Keisuke Hara - [Diary]
2004/05版 その2

[前日へ続く]

2004/05/11 (Tues.) パッシヴ・モード

午前中は講義の準備。昼食は月見蕎麦。 午後は数学の勉強など。 夕食は、御飯を炊いて粗食。 夜はチェロと、数学以外の勉強。 研究に比べて、 勉強自体はほとんどパッシヴな活動だから、 どんどんはかどるし、楽でいい。

この前、A 堀研の就職活動中の M2 の院生から聞いたことには、 就職活動の訪問先などで、 K 大の S 君のところにゐた学生とよく顔を合はせるさうだ。 S 君は今は別の大学に移つたが、 この前の三月までは関西エリアで、 専門も近いことであるし、もつともなことである。 そして、彼が言ふには、 「H 先生(私)ってどんな人?」 とその学生によく訊かれるのださうである(笑)


2004/05/12 (Wed.) 賀茂鶴

お弁当におむすびを作つて出勤。 午後から「確率過程論」。 マルコフ連鎖の再帰性についての定理をいくつか証明。 母関数を縦横無尽に使つて確率の評価をするので、 今日の内容は少しヘヴィー過ぎたか。 続いて、「計算機数学特論」。 オイラー関数、オイラーの定理、指数など。 こちらはいつもの通り、例を沢山出しながらの、 易しい懇切丁寧な講義。 続いて、大学院の内部進学者の面接。 今年は 6 人。いくら何でも少ないのではないかなあ。 学科の規模から言へば、 20 人くらゐ進学してもおかしくはない。 不景気だとか色々原因はあるだろうが、 大学院が自身の学生に評価されないのは、 やはり根本には、 リサーチレヴェルでの教育能力が評価されてゐない、 と言ふこともあるだらう、哀しいことである。 しばし、反省…そして、教室会議。 今日も議題は色々。教室会議終了後、 Y 富先生と明日の情報処理演習の打ち合はせをし、 一緒に生協で食事をして帰宅。 やはり、ふらふらの水曜日…

お風呂に入つて、晩酌。 冷や奴で、賀茂鶴。


2004/05/13 (Thurs.) clique

自宅近所のパン屋でサンドウィッチを買つて出勤。 研究室でサンドウィッチの昼食をとりつつ、 事務仕事。 午後は「情報処理演習」。 変数と printf() など。 printf() は大抵、一番最初に習ふ標準関数だけど、 実際は一番複雑な関数。 その後、また研究室で事務仕事をしてゐると、 院生の K 田君が www サーバの件でやつて来て、 様子を見に行くと、 6 階は学生たちによる「新・数理ファイナンス研究室」 への引越し作業と大移動が行はれてゐる最中だつた。 今日、明日くらゐで、済ませる予定らしい。 今期より、大幅な部屋の配置替へがあり、 A 堀先生と私の学生たちは共同で大所帯を持つのである。 セミナなども、この部屋で行ふことが多くなるだらう。 私の学生はあまりゐないので、 A 堀先生のところにちよつと混ぜてもらふ、 と言ふ程度なのだが、 兎に角、A 堀研は学生が多いので、 最大派閥を形成することになることは確か。

私は学生とあまり親しくないので、 学生間の様子を良く知らないのだが、 やはり、いくつかの clique があるのだらう。 人数が多いのはどうしても、 何らかの意味で応用に近い分野になりがちで、 「確率論/数理ファイナンス」の他、 「確率論/数値計算」、「計算機数学/複雑系」などが、 近い内に勢力を増しさうだ。 夕方から大雨。叩きつけるやうな雨の中、帰宅。


2004/05/14 (Fri.) アセスメント

昼食に蕎麦を茹でて盛り蕎麦を食べ、 午後は京大での関西確率論セミナに参加。 京大の M 君が最近の仕事について話してゐた。 有限次元での Littlewood-Paley-Stein の話自体をあまり良く知らないので、 一般化の意義が私には正確に捕めてゐないのだが、 やはり、この線が確率解析の王道と言ふやつかな… と思ひつつ、興味深く聴く。 具体例として SPDE の結果を持ち出す所も面白い。 二週間後に共同研究者によるパート2がある模様。

