Keisuke Hara - [Diary]
2001/11版 その2

[前日へ続く]

2001/11/11 (Sun.)


2001/11/12 (Mon.)

金曜の夜は某A社で仕事をし、 その一同に副社長と秘書の方を加えてタイ料理屋で食事をする。 さらに天才プログラマK氏とA社の女王様とベルギー・ビール屋で飲む。 あいかわらずの毒入りビールだった。 閉店後さらに近所のバーに移動して、朝方まで飲んだので、 次の日の夕方まで頭痛がした。 女王様にはおごってもらったので、 次の京都にでもいらした時は御馳走せねばなるまい。 最近、天才プログラマK氏はハーディ=ライトを読んだりと、 暇を見て数学の勉強をしているらしい。 本当に有能なプログラマは数学を軽視しないし、 超多忙の中でも暇を見つけて数学を学ぶのである。

12日、月曜日。清貧のお弁当を持って大学へ。 夕方は「数学解析」の講義。 前回で複素数に楕円関数の定義を拡げたので、 今日は複素関数としての楕円関数の二重周期性とか零点や極の位置などを、 またがりがりと計算で示す。 次回からは応用編で無限乗積の問題に入るので、 あまった時間でラプラス方程式と解析関数の関係、 等ポテンシャル面と流線などに軽く触れておく。

帰宅して夕食を作る。 しめじ御飯が炊き上がるのを待っていたら、 どんどんお腹が減ってきてついつい、 全然しめじ御飯に合わない場違い前菜を大量に作ってしまう。 オリーブオイルで大蒜と唐辛子を炒め、 そこで塩を振った殻つきの小海老を揚げて、 またさっと油を切って塩で炒める。 またこれが適当に作った割に上出来で、 殻についた塩と油を舐めながら、 白ワインと共に手掴みでわしわし食べる。 そうこうしている内に出来あがったしめじ御飯も素晴しく、 あまりの美味しさに目をうるませながら、 赤だしと大根の漬物と共に食す。激うま…
残ったしめじ御飯は明日のお弁当にしよう。


2001/11/13 (Tues.)

昼は ファイナンス・シンポジウム のミーティング。 ミーティングと言っても、私は顔を出しているだけのようなものだが (私の本番は直前、当日、直後の雑用と思われる)、 招待講演者が大体固まって、一安心と言う所のようだ。

続いて、卒研ゼミ。 「リフル・シャッフルは7回で充分か?」の結論が出る。 そこでかなりトリッキーな議論が使われていて、ちょっと驚いた。 普通のリフル・シャッフルはトランプの山をランダムに二つに分けて、 それぞれの順番を保ったままランダムに一つに噛み合わせる。 その一般化として、 山をn個に分けて一つに噛み合わせると言う「n-リフル・シャフッル」 の概念を考えよう。 ポイントは「n-リフル・シャッフルに続けてm-リフル・シャッフルすることは、 (nm)-リフル・シャッフルを一回するのと同じである(!)」 ことである(nm は n と m のかけ算)。 従って、 普通のリフル・シャッフル(つまり2-リフル・シャッフル) を n 回繰り返すことは、 (2のn乗)-リフル・シャッフルを一回することと同じである(!)。 よって、その確率計算は次のように易しい…
初等的な本でも、たまに驚くようなことが書いてありますな。

続いて、M1「代数」ゼミ。 いつものように淡々とアルティンの教科書を読む。 易しいことは易しいのだがどうも読み難い。 出張中にロットマンのガロア理論入門を読んでいたのだが、 そちらの方がはるかに分かりやすかった。 昔、高校時代にアルティンを読んだときに、 随分と明晰だと思った記憶があるのだが、 昔のセンスが悪かったのか、それとも今、頭が悪くなったのか。

帰宅して、夕食の仕度。 海老と厚揚げの煮つけ、 伊丹十三の親子丼、みつばの赤だし。 伊丹流の親子丼に感激する。 今まで私が食べていた親子丼は全て間違っていた。 親子丼に玉葱を入れてはいけなかったのだ。 食後は珈琲とブルーベリーのチョコレート包み(SBUX製)。


2001/11/14 (Wed.)

清貧のお弁当を持って大学へ。 正午からM2の暗号ゼミ。 VisualBasicで書かれた某有名ウィルスのソースコードを解説してもらう。 思いがけないシステムの盲点をついたとか、 別に巧妙なテクニックが使われているなんてことでもなんでもなく、 単にそのままシステムがいじれてしまえている。 ほんの数十行ほどのプログラムである。 簡単にこんなことが出来てしまうOSってのはどうなんだろう、 それでいいのだろうか、と言うのが正直な感想である。 便利さと表裏一体なのだろうけど、ちょっとなあ… 続いてプログラミング演習、さらに続いて教室会議。

会議が長引いたので、帰宅は8時くらい。 御飯がほんの少しと鶏肉が残っていたので小さなオムライスと、 アーリオオーリオを作る。 二つ同時に出来上がるように頑張ったのだが、 やはりそうは行かなかった。まだまだ修行が必要である。 ところで、自炊の哀しい所の一つは、 自分がフル回転で豪華な食事を作ったはいいが、 その直後に食べるのも自分なので、 ゆっくりと落ち着いた気分で食事が出来ないと言う事ではないだろうか。 調理の勢いなのか、何だか慌てて食べてしまう。 ゆったりとした食事は、 やはり食前酒など飲みながら、準備中の食卓を想像しながら、 のんびりと用意が出来るのを待っているからこそである。 この問題を抜本的に解決する手段は今のところ、ない。


2001/11/15 (Thurs.)

