Keisuke Hara - [Diary]
2001/05版 その2

[前日へ続く]

2001/05/11 (Fri.)

午後から大学へ。色々と用事とか作業。 中には自室のコンピュータに swatch をインストールするとか、 私的な仕事もあったが。

夜はK大のT師匠とTK大のS君と一緒に、河原町で夕食。 その後、さらにS君と「前豊」に飲みに行く。 二人とも最近、固有名詞を忘れることが多くなってきて、 記憶力の面で自信喪失気味だとぼやく。 こういう些細なことから、全体的な自信まで少しずつ失なっていくことが、 年を取るってことなんでしょうか、いやだなあ。 その他は確率論の話など。 酔っても数学の話をしてしまうのは一種の業(ゴウ)であろうか。


2001/05/12 (Sat.)

夜はまたS君と祇園の「八咫」で飲んで、 さらに "It's" で飲む。


2001/05/13 (Sun.)

午後から大学に休日出勤。 個研であれこれとお仕事。

現在裁判中のある刑事事件のニュースを見ていたら、 キャスターが言うには、 この事件には論理的に言えば以下の四通りの可能性がある、と言う。

  1. 「裁判中の容疑者Aが全ての容疑の真犯人」。
  2. 「別の人物(たち)が全ての容疑の真犯人」。
  3. 「容疑者Aは一部の容疑の犯人だが、その他は別の人物(たち)の犯行または事故」。
  4. 「全て事故」。

論理的に言えば、 「A以外の人物達が一部の容疑の犯人であり、その他は事故」 が抜けているではないか。 しかも、この事件についてはこの可能性が結構ありそうに思えた。

多分、三つの集合の包含関係を数え挙げるのも、 普通の人にとっては易しくないってことかな。


2001/05/14 (Mon.)

「線型計画法」の講義。 線型等式系の基底表現。 あまり一般的に理論を説明せずに、 具体例でGauss-Jordan の消去法で 二通りの基底の選び方でそれぞれ基底表現を計算してみせてから、 一般の場合はこうでしょう、という感じにしておく。 1コマおいて次は「確率・統計」。 事象の独立性、部分集合族の独立性、確率変数の独立性をやって、 簡単な例で色々とやってみせる。 同じ確率空間と部分集合族と二つの確率変数に、 それらが独立になる確率と、そうならない確率を入れてみたり、 二つずつは互いに独立でも全体は独立にならないような例を作ったりとか。 こういう話をする時は、 本質を失なうことなく、どこまでも明解に、簡素に話せる、 つまり自分は完全にわかっている、と感じることが出来るのだが、 私の今の所の限界はこのあたりだと思う。 確率解析の初歩の所とかはまだかなり怪しい。

昨夜、TVの30分番組でカザルスの故郷をたずねるというような企画をやっていた。 主旨は某作曲家の自分探しみたいな下らないものだったのだが、 カザルスの国連会議場での演奏に先立っての有名なスピーチ 「私の故郷カタロニアの鳥達はPeace!Peace!Peace!と啼くのです」と、 「鳥の歌」の演奏の録画があわせて30秒ほどだが流されていて、 思わず涙を零しそうになる。 演奏は手がかなり震えて自動ビブラートになっていたが、 ふと調べたら、この時のカザルスは97歳で亡くなるわずか二年前、 なんと95歳だったのである(しかもこれが最後のコンサートではなかった。 亡くなる数ヶ月前つまり97歳の時セントラルパークで演奏会をしている)。 やはりカザルスのチェロは音が独特と言うか、 どうしたらそういう音が出るのか不思議になる。 けっして最近のチェリストの音のような良い音ではないのだが、 何とも形容のし難いほどジューシィで、同時に素朴で単純で静かで、 でもぐっと迫ってくるような迫力も凄いとしか言えない感じで、 なんだか演奏する姿も見ているだけで泣けてくるのである。

偉大なチェリスト、 抵抗家、平和主義者としての高潔さとか言った 普通のカザルスのイメージ以外にも、 やはり偉人らしく一筋縄ではいかない人だったらしいですが、 そういうことも含めてカザルスと言うのは私が、 ああいう爺さんになりたいなあと一番に思う人です。 81歳の時に20歳の女性と結婚することを決めて、 医者に「生死にかかわりかねない」と警告された時、 しばらく考えてから「彼女が死ぬのであれば、いずれは死ぬのでしょう」 と答えたという瓢々とした感じなんかも、凄くいいです。 実は、カザルスの真似でパイプなんかも吸ってみたいです(笑)


2001/05/15 (Tues.)

