Keisuke Hara - [Diary]
2004/05版 その3

[前日へ続く]

2004/05/21 (Fri.) 笹巻き麩

どうしてこんなに眠いのか… 昼食は月見饂飩。 食後のデザートは「半兵衛麩」(*1)の笹巻き麩と焙じ茶。 午後は丸善に立ち寄つてから、京大へ。 今日の関西確率論セミナのスピーカは、 イギリス Warwick 大の E 教授。 百万遍近所の居酒屋での夜の歓迎会にも出席。

*1: 半兵衛麩 :東山区問屋町五条下ル


2004/05/22 (Sat.) 土曜休日

休日。昼食はトマトソースのスパゲティと赤ワイン。 夕食はぐじの煮付けなど。 来月の慶應大でのシンポジウムの講演の準備をしなければならないのに、 どうも気分が乗らない。 終日、外留関係の調べものをしたり、読書をしたりして過してしまつた。 いかん。

結局、Oxford 大の accommodation office に紹介してもらつて、 そこに自分であたつて行くしかないやうで、色々調べてみる。 どうにもならなくなれば、 昨日も会つた Warwick の E 教授に頼めば何とかなりさうなので、 保険がついてはゐるが、心細いことである。 ところで、Oxford の不動産価格は非常に高いやうだ。 景気の良い頃の東京都心部なみか、 円安気味の為替も加味すればそれ以上じやないかなあ…

来週の土曜日は、R 大学では木曜日らしい。酷い話だ。


2004/05/23 (Sun.) 田楽

午前中は寝台で講義の準備。 昼食は近所の店でベンガルカレー。 午後も一段落つく所まで講義の準備の続きをして、 夕方までチェロの練習。 夕食は御飯を炊いて、 「半兵衛麩」 の黒胡麻生麩で味噌田楽を作り、生湯葉などと食す。 夜は明日提出予定の書類を書いたり、 accommodation の問ひ合はせの英作文など。


2004/05/24 (Mon.) 宅配ピザ

昼食は研究室で BLT サンドウィッチ。 メイルであれこれ事務用をして、 午後は卒研セミナ。 ベルンシュタイン多項式による一様近似定理、 絶対単調関数と確率母関数の同値性など。 続いて、M2 セミナ。ランダムラティス暗号。 続いて、新・数理ファイナンス研究室で、 A 堀先生と M2 の学生たちとでセミナ。 途中で宅配ピザの夕食を取りながら、 9 時頃まで続ける。帰宅は 10 時過ぎ。

思つた以上に、 新しい A 堀/H 研究室は充実して来てゐる模様。 水回りの設備が小さ過ぎるとか、 まだネットワークが設定されてゐない、 とか、色々問題はあるが、 それなりに学生たちにとつて過し易い環境になりつつあり、 セミナも活発なやうだ。 例へば、明日からは、毎週 Y 野さん(女性の方)を招いて、 逆正弦法則についての連続講義をしてもらふと言ふ、 渋い企画がある。 確かに野望と戦略の男の計画は静かに、 しかし着々と進行中である。


2004/05/25 (Tues.) 逆世襲

九時起床。珈琲を飲んで、午前中は勉強。 ベーコンとトマトのパスタの昼食をとつてゐると、 久しぶりに執事を見かけた。会社の昼休憩中に、 花を生けに来てくれたらしい。 聞いてみると、この二晩会社に泊まつてゐて、 二日間で 5 時間ほどしか寝てゐないと言ふ。 「若いねえ、、一日 20 時間も働いたら僕なら死ぬよ」 と気安く声をかけたら、 「社内では既にマシーンと呼ばれてますよ… 鉄の悪魔を叩いて砕く、俺がやらねば誰がやる…」 と謎の言葉をつぶやきながら、三日目へ突入だらうか、 また仕事に戻つて行つた。 これが、オルテガの言ふ本来の意味での貴族と言ふものか… または、奴隷。 取り敢へず、プログラマだけにはなるものではない。

さう言へば、オルテガの「大衆の反逆」の中に、 貴族の世襲はその本来の意味からすれば矛盾であり、 中国ではより合理的な「逆世襲」が制度化されてゐた、 と書かれてゐたやうに思ふ。 つまり、ある人が貴族に列せられると、 その子孫ではなく、先祖が、貴族の身分を授けられるのである。 貴族の子供だからと言つて別に偉くはないが、 貴族を育てた人は偉い、と言ふ理屈である。 普通の世襲にも一代限りの世襲や、永代世襲があるやうに、 功績の大きさによつて、 何代までさかのぼつて貴族に列せられるかが決まつてゐたと言ふ。 面白い話だが、これは本当なのだらうか?

