Keisuke Hara - [Diary]
2002/05版 その2

[前日へ続く]

2002/05/11 (Sat.)


2002/05/12 (Sun.)

母の日でもあることだし、実家に電話をして様子を聞く。 昼はアラビアータを作るが、 つい限度を越して唐辛子を入れてしまひ、 舌を把んで踊り出すやうな辛さであつた。 唐辛子好きとしては美味しかつたけど… 夕食は今年初の素麺。 麺つゆは昆布と鰹でひいただしに醤油と味醂を合わせる。 錦糸卵と刻み海苔と胡瓜で食す。

講演の準備をしやうと前に個人的に作つたプレプリントを 読み直してゐるが、やはり紙に印刷されてゐないと分り難い。 しかし、愛妻クロが暴れまはつたせゐで、 プリンタサーバを兼ねてゐた執事のPCが壊れてゐる。 普段は出来るだけ印刷しないことをモットーにしてゐるのだが、 やはり旧型の人間なのだらうか…

某ニュースによると2003年春就職の就職活動はもう終盤ださうだが、 最悪の買い手市場のため内定は少なく、 さらに就職活動が長期化しており、多くの大學では卒研卒論ゼミや、 修士のゼミが完全に形骸化する模様とか。 私は、氷河期どころか絶対零度に近い(数学者と言ふ)就職市場を知つてゐるので、 それほど同情もしないが、 私の学生時代に比べれば可哀さうだなとは思はないでもない。 何せ私が学部4年生の頃は90年代初頭のバブル景気のまさに頂点、 空前の売り手市場で、就職活動をするどころか、 企業の方から山程リクルータが大學に勧誘にやつてきて、 猛烈な接待合戦をしてゐたくらいであつた。 一旦、内内定や内定が決まつても、他の会社に逃げられては困るので、 長期に渡つて学生を高級リゾート地に囲い込んで接待漬けにする、 などと言ふことが普通に行なわれてゐた。 就職しなくてもアルバイトでいくらでも儲かつたので、 学生側の就職への熱意も低かつた。 売り手からは夢のやうかもしれないが、 良い人材を取るのがものすごく難しかつただらうから、 社会全体に与へたマイナスはかなり大きかつたと思ふ。 やはり狂つた時代だつたのであらう。


2002/05/13 (Mon.)

月曜日は一週間の山場である。 サラリーマンの悲哀を背中に浮かべながら通勤してゐると、 ばつたりと同僚のT山先生に出会う。 最近チェロの話がないが、などと言はれたが、 既にチェロの日々の練習は日常の一貫なので特に新味がないだけである。 ちなみに、糠床も毎日手で返してゐるが、 当たり前のことなので話題にし難い。 とは言へ、最近のヒットは青瓜の浅漬け。

午後は「積分論I」から。単調族定理とその証明。 あまり本筋には関係ないが、証明がトリッキーで面白いので、 (自分の趣味もあり)一コマ使つてみた。 続いて「数理計画法」。単体法の手続きのアルゴリズム化と、 それを用いて一つ具体的な問題を解いてみる。 さらに、退化と巡回の可能性について。 続いて卒研ゼミ。Williams の教科書。 講義では加法族と単調族を使つたが、 こちらでは乗法族とディンキン族を使ふ、 と言ふだけでほぼ同じ内容。

帰りが遅くなつたので、今日もアーリオオーリオ。
正妻クロがつひに部屋の一番高い場所に登る登攀経路を見つけたらしく、 チェスの駒が落とされて大変なことになつてゐた。 集めてみても白のビショップと黒のポーンが一つずつ足りない。 表には出ないので、家のどこかにあるはずだが見当たらない。 困つた。


2002/05/14 (Tues.)

JF文書の翻訳をしたり、 九大の講演に向けてプレプリントに手を入れつつ復習したり。

オリーブオイルを5リットル缶で大量にロング(買い持ち)しておかうかな、 と近所の安売店に歩いて行くと休みでショック。

昼は素麺を葱と生姜と胡瓜の深漬けの刻みで。 夜は葱と油揚げとまいたけを炒めて、 大根の味噌汁、青瓜の糠漬けと食す。


2002/05/15 (Wed.)

M1のゼミ。離散的な時の確率分布とか、σ加法族とか。

某A社から久方ぶりに連絡があつて何事かとどきどきしたが (私のメイラーは某社からのメイルは特別な音で報せるのである)、 来年新卒の良い学生はいないかと言ふものであつた。 就職氷河期らしいが、 今や日の出の勢ひの人気ハイテク企業A社でも人事に苦労してゐる所をみると、 優秀な人材を鐘と太鼓で探してゐることは、 やはりいつでもどこでも同じである。 むしろ段々に難しくなつてゐるかも知れない。 以前は、知り合ひの知り合ひ方式で一本釣りして、 アルバイトから社員へ、と言ふ人材補充作戦をしてゐたやうに思ふが、 最近は大きな会社に急成長したので、 そんな悠長な(しかし確実な)方法では戦力が足りないのであらう。 私はまだ一人も人材を送り込んでいないので、 「まだ責任を果してゐない」と思われてゐるフシがある。 なんとかしたいが、こちらも人材不足である。

夕食は舞茸などをオリーブオイルと大蒜、唐辛子で炒めたものに、 冷奴、味噌汁など。 私は豆腐が好きである。これは我ながらでかしたと思つていて、 何故なら、安いし、日本中どこでも売つてゐるし、 身体に良いし、調理法は山ほどあり、 よぼよぼの年寄になつて歯がなくなつても同じやうに食へるのである。 変なものが好物な人に比べると、とてつもなく幸運であると言ひ得やう。 だう料理しても美味しいと思ふが、やはり冷奴が一番旨い。 夏はその冷奴がさらに美味しい季節でなほ結構である。


2002/05/16 (Thurs.)