速達が届いた音で目が覚めた。 五月中に何とかまとめあげたいところだ。

午後はW先生の講義を聴講。 バナッハ空間に値を取る確率変数。 確率空間からバナッハ空間への可測な関数のことだが、 この場合、可測性の定義が自明ではない。 一見は順に強くなっているような三通りの定義をし、 それらが実は同値であることをほぼ講義時間全部をかけて証明して、 一応バナッハ値確率変数の準備は終わった。 リンデレーフ性がどうとか、ハーン・バナッハ拡張がどうとか、 と位相の面倒な話が多くて僕としては苦手…と言うか正直、嫌いな所である。 来週以降は抽象ウィナー空間を定義し、 キャメロン・マルティンの定理とか 伊藤・西尾の定理などに進み、確率解析に入っていくようである。

話をすすめるために色々ごちゃごちゃした面倒な準備があるんだけど、 その先にはその甲斐あって有限次元のアナロジーがうまく進んだり、 また無限次元特有の意外な性質が現れたりと、面白いことが色々あって、 かっこよく言えば泥の池に咲く蓮のようなイメージでしょうか。 来週以降にはそういう花のような結果の幾つかが、 講義で紹介されるだろうし、またそれらの多くが国産であって、 まさにW先生などによって大きく育てられたと知れば、 代数指向の強い(らしい)立命館の学生達も、 ちょっとは確率解析に興味を持ってくれるかも知れない。

聴講に来ていた「天才」君に、 レゴのマインドストーム (コンピュータでプログラムを書いて動かすことが出来るレゴブロックのシリーズ) を買ったと自慢される。 ロクでもないロボットを作って遊んでいる暇があったら、 Malliavin の教科書を1ページでも読め、と言いたい。 勉強の邪魔になるから僕が責任を持って預かります。


2001/05/16 (Wed.)

一日原稿書き。論文に具体例についての計算などを加える。

毎年、この時期に、 高額納税者の住所、納税額、推定所得額公開というニュースをみると、 この国には永遠に民主主義は根付かないだろうし、 プライバシーとか個人とか言う概念が理解されもしないのだろうな、 という寒々しい気持ちになる。


2001/05/17 (Thurs.)

昼頃、大学につくとA堀先生から携帯電話に連絡があり、 アクロスに打ち合わせに向かう。 昼食を取る間もなく、 続けて午後は卒研ゼミ、Mゼミ、初等確率論ゼミ。 卒研ゼミは多次元のランダムウォーク、 Mゼミは可測関数列の各点収束極限がまた可測関数であることなど。 ちょっと遅くなったの、生協で食事して帰る。

最近のジョイス「ユリシーズ」。 14章「太陽神の牛」を読み終えて、15章「キルケ」。 泥酔したスティーブンたちは娼家街へ。 ブルームもその後を追ってくる。 非常に長い15章は戯曲の形で書かれた夢幻劇で、 現実と幻覚が交じりあって進む。 うーむ、この章は凄い。怪奇映画のシナリオのようと説明されているが、 怪奇映画と言うよりも、なんだろう、 「アンダルシアの犬」をもっと凄く不気味にしたような感じだ。

今日のジョイス2。山科駅でたまに見かける赤毛の美人が、 分厚いぼろぼろのペーパーバックでジョイスを読んでいた。 おお、同士発見。アイルランド人だろうか…

小泉首相の演説を香具師の口上とかイギリスの首相に例える前に、 もっと直接的に例えるものがあると思うんだよなあ。 芸術家くずれで、自己陶酔的な演説が身上で、 不況で閉塞した社会にあらわれて、 大衆の圧倒的な人気と支持を背景に一党支配した人。


2001/05/18 (Fri.)

私の今期の週間スケジュールでは金曜日は大学に行かず、 家でちょっと集中力のいる仕事をすることにしている。 だが、最近自宅での仕事も煮つまってきたので、 気分を変えて大学に行き、個研で論文書きをする。 大学は遠いし、邪魔が入りやすいのだが、 40インチの画面は使いやすいのと、 一番まともにコンピュータ環境を整えてあるので、 書き物ははかどるようだ。 広い画面と、Emacs、使い込んだシェルと設定ファイルが重要。 小一時間書いたら、散歩をしたり珈琲を飲んだりとちょっと休憩して、 また小一時間書く、というように午後一杯を原稿書きに費す。

6時を過ぎて、さて帰ろうかな、と思ったら、非常に珍しいことに、 隣りの隣りに個研がある情報のX先生(頭文字です)が ふらっと雑談に訪ねてくる。 X先生は立体の二次元画像から元の立体の三次元座標を再構成する専門家で、 そう言うソフトを作る会社の経営もしている。 何か用事があるのかな、と思ったが、 本当にただの雑談だったようで、30分ほど清らかに歓談する。


2001/05/19 (Sat.)


2001/05/20 (Sun.)

19日(土曜)。 朝、速達が届く音で目が覚めた。 でも、今日は仕事をするのはやめよう。 午後は自宅でのんびりと読書などで時間をつぶす。 夜は河原町あたりに飲みに行く。 メンバーは週末を京都で過ごしに来たネットワーク屋Nさんと、 薬屋Mさんと、ゲームプログラマKMさんであった。 KMさんは高校生の時、 ポケコン上で動くシムシティを作ったことがあるそうだ、 しかも授業中の内職で。 四年生になっても25行以上のプログラムを書いたことがないくせに、 ゲームプログラマになるのが夢で実力で勝負できる会社に就職したい、 とかおっしゃるどこかの情報学科の学生に聞かせてあげたいエピソードである。 深夜タクシーで帰宅。

20日(日曜)。 朝は膳所にチェロのレッスンに行く。 最近、多忙のため練習時間があまり取れず、 かなりもたもたした感じであった。 午後は、あまった本を引き取りに来てもらったり。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。