Keisuke Hara - [Diary]
2003/07版 その2

[前日へ続く]

2003/07/11 (Fri.) 黄色はサフラン

冷房の効いた部屋で、午前中は講義の準備。 昼食は炒飯と胡瓜の糠漬。 季節のせゐか、たまたまの塩加減か、糠漬が絶好調。 午後は Malliavin ノートの作成。 この週末の間に全部仕上げてしまふ予定。夕食はカルボナーラ。 かなり完成に近付いてはゐるが、やはり色合ひと風味からして、 サフランが必要かなあ…

夜、久しぶりに「星の王子さま」を読み返した。 この本は子供には難し過ぎて、 歳をとるごとに面白くなり、 ある歳からは急に切なくて読み難くなる類の本だが、 それはつまり、愚かでなかつた頃が懐しくなる郷愁のやうなものだらう。


2003/07/12 (Sat.) 米は銀色

夜更しのせゐで起床は正午近く。昼食は蕎麦。 午後は Malliavin ノートの作成。 講義期間中ぎりぎりに一応、完成。 S 川先生の本の読了と合はせて、 私の長期研究計画の第一段階は了。

米がきれてゐたので、近所の米屋に行く。 菜食主義者の妹に影響されたわけでもないのだが、 何となく玄米を試すことにした。 初めてなので七分づきにしてもらふ。 夕食は、玄米御飯、 胡瓜の糠漬、冷奴、茄子の味噌汁。 炊き上がりを見ると、 七分とは言へ、玄米はかなり濃い色をしてゐて、 白米がいかに眩しいくらいに白いか、 銀シャリと言ふ言葉の持つ意味が初めて分かつた。


2003/07/13 (Sun.) 金盥の湯

睡眠時間が後にずれて来てゐて、 今日も昼近くまで寝てしまつた。 昼食は油揚と若布の味噌汁、胡瓜の糠漬、冷や御飯に納豆。 午後から京都は雨。 洗濯物を畳んだり、掃除をしたり、書類を整理したりと家事。 夕食は茄子とベーコンのパスタ、ワインを二杯。

余計なものは持ちたくないな、と思ふのだが、 いつの間にか生活の垢のやうに物が増えて行く。 本だけはしやうがないと諦めてゐても、 その他のものは出来るだけ持たない、 いや、持つてゐないはずだとさへ自認してゐるのに、 無駄な物が増えて行く。 やはりこれは余程意識的に努力しない限り、 決して成し得ない困難なのだらう。 森鴎外の「鶏」の石田少佐(*1)のやうな、 ぎりぎりの所まで行くのは現代人にとつては至難である。 エルデシュのやうな天才なら、 身体一つで世界を周り続ける人生も可能なのかも知れないが…

夏休み(*2)も含めてしばらく仕事が詰まつてゐて、 物を増やすことがなさそうだし、 今日から毎日、何かを捨てて行つてみやう。 狭義単調減少である以上、いつかどこかに収束するはずである。

*1: 小倉左遷時代の鴎外本人がモデルとされてゐる。

*2: 夏休みと言ふのは学生側が休暇なだけで、 教員にとつては講義がないと言ふ以外に、 実質的には休暇でもなんでもない。 そこの所を勘違ひされてゐる方が多いやうだ。


2003/07/14 (Mon.) のんびりスタイル

朝から RIMS へ。確率論と数値計算のシンポジウムを聞く。 午後の休憩時間に、現 RIMS 所長の T 師匠を訪ね、 相談ごとを少々と、数学的雑談。 「これからは、僕のやうな研究スタイルじや、生き残つていけないからねっ」 とまた説教される。 つまり、のんびり構へてないで、どんどん論文を書きなさい、 書かずば滅びよ、と言ふ意味である。 ちなみに数学用語で、彼(彼女)はのんびりしている、 と言ふのは、微妙なニュアンスのある表現で、大体 「まあ見所がないわけではないが (と言ふのも、見所がなければ単に黙殺されるだけだから)、 業績が少な過ぎるね」の意である。 と言ふやうなわけで、少しと思つたのだが話が長くなつて、 その後の講演を全てサボつてしまつた。 夜は TK 大の N さんと T 師匠とで、 北白川近辺で食事。帰宅は10時頃。

