Keisuke Hara - [Diary]
2002/07版 その2

[前日へ続く]

2002/07/11 (Thurs.)

昼食はトマトソースをそろそろ使ひ切る必要があるので、 アラビアータ。 午後はボランティアの翻訳作業など。 夕食は納豆オムレツ、茄子の糠漬、若布の味噌汁。 夜の読書、「創世記」。

医療ミスがこんなに多いと、 病院に行くこと自体が既に無視できない リスクのやうに思へてくるなあ…

ところで私は田舎のいはゆる進学校の卒業なので、 そもそも医者をあまり信用できない。 と言ふのも、田舎では理系で成績の悪い方から順番に、 医学部に進学する傾向にあるからである。 私の中高の同級生など医者だらけである。 クラスの半分くらい医者かも知れない。もちろん下の半分だが。 あれは何故なのだらう。そして医者になると凄くいばつてゐて、 ますます何かがおかしくなつてゐる。 命をあずかるので至上の強い立場にあるし、 薬屋とかが列を作るほどやつてきて、 センセイ様、センセイ様とちやほやするんださうだから、 よほど人間が出来てゐないと腐るのも当然かも知れない。 伊丹十三が曰く、 「私の経験では勉強のできない奴は概してずるい奴だった」。 私の経験でもそのやうに思ふ。


2002/07/12 (Fri.)

昼はJF文書の翻訳と、来週の講義の準備など。

基本台帳法つて何時の間にか着々と準備されてゐたんですねえ… 成立は1999年、最新の改正法は先月の7日に閣議決定し、 実施は来月の5日から。

今日の読書。「テロリストのダンス」(N.シェイクスピア、新潮文庫)。 ずつと前に買つて「積ん讀」してあつた本だが、 結構おもしろくて、この忙しい時期に (そう、私はとても忙しい。信じてくれないかも知れないが) かなり読んでしまつた。


2002/07/13 (Sat.)

昼食に盛蕎麦を食べて、午後は自宅で作業。 某 A 社から頼まれてゐた論文を読み、 簡単な報告を作成してメイルで送る。 続けて、趣味の翻訳など。 夕食は鮭のスパゲティで、今日は一日麺類だつた。 デザートはチョコレートケーキと珈琲。


2002/07/14 (Sun.)

昼は素麺。夕方は近所のスーパーに買物に行き、 夕食は麻婆茄子、冷奴、豆腐と若布の味噌汁、茄子の糠漬。 茄子の美味しい季節ですね。

午後は少し翻訳などして読書。 「テロリストのダンス」(N.シェイクスピア、新藤純子訳/新潮文庫)読了。 予想以上に良い小説だつた。傑作と言つても過言ではないかと。 私は全然知らない小説家だつたが、 89年モーム賞、93年「英国で最も優れた若手小説家」選出、 この作品で97年全米図書館賞などを受賞している。 ちなみにこの作品(原題 "The dancer upstairs")は映画化されてゐる。 なんと、J.マルコヴィッチの初監督作品。 しかも、(実際はほとんど姿を表さないが)主役級の 元カント哲学教授のテロリスト「エセキエル」を自分で演じてゐる。 日本では上映されたのだろうか? また、「旧約聖書 創世記」(関根正雄訳、岩波文庫)も読了。 うーむ…と、唸るばかりで言葉もないといふ感じか。 私は資料の問題にはあまり興味はないのだが、 文学としても非常に深いやうだ。しかし、 これは註釈書の類を読まないと、 いくらかもその深さに至れないだらうなあ。


2002/07/15 (Mon.)

Madame Klossowski 昨夜の就眠読書、「オイディプス王」(ソポクレス)読了。 もちろん話自体は良く知つてはいたが原典を読んだことはなかつたので、 もう事件が全て終わつてしまつて、 ほとんどレトロ解析の所だけが劇になつてゐるのに少し驚いた。 いきなり、名探偵が皆を集めて「さて」 と言ふところから始まる変格ミステリみたいなもので、しかも、 オイディプス王の筋は言はゆる 「一発芸」で二番煎じができない大トリックである。 もちろんこの数学的なほどの緻密さ、無駄のなさ、深み、 どこをとつても悲劇の最高峰と言はれるだけのことはあるが、 この一発芸の持つ威力がかなりの部分を支へてゐるやうにも思ふ。

