Keisuke Hara - [Diary]
2004/04版 その3

[前日へ続く]

2004/04/21 (Wed.) 新提案

午後は「確率過程論」から。 マルコフ連鎖の定常分布、可逆分布など。 続いて「計算機代数学特論」。 互除法の計算量評価、素数の性質など。 続いて教室会議。 今日は二時間程度で終わつたが、 やはり水曜は身体に悪い。 8 時前くらいに帰宅。 冷や御飯と葱の味噌汁で粗食。

私立大学で、 どんどん新たな入試政策が提案されて、 毎年のやうに入試が変はつて行くのは (進化、発展、新展開してゐるのだらう)、 結局、入試政策担当の部署が存在してゐるせゐだと思ふ。 入試政策は私立大学の最重要課題だから、 やはり有能かつアグレッシヴな人材を集めてゐると思はれる。 さうすると、そこで「何もしてません」 と言ふわけにはいかない。 日々、誠心誠意、努力して次々と、 新提案と言ふ「仕事」をしてしまふのだ、きっと。

超整理法の野口悠紀雄氏が書いてゐたと思ふのだが、 官僚の新人だつたころ、 上司に「通勤中でも仕事はできる。 窓の外を見て、何から新たに税金をとれるか考へろ」 と説教されたと言ふ話を思ひ出した。 例へば、看板が目に入れば、 「看板税」と言ふのはどうだらう…、 などと満員電車の中で考察するわけだ。 私立大学の入試政策担当者たちも、 ひよつとすると毎日通勤電車の中ですら、 「65 歳以上限定のシルバー入試はどうだらう。 いや、名前はずばり、『シニア特別枠』。 お金もあるし、出口問題もない…」 とか考へてたりして。 いや、もう提案されてたりして。


2004/04/22 (Thurs.) 花ざんしょ

今日の京都の最高気温は 30 度近いらしく、 夏日と言ふより既に夏。 研究室でお弁当を食べながら、 メイルベースであれこれ事務仕事をし、 12時半から「情報処理演習」。 emacs での日本語入力の仕方とか、 Mew の初期設定とか。 続いて、M2 のセミナ。 NTRU 暗号の論文の補遺の部分についての続き。

夕食は自宅の近所のバーで。 メインは鶉のロースト。 空豆の粗いピューレが付け合はされてゐて、 目にも色鮮かで、美味しかつた。 空豆は出回る時期が短いので、 季節を感じる食材である。 その後、チーズ三種の盛り合はせ。 ミモレットの熟成もの、 カマンベールの AOC、の馴染み深い二種と、 最後の一つの名前は覚えられなかつたが、 兎に角ビールによるウォッシュタイプのチーズ。 普段はあまり客のゐないこの店だが、 今日は予約で満席ださうだ。 花ざんしよをお土産に持つて着物姿の粋筋ぽい女性が来たりで、 珍しく華やかなムードであつた。 京都は既に景気回復の方向に向かつてゐる…、 のかも知れない。


2004/04/23 (Fri.) 睡蓮と着物

八時起床。 朝食は鳩の餌、いや、ミューズリ。 昼食はベンガルカレー。 食後の散歩に、 東山駅から疎水に沿つてしばらく歩き、 京都市美術館へ。 マルモッタン展を観る。 あまり印象派には興味がないのだが、 散歩の序でに。 (しかし、「モ」に○でマルモつて言ふ、 よみうりテレビのセンス にがつくり。)

モネの睡蓮のシリーズなど有名作品の他、 それなりに見所はあつた。 しかし、これと同時に催されてゐる、 「園遊」 と名付けられた京都市美術館自身のコレクション展の方が、 面白いかも。 庭をテーマに見立てでコレクションを展示したもので、 みんな、「○モ」の方に行くからだらうが、 客もほとんどおらず、ひろびろと回遊散歩の気分が楽しめる。 壷庭をイメージした小さめの部屋に、 昭和初期にデザインされた夜会用の着物や、 反物が展示されてゐたのが、個人的には良かつた。 亡き祖母が着物を作るのを仕事にしてゐたせゐで、 かう言ふものを見ると懐しいやうな落ち着いた気分になる。