よっこらしょ、と言う感じで、暗号教科書の原稿を再び書き始める。 しかし、今日は再スタートを切ったことが重要、 と自分でおかしな納得をしてすぐやめてしまった。 年末に向けて頑張ろう… 他はポリヤ=セゲーの筋トレとか、楕円関数論の勉強とか。

私事であるが、今月下旬あたりに当家にお輿入れを迎える予定なので、 彼女の食器一式を探しに行く。 実は私は一度も彼女に直に会ったことはないのだが、 私は彼女の名付け親なので浅からぬ縁があるとも言える。 いかに美しく育っているかと楽しみにしているが、 仕事が増えると言う理由で執事が難色を示しているので、 お輿入れはあくまで予定である。 そういうわけで、烏丸の輸入食器屋の店先で、 傷物を大幅値引きして売っているのを慎重に検分。 針の先で突いたほどの微かな黒いスポットが一つある、 ジノリのベッキオホワイトの果物皿が3分の1くらいの値段で出ていたので、 これが大きさからして食事用に丁度良かろうと思い購入する。 残るは飲み水用の深皿だが、どうも納得が行くものがなく延期。 ついでに、 よくよく見れば微かに半ミリほど縁が擦れているクリッパーの丸皿も自分用に購入。

夕食は厚揚げの煮つけと、オムレツ、大根の漬物。 だし巻きは大体作れるようになったのだが、 オムレツは未だにうまく作れない。 集中的な練習が必要である。


2001/11/16 (Fri.)

朝はポリヤ=セゲーの筋トレ。 自然数を異なる自然数の和で表す方法の個数と、 同じでも良い奇数の和で表す方法の個数は等しいことを示せ。 (例えば、6については、6 = 1+5 = 2+4 = 1+2+3 の四つ、 1+5 = 3+3 = 1+1+1+3 = 1+1+1+1+1+1 と、確かに同じく四つある。) 答は今日の日記の最後に。

昼食。アーリオオーリオとパセリ入りオムレツ。 ワインが切れているなと思い床収納を見ると、 ヌーヴォー銘柄のボジョレーワインが入っていた。 私は酒類の選定と補給はおおむね執事にまかせている。 解禁日に早速とは若いせいか案外ミーハーな執事だな、 と思って良く見たら去年のヌーヴォーであった。 執事なりのワインスノッブに対する否(ノン)なのだろうか… 最近、副業のプレステ2ハッキングが忙しいらしく姿を見ず、 いつ家に来てメンテナンスをしているのか謎だが、お茶目さんである。

午後は原稿書き。 ディフィ=ヘルマン法とかエルガマル法とかを論じた所を添削。 ポントリャーギンに習って、余計な所をどんどん削るようにしている。 結局、300ページ近く書いていおいて、 それを100ページ強くらいに圧縮することになるのではないだろうか。 ポントリャーギン曰く、教科書執筆は努力すればするほど短かくなるので、 努力の量と収入は反比例する。

夕食は湯豆腐。その後、雑炊。

筋トレの答。
1+x = (1-x^2)/(1-x)などより、 nが自然数全体に渡る(1+x^n)の無限積と、 mが奇数の自然数だけに渡る 1/(1-x^m)の無限積は等しい。 この等式をxのベキで展開すれば両辺の各係数は等しいが、 これこそ問題の主張に他ならない。


2001/11/17 (Sat.)

昨夜は「双頭の悪魔」を観ようと思って夜更ししたせいで、 正午近くなって起きてきて、昼御飯を作る。 ちなみに途中でうっかり寝てしまったので「双頭の…」は見逃した。 昼御飯はオムレツ、胡瓜の漬物、味噌汁。

午後昼寝をしてから、夕方、チェロのレッスンに行く。 音階でビブラートの練習をして、シュレーダーのエチュード、 マスネの「エレジー」。 エチュードは相変わらず(私にとっては)超絶の親指ポジションなのだが、 もうこれは鍛練あるのみですから 「日々の演習」として毎日自分でやって下さい、 と言う感じになり次に進む。とは言え、次も親指ポジション。 マスネの宿題が残っているが、 課題曲は次回から、マルチェロのチェロ・ソナタになった。 6つの組曲らしく、その一番から。 確かバロック時代の作曲家だったっけなあ、くらいの記憶しかないので、 ちょっと調べてみたら、 ヴィヴァルディと同時代あたりの作曲家で、ヴェネチアの貴族だったようだ。 兄弟ともに作曲家で、チェロ・ソナタは弟のベネデットの方の曲、 兄のアレッサンドロはオーボエ協奏曲などで知られている方。 不勉強で実際にはそのソナタを聴いたことがない。 まず楽譜を買ってこないと。

