「Keisuke Hara - [Diary]」
2004/09版 その3


2004/09/21 (火)

味覚 (日常, restaurants)

終日、翻訳作業など。 出発する前に、せめて今、手をつけている章を渡そうと思って。 昼食はミューズリ。 今日も外は暑いらしい。もちろん、観測記録を更新。 93日目の真夏日。

夕食は近所のバーで。 出発前の最後の挨拶へ。最後の晩餐シリーズでもある。 いさきのポワレなど。 ワインはシャルロパン・パリゾを少し。 シェフがいないと思ったら、 何と、新しい店を祇園に出すそうで、 そちらに移動するそうだ。 実は、はやってたんだろうか、この店… 兎に角、周りもどんどん発展していくんだなあ。 私もがんばろう。

二店目出店のための増員か、 最近、入った新人の女の子(広島出身)と会話。 最後の晩餐メニューは何がいいかと言う話。 「あれ食べましたか、ござそうろう」 「ござそうろう?」 「やっぱり日本人は餡こですよねー。 それに『お茶漬のもと』も鞄に必須ですよ」 そうかも知れないね…傾聴に値する意見だ。 「最近、味覚音痴だって皆にいじめられて、 悩んでるんですよ」 「へー、たとえば?」 「美味しいものっていうから、 秘密にしてた凄いラーメン屋に皆を連れていったんですけど、 こてんぱんに叩かれて…」 「ははあ、、どこのラーメン屋?」 「ト○プって言う…」 「ああ…ま、でもあっさりして悪くないよね。 ラーメンこそ日本の食だし。 周りに媚びない確固たる味覚の持主だよ、君は」 「それに飲物も。ウィスキー飲まれますか?」 「まあ、少しは」 「私は一番好きなのはカクなんですよねー」 「カク?」 「一番口にあうっていうか、良く飲みますよー」 「ひょっとして、サン○リーの角?」 「カラメル色素を馬鹿にすんな、って感じですよー。 角は日本人の味覚にあってますよ、ぜったい」 「うーむ、時代に媚びない確固たる味覚の持主だね、君は…」 「イギリスに角、持っていかれたらどうですか? 絶対飲みたくなりますって」 「そうかも知れないよね…」



2004/09/22 (水)

枕頭問題集における確率の問題について (math, books)

若干の事務用を片付けにキャンパスに行った往復に、 「ルイス・キャロル解読」(細井勉著・訳/日本評論社)を読む。 数学的内容を含んだキャロルの文章がいろいろ新訳で紹介されている。 中学生の頃、柳瀬尚紀訳で「枕頭問題集」(エピステーメー叢書/朝日出版社) を読んで、 毎晩一題ずつ寝台で考えて楽しんだのを思い出した。 数学的にはおかしな所が色々ある問題集なのだが、 それもまあ味の一つである。

例えば、易しい所では問題の五十八番。 「無限の平面上にでたらめに三つの点を取る。 この三点のなす三角形が鈍角三角形である確率は?」(意訳)。 これに対し、キャロルの解答は次のような感じ。 「三点が一直線になる場合は無視してよい。 最長の辺に注目して考えよう。 とすると、その辺に属さないもう一点は、 その辺が最大である条件からこれこれの範囲にある。 そして鈍角三角形をなす条件は、その点がこれこれの範囲にあることと同値。 したがって答はその面積比であって、これこれ」。

勿論、これは間違いである。 正確に言えば、問題自体が正しく設定されていないため、 この問題に答えることは出来ない。 おかしい所は、無限に広い平面上にでたらめに (あるいはランダムに、任意に、etc.)、 点をとると言う意味が分からないことである。 例えば、円の中にでたらめに一点を取る、と言われれば、 (数学的には不十分な記述ではあるが)、 一様分布に従って円の中のどの点も平等に確率を乗せることができる。 しかし確率は全部合計して1 (つまり100パーセント)であるため、 有限に納まらなくてはならないので、 無限に広い所には一様分布のような、 「でたらめ」とか「任意」とか言う日常用語に対応すると言う意味で、 リーズナブルな確率の乗せ方がない。 したがって、問題として成立させるためには、 「ガウス分布に従って独立に」などと言うように、 どのようにでたらめに置くのかを指定しなければならない。

