Keisuke Hara - [Diary]
2003/04版 その2

[前日へ続く]

2003/04/11 (Fri.) VIII-622

八時半くらいに起床。 紅茶をいれて、胡瓜とチーズのサンドウィッチを作り、 朝食をとりながら、フーリエ解析の演習問題を解く。 同じ手法が続いてゐるので簡単。 続いて「確率解析」の勉強。 抽象 Wiener 空間上の Sobolev 空間の定義まで終了。 昼食は納豆パスタ(つまりアーリオオーリオの納豆のせ)。 食後は珈琲を飲んで一服し、チェロの練習をして、 今この文章を書いてゐる。この後、 定例関西セミナーに出席のため京大に出かける予定。

ところで、世間の一般の人は「抽象的」と言ふことばを、 「あやふやな」「茫洋とした」「漠然とした」 と言ふ意味で使つてゐるやうに思ふのは気のせゐでせうか。 抽象と言ふのは、個々の具体的な性質を捨象して、 ものごとの本質のみを取り出した純粋な形、 と言ふことなので、むしろ逆に「明解な」「すつきりした」 と言ふイメージの方が遥かに近いはずなのに。 そう思ふのは、私が数学プロパーだからで、 本当は「茫洋とした」と言つた語感が正しいのですか? これは日本語の「抽象的」がそのやうに用ひられてゐるだけで、 例へば英語の "abstract" はまた違ふのですか? 「抽象画」と言ふときは、どちらのことなのですか?

数学ジョークの一つで、 「良く分かるやうに、もつと抽象的に話して下さい」 と言ふのがあるが、 このジョークは「数学者でない人の気持ちも理解してゐる数学者」 でないと意味が伝はらない。 数学者にとつては当たり前の発言でどこが面白いのか分からないし、 一般人にとつては意図を誤解したジョークになつてしまふから。

久しぶりに近所のバーで食事して帰宅。


2003/04/12 (Sat.) VIII-622

11 時頃まで熟睡。こんなに睡眠が必要なのは無駄だな。 睡眠を5時間くらいで済むやうにしたい。 カルボナーラを食べ、午後はチェロのレッスン。

大学方面からまた駄目駄目なメイルが来てゐて、 一度きちんと注意しておかねばと返信を作成しはじめたのだが、 結局、思ひ直して止めた。 セキュリティについて忠告することは、 私の経験によれば百害あつて一利もない。 迷惑がられたり、恨まれたり、仕事をまはされたり。 大体の場合、その程度のセキュリティの低さで良いから、 そのやうな運用になつてゐるのだし、 そのメイルの解釈によつては、 パスワードを自分で変更しておかないと、 見せしめにするよ、大変なことになるよ、 と言ふ警告だと取れなくもないし(*1)。(13:11記)

チェロのレッスンに行くと、薄い菫色のハープシコードがおいてあつた。 綺麗でいいなあ…欲しい。比叡平に住んでゐる作家さんのものらしい。 書庫の中央に置けないでもないし。 夜は木屋町で外食。 鯛のあら煮、茄子鰊、じゃこおにぎりなど。

*1: でも、とは言へ、良い子のみんなは、 スタッフ全員の ID とパスワードを普通のメイルで、 しかも ID and Password なんてサブジェクトで 送つちやいけないよ。


2003/04/13 (Sun.) VIII-622

また10時くらいの遅い起床。 休日はさぼつても良いと身体が認識してゐるのだらうか。 神経言語プログラミングし直した方が良いかも知れない。 オ・グルニエ・ドールのタルトと紅茶で目を覚まし、 昼食は祇園の天周で天丼。 そのまましばらく散歩して帰宅。 市議会/府議会選挙に行つたり。夕食は桜ちらし。

やうやく五月蝿い選挙カーがゐなくなつて嬉しい。 なんであんなものが今も生き残つてゐるのか、 全く理解できない。 名前を知られることがそんなに大事なのか。 それより、 投票所に本人の個人情報と支持政策と公約などを 誓約書付きで掲示して、 投票者がそれをその場で採点して投票すれば良いではないか。 いつそ小論文だけでも良い。 立候補者はエネルギーの全てを傾けて、 立派な政策や小論文を事前に作るのである。 さうか、 何を発言しやうが主張しやうが選挙後、それを守る方がおかしいくらい、 徹底して公約に意味のない所が問題なのね。 誓約書くらいじや駄目かなあ…

