Keisuke Hara - [Diary]
2000/11版 その1

[前日へ続く]

2000/11/01 (Wed.)

昼から修士の暗号ゼミ。 剰余群上の多項式の根を求めるアルゴリズムについて。 夕方から来年度の担当科目を決める学系会議。 学系会議終了の6時から四年生のゼミと三年生のプレ卒研ゼミ。 位相の簡単な所。ある簡単な不等式のエレガントな証明を宿題にする。 生協でたまたま会った K 川先生と一緒に夕食をとって帰宅。

某A社のSさんから URL を送ってもらったので、 久しぶりに見てみたらちょっとだけ新しいネタが増えていた。 ヴィオラってすごくいい楽器だと思うので、 こういうからかわれ方をするのは遺憾である… (びよら冗句)


2000/11/02 (Thurs.)

午前は「確率現象論」。 マルコフ過程の簡単な性質と具体例など。 夕方は「数理計画法」。 今日はレポートの提出日だったので結構、人が来ていた。

受けとったレポートを見ると、 やはり教科書のフリーハンドコピーが続出。 教科書といっても数冊しかバリエーションがないので、 一字一句全く同じレポートもある。 正直に言って、レポートで本を写すのは しょうがないと思う(そこまでは私もサトリが開けてきた)。 写経文化のせいかも知れないし。 しかし私が嫌なのは、 丸写ししたということを隠そうともしないことなのである。 具体的には、 レポートの中で内容が全く完結しておらず、 本当にまったく本をどこからかどこかまでを手でコピーしただけ のものに腹が立つのである。 例えば、そのような提出物のミニチュアを作ると、

「学籍番号2000000918。はらけいすけ
レポート課題「クルーグマンの基本定理の内容を述べ、証明を与えよ」
第三章。前章の考察のように、 p-アレコレンはP.Q および f(x, y0) と 共に超平面でクルーグマン効果を を引き起すが故に、株式市場のスタビリティの中に、 新爬虫類人のラカン的真相が爆発するのである。 一方これは以下のように支持交点 X, Y も持つ。以上」

という感じなのである。 課題の指示に従っていないのはともかく、 いったいそのp-アレコレンとか支持交点って何なんだ、 P.Q とか F(x, y0)とか何処で定義したんだ、 そもそも「前章の考察より」、とか「以下のように」 って、前章や以下はどこにあるんだ。 つまり、 この提出物の内容は本人を含め誰にもわからないし、 本人もそれを百も承知なのである。 そのことが私の神経を逆撫でするのだ。 多分、こういう学生にとってレポートとは、 校則違反をして「ごめんなさい。もうしません、 とノートに千回書いてこい」といったような罰と 勘違いしているのではないかとさえ思う(はらのレポート処罰説)。


2000/11/03 (Fri.)

休日。金曜が休日だと凄く嬉しい。 しかし現在、時間があればしなくてはいけないことが 山のようにあるので、仕事をする場所が変わるだけのようなものか。

燃料、いや珈琲が切れたので三条の SBUX に珈琲豆(スマトラ) を買いに行き、ついでに丸善をひやかして Cafe R***** で 一服して帰宅。 丸善では、以前から買わねばならないと思っていた "Roget's Thesaurus" が大幅割引きされていたので購入。 その他、Vonnegut の初期短篇集 "Bagombo Snuff Box" など。

夜食は TK 大の S 君に送ってもらったカニのキムチ(?) を使って鍋にする。 多分、本当はそのまま食べるものだろうから、 ダシに使うのは贅沢過ぎるかも知れないが、 さすがにその後の雑炊が美味だった。 S 君と Y さんに感謝。

そのS 君は最近、「自分で新しい問題を作って解答せよ」 というレポートを出しているとのこと。 非常にいい課題だが、 TK 大だからこそありうる出題のような気がする…

今日の一曲。「われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ」(BWV639)。 演奏 H.ヴァルヒャ。
ヴァルヒャは音楽院に入ってすぐの16歳の時に失明したため、 その後、一声部ずつ聴いて記憶してから 頭の中で各声部を統合するという方法で、 バッハのオルガン作品とチェンバロ作品の全てを暗譜したと言う。 無茶苦茶だ。凄過ぎる。盲目の数学者もいるが、 視覚的直観のない人にとっての音楽や数学がどういうものなのか、 興味のある所である。


2000/11/04 (Sat.)


2000/11/05 (Sun.)

昨日も今日もほとんど自宅にいて、 家事やら仕事やら読書をあれこれ。

昨日の読書。"The last Sherlock Holmes Story" (M. Dibdin)。

今日の読書、「原理」柄谷行人。
柄谷行人、どこまで本気なのかと思っていたがマジだったんだ… でもやっぱり、ほんとうにほんとうに 本気なのか? 今度、極左の高槻在住 T 部長に聞いておこう。


2000/11/06 (Mon.)

今日は大学に行かず家で色々と仕事をする。 夕方、近所の大丸に食材を買いに出た以外はずっと家にいた。

どうも最近、疲れやすいし変な時間に眠かったりするのだが、 カフェイン中毒なのではないかと思いはじめた。 最近の私はかなり濃い珈琲を一日に五、六杯は飲むので、 カフェインが切れている時に禁断症状が出ているのではないか。 珈琲とかチョコレートとかとかって、 思われている以上に常習性があるらしい (第三書房「チョコレートからヘロインまで」から得た知識)。 ちょっと控えてみよう。


2000/11/07 (Tues.)

