Keisuke Hara - [Diary]
2004/06版 その1

[前日へ続く]

2004/06/01 (Tues.) ドローの味

今日で、ルーマニアとの email による友好戦の 1 ゲームを、 三度同じ局面が現れたことを指摘してのドローで終了。 チェスでは手順とは無関係に、 同一局面が三度以上現れると引き分けにできる。

チェスには色々なドローの手段があつて、 それが思はぬ巧妙な手に結びつくことがある。 例へば、相手の方が優勢なときに、 繰り返しによるドローを狙ふことで、 悪い手を指させることが出来たりする。 つまり、その局面での最善手を指すと、 ドローに持ち込まれてしまふし、 やむなく次善の手を指したくとも、 その手が次善とは言へ、かなり不利な手なのである。 それが余りに不利だとドローを承諾せざるを得ないし、 微妙な盤面だと悪手を柔かく強制されることになる。 このやうに、 ドローのルールがあるお陰で、優勢を奪はれたり、 劣勢をはね返せたりするときがあつて、 ズルいやうな気もするのだが、なかなか味はひ深くもある。


2004/06/02 (Wed.) 王様のギャンビット

昼食のサンドウィッチを個研で食べてから、 午後は「確率過程論」。 連続な確率過程の話に進む前に、 1 コマまるまる使つて条件付き期待値について復習。 条件付き期待値の概念が現代的確率論の最初の難関なので、 大きく時間を取つてみたが、学生にはどうであつたか… 続いて、「計算機代数学続論」。 確率論の基礎。続いて、教室会議。 今日もふらふら。

ヨーロッパ選手権はイワンチュクが優勝。 同点のニコリッチとのプレーオフ第一戦を、 何とキングズ・ギャンビットで勝ち、ちよつと評判。 それも、 1. e4 e5 2. f4 exf 3. Bc4 Qh4+ 4. Kf1 の変化だつたと最初知つたときは、 その手 (3. Bc4!?) があるのを知つてはゐるが、 いくらなんでも 3. Nf3 だらう、 そんなので勝てつこない、と思つたものだ。 さては研究した秘蔵のラインがあるか、 または、心理的圧迫を狙つた盤外戦術か、と思つた。 しかし、 昨日届いた Chess Today の 5 月の棋譜集でその棋譜をみると、 その後の盤面が決して悪くないやうに見える。 多分、黒白どちらが良いとも言へないが、 ギャンビットを受けて取つたポーンを、 どこで返すかが黒のデリケイトな問題で、 そんなことで悩むくらゐなら、白側で暴れたい。 一世紀以上は前に死滅したロマンチシズムかと勝手に思つてゐたら、 キングズ・ギャンビットは健在らしい。 でも、 この盤面から勝てるとは思へないよなあ。


2004/06/03 (Thurs.) 初めての C

またサンドウィッチの昼食。 サンドウィッチは食べながら作業が出来ていい。 午後は「情報処理演習」。 今日は「関数」についての演習で、 やはり少し難しかつた模様。 後で Y 富先生に聞いたら、講義では配列をやつて、 時間が余つたので応用としてバブルソートを説明したと言つてゐた。 と言ふことは、 来週の演習は配列でソートの実装か…無理つぽいと思ふなあ。 関数も難しいが、配列とポインタも難しいので、 再帰が思ひやられる( < テッキー駄洒落)。 夕方から、Y 富先生のセミナ発表。 ワイル変換による数列の従属性消滅定理について。 このセミナはこれから二週間に一回くらゐの定例になる予定。 曜日は第一候補は火曜日、世話人は Y 富先生。

やつぱり教育用としては、C 言語つてどうかなあ… と思ふ今日この頃。 なんとなく簡単さうに見えるし、 そして、ある程度のプログラムは書けるやうにはなるのだが、 それは「さう書くものだ」「さう言ふ約束だ」 と言ふ感じのイディオムで胡麻化すからで、 通常の教科書にあるやうな素朴な説明では論理的におかしい所が色々ある。 そこはやはり、コンパイラの動作のレヴェルまで理解しないと、 完全には納得しづらい。 大体、最初の難関は、ポインタを使つて配列を触るときで、 これでいいはずなのに正しく動作しない、 とか、正しく動いてゐるみたいだけど何故だか良く分からない (でも動いてゐるからいいや)、と言ふことになりがちである。 特に、プログラムが大きくなつて、 定義と宣言がファイルをまたぐやうになると、急激に謎が増えてくる。 もつとソフトなオブジェクト指向言語か、 いつそ、時代と逆向きに FORTRAN とかやつたらどうだらう。 むしろ、数学科向きだと思ふ。それが駄目なら RATFOR とか。


2004/06/04 (Fri.) 定点観測

「情報処理演習」のレポートはメイルで提出してもらつてゐるのだが、 段々と「もうそろそろオチコボレそうです」、 「もうギリギリぽいです。見捨てないで下さい」(笑)、 「講義は既に分からなくなりました」とか言ふ感想が多くなつてきた。 私の観察では、数理科学科の今の一年生は全体として真面目なので、 それだけに、これで大丈夫なんだらうか、 と不安を感じもするのだらう。 微分積分や線形代数の講義や演習でも、質問が多くて熱心らしい。 肩の力を抜かないと正しく力を出すこともできないので、 不安の行き過ぎも困るが、まあ結構なことだ。