昼御飯用に梅おかかのおむすびを作つて出勤。 ところで手作りのおむすびは凄く美味しいのに、 出来あひのものは凄くまずいのは何故だらう。 こんなに差のある料理も珍しい。 (ところで、一番高価で一番美味しいおむすびはどこで食べられるか、 知つてゐるかな?答は明日。) 「積分論I」、最終講義試験を除けば最終回なので、 応用として確率論の話とかブラウン運動の話とか。 続いて、「数理計画法」。双対問題の意味について。 続いて、卒研ゼミ。与へられた分布関数を持つ、 確率変数の存在について。

自宅では最近の多忙の反動なのか、 いや単に挽肉があまつていたせゐだと思ふが、 帰宅時から始めて深夜までかけて、 ミートソースを作つてしまう。玉葱を焦がさず炒めるのに一時間、 トマトやスパイス類を入れてから煮ること最低三時間。 どうやつても合計で4時間以上かかる暇な人間用のパスタソースである。 読書欲が高まつてゐるのも含め、ずばり、逃避です。


2002/07/16 (Tues.)

台風は近畿圏で上陸せず通り抜けていつたやうだ。 朝、目覚めたら既にいつもの暑い夏の日であつた。 昼御飯は昨日4時間以上かけて作つたミートソースでスパゲティ。 午後は翻訳業に励む。

私は普段、学生より貧相な格好で登校してゐるので、 電車とバスで通勤してゐる際に、 私を教員だとは知らない学生たちが、 すぐ隣りで会話をしてゐるのを聞くことが多い。 なんとか教授がこれこれこんなことをしてゐるだとか、 事務のなんとかさんがだうだとか。 学内政治や学内事情に疎いことで有名な私だが、 実はかなりの(裏)事情通になつてしまふ。 その中には「まさか」と思ふような話もあるのだが、 今日はその話ではない。 ある日のこと学生が同じ形容を連発してゐるのが気になつて、 南草津からBKC到着までずつとその単語を勘定してゐた。 結局、その学生がバスの中で使つた形容詞は、 「ヤバい」「ありえない(ありえん、ありえへん、ありえひん)」 「ビミョー」の三つだけだつた。 この三つの言葉は良い意味にも悪い意味にも積極的にも消極的にも、 ありとあらゆる意味のあらゆるニュアンスで使ふらしい。 つまり完全に文脈に依存し、それ自体意味がない。 それ以来、気になつて、その三単語に注意して耳をそばだててゐると、 ほとんどの学生にとつてこの三単語が、形容詞のほぼ全体を占めてゐる。 さらに言ふと、学生によつてこの三つの内の二つだけを使用するのがほとんどで、 女の子は大抵「ありえない」と「ビミョー」の組み合はせである。 たまに全てが「ヤバい」の学生もゐる。 ありえないし、かなりヤバい。教員としてもビミョー。

昨日の解答。答は「寿司屋」である。
おむすびが美味しいと言ふ以上、問題は米と塩と握りである。 自然と答は上等の寿司屋といふことになるが、 この答の意味はもつと深い。 と言ふのも普通、寿司屋ではおむすびを注文できないからだ。 寿司屋にとつてみれば何のネタも乗つてゐないおむすびは、 値段もつけられないし、そんな注文はただの嫌がらせである。 だから、まつとうな寿司屋でお結びを注文できるやうになるまでには、 相当の顔なじみになつて、 「ちよつとお結びが食べたいなあ…」などといふ、 わがままを聞いてもらへるやうにならねばならない。 これにはかなりの投資が必要である。 したがつて最も高価なおむすびでもあるのである。 ちなみに、この話は伊丹十三氏のエッセイで読んだ。


2002/07/17 (Wed.)

昨日は久しぶりに執事と現実の対面チェス。 数ヶ月ぶりだらうか。20分プラス一手につき10秒、 黒番(後手)、ニムゾヴィッチ・ディフェンス(1. e4 Nc6)。 適当な所でフレンチに転換して手堅く戰ふ予定だつたのだが、 (意図的なのか)早期に出来た白の弱いポーンを狙つてゐる内に、 わけのわからないタクティカルな中盤になる。 白番の見落しで K, Q のフォークが決まり、 後は楽勝かと思つたが、 その後に華麗な防御が色々あり思ひの他、苦戦。 しかし、白に終盤でのミスが出て勝ち。

副業が異常に多忙で逆ギレ気味だつた執事も、 少しは一段落ついた模様で、 「僕も仕事がすごく忙しいんだよねえ」と言ふと、 「またそんな御冗談を…どうせ一日中、 奥様とアルプス一万尺でもやつてゐるんでせう」 と執事ユーモアを疲労、いや披露してゐた。

夜、夕食の御飯を炊いたところで、 突如 RIMS に来ている兄弟子の S 大の H さんから電話があつて、 師匠の T 橋先生たちと一緒に食事に出かける。 いきなり京都住まいの私がアレンジしろとの仰せであつたが、 祇園祭りの真最中なので、 私のお薦めの店にはことごとく断られ、 やむなく祇園にある家庭料理のお店に行くことになる。 事前に知らせていただければ、 もう少し状況に即した店を予約できたのだが…残念である。


2002/07/18 (Thurs.)