病的な例

午後から大学へ。雑務を色々。 シンポジウムの予稿を書いたり。

今日からフレッツISDN になってちょっと嬉しい。

柄谷行人の NAM に賛同しているわけではないのだが、 LETS(Local Exchange Trading System)とか 通貨についての新しい試みは理論的に興味深いように思う。 (実際に使われるとどうかは別にして)。 ユーロみたいな新通貨の意味とは違って、 新たな性質を付与して変てこな通貨を作ってしまうと どんなことが起こってしまうのか、 っていう実験は非常に面白いように思う。 例えば利子が発生しない通貨とか、 ある程度以上に蓄えることが不可能な通貨とか、 人工的に変な性質をどんどん与えちゃって、 色々実験してみる。 そもそも私は、そもそも貨幣とは何か、 という「貨幣論」が好きである。 こういった人工貨幣でどんなことが試されて、 どんなことがわかっているのか、 今度、経済の人に聞いてみよう。

何か良くわからないものを調べるときに、 変てこなものを色々作ってしまう、 というのはよくある手であるから、 結構有効かもしれない。 数学の簡単な話で言えば、 ワイエルシュトラスの例とか高木の例で、 連続性と微分可能性の間のギャップが 強烈にイメージ化されるのがいい例かもしれない。 今や、どこでも微分できないのに連続な 関数というものを誰でも思い浮かべれられるが、 これは理論的にわかったと言うよりも、 こういった具体的な「病的な実例」の力だと思う。


2000/11/08 (Wed.)

昼は修士の暗号ゼミ。 夕方はプレ修士ゼミで簡単な位相の問題と、 続いてプレ卒研ゼミで確率の初歩的問題。 終わったのは7時頃だったので生協で夕飯を食べて帰宅。

今日のニュースで思ったこと。 やっぱり高槻って恐しい所

確率論の初歩的問題は結構ナメてはいけない所があって、 独立性とか条件付き確率とか色々と落し穴がある。 なにかの本で読んだのだが、 次のような三択問題を医学部の大学院生に出したところ、 正解率は一、二割程度だったそうだ。
「ある感染症は人口の0.5パーセントの割合で感染していると思われる。 いまある人がこの感染症の検査を受けた所、 陽性反応が出て感染しているものと通告された。 この検査の精度すなわち正しい結果を出す確率が95パーセントだとすると、 この人物が実際に感染している確率はいくらか。 次から選べ。(a)95パーセント(b)50パーセント以上(c)10パーセント以下」

例えば、1000人の人間がいるとすると、 その内5人しか感染者はいない。995人は感染していない。 とすると、検査の結果、感染していると告げられる人数は、 本当は感染していないのに陽性反応が出た約50人(=995人の5パーセント)と 本当に感染していて検査で陽性が出た約5人(=5人の95パーセント) の合計約55人である。 その内、本当に感染しているのは約5人であるから、 陽性反応が出た人で本当に感染しているのは約55人中5人で 約9パーセントである。

なんと正解の (c) を答えたものはほとんどおらず、 それどころか多くの医学部大学院生は自信を持って (a)と答えたそうである。 私はこの話を読んで以来、医者や薬を信頼していない。 いや、そもそも統計を使った議論を信用していない。


2000/11/09 (Thurs.)

朝は「確率現象論」。 強マルコフ性、マルコフ過程の再帰性など。 しかし僕の講義では離散的な場合しか扱っていないため、 マルコフ性と強マルコフ性の差がないので、 あまりありがた味はない。 正直に言って自分でも、 マルコフと強マルコフの差が直観的に理解できていないと思うので (T 師匠、泣かないで…)、 あまり良く知らないことを説明せずに済んで良かったかもしれない。 午後になって三田の I 先生が現れ色々と相談。 夕方は「数理計画法」。一時間で単体法を説明する。

研究室に帰ってくると I 先生のノートパソコンを 個研の電話線からプロバイダに繋ごうと、 S先生と学生があれこれ苦労していた。 偶然、来年の開講科目の件で N 先生が現れ、 「Windows のことなら俺にまかせろ」とばかりにその騒動に加わり、 大混乱の様相を呈し始めた狭い個研を後に プライベイトゼミに向かう。

ゼミでは A 堀先生のオプション価格の近似法についての話を聞く。 以前から立ち話のレベルでは良く聞いていたのだが、 ようやくどういうことか分かった。 後で I 先生も加わったので今日は W 先生、Y 先生とあわせ、 妙に確率論の大物度が高いゼミであった。 I 先生、W 先生と一緒に帰る。8時半頃帰宅。


2000/11/10 (Fri.)

午前は「数学解析」。ラプラス変換。 午後は「確率・統計」。大数の法則と中心極限定理。 その後、「プログラミング演習」。 遅くなったので生協で食事してから、 ふらふらしながら帰宅。

K 川先生の話題。
数学で共著の論文を書いた場合は、 ほぼ確実にアルファベット順に名前を並べることになる。 他の分野のようにファーストオーサーがどうしたとか、 ラストオーサーがどうだとかいう議論はない。 そこで誰が世界で最先頭か?という問題。

想像上の人物で良ければ、泡坂妻夫の小説の登場人物 「亜愛一郎」が世界最強ではないか、と。 なんせ、英語で書くと A だけなんですから。 本当に「亜」という姓が存在するのかどうかは知らないです。

ところで、 確率論分野でアルファベット順でない超有名論文にY-W があるが、 何か理由があったのだろうか。 私の推理によると、 うっかりアイウエオ順にして投稿してしまったのではないか。 Y と W や、ヤ行とワ行は前後が微妙だし(私だけ?)。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp, kshara@mars.dti.ne.jp

この日記は、GNSを使用して作成されています。