散歩が出来るほどの庭つていいなあ。 広い庭のあるところに住みたいものだ。 京都ではほぼ不可能だが、 モネみたいに凄い田舎に引越せば、 なんとかなるのかな… と妄想しながら仕事、仕事。


2004/04/24 (Sat.) 音階

九時起床。 一昨日の30度を越す気温が嘘のやうで、 昨日、今日と気温の低い風の冷たい気候。 日差しは強いやうに思ふが、 厚着をしてもおかしくないくらゐの寒さ。 珈琲だけの朝食を取り、 午前中は講義の準備。 昼食は適当にそのあたりのものを食べて、 食後に少しスケールなどチェロを練習してから、 午後は数学。 夕食も御飯を炊いて粗食。

読書。「鳥類学者のファンタジア」 (奥泉光著/集英社文庫)。


2004/04/25 (Sun.) 本棚の歴史

九時起床。今日も少し肌寒いやうな気がするが、 最高気温が 20 度くらゐは 4 月末としては普通か。 爽やかな気候と思へなくもない。 珈琲だけの朝食のあと、午前中は洗濯などの家事。 昼食は煮込み饂飩と冷や御飯。 食後の散歩がてら食材の買ひ出しに行き、 午後も家事と読書。 毎日、就眠前に寝台で一章づつ読んでゐた 「アナバシス」(クセノポン著/松平千秋訳/岩波文庫)を読了。 続いて、 「本棚の歴史」(H. ペトロスキー著/池田栄一訳/白水社)を読む。 読了。なかなか面白い。 かつて何世紀にも渡つて、 本は今とは逆に背を奥に、 前小口を前にして本棚に収められてゐたとか(*1)、 単語と単語の間にスペースを置くことが一般化したのは、 印刷技術の発明以降である、とか。 ちなみに訳者の名にどこかで見覚えがあると思つたら、 「ポストモダニストは二度ベルを鳴らす」を訳した人ですね。 夕食はカルボナーラと白ワイン。食後に珈琲。 最近、手の込んだものを作つてないなあ。 夜は「鳥類学者のファンタジア」(奥泉光著/集英社文庫) の続きを読む。

*1: クイズ。これは何故でせうか。 (背にタイトルなどの情報を入れる習慣がなかつたことが一つの要因ですが、 それは理由と言ふより背を奥に納めた結果でもあります。)


2004/04/26 (Mon.) 本と鎖

昼食は生協弁当。 お弁当を食べながら、メイルベースで事務仕事。 せわしないなあ。 午後は卒業研究のセミナ。 Stroock の最初の簡単なところ。 独立同分布確率変数の無限列の構成。 K 大からもつと西の方の K 大に移籍した S 君から挨拶メイルが来てゐて、 初等確率論のクイズが添へられてゐた。 二つの独立同分布な確率変数間のある確率の不等式で、 一見成立しなささうなのだが、 独立で同分布と言ふところが強く効いてゐて、 良く良く考へるともつともらしい。 見かけは簡単だが、これは証明が面倒さうだ。 生協書籍部で、 「奇術師」(C. プリースト著/古沢嘉通訳/ハワカワ文庫) などを買つて帰宅。 「奇術師」は「メメント」 のノーラン監督による映画化が決定してゐるらしい。

昨日のクイズ解答。 かつて本は極めて希少かつ高価なものであつたため、 鎖で書棚に結びつけられて閲覧に供されてゐた。 閲覧や格納の時に書物自体を傷つけないやうに、 本の小口側に鎖が結びつけられるのが普通で、 本を置くときには自動的に背が奥に小口側が前になる。 この事情が、 本の背を奥に収納する習慣を形成し、 後々まで残つたものと「本棚の歴史」 では分析されてゐる。


2004/04/27 (Tues.) 麺類尽し

午前中までは豪雨。 昼食は納豆スパゲティ。 午後になつて雨はあがつた。 午後は、大阪大学での確率論セミナに出席。 T 大の院生の方が、 経路空間の中の領域での部分積分公式(発散定理) について話してゐた。 それに関係しないでもない問題を考へやうかと思つてゐた所なので (私自身が設定した期限は 2006 年の 11 月なので優先順位は低いが)、 興味深く聞かせてもらつた。 夕食は鍋やき饂飩を作り、今日は麺類の日。 夜はチェロを練習し、 明日の講義の準備をおさらいし、 チェスプロブレムを考へた。

最近、話題の「心のノート」(*1)、すごいなあ… 皆さんは見たことあります?

