Keisuke Hara - [Diary]
2004/04版 その2

[前日へ続く]

2004/04/11 (Sun.) 夏も小袖

昨日の京都は今年初の夏日だつたらしいが、 今日もまた温かい一日。 午前中は読書。 昼食は冷や御飯で粗食。 甘藍と卵の炒めもの、九条葱と油揚の味噌汁など。 甘藍の美味しい季節である。 午後はしばらく事務仕事をしてから、 ミクロ経済学の勉強をする。 夕食は、また甘藍を使つてパスタと、 イタリア産の有機栽培白ワイン。

九州方面を旅行中の執事からお土産が宅急便で届いた。 中身は薩摩揚げと福さ屋の辛子明太子。 これでしばらく食卓が豊かになる。 最近は貰ひもののミューズリ(ネットワーク・エンジニア N 氏から)を食べ、 貰ひものの梅酒(梅干し作りが趣味の J さんから)を飲み、 また貰ひものの薩摩揚げと明太子(執事から)を食す、 とお世話になりつぱなしである。 ありがたし。


2004/04/12 (Mon.) ダブル・ダブル

Kuro on a carpet 京都は今日も良い天気。 最高気温 25 度の夏日。 午前中は手紙を書くなど事務仕事。 昼食は明太子、納豆、胡瓜の糠漬、若布と油揚の味噌汁。 あつあつ御飯に明太子が美味しい。 温かくなつたせゐで糠床も好調。 焙じ茶を飲みながら、DVD で「羊たちの沈黙」を少し観て休憩。 私は、レクター博士が監獄から、 講堂のやうな広い部屋の中央に作られた檻の中に移され、 そこでスターリングと対話するシーンが好きで良く観る。 その直後の檻から脱出する所もうまく映像化されてゐて好きだ。 午後は数学の仕事。夕食も昼食の残りの冷や御飯で粗食。 夜は旅行から帰つた執事と先月の精算チェスをする。 20 分プラス一手 10秒。 後手、シシリアン・ドラゴン。相手側のポカをとがめて勝ち。

プロブレム・パラダイスの最新号が届く。 ヘルプメイトの 2 手問題の分野で、 二つの異なる主題 A, B を、それぞれ二通りで表現する、 四つの解 A1, A2, B1, B2 を持つ問題、 と言ふアイデアが注目を浴びてゐるやうだ。 これをたつた二手で表現するわけだから、 まさにアクロバットである。 これが未来のヘルプメイトの主流に育つには、 作るのが難し過ぎるのでは…と思はないでもない。 また、今回初めて知つた形式の一つは、 「デュプレックス」なるもので、 これは同じ一つの図譜で黒を詰める問題にも、 (同じ手数で)白を詰める問題にもなつてゐる、 と言ふ二重問題である。うーむ、凄い。 他にも今号は、Book Review のコーナーに、 素晴しい問題が多数紹介されてゐて、さらにおトク。 そこにハーバード大の某有名数論学者の作つたプロブレムも出てゐる。 意外な(?)ところに、プロブレミストがゐる。


2004/04/13 (Tues.) 無心と有心

午前中は数学を考へる。 昼食は明太子スパゲティ。 バターと明太子で主な味つけをし、 白ワインと醤油少々で風味をつける。 あさつきを散らして完成。完璧。

午後は腹ごなしに、 昨夜切れたチェロの C 弦を三条まで買ひに行く。 京都は今日も夏日で、外は少し汗ばむほどの陽気である。 私は下の C, G の二弦にガット弦を使つてゐて、 普段はピラストロ社のオリーヴなのだが、 店頭になかつたのでやむなく応急処置として、 唯一売つてゐたガット弦のオイドクサを買つた。 オイドクサもガットらしい良い音がするが、 ちよつと私には扱ひ難い。 すぐ自宅に帰つてきて弦を張る。 ガット弦は張つた直後はどんどん延びるので、 少なくともまる一日くらゐは使へない。 夕方まで数学の続き。 夕食は御飯を炊いて、薩摩揚げ、納豆、胡瓜と人参の糠漬、 九条葱と油揚の味噌汁。 食後はシャワーを浴び、 C 弦を使はないスケールを少し練習し、 明日の講義の準備など。