そのため、元の問題に戻れば、次のような「別解」が簡単に作れる。 「その三角形の一辺をなす二点が、 xy 平面の原点(0, 0) と (1, 0) であると仮定しても一般性を失なわない。 (なぜなら、適当に拡大縮小、回転、平行移動しても、 三角形の角度の性質は変わらないから。) 三点目が十分遠くにある限り、その三角形は常に鋭角三角形だから、 求める確率はゼロ。」

そして、この問題集の中で最も謎めいた確率の問題と言えば、 キャロル自身が前書の中で自信たっぷりに書いてまでいる、 第七十二番、最終問題である。 超越蓋然性(Transcendental Probabilities) と名付けられたこの問題と解答は、 未だに私にはよく理解できない。 私はこれを「キャロルの最終問題」と名付け、 クライストチャーチを見ながら、 良く考えてこようと思う…



2004/09/23 (木)

プレリュード (日常)

自宅の掃除と荷造りなど。 特に地震対策に、書庫の本を整理。 荷造りの方は黒鞄一つなので、 あっと言う間に終わってしまう。 A4 サイズの PC を入れたせいで、 やたらに重くなってしまい、 ほとんどの本を持っていくことを断念。 きっと向こうの図書館か図書室にあるだろう。 日本語の本一冊を考え抜いたあげく、 一番詩的だと思ったので、WKB 法の入門書にした。 あと、"The Silent World of Dr. Kishima" の豆本もポケットに入れて行くか…

最後にチェロを出して、バッハの無伴奏一番プレリュードなどを弾き、 弦を少しゆるめて片付ける。

明日、出発しますので次回更新は… どこかでブラウザが使えたとき。 この一年間は、 ときどき更新できたらいいな、くらいのスタンスです。



2004/09/24 (金)

香港 (travels)

香港空港より。トランスファの間の暇つぶしに更新。 空港内は全域ワイヤレス環境がカヴァーしているようだが有料ぽいので、 良い場所を探して移動。 某航空会社のネットワークに便乗して接続。 香港までの飛行機はがらがらに空いていた。 これからヒースローまではかなり混んでいると、 カウンターで聞いた。



2004/09/25 (土)


2004/09/26 (日)

林檎の木 (日常)

ロンドンに着いてバスでオックスフォードへ。 相変らず、空はターナーで、樹々はチェスタトンだった。

オックスフォードに到着し、 冷たい雨の降る中、パブで休み休み歩いて、 知合いの知合いの知合いの知合いの家を訪ねると、 その存在すら少しは疑っていたのだが、 確かに私がまずは腰を落ちつけるべきところが、あることは判明した。 ここでしばらく様子を見る予定。 その知合いの4乗の老女主人は、 数年前に亡くなられたご主人が高名なポーランド人社会学者だったとかで、 御本人もポーランド文学か何かの学者であるようだ。 兎に角、家はどこもかしこも本だらけでである。 観察したところ、 自分の研究室らしき部屋の三方にぎっしりあるのが数千冊、 家のあちこちにある本がやはり同じくらいで、 見えているところだけで一万冊と言うところか。 彼女は生粋のイギリス人らしいが、 本の半分以上か、ひょっとしたらほとんどが、 英語以外のヨーロッパ言語のものなので、私には良く分からない。 私の居室にまで既にぎっしり詰まった本棚があって、 その中で英語で読めて沢山あるのはコンラッドだった。 彼女はおしゃべり好きとは聞いていて、確かに(一方的に)良く話す。 私の英語力の問題もあるが、 何を言っているのか良く分からない。 (でも、多分、英語が完璧に理解できても同じだと思う。) 色々と問題点はある下宿先のようにも思うが、学者だから、 の一言で説明されてしまうことのように思う。 私が自宅の一室を貸し出したら、こんな感じかも知れない。 翌日、食堂(ここも本だらけ)で一人、 朝食をとっているときに気付いたことには、 こんな中心部に近いところなのに広大な庭があることで、 広々とした芝生と林檎の木が美しい。木には猫のように巨大な栗鼠がいた。 猫と言えば、この家は猫つきで、小さな黒猫がいる。 その子猫は日本語が好きで、漢字に興味を持っているらしい。 夕食から帰ってきたときに、早速すれちがい、 いきなり手を噛まれた。 敵意はそれほどなかったようで、何の傷にもならなかったが。

