Keisuke Hara - [Diary]
2003/07版 その1

[前日へ続く]

2003/07/01 (Tues.) 平穏無事

雨。傘を持つてゐない私には辛い季節だ。 南草津からのバスで経済の O 先生に会つて、 ミステリ話などしつつ BKC に到着。 O 先生は何だか重要な委員会のメンバとして、 午後から会議の模様。あやかりたくない、 あやかりたくない(ぶるぶる)。 12時半から「確率過程論」、 無事に二、三名、聴講者が集まつたので、 O-U 半群の超縮小性の証明とその応用として乗数定理の証明をする。 後二回で Malliavin 解析の基本的なところが終はれるか微妙だ。 続いて、「計算機数学」。 ブロック暗号の色々なモード、ストリーム暗号など。 続いて、M2 ゼミ。最近の進展を聞く。 夕食は無事、自宅で。アラビアータ、赤ワイン、珈琲とチョコレートケーキ。 食後は少しチェロを弾き、最近遅れてゐる Malliavin ノートの作成。

昨夜は久しぶりに執事とチェスをした。 御互ひに多忙のため一ヶ月ぶり、つまり月末チェス以来の月末チェスである。 30分プラス一手15秒、後手、シシリアン・ドラゴン。 今回の私のテーマは「メイトを狙ふな、狙はば負けよ」、 執事のテーマは「平穏無事」ださうだ。 両者とも久しぶりの対面チェスで時間の使ひ方が分からなくなつてゐて、 終盤に近付いてタイムトラブル原因の謎の手を連発した後、 私がクイーンのただ取られを見逃して負け(笑) しかし、時間に余裕がある間は、 ほぼプラン通りで満足の行く展開であつた。 この感じだと、合計1時間くらい使へれば、 対面でもまあまあのレヴェルのチェスが出来るのではなからうか。


2003/07/02 (Wed.) 初等的な難しさ

朝の珈琲を飲みながら、 ふと昨日のゼミで院生が言つていた配列代入のバグを思ひ出し、 自分で簡単なプログラムを書いて試してみると問題なくコンパイル、 実行できた。 昨日、話を聞きながらも「そんな馬鹿な」とは思つたのだが、 やはり別のバグで起こつたエラーの原因を勘違ひしたと思はれる。 放つておいても自分で気付くだらうとは思ふが、 学生の貴重な時間の節約のために、 テストプログラムをメイルで送つておく。 少し Malliavin ノートを作成して、出勤。

12時半から「積分論 I」。 測度論の応用としての確率論入門その1。 続いて、M1 ゼミ。前回宿題にした部分の証明を聞く。 ミラー・ラビン法の「証人」の数の評価。 初等的だが場合分けが多くて、長く複雑な証明だつた。 大抵、初等的な証明は難しい。 ろくな武器もないゲリラ戦のダーティさであらう。 合間に図書館で「史記列伝1」を返却し、 生協でコルモゴロフの「学問と職業としての数学」を買ふ。 続いて、教室会議。結構長引いて、帰宅が遅くなつた。 夕食は数日前に作つておいたバジルのソースでパスタをあへて、 白ワインと食す。食後に珈琲とチョコレートケーキ。


2003/07/03 (Thurs.) 難しい所は難しく、易しい所はつまらない(筋悪の法則)

いつもより少し早起き。 午前中は、洗濯機を回しながら、 Malliavin ノートの作成。 出勤して、 数理ファイナンスシンポジウムの準備ミーティングに参加。 K 大の S 君から受けた質問をきつかけに、 しばらく T 山流に言へば「つまらないこと」を日常の合間に考へてゐたのだが、 私の問題設定では抽象無意味(アブストラクト・ナンセンス)ぽくて、 難しいところは難しく、 易しいところではあまり面白いことが出て来さうにない。 具体例があれば別だが…ちよつとその関連の本を図書館で借り、 生協で注文してあつた D.ハンドラーのミステリを一冊購入して帰宅。