街に出た序でに買つた本。 「無心の歌、有心の歌」(ウィリアム・ブレイク著/寿岳文章訳/講談社文庫)。 同じやうにカラーのオリジナル図版の入つた、 ペーパーバック版を持つてゐるが、 詩集とは言へ翻訳は有難いし、文庫サイズもいいものだ。


2004/04/14 (Wed.) スカルラッティ

京都は雨。お弁当を作つて出勤。 おかずは油揚と葱の焼きもの、 薩摩揚げ、ちりめん山椒、梅干など。 研究室で持参したお弁当を食べて、 午後から「確率過程論」。 マルコフ連鎖の定義と簡単な性質など。 続いて、「計算機代数学特論II」。 初等整数論。拡張ユークリッド互除法など。 やはり、三時間立つて、板書して、話し続けはきついな… 生協で注文してあつたマクロ/ミクロ経済学の本を受けとつて、 ふらふらしながらウェストウィングに帰つて来ると、 K 川先生にお疲れ様ですと声をかけていただいた。 研究室でスカルラッティのピアノソナタ(ケフェレック演奏) を流しながら、しばらくぐつたり。

電車の中で、 R. Fine の "Basic Chess Endings" を読みつつ帰宅。 現在、ルーマニアとの友好通信戦が進行中で、 1 つのゲームが地味なエンディングになりつつあるため、 ちよつと勉強しやうかと思つてのことなのだが、 疲れた頭でデリケイトなロジックを追ふのは無理だと分かつた。 自宅の近所のパン屋で、 明日のお弁当のサンドウィッチ用のパンを仕入れ、 よろよろと帰宅。 夕食はまた、明太子スパゲティを作る。 前回あまりに美味しく出来たので。


2004/04/15 (Thurs.) アナバシス/カタバシス

朝食はミューズリ。 昨夜仕込んでおいたものでお弁当のサンドウィッチを作り、出勤。 研究室で昼食をとり、午後は「情報処理演習」。 主に emacs の使ひ方。続いて、M2 の暗号ゼミ。 NTRU 暗号の補遺的な話題。 夕食は自宅の近所のバーで。 竹の子と小松菜のキッシュ、もち豚のカツレツ。 ジンファンデルの赤ワインを一杯と、 珍品だと言ふのでカレラのヴァン・グリを一杯。 キッシュも(正しい餃子と同じく)、 季節の食材を楽しむものなのかも知れない。 パイの中の竹の子の食感が意外な感じで美味しかつた。

夜の読書。 「アナバシス」(クセノポン著/松平千秋訳/岩波文庫)。
撤退戦は常に厳しく、陰惨で、ドラマティックである。 理想を求めて戦ふ頃を過ぎると、 否応なくある種の(望みもしなかつた)戦ひに巻き込まれて、 いつの間にか負け、あるいは戦ひの意味をなくし、 撤退戦を余儀なくされると言ふ経験を、誰しもが持つものである。 既に敗北した以上、そこには何の勝利も輝かしい目的もなく、 ただ自分の被害を最小限に留め、 しかし周囲に被害をふりまきながら、 退却の道を切り開き撤退するのみの、 どんな戦ひよりも虚しく厳しい戦ひである。 そこで最善のことは、クセノポンのやうに、 精々が軍規と知略と言ふ「様式(スタイル)」を、 虚偽と知りながらも完遂していくことでしかない。 私くらゐの年頃になると、 ひよつとすると、人生とは一つの撤退戦なのではないか、 とさへ思はれてくるものだ。


