一に立命館大学における全ての会議を時間制にして、 確実に予定した時間に強制的に終わるようなシステムにする。 議長はじめ参加者全員の講義を直後に入れるとか、 延長に対して1分1万円減給のペナルティをつけるとか。 いや、そもそも会議のための時間を「有料にする」とか。

夜、チェロのレッスンに行く。 ベートーヴェンのト長調メヌエットの稽古をつけてもらう。 音程といい、運弓といい、課題は山積みであるなあ。


2000/03/10 (Fri.)

午後から大学へ。 特に用事はなかったのだが、 行ったら行ったで、あれこれと雑務をして夕方帰宅。

この前の日曜月曜の入試関係で生活サイクルが狂ってしまって、 どうも調子が悪い。朝早く目覚めてしまうのだが、 その割に日中が妙に眠い。

月曜日まで私事にて東京に行っておりますので、 次回更新は来週月曜日夜になると思います。 東京でのイベントの顛末の報告、乞御期待。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp, kshara@mars.dti.ne.jp

この日記は、GNSを使用して作成されています。