「Keisuke Hara - [Diary]」
2004/11版 その3


2004/11/21 (日)


2004/11/22 (月)


2004/11/23 (火)


2004/11/24 (水)

完全なる数 (math)

昨夜の Invariants Society 主催の講演のスピーカはヒース=ブラウンで、 テーマは「完全数について」。 6 = 1 + 2 + 3 のように、 素因数の和が再び自身に等しい数を完全数と言う。 完全数の概念は非常に古く、 例えばユークリッド原論の中に完全数の性質についての記述があるし、 おそらくもっと昔から、 1, 2, 3 の和と積が両方とも 6 であることは人類の興味を引いていただろう。 (多分、神様が六日間で世界を創造されたのも無関係ではない。) しかし、完全数の性質は未だによく分かっていない。 そもそも今のところ、人間はほんの少しの完全数しか知らない。 ヒース=ブラウンがこのテーマで講演者に選ばれたのは、 十年ほど前に、 奇数の完全数の大きさとその素因数の個数の間のある不等式評価を彼が証明したからだと思うが、 奇数の完全数が存在するかどうかも分かっていない(*1)。

数論にはこういった、 問題自体は素朴だが答えることはやたらに難しいテーマが沢山ある。 現代の数学分野の多くでは、 問題自体を一般人どころか他の分野の数学者にさえ、 説明することが困難な場合がほとんどなので、ちょっと羨しい。

*1: 存在しないかも知れないものの性質を調べることは、 決してナンセンスではない。



2004/11/25 (木)


2004/11/26 (金)

ダンテ (books)

金曜午前のセミナが終わると、 一週間が終わった、という気がしみじみする…

日本語のように速く読めないし、読む時間もあまりないのに、 つい習慣で本を買ってしまう。 積んであるだけの本が増えてきた。 最近のおすすめ本は "The Dante Club" (M. Pearl) か。 インターナショナル・ベストセラーらしいので、 邦訳されているかも知れない。 19世紀のアメリカを舞台に、 ダンテの「神曲」を英語に翻訳紹介しようとするグループが、 翻訳反対運動に巻き込まれる中、 殺人事件が色々起きるという歴史ミステリ。 イギリスで出ている版は D. Brown が表紙に宣伝文を寄せている。 Brown と言えば、 クリスマスをあてこんでか、「ダヴィンチ・コード」の豪華本が出ていた。 写真や絵の資料が沢山入っていて楽しい (「最後の晩餐」とか、ガラスの逆ピラミッドの写真とか)。 後で送るのが大変なので、 流石にこんな大きくて重いものを買いはしなかったが。



2004/11/27 (土)

自由意思 (math, science)

金曜の夕方のコロキウムで、 プリンストンのコンウェイが「自由意思」について話していた。 量子力学からの要請を二つ、 特殊相対論からの要請を一つ、公理として認めれば、 「観測者が自由意思を持つならば、素粒子も自由意思を持つ」、 と言う定理が証明できる、とのこと。 しかし、私が思うに、 この定理の前提である「観測者は自由意思を持つ」 はどうやってチェックするのだろう。 それとも、この定理の目的はむしろその対偶にあり、 素粒子が自由意思を持っていないことから、 観測者に自由意志はない、と言うことを結論したいのだろうか。 これはチェック可能かも知れない。

いずれにせよ、どこまで本気なのか測り難い、 イギリス的な講演であった。



2004/11/28 (日)


2004/11/29 (月)


2004/11/30 (火)

アルキメデスの定理 (math)

いつもの予定を変更して、昨夜 Invariants の講演があった。 講演者はアティヤ。相変らずパワフルな語り口だった。 内容は、アルキメデスの定理とニュートン図形の話を、 射影空間や代数曲線論へと物凄い一般化拡張する問題を通して、 幾何学、代数幾何学、組合せ論、解析学、 と様々な分野を結びつけるアイデアを説明すると言う、 アティヤならではの高尚かつ具体的な面白い話だった。 ただ、オックスフォードとは言え、 どれくらい学生に分かったかは疑問。 正直、私も途中から良く分からなくなった。 普通は最後の質疑応答の時間に質問がいくつかあるのだが、 今日は皆、あっけにとられたのか無言だった(笑)

ちなみに、ここでの「アルキメデスの定理」とは、 球の表面積は球をすっぽり入れられる円筒の表面積に等しい、 と言う主張のことである。 もちろん、今では小学生でも証明できる(*1)。 しかし、昔昔大昔は球の表面積の公式とかはなかったので、 原始的な微積分のアイデアを使って、 無限小の議論で証明したのである(*2)。 アティヤが言うには、 アルキメデスは随分とこの定理が自慢だったらしい。 確かに人類で初めてこの事実に気付いて証明したら、 誰でも自慢に思うだろう。

*1: 4 かける円周率かける半径の二乗は、 「2 かける半径かける円周率」かける「半径の 2 倍」に等しい。

*2: 球が円筒に入っているところを、横から無限小の厚さで薄切りすると、 二つのリボンの面積は等しいので、それらを合計したものも等しい。




この日記は、GNSを使用して作成されています。