Keisuke Hara - [Diary]
2001/02版 その2

[前日へ続く]

2001/02/11 (Sun.)


2001/02/12 (Mon.)

今日の一冊。またノウハウ本。

「超整理法」「続・超整理法」 (野口悠紀雄、中公新書、1993、1995(続))
最近の野口先生にも困ったものだ、と思っていらっしゃる方は多いだろうが、 私は「超整理法」を実践しているし、 発売以来毎年「超整理手帳」の週間スケジュールシートを使っている (最近、年間・月間シートも売るようになったが、 あれは余程暇な人以外は使えないと思う)。 例外はあるかも知れないが、 少なくとも大学に勤める研究者にとっては、 ベストに近い個人研究室の書類整理法であり、 ベストに近いスケージュール管理手帳なのではないか、 と個人的には思っている。 しかし、 このように上の二冊について高い評価をしている私でも、 ベストセラーを書いてしまった著者のその後は哀しい、 と思わざるを得ない。 野口先生の新刊本を手にとって、 書店で愕然としたこと幾度か、けっして私だけの経験ではなかろう。 きっと出版社から毎日編集者がやってきては、 愚行へとそそのかし、うっかりそれに乗ってしまうのだろう。 例えば、「女性のためのIT革命!いかがでしょう先生、 これを書けるとしたら先生しかいませんよ!」とかね。


2001/02/13 (Tues.)

今日はブックガイドをブックガイド。

「読書の快楽」「新・読書の快楽」 「活字中毒養成ギプス」「恋愛小説の快楽」「ミステリーは眠りを殺す」
(以上、ぼくらはカルチャー探偵団編、角川文庫、 「読書の快楽」は昭和六十年発刊)
最近、面白いブックガイドがない。 思わず本屋に本を買いに駆け出したくなるような、 アジテーションに満ちた、本当に魅力的なブックガイドがない、 と思う。本屋で立読みする甲斐もない、 薄っぺらくて、ろくでもないものばかりだ。 「ぼくらはカルチャー探偵団」というふざけた名前の 編集グループによる以上の五冊、 特に最初に出た「読書の快楽」の出版は衝撃的で、 この文庫版のブックガイドを片手に、 思わず本屋に走った昔が懐しい。 「八月の昼さがり。浜辺の白いテラスで海からの風に吹かれていると、 この夏に終わりがあるということが信じられなくなる」 という一節で始まる浅田彰の華麗なノン・ジャンル60冊、 天才的扇動家としての隠れた能力が爆発した中沢新一の選ぶ思想書50冊、 イヴァン・イリイチやスーザン・ソンタグと同じページに 「情熱のペンギンごはん」 を挙げてしまう吉本隆明の恥ずかしいノン・ジャンル120冊、 池澤夏樹が選ぶ冒険小説50冊、澁澤龍彦のポルノグラフィー50冊、 高橋源一郎の少女漫画50冊、等々、 今となってみれば、80年代は豊かだった。 もちろん絶版になっているが、 古本屋でもし見つけられたら即座に買ってみることを強くお勧めする。


2001/02/14 (Wed.)

採点期間も終了したので、通常の日記に戻します。

今日の午後の早い時間で仕事が終わったので、 そのまま三条に向かう。 フルトンの代数的位相幾何の入門書の翻訳が出ていたのを買って、 SBUX でしばらくお勉強など。 ふと気付くと鴨川に吹雪が舞っていた。 表に出られそうにないので、しばらくの予定がさらにお勉強。 6時頃、日本で200店舗オープン記念ブレンドを買って帰宅。

今日のプルースト。 ちくま文庫版第七巻、「ソドムとゴモラ」二、第二章。 この第二章が普通の小説一冊より長いくらい量があって、 未だに読み終わらない。 主人公はベルデュラン家のサロンに出席中で、 丁度シャルリュス氏が現れた所。 シャルリュス氏のサロンの王の如くであった始めの頃の描写は、 後半にいたって段々と残酷を増して来ている。 ちくま文庫版第七巻の表紙のロベール・ド・モンテスキウ伯爵 (ジョバンニ・モルディニ1897年画、パリ近代美術館所蔵) がシャルリュス氏のモデルらしいですね。


2001/02/15 (Thurs.)

大学へ。 来週にBKCで開催される 「確率過程と数理ファイナンスの国際シンポジウム」 の関係の打ち合わせをする。 本来数理ファイナンスに無関係な私も一応オーガナイザーに入っているが、 次年度からのファイナンス研究センター所長W先生、 副長A堀先生などがほとんどの仕事をなさっているので、 私は名前だけみたいなものである。 雑用係予備くらいのポジションで、 看板立て、お客さんの出迎え、お茶配置等に活躍の予定。 つつがなく開催できることを祈りたい。

先日、Amazon.fr に注文した A.Borrel et alの "Proust, la cuisine retrouvee" が届く。 (直訳すると「プルースト、見出された料理」。 「プルーストの食卓」の邦題で翻訳出版されたが、現在品切れ。) 235フランの値段が嘘に思えるほどの、豪華で美しい本である。 うっとりするような綺麗な写真が一杯入っていて、 「失なわれた時を求めて」の豊富な解説とともに、 小説に登場した料理のレシピが説明されている (もちろん全ての料理の写真入り)。 特装限定本を除けば、 私の蔵書の中で最も綺麗な本だと断言できる。 第二外国語であったもののすっかり忘れて、 フランス語が読めないのが残念である。 ちなみに翻訳は日本語版も英語版も品切れ。おそらく絶版であろう。 日本語版はこの原書と全く同じデザインと写真の配置で 翻訳再現されているそうだから、なんとかして探し出したい。

もし近所の、新刊書店や古書店で発見したら是非、メイルでお報せ下さい。 高価買い取りさせていただきます…


2001/02/16 (Fri.)