午後は昨日のセミナのノートを見返して、 昨日聞いたアイデアに沿つて、A 堀予想の証明をする。 形式的な計算ではこれで良ささうだがなあ。 夕食は多分、冷や御飯と適当なおかず。 夜は予稿を書く予定。


2004/05/26 (Wed.) 図書猫

昼食はサンドウィッチ。 食後はすぐ、「確率過程論」の講義。 1, 2 次元のランダムウォークが再帰的であること、 3 次元では再帰的でないことの証明。 さらに 1, 2 次元では再帰的ではあるが零再帰的、 つまり再帰時間の期待値は無限大であることの証明。 続いて、「計算機代数学特論」。 代数の初歩の続きと、多項式環など。 続いて、教室会議。今日はかなり早く終わつた。 帰りに駅で経済の O 川先生に偶然会ひ、 山科駅まで雑談などしつつ御一緒する。

世界中から、 図書館や図書室に住む猫の情報を集めてゐるサイト Library Cats Map を運営してゐる方から、メイルで連絡があつた。 どうやら、 この写真とキャプションを見て誤解されたらしい。


2004/05/27 (Thurs.) 繰り返し

8 時半起床。 近所のパン屋でサンドウィッチを購入して出勤。 研究室で昼食をとり、午後から「情報処理演習」。 while 文と for 文。簡単な演習をやつてもらふ。 さらに、 繰り返し文があればもうかなり本格的な計算ができることを示すのに、 自然数の二乗の逆数の和が円周率の二乗割る 6 に近付くことを計算するプログラムを、その場で書いてみせた。 図書館で「原典訳 マハーバーラタ 1」(上村勝彦訳/ちくま学芸文庫) を借りて帰宅。

夕食は御飯を炊いて、納豆、ちりめん山椒、 生麩の味噌汁など、粗食。 食後は予稿書きなどの仕事。

今日の京都はほとんど夏の気候であつた。 京都と言へば蒸し暑さで有名だが、 最近は年々、湿度が下がつてゐるらしい。 とは言へ、私の嫌いな夏がやつてくるなあ。


2004/05/28 (Fri.) 15 と 13

九時起床。 午前中は講義の準備。 炒飯と漬物の昼食をとつて、 午後は少しチェロの練習をしてから、 京大での確率論関西セミナに出席。 O 大の K 君があるタイプの確率偏微分方程式の定義する、 確率過程の解析的性質について話してゐた。 かなり特別な仮定をおくので、 もつと初等的な手段で既存の理論の枠内に帰着するやうな気もしたが、 うまく既存の理論にあてはまらない例を見つけた、 と言ふことかも知れない。

百万遍に来た序でに、と言ふか、 むしろセミナが序でだつたかもしれないのだが、 そのまま夜は、文学部の W 先生と、 W 先生に紹介してもらつた D 大の英文学者 C 先生と三人で、 百万遍近辺の居酒屋でチェスをしながら飲む。 C 先生は Oxford 出身ださうで、色々と有益な情報が得られた。 C 先生との対局は、先手、レティ・オープニング、ドロー。 W 先生とは、先手、レティ・オープニング、また負け。 直接の原因は私のブランダーだが、 やつぱり格段に読みの深さに差があるのを感じた。

「R 大のヒトビトは、D 大がきゃれラのらイヴァルだと思つてゐまス。 もちリョん、D 大はドンケアなのですけど」 と C 先生に言ふと、 「うーむ、そうは聞いているけど、最近はそうでもないよ。 15 週授業には戦々兢々としているみたいだし。 うちは 13 週だからね」 と言つてゐた。良家の子女の大学である D 大は、 そのまま優雅な 13 週でゐて下さい…
そんなわけで、明日の土曜日も振替授業日。


2004/05/29 (Sat.) オッピーの引用

R 大では今日は木曜日。 午後から「情報処理演習」。 流石に一回生は真面目なので、通常通りの出席率。

「マハーバーラタ」は本筋とほとんど関係のない、 小さな挿話みたいなものが一杯あつて、むしろそこが面白いやうだ。 「マハーバーラタ」の一部である「バガヴァッド・ギーター」 が有名なので、全体もそんな感じのものかと思ひ込んでゐたが、 さにあらずで、陰惨な戦争を主題にしてゐる筋はそつちのけで、 艶笑話みたいな雑話までが満載されてゐる。

