「Keisuke Hara - [Diary]」
2004/10版 その3


2004/10/21 (木)


2004/10/22 (金)

一万時間評価 (日常, math)

毎週のゼミでしごかれるとは、院生に戻ったようだ。 必ずあるのは月曜定例セミナ、金曜の L 教授とのゼミで、 他は大体、午前は家で翻訳などの仕事、 午後はラドクリフ科学図書館で夜まで数学と言う調子。 金曜の午後にくたくたになって、土曜とあわせて一日半休む。 院生に戻ったとは言え、勉強時間から言えばそこまでは及ばないのは、 年のせいである。 年のせいで集中力が持たないこともあるが、 主に「研究技術」が向上するせいだと思う。

ところで、 どの分野でもプロとしてやっていけるようになるには、 一万時間の専門訓練が必要である、と言うエスティメイトがある。 色々考察した結果、私はこれは上からも下からも、 かなり正確な評価なのではないかと信じるに至っている。 職があるかどうかは別の問題もあるので、 十分条件と言う意味を「プロになれる」と取ってもらっては困るのだが、 プロになるに十分な素地、と解釈すれば概ね正しいように思う。 たとえば、理系の学者だと学部を卒業して大学院で五年間修行するが、 シリアスな院生は大体これくらいの時間を費しているのではないだろうか。



2004/10/23 (土)


2004/10/24 (日)

異邦人 (books)

この一月で、 ブラウン の "Digital Fortress" のあと、 カミュの "The Outsider" と、 マッコール=スミスの "The No.1 Ladies' Detective Agency" を読了して、結局三冊小説を読んだ。 忙しいのと、英語で読むと速度が三分の一、 理解度が七掛けくらいに落ちるので、これくらいがせいぜい。 ブラウンが一番リーダブルで、 カミュが一番面白く、 マッコール=スミスが一番癒される。

ところで、マッコール=スミスの最後のページに至らぬうちに物語が終わってしまって、 これはどういうことかと思ったら、 なんと続刊の第一章が巻末に「おまけ」でついているのだ。 続刊以降が既に出版されているペーパーバック版でのみ可能な手法とは言え、 これはなかなか巧妙な宣伝だ。 私は初めて知ったのだが、一般的な方法なのだろうか?

次はあまりに大量に本屋に積んであるのでブラウンの "The Da Vinci Code" と、 マルケスの「百年の孤独」の英訳を読む予定。



2004/10/25 (月)


2004/10/26 (火)

数字の国のアリス (日常, math, books)

火曜の夜、恒例の一般講演。 "Alice in Numberland" と言う題で、 ルイス・キャロルの数学的業績を解説すると言うので、 キャロル好きの私としては今週もまた聴講せねばなるまい。 夜八時過ぎからなので、オフィスでサンドウィッチの夕食をとり、 数学を考えながら待つ。 八時頃に地下に行ってみると (数学研究所では講義室、セミナ室は主に地下にある)、 「リハーサル室はこちら」と書かれた看板が立っている。 謎に思いつつ、学生がたくさんいる部屋に入ってみると、 黒いガウンに四角帽子の人たちがいたり、 どう考えても派手過ぎるファッションの学生がいたり、 一種異様な雰囲気が漂っていた。

そうこうしている内に講義(?)が始まった。 内容は、先生方やら学生たちやらが、 ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」や、 「スナーク狩り」や「シルヴィとブルーノ」の登場人物に扮して、 寸劇よろしくキャロルが書いた手紙、詩、物語の文章を朗読し、 合間にキャロルの人生の逸話を語ると言うものだった。 主に数学が関係する文章(もちろん、非常に初等的なものだが)、 またはその周辺の朗読が多かったものの、 私が期待していたシリアスなものとは全く違った、 しかし、非常に面白く、愉快な夜だった。 一番良い所は、私はキャロルの書いたものをかなり読んでいるので、 既にほとんどのジョークやトリックを知っており、 ちゃんと聞き取れなくても、笑うべきところで笑えることだ (「最初の日は十時間、次の日は九時間、…」と来たら、 オチは「レッスン」)。 どうもクライストチャーチ・コレジの関係者らしき人々が、 嬉々として、ハンプティ・ダンプティやら、 赤の女王やらを演じているところを観るに、 本当にオックスフォードの人々はおかしな人たちだ。

来週の講演者は天才の誉れ高いペンローズで、 ツイスターとスーパー・ストリングの話を一般学生向けにするらしい。 だからと言って、どれくらいシリアスなのか、ちょっと自信がない。



2004/10/27 (水)


2004/10/28 (木)


2004/10/29 (金)

基本的には (math, people)

金曜の午前は L 教授とセミナ。 一方的にアイデアを説明されていて、 あまり議論の形になっていないような気がするが、 L 教授本人は今日は進展を得たと感じている模様。 今のところ毎回そんな感じで、 向こう了解に追い着くのに次の一週間かかってしまう。

兎に角、実り多いセミナであるらしかった…と、 オフィスに帰ると、 同室のロジシャンがいて半時間ほど数学の話など。 彼は最初に会ったときに、 素性は「基本的にはイランの出」だと自己紹介した。 オックスフォード卒で、色々あったあと、 今回は研究所に一年間のヴィジタとして戻ってきた、と。 それは詳しくは聞かない方が良いかも知れないな、 と思って次に分野を尋ねると、 専門は「基本的にはロジック」と答える。 これまた詳しくは聞かない方が良いかも知れないな、 と思い、挨拶レヴェルの会話しかなかったのだが、 段々と本棚に代数幾何の本だけが増えていくので、 どういう数学なのか興味を持っていた。 今日はセミナが終わった所で私が露骨に機嫌良さそうだったのか、 「そっちはどんな問題を考えているの?」と聞かれ、 私が「基本的には実解析」と答えたところから、 お互いの数学の話になった。

どうも、基本的にはロジックではあるようだが、ほとんど代数で、 しかも道具として代数幾何やら数論やらを沢山使う、 派手かつ現代的なスタイルのようだ。 数学者は大抵、自分の数学を話し出すと同じ漸近挙動を示すものだが、 もちろん彼も同じ症状を共有していて、 グロタンディク群がどうとか、なんとかクリスタルがどうとか、 ひとしきり一方的に解説していた。 とは言え、気安く話せるいい人で解析にも詳しく、 とりあえず、一年間の同室者には恵まれたようだ。



2004/10/30 (土)


2004/10/31 (日)



この日記は、GNSを使用して作成されています。