私は騒音が大嫌いで、 普通の人より我慢できるレベルが低いと思ふ。 多分、ものすごい田舎に生まれ育つたからであらう。 私はとても礼儀正しく、しかもおとなしい子供だつたので、 親に向かつて聲を荒げることなど皆無に近かつたが、 たつた二度か三度、 母に向かつて、「掃除器がうるさい!」と怒つたことがある。 あ、さう書いたとたんに他の事例があつたことを思ひ出した。 私は同じことを二度言はれると「しつこい!」と怒つてゐた。 子供の頃は完全な記憶を持つてゐた (そして他の人も皆さうだと思つてゐた) からである。 まさか一度聞いたことを忘れることがあるなんて、 随分大人になるまで知らなかつた。最近は忘れ放題ですけど(笑)

これからお風呂に入つて、チェロの練習。 今日からエチュードも課題曲も次の部分に進むので嬉しい。


2003/04/14 (Mon.) VIII-733

八時半頃起床。 昼食用にチーズと胡瓜のサンドウィッチと卵のサラダを作り、 切り落としたパンの耳を噛りながら、 フーリエ解析の演習問題を一題解く。 チェザロ平均の一般化を目指す問題群であるが、 実質的にはデルタ・イプシロン論法の練習問題みたいな問題が続いてゐる。 続いて、S 川先生の「確率解析」を勉強。 Wiener 空間上の Sobolev 空間の包含関係など。

出勤して、研究室で紅茶をいれてサンドウィッチのお弁当を食べ、 珈琲片手に 12 時半から M1 の自主ゼミ。 エクセンダールの確率微分方程式の教科書で、 今日は最初の測度論の準備のあたり。 発表者の K 君は思つたよりずつとしつかりしてゐて、 安心して見てゐられる感じ。 続いて、紅茶を片手に卒研ゼミ、A チーム。 思つたより簡単な教科書で、あつさり短時間で終わつてしまふ。 これはどんどん読み進めて半年で終はるくらいで良からう。 20分ほど時間があいたので、 ゼミ室で椅子に寝転がつてバムフォードの "Puzzle Palace" を読みながら 次の卒研生を待ち、 続いて、今度は珈琲とキットカットを(それぞれ)片手に卒研ゼミ、B チーム。 Dym-McKean のフーリエ解析の教科書。 Y 君がルベーグ積分の復習がかつたるいからと言つて、 ゼミのイントロとして、 フーリエ解析の歴史的問題(?)について話してゐた。 非常に高レヴェルで楽しかつたし、 開写像定理を教へてもらひもしたので、 私としては大変に勉強になつた。 ゼミの途中でK 川先生がやつて来て、 「フーリエ解析大全 演習編」が生協においてあつた、 と教へてくれた。 非常に少部数しか刷つてゐないので、貴重品である(笑)

帰宅して、パスタを茹で、 アーリオオーリオの納豆和へを作つて、 白ワインとともに食す。 食後に珈琲。ゼミ日だからしやうがないが、 珈琲紅茶の飲み過ぎ。 お風呂に入つて、夜は明日の講義のおさらいでもしやう。


2003/04/15 (Tues.) IX-69

八時起床。講義の準備など。 おむすび、だし巻き、胡瓜の漬物のお弁当を作つて出勤。 研究室で昼食を取つて、「確率過程論」。 講義開始時間には私以外に誰も来ず、 空の教室に向かつて講義すると言ふ 伝説の講義の達成真近であつたが、 しばらくして二人学生が現れ、 さらに二人少し遅れてやつて来たので、 残念ながら伝説の講義は私の夢のままになり、 四人の院生相手に重複 Wiener-Ito 積分の構成をする。 引き続き、「計算機数学続論」。 こちらは繁盛してゐて15人くらいはゐるか、と。 拡張されたユークリッドの互除法、素数の性質など。 引き続き、休憩もなく某委員会の会議。 帰宅は7時前で、夕食にオムライスを作つた。 K 大の S 君がまとめておけと言ふので、 夜は確率過程論の講義ノート、別名、 Malliavin 解析超入門秘密手帖を TeX で整理など。