2004/04/16 (Fri.) 正統とは何か

京都は夏日の良い天気。 昼食は、胡瓜のサンドウィッチを作つて、紅茶で。 午後は河原町の丸善で書籍を購入してから、百万遍へ。 「進々堂」でしばらく読書をして、 夕方から京大で定例の確率論関西セミナー。 確率解析の S 川先生が講演者で、 ウィナー空間上のシュレディンガー作用素の定義域を決める話をしてゐた。 まだ進行中の話の途中報告と思はれたが、 不等式評価の手法などまさに正統的であり、渋い。 やはり経路空間の上での実解析学を着々と進めて行くのが、 確率解析学の正統と言ふものか。 私も確率解析が専門と称してはゐるが、 実際のところは、 確率解析と言へるかどうかぎりぎり周辺のあたりで、 ささやかな問題をやるばかりなので、 一度はこのやうなオーソドクスをやつてみたい。 とは思ふものの、数学者としての出自のせゐか、 自分は所詮「フェアリー駒」だと言ふやうな意識があり、 ついフェアリーにはフェアリーにしか出来ないことが…、 などと気負つてしまひ、なかなか正しい道を歩めないのだが。

帰宅して、夕食の煮込み饂飩を作る。 夜はチェロの練習など。 晩酌の肴は祇園の「ゆたか」の牛のたたき。 ラツィオ州産のイタリアワイン。


2004/04/17 (Sat.) 葉桜

8 時半起床。京都はもう初夏の気候で、 既に葉桜を楽しむと言ふやうな気分でさへない。 午前中は「確率過程論」の講義の準備をする。 離散的な確率過程のことは良く知らないので、 結構勉強になる。 昼食に、祇園「ゆたか」さんの牛たたきと胡瓜でサンドウィッチを作る。 食後は紅茶。 午後は一時間ほど午睡した前後は読書。 夕食は御飯を炊いて、豆腐と若布の味噌汁で粗食。 夜はチェロの練習と経済学の勉強など。

イラクで開放された人質たちの態度について、 首相自らや首脳陣まで不快感を表明するのには、がつかりだ。 ママの言ふことを聞かない悪い子の面倒はみません、 と言つたレヴェルの議論を裝ひ、 「フリーライターやら報道者やら、 ボランティアやらは正義ぶつてゐるが、 実際のところロクな人間たちではないのだ」 と言ふ大衆の反感を掬ひあげる manipulative な手法も嫌だが、それ以上に、 小泉に指導者としての誇りがまるでないのに落胆する。 一国の指導者ならば、 日本のパスポートを持つてゐるものを、 それが誰であらうと、どんな愚か者であらうと全力で救ひ、 愚痴一つ言はない建前を守るのがトップの義務ではないか。 救出費用を被害者に弁償させろ、 などと言ふ閣僚も外務省も貧乏臭い。 自分たちが自称するやうに選良(エリート)なのなら、 費用を寄付するくらゐが本当じやないか。 そこでもまた、「国民の税金なのだから (こんな馬鹿ものどもに使ふ謂れはない)」、 と薄気味悪く大衆に擦り寄る。 マニュアルでもあるのだらうか。


2004/04/18 (Sun.) 無料激辛スパイスの謎

午前中は書庫で本と資料の整理。 昼食は冷や御飯で粗食。 午後は近所で日用品の買ひ物などしてから、 夕方からチェロのレッスンに行く。

日常の中の経済学。 あるカレーライス専門のチェーン店は、 追加料金を払ふことで、二倍、三倍、 と好みの辛さを注文できることで人気である。 ところが、この店の各テーブルには、 その調理に使ふのと同じ「激辛スパイス」が無料で置いてあつて、 これを混ぜることで辛さを調節できる。 実際、追加料金を払つても、 全く同じこのスパイスを混ぜて加熱調理してゐるだけであり、 この店はその事実を隠すどころか、明記すらしてゐる。 一見、これはおかしい。 客からすれば辛さの追加注文をしなくても、 自分で無料のスパイスを混ぜればほぼ同じものが得られるので、 追加料金システムは無効ではないか。 店側からすれば何故、無料のスパイスを提供し続けるのか。 そもそも無料のスパイスをテーブルに置かなければ、 辛いカレーを食べたい客からの利益を全て得られるではないか。 このチェーン店はただ愚かなのだらうか? さうでないとすれば、それは何故なのか。 経済学部の学生は経済学の言葉を用いて、 それ以外の人は日常の言葉を用いて、 この戦略の意味するところを述べよ。


