Keisuke Hara - [Diary]
2003/03版 その3

[前日へ続く]

2003/03/21 (Fri.) VIII-271

いつものやうに朝を過して、昼食は麻婆丼。 紅茶で一服して、すぐ烏丸の本屋に資料を購入に行く。 ついでにオ・グルニエ・ドールで林檎のタルトなどを買つて帰宅してお三時。 夕方まで読書など。

我が家のマダム・クロが何度も踏み台にしてくれたおかげで、 私の寝室のオーディオセットの CD プレーヤが壊れてしまひ、 音楽を聴きながら寝たい私としては困つてゐる。 新しく購入したいとも思つてゐるのだが、 現在は応急処置として、 ポータブルCDプレーヤをミニフォン to ピンコードで アンプにつないで使つてゐる。 私は全然、再生装置にこだわりがないので、 特に音質面などで問題はない。とは言へ、不便ではある…

明日から学会などのため東京に出張しておりますので、 次回更新は来週の水曜日26日の夜を予定しております。


2003/03/22 (Sat.)


2003/03/23 (Sun.)


2003/03/24 (Mon.)


2003/03/25 (Tues.)


2003/03/26 (Wed.) VIII-271

夜、出張より帰宅。
「おかえりなさいませ」 「うむ、留守番御苦労。何かあつたかね」 「さあ…強いて言えば、イラクで地上戦が激化しています」 「モリモトの近辺では」 「特に…本当に、本当に何もございませんでした」 「それは上々。ところで、もう少し世間に興味を持つた方が良くないか?」 「私が気にしたところで」(って言ふか、忙しいんだよ。 いつも閑な誰かとは違つて、と言いたげな少々不興気な顔で) などと、 いつものやうに若干の緊迫感を伴つた会話をパートタイムの執事と交す。

仕事以外の個人的な活動としては、 学生時代毎日のやうに一緒に行つてゐた喫茶店の様子を K 大の S 君と見に行つたり、 一人で渋谷の「黒い月」で飲んだり。 喫茶店では店主が代わつてゐたが、しばし、懐しさにひたつた。 「黒い月」では席についた途端に、 ビルスマ演奏のバッハの無伴奏をかけてくれて、 記憶力の確かなバーテンダ達であるなあと思つたことであつた。

ついでに、某 A 社で初歩の確率論の講義をしてきた。 確率が関係する問題は人間の直観をあざむくことが多くて、 実際に計算してみると答が予想した確率の値とまるで違ふなどと言ふことがある。 例へば、値が数倍違ふどころか、 一見100パーセント近いと思はれるのに、 正しい確率はほとんど 0 に近いとか。 それは一体、何が原因だと思ふか、と講義のときに質問された。 もちろん、未来のあやふやな状況を把握することが、 想像以上に困難であるからだが、 生物が生存していく上で非常に重要な能力であるだらうから、 だんだんとそのセンスが磨かれても良ささうなものだ。 ひよつとしたら、正しい確率をそのまま直観し、 それに従つて行動できる能力は、 かつて(いや、今も?)、 生存競争の上でマイナスだつたのかも知れない… 正しい答をすぐに得られることが負の能力であることもありうる。 たとへば、何度も宝くじに当たる人なんかもゐるから、 (もちろん確率的に当然ゐるのだが)、 ツキなどと言ふものを信じる人もゐるが、 さう言ふ虚構を信じた方が良いのかも知れない。

真実を知ることはおおむね生き難い。 特に未来が全くの暗闇であり、何の原因もなく偶然的に決まり、 知ることが出来るのは確率だけだ、と考へるのは恐い。 だから何かの説明が欲しくなる。例へばツキとか神とか… そしてそれは弱い人間にとつて、とても、たやすい。 もし世界中の人がコイン投げ大会をしたら、 20 回続けて表を出す人がほとんど確実に沢山ゐるだらう (なぜなら 2 の 20 乗は 100 万程度に過ぎないから)。 でも自分自身がその 20 回表を出した人だつたら、 何かの「力」を信じてしまひさうになる。 それは良いことなのか悪いことなのか… などと、新幹線の車内でぼんやりと考へつつの帰路であつた。


2003/03/27 (Thurs.) VIII-271

朝は久しぶりに確率解析の勉強をする。 珍しくブラウン運動の到達時間のやうな具体的な計算。 鏡像原理などを忘れてゐたので、自分で導いてみやうと思つたら、 何故か定数倍が合はない。随分考へたあげく、 マルコフ時間でないものをさうだとして扱つてゐたことに気付いた。 まつたく確率論が専門とは思はれない駄目さ加減だが、 少しマルコフ性についての理解が深まつて良かつた。

午後も自宅で読書など。夕方から少し雨。 食材を買ひに出かけ、ついでに本屋で 「ファウンテン・ソサエティ」(ウェス・クレイヴン著/渡辺庸子訳) を購入。なんとクレイヴン(*1)、小説家デビュー。 レオンハルトのバッハを聴きながら、竹の子御飯を作る。 油揚を細かく刻んだものと竹の子と葱の青い所を だしと酒と薄口醤油で軽く煮て、その煮汁で御飯を炊き、 途中米肌が見えたあたりで竹の子と油揚を加へ、そのまま炊く。 炊きあがつたらかき混ぜて、しばらく蒸して木櫃にうつす。 美味しかつたが強いて言へば、 上手に炊け過ぎてお焦げがほとんど出来なかつたのが惜しい。 修行の道は遠い。