私は会と名前がつくものは全て嫌ひなのだが、 きつと世の中のどこかには会が好きでたまらない人のために、 秘密組織「会の会」みたいなものがあつて、 この「会の会」メンバが秘かに世の中を牛耳つてゐるに違ひない。 恐しいことだ。


2003/04/16 (Wed.) IX-116

八時半くらいに起床。 胡瓜とチーズのサンドウィッチのお弁当を作り、 切り落としたパンの耳と卵で朝食。 フーリエ解析の演習問題を一つ解き、 「確率解析」の勉強。モーメント不等式。 出勤してお弁当を食べて、午後は「積分論 I」。 σ加法族、可測空間、σ加法的測度など。 続いて M1 の暗号ゼミ。 夕方には終了したので、事務仕事。 A 堀研の院生に頼まれてゐた本を注文したり、 バイト代を支払ふための書類を頼んだり、 あれこれ。 帰路の車中でいつものやうにプルーストを読む。 アルベルチーヌ死す。長い長い物語もやうやく、 終りに近付いてきた。

帰宅して、獅子唐と赤唐辛子と厚揚のパスタを作つて食べる。 少し仮眠して夜の活動(?)に備へる。


2003/04/17 (Thurs.) IX-116

昨夜は少々夜更したせゐで、 起床はいつもより遅くて十時頃。寝床で少し読書して、 隣りの書庫でしばらくコンピュータをいじり (skkime のアップデート。次の段落を参照)、 目が覚めたところで昼食を作る。 厚揚と獅子唐を吸い加減にだしで煮て、 猫まんまと食す。 午後は Mallliavin 解析の講義ノートを TeX で整理。 まずノートを作つて、講義をして、TeX でまとめて、 と三回目なので、どんどんクリアに簡潔になつて行く。 結構なことだ。

自宅の unix マシンにはモニタがないので、 ヴィジュアルが必要なことは Windows でやつてゐて (例へば dvi イメージを見るとか)、 その場合、emacs クローンと skk で仕事をすることになる。 emacs の中では普通に skk を使へば良いのだが、 それ以外のところで普通のかな漢字変換を使ふのが苦痛、 とお嘆きの貴兄に朗報。 久しぶりにアップデート情報を見たら、 skkime のバグがかなり直つてゐて、感じがよい。 skk が指に沁みついてゐるのに、 Windows を使はなければならないこともある方にお勧め。 さういや、この前 K 大の S 君に東京であつたとき、 emacs クローンの Meadow が随分良くなつてゐると言つてゐた。 ネットワークインストールなんかも出来るみたいだ。 S 君まで Windows とつきあつてゐるとは、 きつと随分と雑務が増えてゐるのだらう… もつたいないことだ。

甘いものが切れたので買ひ出しのため、夕方少しだけ外出。 夕食は昼間作つた厚揚と獅子唐の煮物と、新玉葱とチーズのオムレツ。 夜は少しチェロを弾いてから、来週の講義の準備をした。 週末は自分の数学に使いたいので。 深夜は多分、ミステリ系の読書。


2003/04/18 (Fri.) IX-116

また寝坊した。午前中はいつもの通り。 昼食はアラビアータと赤ワイン。 午後は珈琲豆を買ひに烏丸に出た以外は、 軽い数学の本を読んでゐた。 J.J.グレイの 「リーマンからポアンカレにいたる線型微分方程式と群論」(*1)。 面白い!こんな面白い本は久しぶりに読む。 こんな感じの講義があつたら最高だらうなあ… 閑つぶしに少しだけ読むつもりが気付いたら夕方だつた。 少し早めの夕食は獅子唐、新玉葱、厚揚の炒めもの、 ちりめんじゃこ、胡瓜の糠漬、新玉葱と若布の味噌汁。 シャワーを浴びて珈琲とチョコレートで気合ひを入れた後、 合間にチェロを弾きつつ、自分の論文を傍らに少し計算など。