2004/04/19 (Mon.) 二つの値段

九時起床。 今日の京都は雨。気温も低い。 午前中は自宅で事務仕事。 明太子スパゲティの昼食を取り、出勤。 午後は卒業研究のセミナ。内容は Stroock の "Probability Theory: An analytic View". 学部生には少し手強いが、独特の視点から書かれた面白い本。 実は私も持つてゐるだけで(前書きしか)読んだことはなかつたので、 セミナで読むことにした。 (ちなみに、この前書きがなかなか興味深いので、 逆に中身しか読んだことのない人は一度御覧あれ。) 基本的な図書で、 時間があれば読まねばと思ふものが数あるものだが、 絶対にそんな時間はない。しかし、 卒業研究や大学院のセミナで学生に読んでもらふ、 と言ふ技のあるところが教師稼業の良い所である。 セミナの後、研究室で事務仕事を少々して帰宅。 外は大雨。バスも電車も大混雑。 夕食は牛たたき(まだ残つてた) と胡瓜のサンドウィッチと赤ワイン。 夜はプロブレムを解く。 デュプレクスは、デュプレクスであることそれ自体が凄いので、 それ以上に趣向を盛り込むのが難しいのか、 どうしても易しい問題になりがちなやうだ。 今回の二題のデュプレクス・ヘルプはすぐに解けてしまつた。

普通、同じ商品に二つの異なる値段がついてゐることはないが、 もしそれが可能なら店側がさらなる利益を得られることがある。 例へば映画館は、同じ映画の同じ席を、 お金はあるがあまり暇のない人には通常の料金で提供し、 暇はあるがあまりお金のない人には安い料金で提供できれば、 より多くの利益が得られるだらう。 そして実際に多くの映画館は「学生料金」 と言ふシステムでこれを実行してゐる。 別に学生さんに親切なわけではない。 絞りとれるところから、 さらに絞りとらうとしてゐるだけである。
(関連しているかも知れない)問題: ある大学は、複数の受験方式を提供しており、 一つは受験科目の多い筆記試験で難しく、 一つは小論文と面接のみの易しいものである。 実際、偏差値に大きな差のあることが分かつてゐる。 しかし、どちらに合格しても同じ学科の同じ新入生で、 同じカリキュラムを受けられる。 これは不合理か?


2004/04/20 (Tues.) 紙の山

八時半起床。 朝食はミューズリと珈琲。 午前中は数学。 昼食は御飯を炊いて、 胡瓜と牛肉のサラダ、 胡瓜と人参の糠漬、ちりめん山椒、 九条葱の味噌汁など。 午後も休憩を入れつつ、 二時間ほど集中して計算。 疲れたので、夕方から読書。 「金曜日ラビは寝坊した」 (ハリイ・ケメルマン著/高橋泰邦訳/ハヤカワ HM 文庫)を再読。 夕食は甘藍とベーコンのパスタ、サラダなど。 食後は、少しチェロを弾く。スケールとポジション移動の基本練習。 夜は明日の講義の予習。

数学者に必要なものはペンと紙くらゐなどと言ふが、 ノートや計算用紙の類が意外に高い。 (私はよく生協で、 ノートつて昔からこんなに高かつたつけ?、と思ふのだが、 それは年のせゐだらうか。) 勿論、工学系の出費に比べればキムワイプ(*1) 以下だとは思ふが、 もともとの研究費が少ないので結構困る。 そこで私は、会議のときに山ほど貰へる資料や、 日々ポストに投げ込まれる大量の書類を集めて (全て A4 上質紙である)、その裏を使つてゐる。 最近は両側印刷してあるものが増えたが、 それでもあつと言ふ間に、 積んだ高さにして 30 センチくらいは簡単に溜る。 ちよつと真面目に計算を始めると、 すぐに数十枚くらゐは使ふものであるし、 私はそれ以外のちよつとしたメモなどにもこの紙を使ふので、 日々の使用量はかなりのものである。 にも関らず、こんなにも溜るのは、 如何に私のもとに日々大量の書類が届けられてゐるか、 を表してゐる。 そして、私は確実にその 99 パーセント以上を読んでゐない。

*1: 化学系の実験などで使ふティッシュペーパーみたいなもの。 多分、商品名。 昔、学生実験で良く使つたなあ。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。