*1: 良く知られてゐる作品では、 「エルム街の悪夢」とか「スクリーム」などの監督。 メリル・ストリープ主演の一般作「ミュージック・オブ・ハート」 の監督もこの人らしい。正直、驚いたが、 一筋縄ではいかない才人であるやうだ。


2003/03/28 (Fri.) VIII-342

Korner_ex 昼食は竹の子御飯、だし巻き卵、竹の子と若布のおすまし。 午後は、すつかり春らしい陽気に京都駅まで散歩して、 そのまま大学へ。 特に所用はなかつたのだが、新學期までに一度行つておくか、 と思つたので。 事務室に行くと、 数理科学科の外部評価の報告書があつたので、 しばし事務室で目を通す。

また、 私が共訳したケルナー「フーリエ解析大全 演習編(上、下)」 (高橋/厚地/原翻訳、朝倉書店) が刷り上がつて見本が届いてゐた。 自分が関わつた本が出来上がつてくるとやはり嬉しいものである。 また間違ひが一杯あるんだらうなあ…と思ふと憂鬱だが、 これも問題集とは言へ非常に良い本なので、 解析学を学ぶ方々には是非読んで欲しい。 この教科書編の「フーリエ解析大全」の原書は、 私が学部生時代に初めてゼミと言ふものを体験したときの本で 特に思ひ出深い。 数学、特に解析学、さらに言へば実解析学の面白さ、 深さ、難しさ、の一端に触れた本で、 今でもこの本と出会つて良かつたと心から思つてゐる。 演習編は教科書編に比べて、 読者をさらに奥へと誘う感があつて、 より難しいが、心ある人にはより楽しめると思ふ。

夜、帰宅して、近所のワイン屋に行き、 個人的に出版を祝ふために、 リュイナール のシャンパンを買つた。 このシャンパン代も印税では払へないかも知れない。 それほど専門書の翻訳は経済的には報はれない。 だから、 上に書いたことは決して印税目的の宣伝ではなく、 本当に私の真心からの推薦なのです ;-) それで思ひ出したが、 私は専門書の翻訳はその作業の本質からして、 Linux のやうなフリーソフトウェア&オープンソースの作業の 仕方が正しいと思ふ。 さうすればずつと世の中は良くなると思ふ。 問題は翻訳には原著者の著作権があることだが、 現状の方法では、 翻訳書は高価過ぎるし、その高価さに比べて品質が低過ぎる。 それは翻訳者や出版社の責任と言ふより、システムの問題だと思ふ。


2003/03/29 (Sat.) VIII-342

昼食は納豆と葱と油揚のパスタと昨夜の残りのシャンパン。 午後は膳所にチェロのレッスンに行く。 春の日差しではあるが、やはりまだ肌寒い。 今年の京都の桜は四月からだらう。 夕方帰宅して小一時間ほど閑が出来たので、少し勉強をする。 ブラウン運動の到達時間を別の独立ブラウン運動の 時間に代入すると Cauchy 過程になることの証明。 確率論を学ぶ人は誰でも知つてゐるちよつと面白い事実だが、 学びて時に之を習ふ、亦説ばしからずや。 夜は近所のワイン屋の試飲会に行く。

この前、「黒い月」に行つた時、 バーテンダの一人がクリュグを飲みながら語るには、 シャンパンは貴族が高級娼婦にかけて遊ぶために開発依頼された、 とのこと。古い文献にはつきりとさう書いてある、 と言つてゐた。本当だらうか。 だからヨットや車のレースで勝者達がシャンパンのかけつこをするのは、 本来の用途にかなつており、まことに正しいとのこと。 さらに言ふには、 日本野球の優勝チームがビールのかけつこをしてゐるのは、 すごく貧乏臭くて哀れを誘ふから何とか止めさせろ、 との主張であつた。 僕は毎年、ニュースでビールかけシーンを見るにつけ、 勿体ないなあ…と思ふだけであつたので、 思ひがけない視点に目から鱗が落ちた思ひであつた。

シャンパンは祝ふものや遊ぶものであり、 ビールは飲むものなのであるから、 少しひねつて逆説的な言ひ方をすれば、 本物の貴族ならば(マリ・アントワネットばりに)、 「ビールかけなんて勿体ない… シャンパンにすれば良いのに」と言ふかもしれない。


2003/03/30 (Sun.) VIII-342

日曜日なのに珍しく早起きしてしまふ。少し寒い。 紅茶を飲みながらニュース番組を見る。 昼食は梅干しと鰹節に御飯、根菜の味噌汁の粗食。 午後は午睡。少し横になるつもりが気がついたら、 三時間くらい寝てしまつてゐた。春眠、恐るべし。 寝てゐる以外の時間は バムフォード の新刊の翻訳を読んでゐた。夕食はカルボナーラ。 流石に二日たつと気が抜けてゐるシャンパンを、 白ワインの代用に料理に使ふ。

明日は個人的にフル休暇のため、一回お休み。 次の更新は火曜日の夜です。


2003/03/31 (Mon.)


[後日へ続く]

[最新版へ]
[日記リストへ]

Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。