明日は最終講義試験を除けば今期、最後の講義である。 頑張ろう…


2003/07/15 (Tues.) 会議の増加数は現在の総会議数に比例する

南草津駅を降りたところで経済の O 川先生に出会ふ。 なんと今日は六つの会議があるさうだ。ご愁傷様です。 さう思ひつつ、キャンパスに到着すると、 事務に、R 大を世界に冠たる研究の中心にするための委員会から、 (理工だけで)さらに四つの部会の発足を提案する書類が来てゐた。 知らない所でまた新たに五つの会議が生まれた模様。 COE とか国立大独立法人化とかで大変なんでせうけど、 どうかなあ、それ…

「バタバタ」のカツ野菜サンドの昼食を個研で。 12時半より「確率過程特論」。今日もまた、なかなか学生が現れず、 講義室で一人 Steele の確率解析と数理ファイナンスの教科書を読んでゐると、 T 山先生が通りがけの一声をかけに来た途端に、 ようやく一人目の学生が現れる。 マンツーマンで講義するのも何なので、 もう一人くらい来るまでしばらく読書を続ける。 あ、Steele に誤殖発見。「碧厳録」が Kekiganroku と引用されてゐる。 しかし禅書を引用してあるなんて、変な数学の本だ。 またしばらくして二、三名学生が現れたので、講義開始。 Meyer の不等式を証明し、 その応用として Skorohod 積分と Ornstein-Uhlenbeck 作用素の連続性を示す。 最後は渡辺の意味での Wiener 空間の超関数理論の要点を紹介して、 今期の講義は終了。 R 大にゐる以上、確率論専攻の院生は渡辺理論は必修。 続いて、「計算機数学続論」。 RSA 系を実装する上での高速化アルゴリズムなどで今期の講義を終了。 これであとは定期試験を残すのみ。 続いて、M2 のゼミの予定だつたが、院生の体調不良とのことでキャンセル。 Y 田先生から Williams の校正版を受けとつて、 早めに帰宅。夕食は麻婆茄子豆腐。


2003/07/16 (Wed.) タコ、チーズ、カレー

今日の昼食も「バタバタ」で買つたパン。 卵と野菜のサンドウィッチとタコチーズカレーパン。 12時半から「積分論I」の最終講義試験。 続いて、M1 ゼミ。離散対数問題の指数計算法アルゴリズム。

Williams の著者校正中。 Y 田先生と私とで二度、目を通す予定だが、 これは大変だわ…今月中に出来るかなあ。


2003/07/17 (Thurs.) ゲラ刷りと奴隷船

朝はゲラ刷りの校正。遅々として進まず。 Williams を一から全て読み直すと言ふ意味では勉強にはなるが。 昼食は炒飯。玄米は炒飯に合ふやうだ。 午後は少し午睡してから、河原町に珈琲豆を買ひに行き、 また校正。 夕食は冷奴、里芋の味噌汁、玄米御飯。 夜も校正、また校正。 校正の合間に別の仕事。

ところでゲラ刷りの「ゲラ」つて何か御存知ですか? 活字を組んだもの(組版)を入れる箱 (galley) のことなんですね。 そしてこの galley は「ガレー船」の「ガレー」、つまり、 奴隷をぎつしりと詰めた船の名から来ています。 校正のために、 このゲラに入れたままの組版で印刷したものが、 すなわちゲラ刷り。 もちろん現代では、理工系の本の場合は特に、 実際に活字を拾つて組版を作ることはほとんどないので、 単に言葉に残つてゐるだけでせうが。

