Keisuke Hara - [Diary]
2002/06版 その1

[前日へ続く]

2002/06/01 (Sat.)

久しぶりに熟睡の遅起き。暑い。京都は既に夏。 昼御飯は最近お気に入りの梅炒飯。 前の論文のエラッタを作つて、 ポルトガルの講演の予稿を出して、 と色々やるべきことはあるのだが、 今日の午後一杯は休暇にあてることにし、 ぼうつと過さう… と思つてゐたのだが、根が仕事好きのせゐか、 午後は積分論の講義の準備をしてしまつた。 その後はクロ夫人と昼寝したけど。 夕方から買ひ出しに行き、利尻昆布を補充したり、 安売のホールトマトの缶詰を大量購入したり、 マリナーラソースを作つたり主婦のやうに過す。

三日ぶりにニュースを熟読したら、 随分世の中はきな臭くなつてゐるやうだ。 インド・パキスタンから国外退去勧告を出す国も増え、 既に死傷者のエスティメイトが始まつてゐるし (大体1000万人程度の死亡者が見込まれるさうだ)、 USAはプルトニウム製起爆装置を製造開始するらしいし、 我等が首相と首脳部は非核原則を見直したいらしい。


2002/06/02 (Sun.)

暑い。寝苦しくて寝醒めも悪し。 京都にはもう夏が来たらしい。 まだ身体が気温についていかず、 素麺くらいしか食べる氣がしない。 マダム・クロも床で涼を取つてゐる模様。

唐辛子味の麺の昼食の後、お茶を一服。 床に寝そべりながら、 本格的な errata 作成前の簡易版を作成。 次は銀行関係の書類作成。続いて烏丸に買い出しに行き、 ついでに本も購入。「カットアウト」(F.マシューズ、新潮文庫)。 著者はCIAで4年間、情報分析官を勤めてゐたらしい。 元職員が文章を書く時は、当局の検閲委員会がチェックするさうな。 帰宅して洗濯をし、夕食の準備。素麺とだし巻き、青瓜の漬物。 夜は講義の準備など。


2002/06/03 (Mon.)

今日の気温も30度を越へてゐる模様。 蛇○の手引き人にしか見えないと評判のサングラスで登校。 午後は「積分論I」から。 直積測度、フビニの定理。 フビニの定理までが前期「積分論I」の目標だつたのだが、 終わつてしまつた。 次回からはラドン・ニコディムの定理に進むか、 または応用的なことをやるか悩ましい。 確率論屋としては、 この定理は条件付き期待値の概念そのものなので、 前期でやつてしまへるならさうしたい所である。 続いて「数理計画法」、二段階単体法ひとまず終了。 次回からは線形代数を使つた単体法の整理と改訂。 続いて、卒研ゼミ。三人の内の二人が就職関係で留守のため、 マンツーマンで Williams を読む。 測度の簡単な性質、ベールのカテゴリー定理など。 途中、隙間の時間を利用して簡易版エラッタを印刷してみたら、 一箇所間違ひが見つかつて訂正など。

ベールのカテゴリー定理は当たり前のやうに見えて、 思ひがけない面白い応用が色々ある。たとへば… とそれが載つていたはずの問題集を探したのだが、書架にない。 最近、あるはずの本がよくないんだよなあ。何故だらう。

暑くなつたせゐで、毎日糠床に手を入れないとすぐに悪くなる。 夏は胡瓜や茄子の一夜漬けが美味しい季節であるので、 手のかけ甲斐はあるのだが。


2002/06/04 (Tues.)

自宅で冷やし梅蕎麦を食べて出勤。 論文の訂正箇所を印刷したり、 講演の予稿を送つたりと雑務をして、教授会。

やはり火曜日はまだ月曜日の疲労から立ち直り切らない…

本を読んでゐたら sinusoid と言ふ単語が出てきて、 何か曲線の名前らしいのだが、一体何だらうと思つて、 自宅で調べてみたら単に正弦波、サインカーヴのことらしい。 さういふ言ひ方もあるのか。

ポルノ作家の山○椿氏から封書が来てゐて、 何ごとかとカタギの私は一瞬あたりを見回したが(なぜ)、 京都で7月になにかイベントをやるらしくてその案内だつた。


2002/06/05 (Wed.)

