Keisuke Hara - [Diary]
2003/09版 その3

[前日へ続く]

2003/09/21 (Sun.) 七年区切り説

出張の疲れが残つてまだ立ち直れない。 午睡などで身体を休ませる一日。 ところで、出張中のことで御礼が遅れましたが、 誕生日のお祝ひを下さつた方々、ありがとうございました。

私は人生を七年区切りで考えるやうにしてゐるので、 今回が一つの節目と言ふことになる。 子供の頃には未知数であつたものが、 二十歳過ぎからの七年で、 少なくともこれくらいのことは出来るだらう、 と下からのエスティメイトが出て、 その次の七年では悲しいことに、 どう頑張つても、どう幸運でも、ここまでは到達しないだらう、 と言ふ上からのエスティメイトが自分で分かつてしまふ。 これからの七年はその上界にどれだけ漸近できるかが問題であり、 そのためには如何に無駄を削り、最適化してゆくか、 がテーマであるな、と出張先のホテルなどで考えてゐました。

母からの手紙を読んでゐて思ひ出したのだが、 私が子供の頃、母はよく、 御前は何になつてもさして偉くはなれまい、 なぜなら、競争心が無さ過ぎる、と言つてゐた。 確かにその通りで、私は子供の時分から、 頑張るとか一所懸命と言ふことが下品なことのやうに思ひ、 格好悪いことだと嫌つてゐた。 性分なのであらう。実際に、今でもその偏見が拭へない。 もつと頑張つてゐたら…と思はないでもないが、 今となつてはもう仕方がない。 せめて、これからの最適化に努めやう。


2003/09/22 (Mon.) デフレの町

京都は急に涼しくなつた。 先週までは、いつになつたら25度以下の夜が訪れるのか、 と思つてゐたのだが。 自宅の清貧の食卓にて、 新内閣の発表を確認してから出勤。 新學期に向けて色々と準備の雑務。 夕食も、大根の味噌汁、納豆に漬物、と粗食。

近所のコンビニエンスストアが九月末で撤退とのこと。 自宅の真裏にあつたコンビニエンスストアも既に撤退したし、 駅までの途中にあるマンション一階の店舗も最近撤退した。 近所の商店街もさびれ放題である。 駅前で目立つのは消費者金融だけで、 これは何十軒あるのか分からないほどある。 有難いことに、物価はとても低い。 私はこの町を中京区デフレ町と呼んでゐる…


2003/09/23 (Tues.) 第三の原理

秋分の日で休日。まだ出張の疲れが取れない。 今日も涼しい、と言ふより、寒い。 昼食はオクラのパスタ。夕食は冷奴、糠漬、大根の味噌汁、 伊丹流ねこまんま。そろそろ大根が美味しいなあ。

この週末からは新學期が始まるので、 そろそろ講義の準備をしなければならない。 今期は易しい確率論、ルベーグ積分論の応用編、プログラミング演習。 易しい確率論の講義は初めて持つので、色々と思案中。 現代的なコルモゴロフ流の設定をいきなりやるかどうかが、 常に問題になるところではある。 その後は、必要な準備を色々やつて、 大数の法則、中心極限定理、と言ふ定番コースだらうか。 出来れば目玉として、大偏差原理 (Large Deviation Principle) の簡単な紹介をしたい。 その理論応用の両面での重要性や普遍性からして、 一番簡単なところだけでも、 そろそろ確率論の入門コースに組み込んでも良いやうに思ふ。

そういや、来週はシンポジウムの講演があるのだつた。 その準備もしないと。


2003/09/24 (Wed.) 秋雨

京都は一日、雨。 距離を置くためにしばらく放置してあつたプレプリントを読み直す。 ほんの二週間ほど前のものなのに、 その時には分かり切つてゐて省略したことが分からない。 アルジャーノン・ゴードン効果だらうか。 夕食後は確率論の講義の内容の思案をしたり、 チェロを弾いたり。通常の練習メニュのあと、 久しぶりに「G 線上のアリア」をさらつてみた。 全然、弾けなくなつてゐた。


2003/09/25 (Thurs.) 後片付けまでが料理です

京都は終日、雨。一日、自宅であれこれと作業。 昼食は納豆、漬物各種、大根と豆腐の味噌汁。 夕食はキムチ炒飯。 出張中に執事がキッチンをぴかぴかに掃除してくれたやうで、 以来、毎料理の後は出来るだけ早く元の状態に戻すやうにしてゐる。

お気付きのことと思ひますが、 既にほぼ毎日更新の通常ペースに戻つてゐます。 いよいよ明日から新學期。


2003/09/26 (Fri.) 虫干し/CD-ROM/ウィトゲンシュタイン

空気の乾いた良い天気だつたので、 朝は少し仕事をしたあと、書庫に風を通す。 本の天に積もつた埃を払ひ、簡単に掃除。 書物の保全において風入れや虫干しはとても大事である。 正倉院だつてさうしてゐる。