夜、帰ってきて、中華鍋で海老を炒めていると、TK大のS君から電話。 何事かと思ったら、どこかでコンピュータの設定をしているらしく、 アクセスポイントの電話番号を教えてくれとのことであった。 あの後、設定に成功したのだろうか。 夕食は殻付きの海老炒めと、そのスープで海老炒飯を作った。 うーむ、やはり炒飯は中華鍋。


2001/11/18 (Sun.)

休日とは言え、またしても正午まで寝てしまった。 昼食はしめじとピーマンのペペロンチーニと白ワイン。 午後は三条の十字屋にマルチェロのチェロ・ソナタの楽譜を探しに行く。 目当ての版はなかったが運良く他の出版社のものはあったので、 一応そちらを買って目当ての方は注文しておく。 夕方帰宅して、夕食を作る。 パセリのオムレツと茄子の味噌汁、胡瓜と大根の漬物。

夜、マルチェロのソナタの音を取ってみようとするが、 よく分からない…CD とか出てないかなあ。

今日の読書、「バベットの晩餐会」(イサク・ディーネセン)。 映画は観たものの、原作は読んでいなかった。 映画の方も私の大好きな作品だが、 原作はさらに素晴しい。100ページにも満たない中に、 物凄い深みを備えた物語である。 併録されている「エーレンガート」も傑作。


2001/11/19 (Mon.)

TK大のS君に教えてもらった筋トレ問題。 とある集中講義の中で出て来たそうである。 「f(x) を任意の可積分実関数、a を任意の正の定数とする。この時、 f(x) の実軸全体上の積分値とf(x - a/x)の同じく実軸全体上の積分値は等しい。 これを示せ」 証明は易しいが、一瞬「まさか」と思うような事実で興味深い。

自宅でうるめ鰯の丸干し、胡瓜の漬物、味噌汁の朝昼食を食べてから大学へ。 書類をいくつか書いたりして、 夕方は「数学解析」の講義。 今日は楕円関数の特別な場合として sin と tanh の無限積展開を論じる。 零点と極を、 対数ポテンシャルを通して沸き出しと吸い込み (または正の電極と負の電極)に対応させて、 物理的な直観を与えておく。

図書館に行って、 TK大のS君に教えてもらった論文をコピー。 上の筋トレ問題を一般化したものとランダム行列の問題との関係。 ついでに、ギボン「ローマ帝国衰亡史」第一巻を借りて帰宅。

夕食は茄子のスパゲティと、 蒸したじゃが芋のスライスをドレッシングで和えたサラダ。 夜は原稿書きに勤しもうと思っていたのだが、 NHKの東野圭吾「悪意」第一回、第二回を観てしまい一行も進まず。


2001/11/20 (Tues.)

清貧弁当を持って大学へ。 昼から卒研ゼミ。マルコフ連鎖の話。 続いてM1ゼミ。その後、書類書きなど。

大学における書類書きの仕事は非常に難しい。 たくさんの書式があって、たくさんの要請がある上に、 思いがけない、しかも無意味な例外があり (他の本は良いのですが辞書の代金は払えません。 こちらの資金では辞書も可能です。あ、でもノートは駄目です。 それにこちらでは学会の出張費は出せません、でも他の用事もあれば可能で…)、 しばしばルールの変更があり、 たくさんの書類によって、ほとんどの場合どうでも良い情報と、 ほんのたまに重要な情報がもたらされる。 会議、特に教授会に出ると、誰が作っているのか、 毎回ちょっとした雑誌なみの厚さの靡麗な書類が配られており、 私はほぼ全てその場に捨てて行くことにしているが、 うっかり自分の名前が入ったものを残しておくと、 後でその全書類が学内便で送りつけられて来る。 これらは物凄い時間と労力で実現されているが、 どんどん増える一方で、 じゃあペーパーレス、単純化の方向に努力しているかと言うと、 事務のIT化とやらも本格的にその意味を誤解しているらしく、 ますます不安である。 正直、カフカの「審判」がリアルに感じられる時があるくらいだ。 こういうことは仕事をどんどん作り出して増やして行くことが 仕事であると勘違いしている一見有能な真に無能な人々が、 それ以外の真に有能な人を無駄な仕事でどんどん圧迫していく、 と言う、どこでも見られる典型的な事務病であるが、 誰かその特効薬を見つけているのだろうか。 それはIT革命とかウェブとからしいが、本当なのだろうか。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。