今日も色々なものを捨ててみた。 単調減少してゐるはずだが、、、今のところ、 変化はほとんどネグリジブルのやうだ。


2003/07/18 (Fri.) 直筆

午前は校正。 昼食は玉葱と卵の炒めもの、豆腐と若布の味噌汁。 午後は少し校正をして、 京大での関西確率論セミナーに行く。 H 大の F 田先生の講演。 F 田先生とは全く面識がないのだが、 妙に懐しい気がするなあと不思議に思つてゐたら、 後でその理由に思ひあたつた。 私は院生時代に嫌と言ふほど、 F 田先生の手書きの某解説書を読んだので、 板書の字が懐しかつたのである。 昔はまだ TeX が今ほど一般的でなかつたので、 手書きのノートをそのままコピーして製本したなんてものが結構あつた。 夕食に、水餃子を香酢で食す。夜も校正。

ちなみに、私が今も所有してゐるその本は、 その F 田先生の他にも、全て本人の手書きで、 ラプラシアンの幾何の S 田先生による確率論入門、 K 大の S 川先生の多様体上の確率解析入門、 W 辺先生の Malliavin 解析入門と応用、 K 岡先生による Bismut 流の基本解の漸近展開理論の解説が 一冊にまとまつてゐると言ふ、信じ難いほどの超豪華本である。 私がたまにこの話をすると、「そんな本があるなんて」 と驚かれることが多いので、あまり知られてゐないやうである。


2003/07/19 (Sat.) 先輩と後輩の会話

R 大学の暦では今日は火曜日なので、粛々と出勤。 個研でおむすびと胡瓜の漬物、半熟卵のお弁当を食べ、 12 時半から「確率過程特論」。最終講義試験。 続いて、「計算機数学続論」。これも最終講義試験。

「計算機数学続論」で、 「RSA 系による公開鍵暗号システムとは何か、 (初歩の代数しか知らない後輩に質問されたつもりで) 簡潔に説明して下さい」と言ふ感じの問題を出したのだが、 今回もまた、笑はせてくれる回答があつた。 その答案に曰く、 『「A先輩、質問があるんですけど」「ああ、なんだね、B 君」 「RSA つてなんですか」「なんだね、B 君、やぶからぼうに」…』 つて、さう言ふ意味じやないだろっ。 しかもその答案のオチは、「A先輩」曰く、 「うーん、そこは代数の知識を使へば何とでもなるんだよ。 K 川先生の講義を取ることが必要だね。それに確率論も勉強した方がいいぞ」 つて、君ねえ…

これに匹敵する今までの迷答は、 A 堀先生の試験での、 「A は B であることを証明せよ」に対して、 「A は B でないことを示せば十分」から書き出して、 問題を一刀両断にしたものや、 私の試験での、同じく 「X は Y であることを証明せよ」に対して、 「X を Y とおく」から書き出して、 Y 自身からつひには Y を導けなかつたものなどである。 毎セメスタ、新たな迷答コレクションが集まつて楽しい。


2003/07/20 (Sun.) 蘭、竹、梅、菊

昨夜は執事とチェスなど。 20分プラス一手10秒、黒番、クローズド・シシリアン。 執事はどちらかと言ふと閉じた盤面を好むので、 滅多にシシリアン c5 ポーンを d4 と交換しない。 エンドゲームに至つて持ち時間の面で優位に立つたので、 勝つには勝つたが、執事もかなり腕を上げて来てゐるやうだ。 お互ひに安直かつタクティカルなプランは事前に防御されてしまふので、 ゲーム内容が深くなつて来てゐるやうに思ふ。

鴨と葱の冷やし蕎麦を作つて食べ、 午後は近所の着物屋「四君子」の蔵を見に行く。 店舗の座敷の方に飾つてあつた黒羽織が格好良いなあ、 と思つたのだが、結構なお値段だつたので、 もちろん購入するはずもなく退散。 あれが古着で安ければ、買ふところなのだが… 夕食は祇園の「まんざら」。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。