久しぶりに雨かと思つたら、なんとすでに梅雨。 しかも台風も来てゐたらしい。 季節のうつりかはりは早いものだ。 また蒸し暑い京都の夏がやつて来たやうだ。 しかし東京は既に熱帯夜らしいので、今のところ、 それよりはましか。 昼は夢も希望もないパスタ、 夜は葱入りだし巻、菎蒻の煮つけ、胡瓜の漬物、葱の味噌汁。
午後はM1のゼミ。 独立同分布試行列、大数の弱法則など。 その他、事務をあれこれ。 夕飯は鮭の切れ端の燻製を使つて、鮭スパなど。 食後は珈琲と中野製菓謹製野菜カステラ(知ってます?)。
ノルウェーの「失なはれたパスワード」事件、フォローアップ。 ハッカーたちへの依頼をラジオ放送して、わずか数時間後、 あるゲームプログラマによつてパスワードが発見されたとのこと。 パスワード自体が発見されたところをみると、 結局、当該の人物が使つてゐたパスワードが、 意味のある単語や固有名詞などだつたのだらう。 良く知られてゐることだが、 パスワードを試行錯誤でクラックするための「辞書」があつて、 それをコンピュータに自動的に次々に試させれば、 さういつたパスワードはすぐに見つかる。 色々なものがあるが、 大体は普通の英語辞書をベースに、 固有名詞など使われがちなものを追加したもので、 単語の繰り返しや、単純な数字へのおきかえ("1 l0ve u" とか)や、 数字や記号とのブレンド ("hara2002" とか)なども、 ソフトウェア的に作成しながらパスワード候補を次々に生成する。 気の効いたプログラムの場合は、 ターゲットの情報、例へば、 本人の名前、アカウント名、誕生日、電話番号、郵便番号、住所、 両親、兄弟姉妹、友人、恋人、ペットの名前、保険証番号、車のナンバー、 好きな食べ物、ドラマ、映画、小説、音楽などの趣味嗜好、 などなどを追加することができ、 それらも加えた組み合わせを自動生成し、優先的にトライする。 大抵のパスワードは一日以内にヒットするさうである。
セキュリティが最も弱いのは実はパスワードそのものである、 とは良く言はれることだが、 一人の人間に異なるパスワードがいくつも必要な現代では、 全く意味のないランダムな文字列を、 頭の中だけにいくつも覚えておくのが困難なので、 なかなか対策をたて難いのは事実である。 私は一つだけはランダムな記号列のパスワードを作り、 それにその場で暗算で出来るオリジナルの「暗号化」をして、 複数のパスワードに水増しすると言ふ方法を使つてゐたことがあるが、 もちろん、これも安全ではない。 今はこの方法を使つてゐないが、その最大の理由は、 齢のせゐか「暗算で暗号化ができなくなつた」(笑)である。
NTT と銀行へ電話でちよつと連絡をし、 糠床を返して茄子を漬け、 昼休み中の執事と雑談し、蕎麦の昼食をとる。午後から本格的に仕事。 少し文書の翻訳などでウォーミングアップをしてから、 今度の講演の準備のため以前の講演の資料を掘り返して整理。 さらに、講演前に少しは英語に慣れやうかと CNN のテープを聴く。 夕方からは、 「クリプトノミコン I. チューリング」(N.スティーヴンスン) を読み、自宅の近所で薄口醤油とワインを買ひ、 妻の毛皮の手入れをし、妻に食事を与へ、 自分は素麺を茹でて食べ、風呂に入り、 白ワインを水で薄めて氷を入れたものを飲み、 チェロを弾いて、この日記を書いてゐる。
シンポジウム講演までもうあと二週間もないのだが、 あいかはらず何の連絡もない。 講演のタイトルと予稿をメイルで求められただけで、 場所と開催日程以外の情報は何もないのである。 場所と言つても、多分この大学のどこかであらう、 日程と言つてもこの日からこの日まで、と言ふだけである。 自分がいつ講演するのかも分からない。 こんなものなのだらうか、ポルトガル人…
昼は茄子のパスタ。 午後はまず少し趣味の翻訳でウォーミングアップして、 講演の準備など。 夜は鮭、茄子の漬物、葱とお揚げのお味噌汁。
「クリプトノミコン 1 チューリング」読了、 「クリプトノミコン 2 エニグマ」に入る。
せめてリスボン市の地図でも買つとくか…と街に出てみたが、 そんなものはどこにもなかつた。 全ての通りの名前が書かれてゐる都市の地図(例へばロンドンの "AtoZ" みたいな) は非常に需要があると思ふのだが、 なぜ余程の大都市のもの以外はほとんど売つてゐないのだらう。 その代わりにその国の全土の地図とか、おおざつぱな道路地図とか、 または本当に中心の繁華街だけの地図しかない。 大学などは大抵、繁華街にあるものではないので、 役に立つ地図が現地に行く前に手に入ることが滅多にない。 案外、これは多くの人が思つてゐるのではないだらうか。
