「Keisuke Hara - [Diary]」
2005/03版 その2


2005/03/11 (金)

本当 (math, 日常)

今日でヒラリータームが終了。やれやれ。 しかし、15週学期に慣れた身としては、 8週間というのはやけに早い。 数学は相変わらず、あまり進展していない。 今までで分かったことを TeX でワーキングペーパーにまとめたら、 わずか 12 ページだった。 勿論、半分くらいは定義やら設定やらなので、 実際は5ページくらいしか新しいことが分かっていないわけだ。 しかも共同研究なので、貢献はその半分以下だ。 私はこの半年、一日にほぼ 15 ページ前後の紙を数学に使っている。 一週間で約 100 ページ、一箇月で 400 ページ、 イギリスに来てから少なくとも 2000 ページ消費したが、 その内でわずかなりとも価値があると残されたのは、 わずか二、三ページ。そう思うと、能率の悪さにうんざりする。 しかし、故郷の英雄の岡先生の言葉では、 「ほんとう」は百に一つしかなく、 数学の結果は「ほんとう」の「ほんとう」なのだから、 一万分の一しかないのが本当なのである。 そう思って、自分の能力のなさを慰めてみる学期末でした。

L 先生は、「遅いが、確かに進展しているじゃないか。 言わゆる、三歩進んで二歩下がる、というやつで (英語にもある表現だったんだ)」、 とわりと呑気に構えている。 もし私が自分の学生だったら、もっと炊きつけているだろうけど…


カスパロフ引退 (chess)

なんとカスパロフが引退表明。 意外ではないかも知れないが、 最後にもう一つ大きな冠を取ってから、 と思いつつ、もっと長く頑張るものと思っていた。 しかし、もう公式試合には一切出ない、 というのは寂しい限り。



2005/03/12 (土)

Mr. Universe (chess)

学期が終わって、ちょっとほっとしているせいで、 昨日に続きカスパロフの話。 カスパロフは「チェス界にもう目標を見出せなくなった」 と何回か口にしていたと思うが、 これはカスパロフが言うから重みがある。 事実上、彼はチェスを通して得られるものは全て手に入れた、 と言っても間違ってはいないと思う。 Daniel King はカスパロフのことを、 ミスター・ユニバースにはタイトルなど必要ない、 と書いていた。 また、カスパロフにはヴィジョンがあり、 しかもそのヴィジョンを輝かしく表現し、 売ることができる、とも書いていた。 世界中の政治家と企業の代表にロシアの現状を説明し、 ウォールストリート・ジャーナルに記事を書き、 世界にまたがるビジネスを立ち上げ(華麗に失敗したが)、 ロシアの大統領になるのではないかとさえ言われ、 実際、将来なるかも知れない。 何せ、まだ四十台に入ったばかりなのだ。

King の文章を覚えていたのは、 彼がクラムニクのことを書いたときの、 カスパロフ像が印象的だったからだ。 ちょっとしたエピソードに過ぎないし、 カスパロフの桁外れの才能や人物像を示すものでは全くないが、 不思議と心に残る。大体、こんな感じだった。

2000 年世界チャンピオン戦の閉会式のことである。 言うまでもないが、 カスパロフが十五年間も保持し続けた世界王座をついに失なった大会である。 場所はロンドンの某クラブだった。 そこでクラムニクはトロフィーと小切手を、 カスパロフは小切手だけを受けとった。 そして新王者の挨拶。 クラムニクは、まずスポンサーに謝辞を述べ、 チームを讃え、敵を讃え、応援してくれた人々に感謝し、 単調な低い声で、ひたすら礼儀正しく、 誰がどこから見ても極めて正しい事を述べ続けた。 聴衆は段々と居心地が悪くなり、 徐々に陰鬱なムードにさえなっていった。 次がカスパロフの番である。 微笑みを浮かべて開口一番、 「今日は私の人生で最高の日とは言えません…」 と切り出し、その瞬間、会場は温かな笑いに包まれた。 カスパロフのスピーチは自信に満ち、流暢で、光輝いていた。 そして最後には、イギリスではしばしば敗者が楽しむ、 熱狂的な歓迎さえ受けたのだった。