*1: 2002 年度から文部科学省によつて、 小学生・中学生全員に配布されてゐる道徳教育用の副教材。


2004/04/28 (Wed.) ムッシュー・テスト

近所のパン屋でサンドウィッチを購入して出勤。 昼食にサンドウィッチを食べながら、 メイルで各種雑用。 午後は「確率過程論」。 マルコフ連鎖の再帰性について。 続いて、「計算機代数学特論」。 剰余類、中国剰余定理など。 夕方まで学生と数学の議論をしたり、 生協で本を買つたりして時間をつぶし、 夜は新任の先生方の歓迎会。 二次会にまで参加して帰宅。

購入した本。 「ムッシュー・テスト」(P. ヴァレリー著/清水徹訳/岩波文庫)。


2004/04/29 (Thurs.) バロック・サイクル

九時起床。 ニール・スティーブンスンの新作 "The Confusion" を買おうか迷つてゐたら、 でもこの題材になつてゐる 17 世紀の金融の問題なら、 ブローデルなんかで先に正史を知るのが筋ではないか、 しかし、みすず書房で全 6 巻は痛いな… とか悩んでゐる内に正午。 昼食は近所の定食屋で。 午後は、午睡をして、チェスプロブレムを考へて、 チェロの練習をする。 チェロは新しい課題 Boifmortier のソナタの三番。 写本の楽譜は味がある。 音を取つてみるが、あまり良く分からない。 夕食は近所のバー。鴨肉のロースト、さくらんぼのソース。 今日は数学はなし。

前にも書いたが、高名な数学者であるハーバードの E 教授は、 チェスのプロブレムでも凄い問題を作つてゐる方である(*1)。 専門は数論なので、 昨日、歓迎会で近くに座つた K 川先生に尋ねてみると、 最近、シンポジウムで来日されたらしく、 そのときは懇親会でピアノの腕前を披露され、 日本の数論学者のフルートのトリオと一緒に演奏を楽しまれたとのこと。 ピアニストとしても素晴しい腕前ださうだ。 高名な数学者なので、ついかなり年配の方かと想像してゐたのだが、 K 川先生の話では、我々より精々が数年年上くらゐのはずで、 実際かなり若く見えると言つてゐた。 才人と言ふものはゐるものだ。 数学と音楽とチェス/将棋/囲碁などのゲーム、 と言ふ三題話はわりと一般的で、私も一応その一人だが、 私の場合はそもそも数学者として大したことがない上に、 残りの二つともただの下手の横好きの 「素人裸足」(素人も裸足で逃げ出す)なので、 真賀田博士流に言ふと、 「よく似たアーキテクチャですが…クロックが違います」 と言ふ所で、百年たっても E 教授のやうには成れないだらう。

*1: "Problem Paradise" Issue 28, Vol.7 (2003) の Book Review の記事に、 "Endgame Virtuosity: A selection of 222 Israeli Chess Studies" (by F. Chlubna) から N. Elkies 作の 2 題が引用、 解説されてゐる。両方とも、 なんとなく「反例の構成」を思はせる傑作。


2004/04/30 (Fri.) try

しまつた、学内ネットワーク上の トップページ のリンクが全部狂つてゐる… 直したくとも大学に行かないと直せないので、 連休明けまでそのまま。

今日も休日。午前中は読書などして、 昼食は適当なパスタ。 午後は家事と買ひ出しなど。 夜はチェロの練習をしたり、 チェスプロブレムを解いたり。

大体、二手問題は解けるのだが、 "try" と言ふやつが苦手で、 実際、最近まで概念を誤解してゐた。 "try" とは日本語では「マギレ」のことで、 つまりほとんど正解なのだが、 巧妙な「躱し」が一つだけあつて、 惜しくも正解にならないものである。 それはただの「間違ひ」と言ふことになるところだが、 この "try" によつて主題を表現してゐる問題がある。 例へば、正解と try が対称性を持つてゐるとか、 複数ある try が全体で何かを表現してゐるとか、 色々である。 かう言ふ、 複数の解とか、正解以外の筋であるとか、 実際には実現しない狙ひなどまで使つて、 主題を表現するのは、詰将棋にはない発想かな。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

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