昼食は柳葉魚、梅干し、若布の味噌汁など。 M1ゼミ。連続の確率分布、確率密度など。 続いて、教室会議。6時過ぎまでかかつた。 帰宅して夕食。梅炒飯。

大学に勤めてゐて良いことの一つは、 紙がいくらでも手に入ることではないだらうか。 と言ふのも、書類が山ほど作成されてゐて、 毎日どんどん手元に送られてくるからである。 多くは片面しか印刷されておらず、しかも紙質も良いので、 色々なことに利用できて便利だ。 この書類を作るために費やされてゐるエネルギー、時間、人件費、 地球資源のことを思ふと、あだやおろそかに捨ててはならぬ。 もう既に数年はA4用紙に困らないくらいあるけど、 確か超整理法の野口先生は 「研究室に1メートルくらい(積んで)ある」 と書いてゐたやうに思ふ(2メートルだったかな)。 これは大学に限らず、企業などでもさうなのだらうか。


2002/06/06 (Thurs.)

経済のO川先生から教へてもらつた今月号のSFマガジンを読む。 特集は暗号と数学のSF。 有名な「数理飛行士」(N.ケーガン)の改訳版が掲載されてゐて、 私は初読だつたので随分期待してゐたのだが、数学プロパーの人間としては、 いかにもM2くらいの数学科の院生が書きさうなもので、特に感心もしなかつた。 馬鹿馬鹿しいノリはすごくいいと思ふのだが、 そもそも数学の部分が数学者にとつては特にだうといふこともないので、 聖典とまで言われている傑作も私に訴えるところはなかつた。 でも、ラッカー&ディ・フィリポの短編は面白かつたです。 私の暗号SFベストは「バベル17」かと。

数学の専門家は数学の概念を、 自分なりにイメージ化して持つてゐることが多いやうに思ふ。 もちろん、それはあくまで自分の心の中のことであるし、 数学で(公けに)許されるのはロジックのみなので、 それが表に出ることはあまりない。 学部生の頃、私は数学、物理、生物、化学の四通り それぞれの分野を学ぶ学生と同じ学科にゐたので、 他の専門の学生に数学の質問をされることがよくあつた。 ある時、生物専攻の友人から「コンパクト」の概念について聞かれて、 最初は任意のカヴァーに対して常にそこから有限個を選べてうんぬん、 等とちやんと答えてゐたのだが、 相手が理解してくれないのでどんどんとイメージに流れて、 つひには「コンパクト集合は銀色でつるつるしてゐる」 と発言してしまい、随分長い間からかはれた記憶がある。 ちなみに、同じその友人とは遺伝子操作の実験でペアを組み、 顕微鏡で大腸菌を数える時に、 私が「0、1、2、…」とゼロから数へるので、 「さすが数学専攻だ」と笑はれたこともある。 各セルの中に大腸菌が一匹もゐないこともあるのだから、 ゼロから数へるのが当然だと思ふのだが。


2002/06/07 (Fri.)

Madame Klossowski 今日も暑い。出勤。個研の整理をして、 注文してあつた本を受け取り、 図書館で40年前の論文をコピーしたり。帰宅して、夕食を作る。 また素麺。素麺だけといふのも何なので、 油揚と九条葱を串にさして焼き生姜醤油で食す。 夏はあまり料理に凝る氣がしなくて困る。 人間と結婚したことがないので良く分からないが、 人間の奥さんと言ふのは、 料理や洗濯やら家事をしてくれるありがたいものと聞く。 私が一日のかなりの時間を費してゐることを、 代わりにやつてくれるのなら、そりやあ仕事もはかどるよね… または逆に私が家事をして、代わりに稼いで来てくれてもいい。 ちなみに、うちの奥さん(左画像)は、朝起こしてくれる以外何もしない。


2002/06/08 (Sat.)