明日は神戸の高校で営業活動なので、 夕食後は資料などを揃へ、予想される質疑応答をシミュレート。 外は激しい雨。チェロを弾く。


2003/07/04 (Fri.) 豊かさの特異点と特異点の豊かさ

朝は Malliavin ノートの作成をして、午後は神戸で営業。 京都から見て神戸は遠さうでゐて実はかなり近い街なので、 夕食までに帰つてこれた。今週は良く働いた印象だなあ。

往復の電車でハンドラーを読む。 はじけるシャンパンの泡のやうなゴージャスと、 切れ味の鋭い会話とワイズクラック(へらず口)。 アメリカは豊かな国なのだな、と思ふ。 ヨーロッパの重厚さとはまた違ふ、 殺那的だが屈託のない華やかさが身上である。 さう思ふと日本は貧乏臭い。 かつて豊かであつたこともない癖に、 揃つてスローライフとか、清貧とか言ひ出すところがまた貧乏臭い。 日本ではこんなタイプのハードボイルド(なのかな?ジャンルは) は書かれさうにない。 貧乏と嫉妬の構造が遺伝子に組み込まれてゐるからだらうか… 突然変異体に期待。


2003/07/05 (Sat.) The man who would be F.Scott Fitzgerald

朝は講義の準備。 昼食はバジルソースのパスタに茹で卵とアンチョビのサラダ。 ワインを一杯。 午後はチェロをさらつて、夕方は膳所でレッスン。 ここしばらくサボり気味で、レッスンもめろめろ。 その後、大津パルコの本屋で 「幻の特装本」(J.ダニング/宮脇孝雄訳/HM文庫)を買ひ、 駅までの道添ひにある古本屋で D.ハンドラーを三冊見つけて購入。 購入したばかりの 「フィッツジェラルドをめざした男」を読みつつ帰る。 執事にもハンドラー探索を頼んでゐたので、 帰宅すると「女優志願」が届けられてゐた。これはダブリだが、 将来リタイアして古書店をやるときのために取つておかう。 あと探書リストに残されてゐるのは「真夜中のミュージシャン」 「笑いながら死んだ男」「猫と針金」。


2003/07/06 (Sun.) 角が三つある輪

朝は Malliavin ノートの作成作業。 昼食はトマトとアンチョビのパスタ。 食前、食後に珈琲。少し食べ過ぎたので、 クロとともにしばらく午睡。 夕方から河原町にシャツを取りに行く。 街で突然の土砂降りの雨になり、 傘を持つてゐない私はやむを得ず、 本屋でフィッツジェラルド短篇集を買つて(持つてゐるはずだし、 何度も読んだことがあるが)、 誰にも姿を見られてゐないことを確認してすぐ傍の某ファーストフード店に入り、 珈琲だけを注文して、読書しながら雨宿りする。 以前、「マッ○の珈琲が随分、美味しくなつた。 昔とは違ふ」と私に意見した女性がゐたのだが、 やはり不動産屋に珈琲を注文するのは筋違ひである。 いや、味の好みの違ひなのであらうが。

30分ほどで傘なしで歩けるほどの小降りになつたので、 古本屋でハンドラーを探す。 「猫と針金」「笑いながら死んだ男」を発見。 あとは「真夜中のミュージシャン」を残すのみ。 人気作家なので品切れとは言へ、簡単に見つかるやうだ。 C. ブランドの「ゆがんだ光輪」もあつたので購入 (持つてゐるはずだし、何度も読んだことがあるのだが)。 人に聞かれなくてもしつこく主張してゐるが、 私がこのジャンルで最も愛する作家がブランドである。 ブランドこそ、真のスタイリスト。


2003/07/07 (Mon.) professor's quarter

朝は講義の準備など。 正午から M 自主ゼミの予定で、 参加者の N 田さんと一緒に待つも、発表者が現れない。 私の基準では、女の子は15分待つたら帰る権利がある(絶交も可)。 さう言ふと、差別的だと思はれたのか 「女の子だと違ふんですか?」と訊くのだが、 違ふとも、 男に15分以上待たされるやうな女になつてはいけない。 これ以上、待つてもらつては彼女の将来に関はると思ひ、 ゼミは休みにする。私は個研でもう少し待つたが、 発表者は寝坊による遅刻であつたらしい。 空いた時間で、 事務から学術データベースとやらの入力の催促が来てゐたので、 ちよこつと入力と編集。続いて、卒研。