午前中は数理ファイナンスシンポジウム準備ミーティング。 昨夜炊いてあつた御飯で作つたおむすびの昼食を食べて、 午後は「積分論I」と「数理計画法」の最終講義試験。 両方とも持ち込みなしのため易しい問題を出したので、 みんな結構出来てゐるやうだつた。 もちろん、 常に半分くらいは受けに来てみただけで、まるで何もわかつちやいないのだが。 なお、最終講義試験の開始時間を間違ふ学生が、 私の知つた限りでは各試験に一人ずつはゐて、 本人が悪いと言えばそうなのだが、 これは配布されてゐた定期試験の手引きの書類の 説明不足のせゐもあるのではないかなあ、と。

Y 田先生に "Le Monde" のシュワルツ逝去の追悼記事 (www.lemonde.fr 版でも読めます)のコピーと、 Y 田先生によるその記事の翻訳文をもらふ。今月4日に逝去。 シュワルツは偉大な解析学者だが、 様々な抑圧や不正義に対する反対運動、請願行動を組織し、 闘つた知識人として、社会や政治に与へた影響も大きい。 特に、40年前の121人宣言から、昨年の大統領、首相にあてた声明にまで続く、 アルジェリア戦争に対する抗議活動が有名 (121人宣言に署名した結果、ポリテクの職を失なつた)。

「私はいつも気風を変化させよう、 生活を、人生を変えよう、と望んでいる。 私は欠陥だらけで硬直化した全ての構造が 邪魔物扱いにする改革者であり続けたい…」(L. Schwartz, 1997)


2002/07/19 (Fri.)

朝から逃避行動が爆発。 7時頃から起きて、自宅のネットワークも暗号化してみる。 すぐそこに見えてゐるローカルマシンまでの接続にも ssh を張つてみた。 若干パラノイア的だが、ゲイトウェイのルータがあやしいことだし、 telnetd や ftpd がさらされる危険を放置しておくよりはよかろう。 それで気付いたのだが、 TeraTerm 拡張のTTSSH つて、ssh2 に対応してないんですね。 ところで一部で噂の、現時点で最パラノイア的VPNプロトコル "6/4 (six/four)"つてどうなんでせうか。

とは言へ、そんな作業はすぐに終わつてしまふので、午前中も仕事。 昼食はアラビアータ。午後も仕事。夕方に少し散歩して、夕餉の仕度。 ツナオムレツ、冷奴、納豆、茄子の糠漬。夜も仕事。

久しぶりにメイルでの通信チェストーナメントに参加することにした。 ファイナル進出を目指すと言ひたい所だが、 グループ分けを見ると、ほとんど無理そう… 私は今日から開始。初戦第一手は 1. d4 に対する後手 1. ... Nf6。


2002/07/20 (Sat.)

近畿も梅雨明け。今日の京都は猛烈に蒸し暑い。 昼御飯は梅とおかかとツナのおむすびとほうじ茶。 ツナは酢飯や、塩が全体に入つてゐるコンビニおにぎりにはいいが、 お結びの具にはあんまり合はないな。 午後は少しチェロをさらつて、膳所にレッスンに行く。 スケールの後、フィラールから基礎練習をやつて、 シュレーダのエチュード、練習曲はマルチェロのチェロソナタ1番。 シュレーダのエチュードがやけに難しくなつてきた。 帰宅して素麺用のだしをひいて冷蔵庫に冷やしてから、 酒類の買い出し。夕食は素麺と韮玉、もらひものの清酒を少し。 夜はお仕事。

失踪中の戦慄のインフラ屋 N 氏から突如メイルにて連絡。 と言つても、今もインフラ屋なのか、 また昔のやうに横浜の裏町でナイフをふりまはしてゐるのかは知らない。 PuTTY が ssh2 に対応してゐるとのこと。 ISO2022 日本語化パッチもあり、GUI もあるが、 どうも使い勝手がいまひとつ…


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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