Keisuke Hara - [Diary]
2003/12版 その2

[前日へ続く]

2003/12/11 (Thurs.)


2003/12/12 (Fri.)


2003/12/13 (Sat.)


2003/12/14 (Sun.) 人間の土地

伊藤清先生の文化功労者受賞記念の講演会の後、 百万遍の近所で飲んで、深夜 0 時過ぎに帰宅。 最近、人間に冷たくされて、 激しく鳴くクロさんに夕飯を与へて今、日記を書く。 酔つてゐるので、詳しくは明日。


2003/12/15 (Mon.) 山羊とオリーブの木

出張中のニュース。推理作家の都筑道夫氏が亡くなつた。 実際は先月末にハワイで亡くなつてゐたらしいが、 訃報は先週のこと。 先鋭的かつ意識的なモダニストだつたが、 おおむねこの業界は(その方向には)退化してゐるやうな。

金沢での大シンポはいつもの通りの賑ひであつた。 開催地が少し不便な場所なので、 参加者が少ないのではと思つてゐたが、 全日程であはせると 130 人くらいは参加してゐただらうか。 他の分野の出身の方がその人数の多さに驚いてゐた。 しかし、二百人ほどゐなくなれば、 日本の確率論研究はほぼ死滅するわけで、 その意味では非常に少ないやうにも思ふ。 大シンポは確率論のほぼ全体の分野から参加者が集まるので、 院生など若手のデヴューの場所、 うまく行けば登竜門、と言つた役割もあるやうだ。 (私も昔、修士論文の内容を発表して、 コテンパンにやられたものである。) 今回も多くの分野からそんな若手の発表があつて、 なかなか楽しかつた。
ちなみに、金沢では毎日休まず、夜は飲んでました…

金沢から帰京して、土曜日の午後は数理解析研究所での 伊藤清先生の文化功労者受賞記念の講演会。 伊藤先生御自身も参加。お元気さうに見受けられた。 講演では渡辺先生が、 確率論は他の分野の数学をどんどん使つて問題を解くのが面白い、 またそれを他の分野の数学に応用できるのも面白い、 と言ふやうなことを伊藤先生が常々話してゐた、 と思ひ出を話されてゐたのが印象深かつた。 さう言へば、この前飲んでゐるときに、 同僚の整数論の I 先生が、 「最近では、数学の女王は確率論らしい」 と冗談を言つてゐたのを思ひ出した。 (普通は、整数論が、 他のあらゆる数学を道具、召使ひとして使役するので 「女王」と言はれるのである。)

他には佐藤幹夫先生の講演があつたり、 ティーパーティでは広中平祐先生のユーモラスな挨拶があつたり、 と面白い話が色々聞けて楽しい会であつた。 講演会の途中で伊藤先生を囲んでの記念写真の撮影があつた。 人数が多いものだから、それを何回かに分けるのである。
「まず、年配の方ー、前へ集まつて下さい」 「その次の真ん中くらい(笑)、の方ー」
と二回撮つたが、その「真ん中」が実はかなり年配なもので、 「最後に若い方ー」のかけ声で、 私も伊藤先生の周りに集まつたら、 人数が多過ぎてカメラに入り切らない。 じゃあ、さらに 35 歳で分けませう、 と指示が出たのだがそれでも多い。 結局、40 歳以上、と区切り直して撮影し、 最後に 40 歳未満の若者(?)全部と、全体で四回の撮影となつた。 私はこの順番で最後の撮影に含まれたわけだが、 すると日本の確率論業界の「曾孫」 いや「玄孫」の世代と言ふことかな。 夜は百万遍で飲んで帰宅。

確率論は良い意味と悪い意味の両面で、 仲間意識が強い、とか、 他の分野と独立な意識を持つてゐるとか、言はれることが多い。 それは、 歴史的な事情もあつただらうし、 分野自体の独特の雰囲気や性質もあるだらうが、 むしろ主な理由は、 われわれ皆がイトーから出て来たと言ふ、 一種の家族のやうな心情ではないかと思ふ。

たとえば、プロヴァンスの老いたる農夫が、自分の世代の終わりに際して、
自分の持ち分の山羊とオリーヴの木を、息子たちに与えて、彼らもまた彼
らの順番に、彼らの息子の息子たちに分ち与えさせようとする、あのとき
のようなものだ。農夫の家系にあっては、人は半分しか死なぬ。おのおの
の一生は、自分の番が来ると、莢のように割れて、種を伝える。
― 「人間の土地」(サン=テグジュペリ著、堀口大學訳)