数理科学科は今のところ数十人の規模だからか、 学年によつてかなり雰囲気が違つたりする。 観察してゐると、数人の影響力のある学生によつて、 学年全体の知的な(または非知的な) 雰囲気が概ね決まつてしまふやうである。 全く理不尽な気持ちがするが、そんなものである。 私は常々思ふのだが、周りはどうあれ私は私、と思ひはしても、 なかなかさうは出来ない。若い頃は特にさうである。 やはり自分を測るのに、 ある程度身近な他人との相対的な距離を測るのが精々で、 その相対的な観点から外部に出ることはとても難しい。 良い定点が得られた若者、つまり、 切磋琢磨できるやうなライヴァルや、 尊敬できる先達に、たまたま、出会へた若者は幸福である。 多くの場合は、出会ふのが遅すぎて、 そのときには自分の感受性が失なはれてゐるのである。 まだ私自身は大丈夫だと思つてゐるのですけれどね ;-)


2004/06/05 (Sat.) トラウマ

午前九時起床。 来週の慶應でのシンポジウムの講演の準備をしなくてはならないのだが、 どうも気分がのらず、午前中は無駄に過してしまつた。 昼食はミートソースのスパゲティ。 午後になつて、ようやく手をつける。 材料は揃へてあるし、全く新しい話をするわけではないので、 手をつけさへすれば捗る。 でも、講演は英語でしなければならないので憂鬱。 今まで何回か英語で講演をしたが、やはり準備の時期は憂鬱になる。 最初の想ひ出がトラウマになつてゐるのだらうか…

私が初めて英語で講演をしたのは、 学位をとつたすぐ後くらゐでかなり遅かつたのだが、 それはそれは大変に酷かつた。 英語で言へば、ホリブルかつミゼラブル。 「コれ、みゃぎに代ニュー、アーーー、接続、わかリュ、 我ヲもふ、えー、アれ。エーーーーそして、コり」 と言ふ調子で、何を言つてゐるのか、誰も分からなかつたと思ふ。 九州大学であつたかなり大きな国際シンポジウムで、 いきなりの大舞台であつたことも悲劇だつた。 多分、それより酷い講演は私は未だ聴いたことがない。 質疑応答もさつぱりで、 確かフランスの大家 M 教授が長い質問(?)をしたのだが (当時は少し Yang-Mills 接続の話をやつてゐたので、 興味をひいたらしい)、勿論さつぱり理解できず、 「アー」とか「ウーー」とか言つてゐたら、 呆れた M 教授が「ノン、こレは質問でない。意見だよ」 と言ふ感じの言葉で終らせてくれたのだつた。 そして、あれから 7 年が過ぎた今、 私の講演が上手くなつたかと言ふと、 やはり未だ酷い代物で大して変わつてゐないのだが、 常に「あのときよりはマシだよな…」 と思へるので、悲惨な想ひ出とは有難いものだ、 イン・ア・センス。


2004/06/06 (Sun.) ブルガリア

九時起床。 時々、雨が降る欝陶しい天気。 関西も梅雨入りしたらしい。 今日も適当に休憩を入れつつ OHP シート書きなど。 昼食は近所のベンガルカレー、 夕食にはジャケット・ポテトを作つて、 パスタをつけ合はせて食べる。 じゃが芋は偉大だな…

女子世界選手権(WWCC 2004, 公式サイト) は、ステファノヴァ(Stefanova, Antoaneta)が優勝、 10 代目女子世界チャンピオンはブルガリアから誕生。 エティ、キュート… 不謹慎かも知れないが、女性のチェスプレイヤーつて、 どこか心魅かれるなあ。


2004/06/07 (Mon.) フロイト的なチェス

学生たちは今、就職活動や教育実習で忙しい時期で、 定例のセミナはお休み。午後一杯は講演の準備など。

昨日の続き。 チェスの女性プレイヤーには何故かぐつとくるのに、 将棋の女性棋士には特に何も感じないのは何故だらう… 私の深層心理にフロイト的な何かがあるのか? あまり真面目に考察したくないことではある。

チェス・プロブレムについて書かれた日本語の本がほとんどない、 と以前に書いたことがあるが、 ふと書庫の整理中に、 随分昔に買つた「チェスの楽しみ」(松田道弘著/筑摩書房) を見つけて中を覗いてみたら、結構な分量を割いて紹介されてゐた。 古典的なプロブレム(ロイドの作品とか) に重点が置かれてはゐるものの、 ヘルプメイトや(この本の中では「セルフメイト」と紹介されてゐる) 、レトロ問題、フェアリーについてまで紹介されてゐて、 概観としては結構充実してゐる。

シンポジウムは明後日からですが、 既に明日の夜から出張先に移動しますので、 次回更新は次の土曜日の深夜を予定してゐます。

ヘルプメイト問題の例として一題だけ紹介されてゐた、 T.R. ドーソンの作品を以下に(年代は書かれてませんでした)。 黒の手番から始めて、黒白ともに協力して、 4 手で(将棋で言へば 8 手)、 黒のキングをチェックメイトして下さい。 (つまり、黒、白、黒、白、黒、白、黒、白、でチェックメイト。) とても簡単ですので初めての方も是非、挑戦してみて下さい。 ヒントは「合体ロボ」。解答は土曜日。

T.R.Dawson, helpmate in 4.


2004/06/08 (Tues.)


2004/06/09 (Wed.)


2004/06/10 (Thurs.)


[後日へ続く]

[最新版へ]
[日記リストへ]

Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。