自分のかつての論文を読むとき思ふことは二つ。 「昔の僕はなんて頭が良かつたのだらう!」 そして 「昔の僕はなんて馬鹿だつたのだらう!」。 常にその片方しか思はない人は、 それぞれに理由は違ふが、どちらにせよ幸せな人だ。

*1: ふと前書きを見返して、 この本の最初のバージョンは、 イギリスの Warwick 大学で学位論文として提出されたものだと知つた。 ちなみに指導教官は D.ファウラーと I.スチュワート。 どうりで(?)、なんだか雰囲気に魅かれるものがあると思つた(笑)。


2003/04/19 (Sat.) IX-116

若干のメンテナンスを行なつた結果、 土曜日でも(私の基準では)早朝から起動。 朝はいつものメニュー。 ちよつと難しいかな、と思つた問題が 15 分ほど考へて解けて良かつた。 最近は 15 分ほど続けて考へることさへ珍しいほど、 自明な日々を送つてゐるのが切ない。 とは言へ、私は本来、集中力があまりなくて、 続けてギリギリと考へられるのは精々が数十分くらいの長さである。 さう言ふところもまた、数学者には向いてゐない。 夢中になつて数時間過ぎてゐることはあるが、 それはまた別の種類の頭の使ひ方だと思ふ。 昼食はじゃが芋と獅子唐を入れたトマトカレー。 午後から京都は雨。 Malliavin 解析入門のノートを TeX で作成など。 夕食はアラビアータ。 珈琲で一服してから、食後は数学の勉強。

と、その途端に鳥肌がたつて、 最近考へてゐたことが全て分かつてしまつた。 しばらくの間、激しい動悸とともに、 あれこれ検算してみて一時間後、 そこの部分は大きな理論より導かれるから、 として深く考へず省略してゐたところを、 自前で再発見しただけだと言ふことが判明して脱力。 Fredholm 理論の勉強が出来て良かつたとしておかう… でも、数日は数学を考へたくない。


2003/04/20 (Sun.) IX-135

昨日の深夜(今朝の夜)、 お腹が減つたので日清の焼きそば UFO を作つてゐたら、 丁度、深夜映画のロードショー帰りで、 真夜中のキッチンで生け花のメンテナンスをしてゐた執事に、
「どこの貧乏学生の真似ですか!」
と、叱られた。
「私は UFO が好きなんだ。それにこれは一個百円だったし」
「さう言ふ問題ではありません!」
でも最近の UFO は機能面が洗練され尽した一方で、 味が少し好みではなくなつた。以前のケミカルな感じが良かつたのに。 無視して、ガスレンジの前に立つたまま食べやうとすると、
「どこの貧乏学生の真似ですか! 御両親がそのお姿を御覧になつたら何とおつしやるやら…」
と泣き出すのだが、立つたままずるずる UFO を食べながら、
「実際に見て、生活費でも送つてくれると良いんだがねえ」
とか適当に返事しておく。 私の両親は物凄い田舎の人たちなので、 インスタント食品やファーストフードはむしろ 贅沢品だと思つてゐるんじやないかな… それに、かう言ふものは卑しく食べてこそのもので、 正座して小笠原流で食べるものではないと思ふのだが。 ちなみに、アメリカ合州国では、 一食1ドル以下の食生活が貧困層に分類される必要条件らしいね。 3分ほどで食べ終へて、また寝室で読書を続け、朝方寝た。

5 時間ほど寝て起床。 少し雑務をして、自宅でチーズのサンドウィッチを作つて食べてから、 小雨の降る街へ外出。 京都文化博物館での室内楽のコンサートに行く。 イタリア音楽の特集。 いつもの可愛らしいソプラノのお嬢さんが 最初にスカルラッティ、最後にドニゼッティを歌つてゐて、 目と耳の保養(死語?)になつた。 あんなに痩せてゐるのに、よくもあんな聲が出るなあ。 他には私の好きなタルティーニの「悪魔のトリル」や、 現代からはニノ・ロータの木管の五重奏曲などが入つてゐて、 なかなか楽しいコンサートであつた。 夕方、帰宅。夕食は何にするかな…


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。