今はどこの大学でもだが、 R 大でも授業アンケートを実施してゐて (講義ではなく、「授業」と言ふのが R 大らしいけど)、 昨年後期の講義の結果が返つてきてゐた。 なんと驚くことに、 今回から正規分布の近似による分析つきだつた。 例へば、あなたの講義の学生たちの満足度は、 マイナス 2 シグマ以下です、気をつけて下さい、 とか、そんな感じ。 私は一応、確率屋として、(統計学の専門家ではないものの、) 世の中の多くの統計処理に疑問を持つてゐるし、 さらには学生側からの「逆評価」の意義にも疑問を持つてゐるが、 それはそれとして、 どんどん数値評価が導入されて行く流れなのだなあ、と感心。 さらには多変量解析とかまでする計画があるらしい。 さう言へば、前の教室会議で隣りに座つてゐた、 今期から国立大から移籍された某先生が、 前の大学では講義能力の評価に六角形グラフが使はれてゐた、 と言ふやうなことをもらされてゐたので、 むしろ国公立大の方が熱心にこの流れを進めてゐるらしい。 勿論、私学も追従、いや、負けてなるものか、 くらゐの情勢なのだらう。


2004/05/15 (Sat.) 嘘と大嘘と

どうも、一日中眠い。 するべきことは沢山あるのだが、 あまり気分が乗らず、困つてる。 昼食はカルボナーラと白ワイン。 午後はチェロを弾き、丸善をぶらつき、 自宅にもどつて読書など。 夕食は、冷奴、納豆、油揚と若布の味噌汁などの粗食。 ふと思ふと、全て大豆製品。

昨日に続いて評価の話で、 今日は学生の方の成績評価の話。 古き良き時代は、先生が A だと思ふものには A をつけ、 D だと思ふものには D をつけ、 と言ふ調子で何の問題もなかつたのだが、 昨今のせちがらい世の中では、 不公平のない評価基準によつて正確に評価せよ、 と言ふ論調である。そして、そこでは、 「相対評価」への移行がほのめかされることが多い。 現在でも、絶対評価と相対評価が微妙にバランスした、 歯切れの悪い判定基準が、 採点報告書の記入説明書に書かれてゐたりする。 正規分布によつて近似、つまり偏差値で分けて成績判定する、 と言ふ話も聞いたことがある。 おそらく、そんな大学もあるだらう。

ところで、中心極限定理が主張してゐるのは、 拡大解釈しても精々のところが、 全員の平均点の分布が近似的に正規分布に従ふだらう、 と言ふことであつて、 クラスのメンバの得点の集計分布が正規分布に従ふわけではない。 実際に、クラスの成績をつけたことがあるものなら、 誰でも経験的に知つてゐるやうに、 得点分布は滅多に釣鐘形の正規分布にはならない。 それどころか通常は、釣鐘形にまるで似てすらゐない。 それなのに何故か、サンプル数が多ければ、 正規化するとそれらが正規分布に近似的に従ふ、 と思ひ込んでしまつてゐる誤解が、広く世間に観察される。 正規化は平均を 0 に分散を 1 に移すだけのスケール変換であつて、 分布の形が本質的に変はるわけではないから、 それを正規分布で近似することはできないし、 無理にさうしたところで何の意味もない。

現在では、エクセルなどの表計算ソフトくらゐでも、 簡単に多変量解析などまで出来てしまふ。 しかし、残念ながら確率・統計の基本中の基本さへ、 きちんと教へられてゐないか、または本人が学んでゐないまま、 ブラックボックスとして使用するので、 大抵が根本的に間違つており、都合の良い数字が出たときに、 都合良く資料として持ち出されると言ふくらゐの意味しかない。 せめて、人間の命がかかつてゐるやうな場面では、 正確に適用してもらひたいものだ。 巷で言ふには、嘘には三つの嘘がある。 嘘と大嘘と統計である。


2004/05/16 (Sun.) フラット

昨夜から雨。時に豪雨。 午前中は軽くチェロの練習。 昼食は冷や御飯で粗食。 午後は少し家事などして、 夕方からチェロのレッスンに行く。 E のスケールが難しい。 エチュードの曲もまたフラット系で 拡張のポジションが多くて指が攣りさうになる。 拡張したとき人差指の爪の横あたりで弦を押さへるので、 そのあたりの皮膚が硬化しては剥れるし。 課題曲はボワモルティエの三番の最初のあたり。

やらなくてはいけないことが多い時に限つて、 逃避行動に走つてしまふもので、 夜は、よほど時間があつたらいつかやらうと思つてゐた、 アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」 の公正さについての原文での検討を始めてしまふ。

クリスティは誰しもが一冊は読んだことのある、 一番メジャーな海外ミステリと言つても良いだらう。 大衆的過ぎて、マニアは齒牙にもかけないかも知れないし、 そもそも、有名どころでも、カー・マニアとか(車ではない)、 クイーン・マニアとか(女王様ではない)、 ブランド・マニア(高級品ではない)などはゐても、 クリスティ・マニアは滅多にゐない。 しかし、クリスティに対する私の個人的評価は年々高まつてゐる。 やはり、彼女は天才だつたと思ふ。


