Keisuke Hara - [Diary]
2003/10版 その1

[前日へ続く]

2003/10/01 (Wed.) 人間ロビンソン

生協書籍部で注文してゐた、 「ロビンソン・クルーソー (上・下)」 (デフォー作/平井正穂訳/岩波文庫)を受けとる。 午後は、「プログラミング演習」。 部屋に行つてみると鍵がかかつてゐて、 慌ててカードを取りに研究室に走つて戻る。 今日は第一回なので、演習の内容のイントロダクションと、 タッチタイプの正しい方法。 続いて、教室会議。やはり会議は疲れる。 教室会議も代議員制に出来ないだらうか。 会議室で、 K 大から移籍された O 川先生に今期になつて始めて会ふ。 これで R 大に在籍する確率論の専門家は五人になる。 特任教授なども入れた勘定だが、 かなり珍しい充実ぶりである。 ただ、この布陣は長続きしないので、 この厚みがある内に仕掛けて行く必要があるだらう… と、戦略と野望の男 A 堀は考えてゐると思ひます(笑)

鴎外が「ロビンソン・クルーソー」に影響を受け、 一方、漱石は駄作と毛嫌いしたことは有名である。 二人は色々な面で対照的なので、 自分がどちらのタイプなのか、と考えてみることは面白い。 私自身はどちらにも激しく共感することがあり、 未だにどちらがより親しいのか分からない。


2003/10/02 (Thurs.) 鯵フライ

朝は「確率論」。 初等的確率論からコルモゴロフの公理系へ。 二十分の休憩中に生協食堂で、 鯵フライの昼食を取る。 続いて数理ファイナンス国際シンポジウム準備ミーティング。 続いて、「積分論 II」。 Lp 空間の定義と基本的な不等式、 Lp 空間の完備性の証明。

久しぶりに一日に二つ講義をしたら、 自宅に戻るなり文字通り、ぶつ倒れた。 少し横になるつもりが、 気付いたら三時間弱も眠つたままであつた。 立つて聲を出し板書をしながらの講義は重労働である。 数学の講義では、 一時間半の講義中ほとんど休みなく大量に板書するし、 発声がまた労働だ。 二週目からは大丈夫だと思ふが…


2003/10/03 (Fri.) アロイシアス

九時起床。身体が重い。 平常のスケジュールでは何か仕事をする所なのだが、 どうしても気分が乗らず、 午前中は洗濯機を回しながら、 「ブライヅヘッドふたたび」を読む。 今期は金曜の午前を休みにあてた方が良いかもしれない… 昼食は、ベーコンエッグ、漬物、大根と油揚の味噌汁。 午後は小一時間ほどチェロの練習をしてから、 京大での関西確率論セミナへ。 集団遺伝学がらみの一次元拡散過程の漸近挙動の話。

そろそろ使ひ切らなければいけない作りおきのトマトソースがあつたので、 玉葱を炒めて手抜きのハヤシライスを作つて夕食にする。 ケチャップ味にしては、まあまあの感じ。 定番レシピに加へやう。


2003/10/04 (Sat.) 個性とデータベース

九時起床。 珈琲を飲んで、午前中はチェロの練習。 カルボナーラの簡単な昼食をとり、 午後は膳所にチェロのレッスンに行く。 スケール、エチュード、 マルチェロのチェロ・ソナタ三番など。 レッスンの後、 SBUX で珈琲とマドレーヌを注文し、しばらく読書して帰宅。 夕食は野菜炒め、キムチ、若布の味噌汁。

SBUX のカードは、 Web サイト で使用履歴(店舗と購入商品)や残高が調べられて便利。 企業としてはこのデータベースで、 本気で分析してゐるんだらうなあ。 コンビニエンス・ストアのやうにレジスタでデータを集めて、 各店舗への商品配送などの最適化をすることは一般的になつてゐるが、 さらに一人一人を区別した消費動向のデータが取れるところが、 このタイプのカード導入の味噌である。