暑いのとクロに起こされるせゐで、 目が覚めたりまた寝たりと寸断された不快な睡眠で、 正午頃起床。 午後は積分論の講義の準備をしてから、買物に外出。

ノルウェーの国立言語文化センターで、 歴史文書の電子的コピーを管理してゐた管理責任者が死亡してしまひ、 もちろん彼の頭の中にあつたパスワードもなくなつてしまつたため、 一部の重要資料にアクセスできなくなつてしまつてゐるらしい。 同センター長がラジオに出演して、ハッカー達のボランティアを 募つてゐると言ふ。 しかし、この担当者がもし(適切にも)ランダムな記号列を使つてゐて、 それが本人の頭の中にしかなかつたとすれば非常に難しい、 といふ程度の情報しか集まつてゐないやうである。 アクセス制御してゐただけなら何とかなるが、 おそらくデータの暗号化もされてしまつてゐるのだらう。 さうだとすれば、多分、 (生のデータの破片がどこかに残つてでもいない限り) 事実上お手上げだと思ふ。世間では「ハッカー」は何でも出来るやうに、 思はれてゐるフシがあるが実際は、 適切にデータ保護されてゐればほとんど出来ることはない。 もちろん、某国の某機関のやうに巨大なそれ専用の計算機を使へれば別だが。

しかし、この問題が話題になつたのは上のやうなセキュリティ上の 問題ではなくて、 「自分が突然、死んでしまふことによつて起る、 コンピュータ関係のトラブルを防ぐ必要がある」といふ認識である。 例へば、担当プロジェクトに支障をきたすかも知れないし、 恥ずかしいファイルがハードディスクに一杯残つてゐるのを 見つけられるかも知れない。 対策としては、unix ユーザなら適当なスクリプトを書けば良いが、 さうでなくても、 こんなもの もあるらしいですよ。


2002/06/09 (Sun.)

昼食は残りの冷や御飯でオムライスを作る。 オムレツはたまに作らないと腕がにぶるので。 午後は膳所にチェロのレッスンに出かける。 向うでチェロを出してみると、 いつの間にか測板にひびが入つてゐた。ショック… また入院させねばなるまい。最近の暑さのせゐだらうか。 どうも6月近辺に故障が出る傾向にあるやうだ。 夜はお揚げを煮つけて、きつね蕎麦。 作りおきの菎蒻きんぴら、胡瓜の糠漬け。 手抜き料理が続く。夜は明日の講義の準備など。


2002/06/10 (Mon.)

午後は「積分論I」。加法的集合関数、Hahn 分解など。 続いて、「数理計画法」。単体法の線型代数による整理。 続いて、卒研。Williams を読む。確率空間、 Fatou の補題、B-C 補題など。 ふらふらしながら帰宅の途につく。 食事を用意する元気がなく、 自宅近所のバーで食事。ブルーチーズのペンネ、 鯛のソテーのオリーヴのソース。白ワインを二杯。

積分論で事務からの依頼の恒例のアンケートをとつて思つたのだが、 今の学生は将来、あんな名物講義があつたと思ひ出すことがあるのだらうか。 講義の初めに今日の内容に質問はないかと聞いて、返事がないとそのまま帰り、 もし質問があれば、数時間かけて熱心に答へたとか、 昔は色々な名講義の噂が残つてゐたものだ。 私が昔受けた三、四回生向けの確率論の講義では、初日がランダムウォーク、 その後、二回くらいでブラウン運動が厳密に定義され、 続いて確率積分が定義され、伊藤の公式が証明され、 後半には既にファインマン・カッツの公式が終わつてゐた。 ちなみに予習復習に Ito-McKean の練習問題を解け、と言つてゐた (正直言つて、今でも多分解けない)。 先生の方は冷房もなく暑いなか頭に濡れタオルを巻いて 水冷式だとか言ひながら熱心にやつてゐたが、 言ふまでもなく聴く方は私を含め一人も内容を理解してゐなかつたと思ふ。 今、思へば、あの講義は Ito-McKean と、 McKean の "Stochastic Integrals" の二冊の理論的部分を ダイジェストした内容だつた。どう考へても無茶である。 院生室でもその暴走ぶりが話題だつたさうだ。 だが、分からないけどすごく面白さうだぞ、これを勉強してみたい、 と思つたものだ。

卒研の時に聞いたら、theory の WWW サーバが倒れて大変とのこと。 未だに復旧の見込みなし。 T 山先生の日記の愛読者としては残念至極だ。 大体、ネットワーク管理は水道や電気と同じで、 正常に動いてゐてあたりまへで、 さうでなければ無能の極致のやうにあしざまに罵しられ、 しかし、日々監視と勉強の必要な重労働なのに、 さして感謝もされないと言ふ悲惨な仕事である。 今、その責務についてゐる学生さんたちは本当に偉いと思ふので、 頑張つてください。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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