2003/12/16 (Tues.) 猫敷き

朝、居間に降りていくと、 ソファの上のクロが見たことのない小さなカーペット状のものを敷いて、 伸び切つてゐる。 なんと猫専用ホットカーペットである。 やけに伸びてゐると思つた。 今のところ私は暖房を一切入れてゐないので、 愛猫家の執事が哀れに思つて差し入れしたのだらう。 良く見ると人間が椅子などで使う 小型のホットカーペットの流用のやうだ。

昼は数理ファイナンス国際シンポジウムの開催準備ミーティング。 少し早く行くと既に A 堀先生が来てゐて、 数理ファイナンスの問題を一つくれた。 これが出来て、A 堀先生の御指導の下、 A 堀=原の論文が出れば、 私も数理ファイナンス業界デヴュー……か?(笑) ミーティングの後は、M2 ゼミ。 まだ見せるものが出来てゐないとのことで、今日は報告のみ。


2003/12/17 (Wed.) 律義な園芸家

九時起床。 珈琲を飲みながら、Amazon でお買ひ物。 凄い本だと言ふ噂の "Garry Kasparov on My Great Predesessors" とその第二巻を買う。 Amazon で余計なものまで色々見てゐたら、 一時間くらい時間をつぶしてしまひ反省。 早目の昼食を作つて食べて、出勤。 生協で、 「美学の逆説」(谷川渥著、ちくま学芸文庫)、 「ナイロビの蜂 (上、下)」 (ジョン・ル・カレ著、加賀山卓朗訳、集英社文庫) を購入。 しかし、薄い文庫一冊が 1500 円つてどういふこと、ちくま学芸文庫。 自分が本を買ひ始めたときの印象を持つせゐなのか、 文庫は 300 円くらいのものかといつまでも思つてしまふ。 「ナイロビの蜂」は傑作との評判で、 ル・カレのファンとして楽しみである。

午後は「プログラミング演習」。 ゼータ関数を自然数に渡る無限和に書いたときと、 素数に渡る無限積に書いたときでは、 近似の意味でどれくらひ違ふかを数値的に研究せよ、 と言ふ問題を最終課題として出す。 演習の後、学生さんの質問に答へてゐたら少し遅れて、 引き続き、教室会議。 会議の席上で、 Williams の校正を A 堀先生から受けとる。 締切は今週中。金曜から出張なので、今日明日でやるのか… 夜の 8 時まで 4 時間以上に渡る殺人会議炸裂。 帰宅は九時半くらひ。


2003/12/18 (Thurs.) 子午線の彼方へ

朝はかなり冷えるやうになつてきた。 通勤のバスで G 先生と一緒になり、 数学の本の翻訳の話などをしつつ出勤。 この時間帯は同僚に会ふことが多いみたいだ。 午前中は「確率論」。 特性関数と分布の収束、中心極限定理。 昼食をとり、 次の講義までの時間は校正作業。 M2 の院生が進捗報告にやつてきて少し相談。 午後の講義は「積分論 II」。 超関数の例、コーシーの主値の話など。 続いて、物理の Y 君の Dym-McKean 自主ゼミ。 実数全体上の二乗可積分関数空間でのフーリエ積分。 校正作業をしながら話を聞く。 今日はツッコミが甘くて申しわけない。 ゼミの後はさらに校正作業。 夕食の休憩を入れて、さらに校正作業。 A 堀先生から周つてきた分は、 なんとか今日中に終わつた。Y 田先生のポストに返却して帰宅。

今、通勤のおともの読書は、 「前日島」(U.エーコ著、藤村昌昭訳、文春文庫)。 なかなか面白いです。 経線の測量と決定つて当時(十七世紀)の大問題だつたんだなあ… 今だと簡単に分かつてしまふので盲点になつてゐるが、 実際にどうやつて決定するかをよくよく考へてみると、 どうやつてみても、 そこに何らかの現代的な科学技術が必要なことが分かる。 ちよつと頭の体操的なパズルとして考へて見て下さい。 どうやつたら、ある場所の経度を知ることができますか?

出張のため、次回の更新は次の日曜日の夜。


2003/12/19 (Fri.)


2003/12/20 (Sat.)


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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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