大衆から分衆へ、なんて言ふキーワードが昔は言はれて、 消費社会が成熟すると究極的に、 商取引は各個人へのテイラーメイドなものにまで微細分解し、 実際にデータベースの情報基盤がそれを可能にする、と予想する向きもあつた。 今もさう考へてゐる人もゐるかも知れない。 しかし、私はそれは疑はしいと思ふ。 私は「個性」と言ふ概念自体かなり怪しいと思ふし、 医薬品を除くほとんどの商品は高々数個のパラメータで、 「個性」の幻想を演出することができるとも思ふ。 医薬品すら(DNA 自体は個別であるが)、 さうではないとは言い切れない。 いずれ大企業のデータベース分析の進歩が、 逆にそのことを明らかにしてしまふだらう。


2003/10/05 (Sun.) 三段のお弁当

午前九時起床。 昼食は納豆、生卵、漬物、豆腐と若布の味噌汁。 午後は TV ドラマを見たり、 買ひ出しに行つたり、書庫の整理をしたり、 と何でもなく普通の休日。 夕食は牛肉の少しの余りを使つて、 オリーブオイルで炒めた大蒜、玉葱と赤ワインとでソースを作り、 適当なパスタにして食す。

書庫の本棚に入りきらなくなつた本を、 また部屋の外の廊下や階段に移した。 書庫と LDK 以外に本棚はないので、 やむなくピラミッド方式、つまり単に積んである。 近い内にまた本棚を買ふ必要があるだらう。 ところで、新たな作戦を思ひついた。 寝室のベッドを部屋の中央に動かせば一面壁が空くので、 そこに本棚をさらに二つか三つは置ける。

広島の J さんから宅急便。 ベトナムでのバカンスのお土産として、 漆塗りの重箱をいただきました。多謝。 重箱なんておせち料理の時くらいしか使はないものだが、 たまに余程暇なときには、 三段弁当を作つてみるかな…


2003/10/06 (Mon.) 体調悪し

朝、起きたら、左目がちやんと開かず。鏡で見ると、 ものもらひだか、吹出物だかで瞼が腫れてゐる。 顔にも吹出物ができ、身体も重く、 体調の不良がありありと分かる。 新學期のストレスであらうか、それとも、 最近、普段は滅多に食べつけない牛肉などと言ふ、 野蛮なものを口にしたからであらうか。

生協食堂で昼食をとつて、 午後は私のゼミを希望した二名の学生と卒研の打ち合はせ。 後期から確率論関係の卒研は仕切り直し。 と言ふのも、A 堀先生がパリより帰国し、 さらに O 川先生が赴任されたためである。 結局私の卒研は一つだけになりさうで (それが普通なのだが)、 かなり日常業務がスリム化されさうだ。 前期が大変だつたので嬉しい。 三十五歳の目標は無駄の削減。

その後、もう用事もなく、体調も悪いので、 図書館で論文をコピーして、さつさと帰ることにする。 この前、シンポジウムで講演したときに、 K 大の S 君から、関係ありさうな凄く面白い論文がある、 と教へてもらつたもの。 シェーンベルグとか言ふ作曲家みたいな名前の人の、 半世紀くらい前の論文である。 私と S 君とはやつてゐることは違ふのだが、 何故かどこかしら似た計算をすることが多く、 時にこのやうな情報を教へてもらへる。 少し眺めてみると確かに凄く面白さうで、 これはフォローせねばなるまい。