そろそろ定期試験期間が近づいて、 試験中や夏休みの間のゼミはどうするか、と言ふ話になる。 学生さんたちに訊いたところ一致して 「セメスタが終はれば、当然ゼミも休み」 とのことだつたので、もちろんこころよく承知する。 私は学びの機会と充実を目指し、 学びの主体たる学生の意志を常に尊重してゐるのだ。


2003/07/08 (Tues.) 鰯と卵

三条会に最近出来たパン屋「バタバタ」 で BLT サンドウィッチを買つて出勤し、 個研で昼食。久しぶりに美味しいサンドウィッチを食べた。 ベーコン・レタス・トマト、と言ふ組み合はせは誰が考えたのだらうか、 まさに絶妙である。 ところで、私は鰯と茹で卵のサンドウィッチも好きなのだが、 こちらは残念ながら自分で作らない限り滅多に売つてゐない。

食後は、「確率過程特論」。 Meyer の不等式を示すための準備など。 続いて、「計算機数学続論」。 暗号解析、RSA 系のアルゴリズムなど。

学生たちは夏休みが近付いて気分が高揚してゐるのか、 講義の後で「H 先生は夏休みどこに行くんですか」とか訊かれたので、 「一夏、引きこもり」と即答しておく。 「H 先生は東南アジアに家があるんですよねー」つて、ないよ(笑) ちなみに、カナダに奥さんもゐないし(それは経済の某先生)、 IBM に勤めたこともないし(それは TK 大の某先生)、 K 川先生との年齢の差は 1 歳だ。 これだけ頓珍漢な情報が A 堀研の学生に蔓延してゐるのは、 A 堀先生がわざとジャミングしてゐるに違ひない。


2003/07/09 (Wed.) control on the fly

12時半より「積分論I」。 ブラウン運動の構成。連続に経路がとれること。 ブラウン運動の経路が確率 1 で至るところ微分不可能であることの、 エルデシュ・ドボルツキ・角谷による証明。 非常にトリッキーな証明で、 区間を三つとつて収束のオーダーを三乗分、 稼ぐところがポイントである。 これで「積分論 I」の今期の講義は終了。 来週は最終講義試験である。 続いて M ゼミ。 原始根の話を聞いてゐると、K 川先生が 「なんだか面白そうなことが聞こえましたが」 と通りかかつて、 「積分論の試験勉強をこれから一週間でどうしやう、 つて学生たちが困つてましたよ」 と教へてくれる。 半年分を今から勉強するのでは大変でせうな、 と答えておく。

夕食は自宅の近所のバーで。 無料サーヴィスのスパークリングワインをいただきながら、 これからの計画に思ひを巡らせる。 京都の握り寿司屋事情についてシェフから情報収集して帰宅。


2003/07/10 (Thurs.) 立派な猫

午前は講義の準備。午後は Malliavin ノートの作成など。 昼食には蕎麦を茹で、夕食は焼き茄子に生姜と醤油、 納豆に味噌汁。茄子が美味しい季節。 今日はものすごい蒸し暑さ。京都らしい夏である。 午後、銀行と郵便局での所用のついでに、 CD でも探さうと河原町まで出るつもりだつたのだが、 あまりの暑さに近所で用事を済ませて帰つてきてしまつた。 結局、近所の CD 屋で購入したのはエロール・ガーナー 1 枚。

昼間、窓辺のクロが御近所の奥様方にちやほやされて、 日頃聞かないやうな媚びを含んだ聲で鳴いてゐるので、 そつと近付いて様子をうかがふと、 どの人も「まあ、立派な猫」「大きいわねー」「ホント大きいわー」 と言ふ調子で、誰も「可愛い」とは言つてないのであつた。 日本語が正確には分からないもので、 未だに過去の栄光にひたつてゐるクロである。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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