今朝、目が覚めたら舌が腫れあがっていて驚いた。 年のせいか、一日おいてから疲れが身体に出るようだ。 昼食をとったら調子が良くなってきたので、 午後から雪の降る中、京大へ。 シンポジウムのために既に来日している Emery 氏の 京大セミナーでの講演を聞く。

負の整数を時間パラメータに持つ離散確率過程で 変なフィルトレーションを作る例、 Vershik によるもの、Schachermayer によるものの、 二つの例を紹介していた。 両方とも比較的簡単に構成できるのだが、 私のセンスではどうも不自然な感じがする。 もちろん不自然な例だから変なフィルトレーションが出来るのだが、 なんというか反例にしても人工的だと言いますか。 ファイナンスだとある時点から時間を遡って何かを計算する ということがありそうだから、案外ファイナンス理論の感覚からすると、 そう人工的ではないのかも知れない。

仕事があるので、講演の後の懇親会は抜けさせていただいて帰宅。 夜はちょこっと論文用の参考文献リストを BIBTeX で作ったり、 数値実験のために CodeWarrior でプログラミングしたり。 今、考えている問題の中に出てくる組み合わせ論的な量の データを自動計算するもの。

眠い…丁度いいから、 月曜の早朝関空出迎え用にそろそろ調整に入るか。


2001/02/17 (Sat.)

横浜の殺し屋、Oさんがようやく「黒い月」 に辿りつけたようで、一安心。

確かに普通の酒を置いていないのと、 値段も高いのが欠点と言えば欠点でしょうか… そう言えば僕もかつて、 「今日はもう他の所で飲んできたので、 何かすっきりしたものを一杯だけ飲みたい」 と言ったら、 「丁度、良い年のクリュッグがございます」 と答えられて絶句した覚えがあります。

毎日、行ってたら私も破産してますってば。


2001/02/18 (Sun.)

早めに起きるつもりだったのだが、 やはり正午近くになって起床。 昼食を作って食べ、午後は参考文献表の作成など。

夜は膳所でチェロのレッスン。 スケールは今まででおそらく初めて、 まともに弾けた気がした。 もちろん完全にはほど遠いが、 ほとんどの音がツボに入った、、、と言うか、僕の許容範囲ではあった。 エチュードは Dotzauer, Op.120, No.7 で、 重音ばかりの曲、その冒頭のあたり。 重音は隣りあった二本の弦を一緒に弾くテクニックで非常に難しい。 そもそも二本の弦を同時に弾いてまともな音を出すことが難しい上に、 両方の音程があっていないと非常に汚ない音になるので、 練習もかなりの苦痛であるが、 うまくいけば和音は和音で不協和音は不協和音で綺麗に響き、 弦楽器を弾いている実感があるような気がして好きだ。 そのせいか、先生にも「意外に、重音は得意なんですね」 と変な誉められ方をした。 課題曲は引き続きバッハの「G線上のアリア」。 段々と伴奏にあわせることができるようになってきたが、 まだテンポにあわせて弾けない所がたくさんあるし、 不自然なフィンガリングをしていた個所もいくつか発覚し、 課題は山積みである。

明日はイギリスからのお客様のお迎え。 朝五時半に起きられるか、ちょっと心配。


2001/02/19 (Mon.)

無事、朝五時半に起床。 身支度をして関空に向かう。 イギリスからLHで到着した Warren 博士を出迎え、 はるかと琵琶湖線を乗りついで草津のホテルまで送り届ける。

その後、一旦自宅に帰って昼食をとり、 今度は京大に向かう。 午後三時半から Tsirelson のセミナー。 Tsirelson はマルコヴィッチを小柄にしたような人で、 歌うようなイントネーションとリズムで講演をする。 なんだか勝手に想像していたイメージとかなり違って面白かった。 セミナーの後、シンポジウムのために来日している Tsirelson と Filipovic の二人を囲んで、 百万遍の近所のフランス料理屋で食事。


2001/02/20 (Tues.)

午後から大学へ。 僕の研究室の院生二名と、 A堀先生の指令を受けた数理の学生達、 通称赤マル部隊数名に手伝ってもらって、 「馬看」立て、ポスター貼りなど。 キャンパスで見かける二つ折り型の立看板を 馬看(ウマカン)と呼ぶことを今日はじめて知った。 馬型の看板の略だと思う。 ところで、 ウチの院生は僕の「寒空の下で馬看立てチーム」について来ずに、 「事務のお姉さん達と会場ポスター貼りチーム」 にさっさと二人とも入りこんでいるのは、 いかがなものか、と。そんな指導をした覚えはないんだが…

買っておいた「クリムゾン・リバー」 (ジャン=クリストフ・グランジェ、創元推理文庫) を昨日の「はるか」の中で読み始めたのだが、 あまりの面白さに今日で読み切ってしまった。 アメリカ型のサイコ・サスペンスとは違って、 ちゃんと最後にはミステリとして綺麗にまとまるところが、 長所でもあり短所でもあり、そこがやっぱりフレンチという感じ。 でも、 序盤中盤での初期エルロイばりのオーヴァードライブ感、 それを破綻なくまとめ上げる構成力は素晴しい。 確かに「羊たちの沈黙」以来の傑作、かも。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp, kshara@mars.dti.ne.jp

この日記は、GNSを使用して作成されています。