往路の車内では清らかに「ブライヅヘッドふたたび」を読み、 復路の車内では世俗臭く「わが経営」 (J.ウェルチ/J.A.バーン著、宮本喜一訳)を読む。 二十世紀最高の CEO ともなると、 アメリカ流の苛酷な効率化追及とレイオフの嵐にも、 それなりの説得力があるやうだし、 GE のやうな封建的かつ官僚的な超巨大組織でそれをやつてのけたところが偉い。 夕方、帰宅して、夕食の下準備だけをしてから、 風呂に入り、少し仮眠。 夕食は納豆、漬物などと、キャベツの味噌汁。 良いキャベツは、 味噌汁やスープなどの汁物に使ふと美味しい。


2003/10/07 (Tues.) リズム

午後はあれこれと事務用をし、 M2 の院生と打ち合はせ、続いて M1 のゼミ。 疑似乱数とハッシュ関数の基本的なところ。 早めに帰宅して、夕食まで講義の準備。 毎日について行くのに一杯一杯で、 まだ自分の仕事のリズムが掴めない。 プレプリントも中途半端な感じで放つてあるし、 新學期開始以来したことと言へば、 論文を一つコピーしただけである。

ノーベル物理学賞は超伝導と超流動の基本理論のあたりの三人だが、 これつて随分と昔の話のやうに思ふのだが…半世紀くらい前? それだけエスタブリッシュに時間がかかると言ふことなのか、 ノーベル賞はそんなタイプの賞だと言ふことなのか、 鮮度の良いネタがないと言ふことなのか。 ところでノーベルは、 自分が発明したダイナマイトが戦争に使はれる結果、 そのあまりの強力さのため逆に戦争はなくなるだらう、 と本気で思つてゐたさうだ。


2003/10/08 (Wed.) 黄昏

いろいろ事務用をして、 午後は「プログラミング演習」。 その後、物理の Y 君が研究室にやつてきて、 後期は解散の予定であつた Dym-McKean ゼミを続けたいと言ふので、 来週からマンツーマンで再開の予定。

車内で「ブライヅヘッドふたたび」を読みつつ帰宅。 華麗で同時に薄暗く静かな回想のムードが美しい小説だが、 それとは別に、何とも言えぬ、微妙ぅーーーな底意地の悪さの表現が、 とても面白い。 ウォーの他の作品のやうに顕にブラックユーモアです、 と言ふ感じではないが、やはりそこがウォーらしさであらう。 世間が京都の人に対して思つてゐるやうなタイプの意地の悪さを、 さらに曖昧微妙かつ繊細にした感じでせうか。 夕食はオリジナル納豆豆腐パスタ。


2003/10/09 (Thurs.) ポトフと財務諸表

朝は「確率論」。 Kolmogorov の定義による確率空間、 定義からすぐわかる性質など。 午後は「積分論II」、 本質的有界な関数のなす空間、その Lp 空間との関係。 やはり木曜の夕方にはふらふら… 早目に帰宅して、 夕食は癒しを求めて家の近所のバーで。雛鳥のポトフなど。 一人で飲みながら色々と考へたのだが、 やはり今期は土日を自分の研究や仕事にあてるしかないなあ…

夜は某企業の 10-K の財務諸表を読んで、 少しばかりナンバークランチ。


2003/10/10 (Fri.) 甘藍

何故か早起きしてしまふ。寝床でしばらく読書。 午前中は少し雑務をして、 昼食はだし巻き卵、漬物、キャベツの味噌汁。 キャベツの味噌汁に凝つてます。 ザクッと大きく切り取つた形がそのままお碗に盛れるくらい、 あまり煮ないのがコツではないかな。 しかし、洋風のキャベツのスープ類では、 じつくり煮たものが美味しかつたりもするし、 研究の余地があると見た。 やはり疲れてゐるやうなので、食後、寝台に少し横にならうと思つたら、 次に意識が戻つたのは夕方だつた…失敗。

キャベツは漢字で「甘藍」と書くけれど、 そう書くと急に雰囲気が変わるやうなのは何故。 キャベツの優しい甘さや、 金色のコンソメとともに盛られた透明な緑色のドーム、 などと言つたイメージが浮かんで、 好きな単語ではある。


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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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