それで思ひ出したが、私が子供の頃には、 正倉院の壁が独特の木材の組み方をしてあつて、 それが湿度に応じて自動的に隙間を調整するものだから、 大昔のものがきちんと保存されてゐるのだ、 と教科書に載つてゐたと思ふ。 しかし、それは間違ひであることが今は分かつてゐる。 実際、壁は湿度が変わつてもさほど伸縮もしないし、 伸縮したところで内部の湿度は調整されない。 正倉院の保存の決め手は、物品が「箱に納められてゐる」 ことであつた。 大人になつてそれを知つたときには、 考古学なんだか歴史学だかは、 仮説を立てたら調査も実験もしないで事実としてまかり通つてしまひ、 教科書にまで載つてしまふ、 なんと学問からほど遠い似非学問なのだらう、と思つたものである。 今でも遺跡の発掘なんてどこまで本当なのやら、怪しいものだと思つてゐる。 偏見だとは思ふが、ホントのところはどうなんでせうね?

パスタを茹でて昼食をとり、午後から出勤。 パリ帰りの A 堀先生に挨拶。 Guerande の塩をお土産にもらつた。多謝。 しばらく数学の話をする。 図書館で衣笠から取り寄せを頼んでゐた 「ブライヅヘッドふたたび」(イーヴリン・ウォー/吉田健一訳/ちくま文庫) を受け取り、 生協で教科書を買ふために大行列を作つてゐる学生たちに混じつて、 「ウィトゲンシュタインはこう考えた ― 哲学的思考の全軌跡1912-1951」(鬼界彰夫/講談社現代新書)を買ふ。 ウィトゲンシュタインの遺稿(*1)の全てが、 容易に比較参照して読めるやうになつたのは、 ようやく 2000 年になつてだつたのだねえ… (ベルゲン大学とオックスフォード大学出版局の、 CD-ROM での遺稿完全版の出版による) ウィトゲンシュタインの研究は、 まさにこれから、と言ふことであらうか。 その辺りのことは高槻の T 部長に今度、聞いておかう。

*1: ウィトゲンシュタインの仕事はほぼ全てが遺稿。 事実、生前に出版されたのは「論理哲学論考」一冊のみ。


2003/09/27 (Sat.) コーヒーカップ

今日も爽やかな秋晴れ。 例年よりはまだ少し気温が高いかも知れない。 洗濯、掃除などの家事、講演の準備。 昼食はアラビアータ、 夕食は漬物、生卵、大根と豆腐の味噌汁。

終に、コーヒーカップの二代目を購入する。 随分と前に、大切にしてゐたものを割つてしまひ (昨年の三月十七日)、 同じものを買ふのも癪に障るし、 また良いものが見つかつたら買ふことにしやう、 などと思ひながら一年半の間、ありあはせで済ませてゐた。 しかし、結局、やはりと言ふべきか、 同じものを買つてしまつた。 今度、ソーサーの方を割つてしまつても、 スペアがある、と言ふ利点があるけど(笑)


2003/09/28 (Sun.) 今年のテーマ

午前中は講義ノート作成。午後は講演の OHP シート作成。

明日、明後日はシンポジウムに参加するので、 実質的には水曜日から私の新學期が始まる。 毎學期、始めのうちは、なかなか日々の生活のリズムがつかめない。 早くペースが作れると良いのだが。 余裕があればの話ではあるが、 前期の Malliavin 解析に続いて、 後期は rough path 理論の勉強をしたい。


2003/09/29 (Mon.) 板書

トマトソースのパスタの昼食を取つて、 午後から京大でのシンポジウムに参加。 明日は自分の講演があるので、夜の懇親会はパス。 今日の発表は全員、板書であつた。 OHP シートを作つたけど、私も板書にするかなあ。

数学の講演については、 聴く方としては板書が一番理解し易い。 おそらく講演者の思考のスピードに付いて行き易いからだらう。 話す方としては、 書きながら同時にしやべるのが難しいし、 書くスピードの遅さがもどかしい。


2003/09/30 (Tues.) 講演

京大での確率解析シンポジウム二日目。 久しぶりに K 大の S 君に会つた。 午後の最後が私の講演。相変わらず、冴えない講演であつた。 何故か、R 大の学生が何人か来てゐたが、 シンポジウムの講演と言ふのは、 厳しい質問を受けて立往生したりで、あまり格好の良いものではない。 自分の学生の前での講演はどうにもやり難かつた。 その後、W 先生がショートコミュニケーションで、 最近の新しい研究のお話をされてゐた。やはり偉いなあ。 終了後、S 君と RIMS の T 師匠の部屋を訪ね、 しばらく数学の議論をして帰宅。

明日は今期最初の講義と教室会議。


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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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