それ以外の時間は講義の準備など。 月曜に講義を集めたせゐで、 土日の休日がほとんど準備につぶれてしまふのが問題だ。 しかも月曜日には国民の休日が入ることが多いのだが、 我がR大では勉強熱心な学生たちの希望で、 国民の休日だろうが15週を確保するため休まないので、 何だか損をしたやうな、非国民になつたやうな気がする。 常に善良な一市民でありたいと願ふ私にとつては心苦しい。 来年は月曜を避けるやうに努力しやう。
色々することがあつて、なんだか忙しいのに、 いやさういふ時に限つて、逃避のせゐか読書欲が高まつて、 「詩学」(アリストテレース、訳:松本・岡、 岩波文庫「アリストテレース詩学・ホラーティウス詩論」に所収) を読了。当然、持つてはゐたのだが、いつか読もうと思つて、 読んでいなかつた。
まさかアリストテレースも、自分が書いた草稿が、 2300年以上も後に、 地球の反対側の小さな島国で読まれるとは思つていなかつただらう。 ホメーロスとか、プラトンとかアリストテレースとか、 ここまで古い文書になると、なんだか不思議な気持ちになりますね。 2300年間も生き残れる情報には、 その相当の価値があることになるが、 考へれば考へるほど、とてつもないことである。
「積分論I」。Jordan分解、絶対連続と特異、 Radon-Nikodym の定理のステイトメントまで。 「数理計画法」、単体法の整理を終へて、双対理論のイントロまで。 続いて卒研。確率変数。
リスボンから大きめの封筒が来ていてやうやく案内が届いたかと思つて、 中を見ると折りたたんだポスターが入つてゐた… しかし、ポスターの中に URL が書かれてゐて、 そこからスケジュールが確認できたので、ちよつと一安心。
次の冬の数理ファイナンスシンポジウムの準備ミーティング。 そろそろ外国からの招待講演者の選定に入る。
明後日、20日(木曜日)午後3時50分よりフォレスト301で、 パリ第6大学の Yor 教授の講義があります。 大体、伊藤の公式を習つてゐると言ふくらいのレヴェルを対象にして、 易しい確率論のお話をしてくれるさうで、 おそらくアジア型オプション(*1) の exact な計算などが中心の話題になると思はれます。 学生、院生の諸君、 特に確率論や数理ファイナンスに興味のある方にとつては、 「in law の魔術師」の技を目の当たりにするチャンスです。 是非、聴講しませう。
*1: アジア型オプション: 未来のある時点の満期日に、 その時までの期間中の株価の平均に応じて、 その株の売買を行使できる権利(オプション)。 満期日に株価がある水準より高いか低いかで売買を行使する権利 (例へばある値段で買ふ権利。 それより値上がりすれば権利を行使して安く買い、即売る)であるヨーロッパ型、 同じことを期間中のいつでも行使できるアメリカ型のやうな 基本形(プレーンまたはヴァニラ)に対して、 エキゾチックと呼ばれる変種の代表的なもの。 何故か、ロシア型とかバミューダ型とか、 地域の名前がつけられることが多いみたいだが、 理由は知らない。A堀先生に聞いて下さい。
大学へ。あれこれ事務用など。 明日の Yor 先生の講義のタイトルは "Asian and Percentile Options" と判明。 パーセンタイルと言へば、A堀の公式。 RIMS に滞在中のYor 先生は既にあちこちの大学で講演をされてゐるが、 それぞれに合はせて、違ふ話をされるのが偉い。 業績が山のやうにあるので (なんと業績論文リストが、 ちよつとした論文なみの厚さの冊子になるくらいである)、 らくらく可能なのであらうが。
今日の読書。 「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記 (上)」(訳:杉浦明平、岩波文庫)。
Paris VI のYor 教授の講演。 題名は "Asian and Percentile Options" ということで、 二つのオプションの理論的な価格付けを例題に、 ブラウン運動の性質がどのやうにファイナンス理論に応用されてゐるかを解説。 伊藤の公式が終わつたあたりの院生向けとの話だつたが、 私の感想としては、それよりもかなり高度だつたのではないだらうか。 しかし、これは Yor 先生が、 これくらいが確率論を学ぶ R 大の院生の程度だらうと思つてゐるのだと解釈して、 一層勉学に励むべし。
夜は Yor 先生を囲んで、W 先生、Y 先生、A堀先生、 そして学生院生有志で南草津に飲みに行く。Yor 氏との対談によつて、 Y 先生、A堀先生は R 大における数理ファイナンス教育について、 何ごとか期するところがあつた模様。 さらにラーメンを食べて帰宅。
この日記は、GNSを使用して作成されています。