2004/05/17 (Mon.) 川床

朝はまだ雨が続いてゐた。 午前中は講義の準備。昼食に月見饂飩を食べて、 午後は大阪大学に K 先生の談話会を聴きに行く。 ランダム・シュレディンガーの問題のエクスポジション。

マニアと言ふものは困つたもので、 素直に名作を褒められない。文化的吝嗇なのである。 ブラウン神父ものの傑作はと言ふと、 「奇妙な足音」とか「見えない男」とかを挙げることを拒み、 「イズレイル・ガウの誉れ」あたりの通好みを挙げてみたり(*1)、 果ては「やつぱり、何と言つても、 『共産主義者の犯罪』かな…」などと言つて、 仲間を煙に巻かないと気が納まらないのである。 さう言へば数年前、 このやうなマニアの集団の中での心理ゲームのテクニックについて、 オタクの鑑、 京都の薬屋 R 君が中華料理屋の川床で語つてゐたなあ。 あれは色んな所で観察される現象のやうな気がする。

夏のイメージであるが、 実は鴨川の納涼床は大体、五月から。 京都はもう川床の季節なのである。

*1: J.L. ボルヘスの「バベルの図書館」 シリーズのチェスタトンの巻には、 ブラウン神父ものから、 「奇妙な足音」「イズレイル・ガウの誉れ」 「アポロンの眼」「イルシュ博士の決闘」 の四つが挙げられてゐる。ずばり、マニアである。


2004/05/18 (Tues.) 改革

午前中は少し勉強などしてから、 近所で昼食のサンドウィッチを購入して出勤。 研究室で昼食を取りながら、書類書き。 航空券の見積りの記載が不十分だと言ふので見積りを取り直し、 ファンドの申請のため、 招待状の翻訳を提出せよと言ふので翻訳して学内便で送り、 などなどしてゐる内に夕方から教授会。 終了は 7 時くらゐ。 会議からの帰りのエレベータで新任の先生が、 こんなにかかるんですか、と言つてゐたが、 これは物凄く短い方だし、 しかも以前はこれを毎月二回やつてゐたのである。 今は代議員制度のお陰で楽になつた。 これは私が R 大に来て以来、 もつとも素晴しい「改革」である。 もちろん贅沢を言へば、 教授会なのだから教授のみで会議をして欲しいけど。 会議室で A 堀先生に IP アドレス割り当ての申請書を渡されたので、 院生の K 田君に教へを乞ひに行く。 学科のサイトの www サーバは、 以前スタッフだつた計算機の管理の大好きな人が、 強引に自主ドメイン設定して、 そのまま別の大学に移つてしまつたので、 今や事情を知るものは K 田君のみである。 とりあへず、情報システム課に相談せよ、 と言ふことなので、 研究室でメイルを書いたりの作業。 生協で食事して帰る。


2004/05/19 (Wed.) 雨の図書館

今日も雨模様。 モッツァレラチーズとサラミのサンドウィッチの昼食をとりつつ、 研究室で事務仕事。廊下の通りすがりに、 Y 富先生と明日の情報処理演習の打ち合はせ。 前回、講義で scanf() と if 文をやつたらしいので、 それをすることにする。 とは言へ、scanf() もまた難しい標準関数だ。 そもそも、変数のポインタを渡さなくてはならないので、 入門コースではやらない方が良いとは思ふけどなあ。 午後から「確率過程論」。 既約なマルコフ連鎖の正再帰性と定常分布の存在の同値性など。 ちなみに、この講義では、 後の方の席に陣取つて、 にやにや笑ひながらマンガ週刊誌を読んでゐる学生が、 いつもゐるのだが、あれは何者なのだらう。 続いて、「計算機代数学特論」。平方剰余、代数の初歩など。 夕方から、本格的に雨。バス停に行くともの凄い行列で、 しばらく解消しさうにないので、 図書館で調べものなどして時間をつぶすことにする。 夕食くらいの時間だが、勉強してゐる学生が結構ゐる。 さう言へば、私は昔から、図書館で勉強することがあまりないが、 雰囲気があつて悪くはないと思ふ。 少し遅めのバスで帰宅。


2004/05/20 (Thurs.) 大蒜の芽

今日は、大蒜の芽とベーコンを巻き込んだパンを食べつつ、 事務仕事。 大蒜の芽つて甘くて美味しいな… 午後から「情報処理演習」。 if else, else if 文と scanf() の説明を簡単にして、 演習をしてもらふ。 条件分岐があるだけで色々できるので、 学生達も結構楽しんで演習してゐたやうだ。 scanf() 自体は難しいが、 入力を受けつけられるのは楽しいので、 早い内にやるのは正解かも知れないなあ。 夕方から本格的に雨。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
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