Keisuke Hara - [Diary]
2003/10版 その2

[前日へ続く]

2003/10/11 (Sat.) 殺那の餃子

午前中は講義の準備。 簡単なパスタの昼食をとつて、午後も少し講義準備の続き。 夕方から買ひ出し。 鰹節と珈琲豆が切れてゐたので。その他、食材など。 夕食は餃子。餡はキャベツと韮と豚肉。 もちろん小麦粉から皮を作るのである。 二度に分けて、茹であがつたら即、香酢で食す。白ワインを二杯。

手際良くやつても餃子を作るのに一時間くらいはかかるのだが、 食べるのはあつと言ふ間で、少し切ないのは事実である。 しかし、 噛むと皮の中に凝縮されてゐた野菜の香りと肉汁が口の中に溢れ出す餃子は、 他に替へ難い調理法であつて、 これも料理のダンディズムと諦めるべきであらう…


2003/10/12 (Sun.) 日銀とベートーヴェン

十時起床。 今日の京都は変な感じに蒸し暑い。 昼食は肉豆腐など。 午後は京都文化博物館にコンサートに行く。 ベートーヴェンの室内楽の特集。 奏者に失礼かもしれないが、 丁度読みかけの小説があつたので、 生演奏を BGM に読書をした。 あひかはらずソプラノのお嬢さんが美しくて、 保養になつたことであつた。 旧日本銀行京都支店のロビィで、 室内楽の演奏と美女の歌声を聴きつつ読書をする、 結構な休日である。 夕食は、冷や御飯で適当に韮玉丼。 貧しさ故に、食事に生活感が溢れるのが難点…


2003/10/13 (Mon.) かしこ

休日。やはり休日は休日でありたいものである。 R 大では、月曜休日に無理に開講することはやめて、 土曜日に振り替えることになつた (ただし、天皇誕生日を除く)。

昼食に冷蔵庫のあまりもので適当なパスタを作つて食べ、 午後は紙類の整理など。 まだダンボール箱に入つてゐた書類を本棚に縦に並べ、 また大量に手紙、書簡類を処分する。 かう言ふときにはつい、 昔もらつた手紙などを読み返したりして時間を潰してしまふものだ。 京都に移つて以来、すつかりカタギの勤め人になつて、 随分と散文的かつ無機質な生活をしてゐるが、 昔は色々と雅やかであつたなあ、と、 毛筆で書かれた流麗な手紙などを読み返しつつ、思つたり。 E-mail が行き渡つたこともあるだらうが、 ここ数年、両親を除けば私用で手紙なんか貰つたことないものなあ。 「かしこ」なんて、久しぶりに見た単語つて気がするくらいだ。

どんどん捨てて、その後、片付けたり、掃除器をかけたり。 その最中、思ひがけない所に年金手帳発見(笑)。


2003/10/14 (Tues.) 赤と白

午後は卒研案内から。 続いて、M1 のゼミ、M2 の打ち合はせ。 夜は南草津で O 川先生の歓迎会、及び、A 堀先生の無事帰国を祝ふ会。 二次会にも出て 11 時過ぎに帰宅。

フランスと言へばワイン、と言ふわけでもないのだが、 この宴会の席で、 私が「目隠しをしてのテイスティングでは、 赤ワインと白ワインを区別するのも難しい」 と発言したところ、誰も信じてくれなかつた。 事実なのだが… J.ロビンソンのワイン・テイスティングの教科書にも、 最初の実験として挙げられてゐて、 「至難の技」であるとさへ、書かれてゐるのである。 例へば、モーゼルのやうな甘い白、フルボディの赤と言つた、 普段ははつきり自明だとさへ思ふものでも、 目隠しのテイスティングではなかなか自信を持てないし、 個性の近いものや、両方安物のテーブルワインだつたりする場合には、 その飲み分けはまさに至難を極めるのである。 私は実際に条件を揃へて自分で実験したことがあるが、 「当たる確率が少々、高い」程度だつた。


2003/10/15 (Wed.) 評価

昼食は、清し汁を作つて、 昨夜の宴会の余りものの海苔巻を食す。 午後は「プログラミング演習」。 続いて、教室会議。大きな議題が重なつて、 終わつたのは 8 時。帰宅は 9 時半。 カルボナーラを作つて遅い夕食。 良い生ハムを使つたので上出来。 デザートにチョコレートと珈琲。

R 大の中でもしばらく前から、 教員の「評価」をしやうと言ふ動きがあるやうで、 私個人としては、それもよろしいのではないかな、 と言ふ程度には賛成である。もちろん、研究、教育、行政(?)、 などの活動をどう評価し、それをどう反映するか、 は難しい問題で、どうやつてもうまくはないのだが、 スーパーフラットな制度よりは健全ではあると思ふ。 「あなたは全く役職を(あるいは研究を)やつてませんね、 だから、給料は安いです」は、逆に言へば、 「私は学内政治(あるいは研究)をしたくありません。 (または、出来ません。)だから、給料は安くてもいいです」 でもあるだらう。 それに対して、大学が、 「じゃ、あなたは要りません。出てつて下さい」とも言ふだらうし、 逆に職員が、 「じゃ、私はここにゐたくないです。出て行きます」とも言ふだらう。