「バガヴァッド・ギーター」は、 かのオッペンハイマーが原子爆弾の実験を初めて行なつたときに、 「私は今こそ死となって、世界の破壊者になりかわった」 と引用をつぶやいた、と言ふ話が伝はつてゐて、 私もその文章で覚えてゐた。 上村勝彦訳の岩波文庫版で見てみると、 おそらくそこに対応するのは、 「私は世界を滅亡させる強大なるカーラ(時間、死)である。 諸世界を回収(帰滅)するために、ここに活動を開始した。 たといあなたがいないでも、 敵軍にいるすべての戦士たちは生存しないであろう」 の一節と思はれる。 そもそも、この「ギーター」は、 マハーバーラタの主題である一族の大戦争が始まるときに、 戦の意義を疑ひ戦意を喪失した主人公を、 バガヴァッド(神)であるクリシュナが、 戦をするやうに鼓舞し説得する詩であつて、 オッペンハイマーの引用の意味するところは深い。


2004/05/30 (Sun.) 睡眠の意味

九時起床。京都の夏らしい蒸し暑さ。 ミューズリの朝昼兼用食をとつて、 午後からチェロのレッスンに行く。 スケールとエチュードのあと、 Boismortier のソナタ三番の第一楽章モデラート。 やつぱり音楽は実技であつて、 分かつちやゐても指や腕がついて行かないので、 結局、身体が覚えるまで練習するしかないのであるなあ。 特に早いテンポの中で装飾音を入れるのが難しい。 この曲が入つてゐる、鈴木秀美氏の CD を借りて帰宅。 夕食まで DVD で某海外ドラマを観る。 夕食は月見饂飩。夜も読書などで休日を過す。

普段から私は良く眠る方なのだが、 どうも最近さらに眠くて困る。 その気になれば(?)、軽く、毎日 12 時間は眠れさうだ。 季節のせゐだと思ひたい。 近頃はどうか知らないが、 かつて私の母は一日に 4 時間以下しか眠らず、 それで元気に過してゐたものだ。 ところで、睡眠とは、 一日のおよそ半分を隠れ潜んでゐた方が生存上有利だつた頃からの、 進化の名残りであつて、健康上は特に何の役割も果たしてゐない、 と言ふ説が有力になりつつあるらしい。 実際、私の母のやうな例をさらに極端にした、 一日に半時間ほどのうたたね程度しかしない人や、 そもそも全く眠らない人も存在するらしい。 その人たちは、より多くの時間を与へられてゐるやうなもので、 全くうらやましい限りである。 一種の才能なのだらうが、 何故その才能が私に遺伝しなかつたのか、残念でならない。


2004/05/31 (Mon.) シブミとアジ

雨。もうそろそろ梅雨だらうか。 夕方から M2 のセミナ。 ランダムラティス暗号関連の論文のフォロー。 メビウス関数の反転公式とか、完全系列とか。 生協でトレヴェニアンの「ワイオミングの悲劇」 (雨沢泰訳/新潮文庫)を買ふ。 トレヴェニアンの新作が出るのは日本では 18 年ぶり、 原書でも 15 年ぶりださうで、私も年を取るはずだ。 「シブミ」や「バスク、真夏の死」 を読んだのは、そんなに前だつたつけ。 帰らうとしたら、偶然、 一階の自動販売機の前で A 堀先生に会ひ、 しばらく立ち話で数学の議論をして、帰宅。

6 月からの卒研は、 新しく構へた A 堀/H 研究室の方でするやうにとのこと。 また、旧情報学科にゐたときのやうな「工学部ノリ」 の雰囲気に戻るわけで、懐しい感じではある。 学生は、あちらは狭いし、他の学生たちもゐたりするから、 セミナがやり難いとこぼしてゐた。 移行期の学生たちは、慣れるのに少し時間がかかるかも知れない。 とは言へ、数学はどこでもできる。 立ち話でだつて、居酒屋で割箸の袋に数式を書いてだつて、出来る。 私は学位論文の内容のほとんどを、寝台の上と、 歌舞伎座のロビーで書いた。 (院生時代は一時、歌舞伎に凝つてゐたので。) それに、仲間が沢山ゐて、わいわい議論するのも悪くないし、 さうしやうと思へば、いつでも一人になれる。 アインシュタインは、あなたのラボはどこですか、 と訊かれて、万年筆を見せたと言ふ。 心意気としては、我々もさうしやうでないの。

兎に角、今期からの部屋割りのせゐで、 大勢の卒研学生を抱えて工学部風に研究室運営をする「数理情報系」と、 これまで通りのスタイルの「基礎数学系」と言ふ色分けが鮮明になつた。 要経過観察、と言ふところであらう。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
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