明日17日金曜日は九大の確率論セミナーで話させてもらひ、 博多に一泊するので、次回更新は18日土曜日の夜。

お祭りのやうに高額納税者の発表の報道をしてゐるが、 だうして沢山納税してゐると住所まで世間に公表されなければならないのか。 しかも高額納税と言つても高々1千万円以上なのだから、 毎年何万人もの人がお金持ちとして世間にプライバシーをさらされる。 これは危険でないのか。もし私が泥棒稼業に転職したら、 真つ先にこのリストを閲覧しに役所に行くだらう。 それでは足がつくと言ふのであれば、 コンピュータソフト屋でも毎年新しいデータベースを売つてゐる。 検索や絞り込みも自由自在なのでこちらの方がずつと便利だ。 (以前はインターネット上で公開されてゐたやうに思ふが、 さすがにまずいと思つたのか、今調べてみたらなくなつてゐた。) あくまで想像に過ぎないが、 この公開リストに載らないためだけに、 納税額を1千万円以下に無理に抑えたり、 住所を別に設けたり、 脱税したりしてゐる人が相当数ゐるのではないか。 この高額納税者リストの公開は一体何のために、 行なつてゐるのであらう。 たくさん儲けやがつて、と言ふ一種の処罰なのか。 何らかの歴史的経緯があるのだらうか。 全く分からない。


2002/05/17 (Fri.)


2002/05/18 (Sat.)

17日の金曜日は九大確率論セミナーで講演。 今まで公けの場所で話したことのない「道半ば」の内容であつたし、 九大はその分野の専門家が揃つてゐるので、 びくびくしながら一時間半ほど話させてもらふ。 ちなみに、自分でも少し意外であつたが、 良く考へたら九大セミナーで話すのは今回が初めてなのであつた。 内容も中途半端だし、うまく話せたとは思へなかつたが、 色々と情報が得られて有意義であつた。 その後、少し科研費関係の打ちあはせをしてから、 その後は歓迎会として中洲に飲みに行く。 二次会まで行つてホテルに帰り、一人で反省会。

18日、午前は近所のSBUXで読書をし、 中洲でラーメンの昼食を取つて、帰路につく。

就眠本として少しずつ読み返していた 「スクールボーイ閣下」を九州往復中に読了。 やつぱり面白いなあ、ル・カレ。 もう一冊の就眠本「入門経済学」(スティグリッツ) は今、第7章「公共部門」。練習問題なども考へながら、 ゆつくり読んでゐるので、まだしばらく楽しめさうだ。


2002/05/19 (Sun.)

出張疲れで昨夜は早く寝たせゐか朝も結構早かつた。 クロに朝食を与へて、寝台でメイルを読んだり、 趣味の翻訳をしたりしている内に昼。 午後は講義の準備をする。 昨日まではセミナー講演の準備にかかりきりだつたので、 ちよつとしんどい。 結局、一日中、自宅にゐて書き物ばかりして鬱鬱としてしまつた。 これば平日ならば、今一番面白いTVドラマ 「真珠夫人」 でも観ながら息抜きするところなのだが。 しかし、またしても東海テレビ。 「レッド」と言ひ、 今回の菊池寛と言ひ、目のつけどころが違ふ。

夕食は舞茸と油揚げで炊き込み御飯にする。


2002/05/20 (Mon.)

午後は「積分論I」からスタート。 可測関数、Lebesgue 積分の定義など。 今日で積分の定義を終える予定だつたが、 そのための補題を証明してゐる所で、 「あとに残つたこの場合はほとんど明らかで…あれつ?」 と止まつてしまひ、学生の前で証明が出来ずに立ち往生と言ふ、 あつてはならない状況に陥る。 だう考へても、∞≧∞のナンセンスな状況になつてしまふ。 「すみません…来週までの宿題に(泣)」と、 高座の途中で黙り込んでしまひ 「修行しなおしてきます」と客に詫びて下座したと言ふ高名な落語家のやうに、 半泣きで講義終了。 教師は最悪だつたが聴講者は立派で、 今日も講義の後に良い質問がいくつかあつた。 しかも、そのほとんど明らかと言ひつつ、 証明出来なかつた所を、「あれは自明です」と指摘されて愕然とする。 ∞≧∞、故に自明に成立してゐる、でした… 私の苦い経験から申して、 「間違ひにハマつた時はすぐに抜け出られるが、 正解にハマつた時はなかなか抜けられない。」

続いて「数理計画法」。巡回の脱出法と二段階法のイントロ。 こちらは用意したメモを見ながらやつてゐるのでつつがなく終了。 続いて卒研ゼミ。今日はやることがたくさんあつて、 ゼミ終了はかなり遅くなつた。帰宅は8時頃。

私が澁澤が嫌ひなのは、まさにその無邪気さ故で、 アンファンテリーブルから結局逃がれられず、 逃がれやうともしなかつたところです。 子供だと割引いて評価しなければ、 たいした教養人でもなかつたとさへ思ひます。 翻訳の中には非常に良いものがあるとは思ひますが。 しかし、さう悪口を言つても、 影響を受けなかつたとは絶対に言へず、 実際、その批判は自分を観るやうな気味の悪さからの批判なのです。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。