そもそも、我々、研究者は評価されることには慣れてゐる。 年齢も、性別も、地位も無関係に、 しかも極めてシビアに、評価され続けてゐるのである。 給料が少々、下がるのなんて大したことではないが、 「おまへは三流以下の研究者である」とか、 「おまへの論文は紙くずである」とか、 「おまへは既に(研究者としては)死んでゐる」などと、 誰にも思はれ、しかも、それがずつと保存され、 しかもしかも、それが自分自身にもはつきりと身にしみて分かり、 それから逃れやうもない、それが研究者である。 その覚悟を引き受けて、初めて研究者になるのである。 さう思へば、 今さら大学の経営者に評価されるのなんて、なんでもない。 評価が覆い隠されることによつて逆選択が働くほどなら、 学内でどんどん評価してくれていい、と私は思ふ。


2003/10/16 (Thurs.) 木曜日の彼岸

午前中は「確率論」。確率変数、分布など。 20分の間に生協で慌たただしく昼食をとり、 続いて、ファイナンス・シンポジウム準備ミーティング。 続いて、午後の講義「積分論II」。ヒルベルト空間。 続いて、物理の Y 君の自主ゼミ。Dym-McKean の続き。 ふらふらしながら帰宅。 車中の読書はニーチェ「善悪の彼岸」。

生協で注文してゐたイーヴリン・ウォー「一握の塵」を受けとる。 図書館で借りた「ブライヅヘッドふたたび」は読了。 どうもカソリックと言ふものが分からなくて、 そのためこの小説の本質を理解してゐないかも知れないのだが、 それでも素晴しい小説であつた。


2003/10/17 (Fri.) 週末雑感

午前中は講義の準備。 昼食は生ハム入り野菜サラダなど。 執事が花を生けに来てゐたので雑談。
But:「宗教つて随分と儲かるやうですねえ」
Me:「神様は税金を払はなくていいからね」
But:「……いつも辛口の御意見ありがとうございます」
執事はオランダ桔梗と、何だか不思議な格好をした謎の花を生けて、 副業に帰つていつた。 午後は少し寝台に横にならうと思つたら…(以下省略)。 夕食は韮玉丼。韮は安過ぎて、使い切るのが大変。

クロが膝に載つてくるやうになつた。 別に愛があるわけではなく、寒いのである。 京都の厳しい冬が近いらしい。 この前、近所のバーに行つたときには、 シェフがもう歳の暮れですねえ、と言つてゐた。 いくら何でも気が早いと思ふが。


2003/10/18 (Sat.) フランネル

10時起床。昼食は生ハムのパスタ。 午後は掃除、洗濯など。 夜はチェロのレッスンに行く。 サムポジションのスケール、エチュード、 マルチェロのチェロ・ソナタ3番など。

読書、ウォーの「一握の塵」。

奇妙な形の花は「フランネル・フラワー」らしい。 確かに布地のフランネルの雰囲気。


2003/10/19 (Sun.) 言語と機械

ブッシュ息子大統領が、 「シュワルツネガーと私は、 変な言葉をしやべつて笑はれてゐる所が似てゐるね」 と発言したらしい。それを聞くと誰もが、 第二言語を必死に勉強してここまで這い上がつたシュワルツネガーは偉いよな、 しかし、本当にブッシュの息子は底抜けのバカだな… と自然に対比して考へてしまふと思ふのだが、 それは高度な政治的判断による一種の天才的応援なのだらうか。 ところで、今回の訪日では森元首相が迎へてあげた方が、 小粋なジョーク合戦にもなつて、 APEC 前の擬似バカンスにゆるみきつてゐた大統領も、 さらに滞在をエンジョイできたのでは。

九時起床。午前中は二時間ほど自分の勉強。 昼食はベンガルカレー。午後は買ひ出しなど。 夕食は納豆、胡瓜の漬物、 里芋、人参、大根、油揚の味噌汁。


2003/10/20 (Mon.) 片栗の花

八時過ぎ起床。 寝床でしばらく読書し、目覚しに珈琲を飲んで、 午前中はお勉強。 自宅で味噌汁、漬物の簡単な昼食を取つて出勤。 午後は卒研。前期の続き。 卒業アルバム用の撮影にカメラマンが来る。 後期になつてこのゼミは女の子二人だけである。 たまたま三人とも、黒い服を着てゐたので、 葬式の帰りのやうな風情で写真を取る。

R 大の女子学生は、と一般化できないと思ふのだが、 この二人についてはどちらも、非常におつとりしてゐる。 他の学生がゐなくなつて、 ますますスローライフなテンポに、 私はなかなか慣れることができない。 (意外にも)けつして進度が遅いわけでもなく、むしろ速いくらいで、 ちやんと詰めてくるし、問題もやつてくるし、 熱心でさへあるのだが、 何故かゼミ室に漂ふこの、まつたり…とした、 溶かした片栗粉のやうな雰囲気はなんであらう。 これが漫画ならどのコマにも三点符「…」が書いてある感じである。

「待って。それそのまま展開するの?スジワルみたいだけど」
「します…だめですか?…」
「いや、いいんだけどね。じゃ、どんどん展開しよう」
「はい…で、こうなって…また…」
「それもまだ展開するの?」
「します…だめですか?…」
「いや、いいんだけどね、じゃ、どんどん展開しよう」
「で、こうなります…ので…前の定理の、これ、とこれから…示せました」
「正しいけどね、普通はこうするんじゃないの、 展開する前にこことここをまとめて、」(三行ほど板書)「ね?」
「…うわぁ…そうなんだ…」(女子二人、微笑み合ふ)

こんなゼミである。これでいいのだらうか…


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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