九月になると急にあれこれと雑務が降つて湧いて来て、 もう気分は新學期としたものである。 そんなわけで夏休み最後の休日と言ふやうな心持ちで、 地方に古書の買ひ付けに行つて来た。 私の第三の職業、 則ち古書店主人を目指し着々と準備中である。
もう一日くらい休んで旅の疲れをとり、 さて、また慌ただしい日々に戻らうか。
昨日の冷や御飯で梅おかかとちりめんじやこのおむすびを作つて出勤。 研究室でお弁当の昼食をとつて、 来年の数理ファイナンスシンポジウムの開催準備ミーティング。 その後は事務用など。
ミーティングのあと W 先生から、 「数学の質問があるんですが、ちよつと聞いていただけますか?」 と言はれ、 「ももももちろんですよ、どうぞどうぞ」 とホワイトボードの前でお話をうかがふ。 なかなか難しさうな評価の問題だつたが、 「はあ」「なるほど」「そこは難しさうです」 「はあ、そうしますか」「なるほどなるほど」「ははあ」 と、私がほとんど無意味な合ひの手を入れてゐる間に、 先生は自分の質問に自分で次々と回答され、 どんどん計算したあげく、ほとんど解決してゐる模様だつた。
夕食は乾麺の饂飩を茹でて、 生卵と生姜と葱を載せ生醤油をかけて食す。
昼食は冷やし饂飩、夕食は鷄の砂肝と野菜の炒めものと冷や奴。
最近、IT インフラ屋を辞めて現スパム屋と言ふ噂もある N 氏から、
1 ダイムが郵送で届く。義理固い男よ…
最近、執事が副業の勤め先でする話のテーマは何故か、 「住宅ローン」と「キャバクラ」らしい。 それはともかく、昨日執事と雑談してゐると、 家をローンで買ふのは、 月々の支払ひを家賃だと思へば借家住まひと同じであり、 数十年後にさらに家が手元に残つてゐるからトクなのだ、 と言ふ巷間の俗説を述べるので、少し時間を取り議論をする。
二つの行為の条件を出来るだけ同じにするため、 全く同じ条件の住宅がいくつか並んでゐるとせよ。 私はその住宅 A を借りて住み、 私と同じだけ豊かな貴方はその隣りの同じ条件の住宅 B を買ふ。 まだ優劣を比較し難いので、 次のやうなトリックを用ひる。 貴方はその住宅 B を他人に貸し、 一方でその隣りの(同じ条件の)住宅 C を借りて住む。 これらの住宅 A, B, C は全て同じ条件なので、 家賃は全て等しい。 したがって、貴方の家賃収入と支払ひ家賃は相殺する。 つまり、住宅 B を買つてそこに住むのと、 見かけが違ふだけで本質的に同じである。 しかしこれで、私と貴方は同じ借家住まひをすることになつたので、 優劣を比較し易くなつた。
つまり、他の状況は全く同じであるもとで、
貴方は住宅と言ふ不動産に新たに投資したのである。
もしローンで買ふなら、借金をして不動産投資したのである。
一方、私は始め貴方と同じ資産を持つてゐたから、
同価値を現金などの他の形で持ち投資を保留してゐると考へられる。
このこと自体、どちらが良くも悪くもない。
不動産投資が良いかだうかは状況によるし、
理論的にはリスクが異なる投資があるだけで、
特に有利な投資先は存在しない。
私は自由度がある分、借家住まひの方が良いと思ふが、
執事が言ふには、上の議論は「人間の弱さ」を考慮に入れてゐない、
家を買ふとその支払ひのために頑張るのだが、
同じ資金を持つてゐるだけでは浪費してしまふものだ、
と言ふ。では、毎月給与天引きで投資信託を買ふ、
または単に定期預金すれば良いのではないか?
また、家を持つと言ふこと自体に精神的な価値があるとも言ふ。
理解できないでもないが、それはつまり幻想の価値なので、
私には議論できない。
ゆつくり休日を過さうと寝床から起きてきて、 珈琲を淹れて居間でノート PC を開くと、 五百通ほどの大型メイルが来てゐて憂鬱になる。 狙ひ打ちのスパムかと思つたが、 どうも学内のどこかの MS 製品がウィルス感染して、 アドレス帳に載つてゐる宛先に大量に ウィルス添付メイルを送りつけてゐる模様。 差出人のアドレスも勝手に挿入するので、 感染者のアドレス帳の中身が大体分かる。 交遊関係だとか、 例へば、大津シネマの会員だとか(笑) おそらく数理内部の学生だらう。 自宅の PC はフィルターの検疫を完全自動に切り替へ、 大学のネットワークに ssh で入り、 一夜で大量に溜つてゐるメイルを削除したり、 対応に午前中を費す。その間にも、止めどなく届くウィルス添付メイル。 感染者の PC のプラグを勝手に引き抜いてやりたい。 早く感染に気付いてもらいたいものだ…
暦では白露らしい。 私はほとんど外出しないので、あまり分からないが、 関西は残暑が厳しいやうだ。 最近は大体、九時に起き、珈琲を飲み、 十時から十二時まで仕事をして昼食をとり、 午後二時から休憩を入れながら気分が続く限り仕事をする。 夜は数学以外で、自分のしたいことをしてゐる。 こんな呑気な生活もあと一週間ほどである。
J.A.Paulos の "A Mathematician Plays the Stock Market" を読んでゐる。 パウロスは数学者で、 一般向けの面白い数学の本も書ける才人だが、 この本はパウロス自身が World Com の株で大損したことを巡つて、 株式市場の経済学と数学、特に確率論などについて書いたもので、 なかなか面白い。 数学者だつて相場を張るし、パウロスのやうに深く確率論を知り、 最新の市場経済学の理論を完全に理解してゐる才人でも、 人間の不可思議で弱い心は木の葉のやうに市場に持て遊ばれる。 興味深い本である。翻訳が出れば良いのだが。
深夜、夢現に激しい雷雨の音を聞いたやうに思つたが、 やはり目が覚めても午前中は驟雨の風情であつた。 昼食はトマトソースの茄子のパスタ。 午後になつて雨は上がり、 少しはしのぎ易くなつたのではないかと思ひ、 郵便局と丸善に用事を片付けに行く。 丸善では所用の次いでにイヴリン・ウォーの小説、 「ブライズヘッド再び」("Brideshead revisited") と「一握の塵」("A Handful of dust")を買つて帰宅。 ペンギン版の裏カヴァー解説によると、 「ブライズヘッド再び」はジェレミー・アイアンズと アンソニー・アンドリュース主演でテレビドラマ化され、 当地ではかなりの評判になつたらしい。 観てみたいが、ヴィデオや DVD になつてゐるのだらうか(情報求ム。)
ところでやはり、 少しはしのぎ易いだらうなどと思つたのは大間違ひで、 この蒸し暑さと来たら、 熱帯植物用の温室かと思ふほどであつた。
この日記は、GNSを使用して作成されています。