「あなたがその数学者ですか? あら、こんなお若い方だとは驚きましたよ、ほんとに。 教養あふれるロマンスグレイの物静かな御老人かと思ってましたよ、 でもこんなにお若いとは、36歳?そんな馬鹿なことはありません。 まあとにかく何を説明すればいいのかしらね、 ああそうそう…(略)… この部屋でね、大事なことはそう猫を入れないことですよ、 きっとすぐ挨拶に来ますけどね、好奇心が強いんですよそれが猫だから、 毛だらけになって掃除が大変ですからね。 あなたは猫が好きなのね猫がいるんですよ、ええいます、 とても可愛くて知的なのよそれに日本語が得意なんですよ。 日本語が好きでカンジも得意なんです、と言うのも…(略)… あなたは猫に日本語で話しかけなきゃいけませんよ、 日本語が好きなんですから、喜びますからね、それが義務です。 …(略)… じゃ、何かあったら何でも質問して下さい。 勉強がありますので、じゃ。 ああ、イヴォンヌこの人がその『老教授』ですよ」

ファーストネームを教えろと言うので、 熱心に発音を教えたのに、結局、 私は今のところ「教授」と呼ばれている。 漢字が得意な猫は、それ以来目撃していない。 初日の夕食は、近所のイタリアンでマルゲリータと赤ワインにした。



2004/09/27 (月)


2004/09/28 (火)

手帳 (日常, restaurants, books)

D 大の T 先生がオックスフォード大の手帳が本屋に売っているから、 それを買うと便利だと教えてくれていたので、購入。 紺色のカヴァーのついた、一週間が見開き 2 ページの薄い手帳で、 大学の日程などが既に書き込まれている。 これによると、オックスフォード大の一年間には、 三つの学期(full terms)があり、それぞれ 8 週間からなる。 今年は、10月10日から第一学期の Michaelmas Term が始まり、 一箇月半のクリスマス休みを挟んで、 次は来年 1 月 16 日からの Hilary Term、 また一箇月半の春休みを挟んで、 4 月 24 日からの Trinity Term が 6 月 18 日で終わり、 そのあと次の学期開始まで約 4ヶ月間の夏休みがある。 手帳と言えば、 この一年間の日記とメモのために、 モールスキンの手帳を買って持って来たのだが、 何故かオックスフォードではモールスキンが流行っていて、 どこの本屋にもほとんど全ての種類がレジの周囲などに積んである。

学生のフルタームは来月10日からだが、 学期は 1 日から始まるようなので、 その頃に研究所に顔を出しに行く予定。 それまでは、日常生活の環境に慣れるため、 あちこち出歩いたり、家で過したり。 街では大体、本を持ってパブを周っている。 今、読んでいるのは、 「ダヴィンチコード」の著者の暗号もののサスペンスと、 ナボコフの「プニン」。 大きな本屋の間に挟まれた某有名パブが一番、便利で雰囲気もいい。 ここでデクスターのモース・シリーズの TV 撮影もやったそうだ。 私は「おみやさん」を撮影したカレー屋の常連でもあったので、 日英の名刑事を制覇したわけだ。 あとは「相棒」の撮影をした回転寿司屋に行けば完璧か。 住処については、 黒猫が走り回っている、本だらけの屋敷で何とかやってます。 猫の名前はミチャらしい。(私は「みーちゃん」と呼んでいる。) 椅子の下などに潜んでいて、 喉を鳴らしながら懐いてくるのだが、 さわろうとすると手を噛むので油断はできない。



2004/09/29 (水)


2004/09/30 (木)



この日記は、GNSを使用して作成されています。