ところで、意外かも知れませんが、私はクラムニクが好きで、 現在活躍中の選手では一番好きな棋風かも知れない。 全くリスクを取らないし、地味な対局も多いですが、 最も鋭い調和のセンスと審美眼を持った選手だと思います。



2005/03/13 (日)


2005/03/14 (月)

円周率 (math)

K 川先生によれば (「独り言」 2005/3/14)、 今日は「数学の日」らしい。 「円周率の近似値にちなんで、 現代文明を支えている数学の一層の発展を願って祝う日」 らしい。素晴しい。数検を応援したくなった(笑)

私は K 川先生より、もう少しだけ多く覚えています。 「産医師異国に無後、産後厄なく産児、御社(みやしろ)に虫燦々闇に鳴く頃にゃ」 って覚えるんです。 若干、語呂合せに無理のあるところもありますが、 そこは無理数ですから(どこまでも駄洒落)。

しかし、こちらに 驚愕のニュースが!



2005/03/15 (火)


2005/03/16 (水)

春遠からじ (日常)

イギリスは今週から急に温かくなってきた。 天気はあまり良くないが、 10度台の後半まで気温が上がる。 その前の週などは酷く寒かったのに、 週が明けたとたんに気候が切り変わった感じ。


フィッシャー事件 (chess)

フィッシャー事件はどんどん進展。 最近で驚いたのは、アイスランドからパスポートを届けるために、 あの「サミー」が来日した、と言う情報。 フィッシャー vs. スパスキーの「世紀のマッチ」で、 フィッシャーのボディガードを警官としての勤務の範囲を遥かに越えて勤め、 フィッシャーが世界で唯一、「友だち」と言える人間だろうとされている、 サミー・パルソンである。 私はチェスの興味を越えて、日本と世界の政治問題として、 フィッシャー事件を重要な事件だと思っているが、 この事件の詳細を常に(謎の情報源から)伝えてくれるのは、 私の知る限り 「戎棋夷説」 だけだ。応援したい。



2005/03/17 (木)


2005/03/18 (金)

学期 (日常)

学期が終わると気楽だなあ、 と思いつつオフィスでのんびり TeX 作業などしていると、 L 先生がやってきて、 どうして今日はセミナに来ないんだ、と言う。 「学期が終わったデないデスか」と答えると、 そんな理由で自由にはならん、 と言われ、その場で一時間ほどセミナ。


マジック・ナイト・ツアーへの招待 (chess, math)

娯楽数学(?)の雑誌、 "The Mathematical Gazette" の最新号に、 新しいマジック・ナイト・ツアーを二つ見つけた、 と言う論文が出ていた。 チェス盤の各マスを一回ずつ通って、 全てのマスを通るナイトの経路をナイト・ツアーと言うが、 マジック・ナイト・ツアーとは、 その経路に順番に 1, 2, 3, ..., 64 と番号をふっていくと、 チェス盤が魔方陣になるものを言う (ただし、 縦横のラインの和だけが全部同じなら良いことにして、 対角線の和は気にしない)。 ナイト・ツアーの問題と魔方陣の問題は、 それぞれ娯楽数学の花形ではあるが、 こういうタイプの問題は数学者の興味はひかない。 特に良い構造があるとも思えないし、無駄に難しく、 パズル的な興味以上の深さがありそうにもない。 まあ一言でいうと「美しくない」。 またはハーディの言葉で言えば「シリアスでない」。 実際、うまいアイデアで色々と探索集合を削っておいて、 コンピュータで虱つぶしにするのが有効だろうというくらいで、 数学の形にはなりにくい。

しかし、こういう問題はどうだろう。 「ナイトツアーがマジカルである確率を評価せよ」、 つまり、 ナイト・ツアーの中でマジック・ナイト・ツアーはどれくらいあるか。 値を正確に求めるのは「美しくない」問題だと思うが、 簡単なアイデアであらっぽい評価でも出れば面白いと思う (例えば、1/2 より小さい、とか)。 もっと筋が良さそうなのは、 魔方陣でナイトツアーできる確率の評価かも知れない。 魔方陣の性質は色々知られているだろうから、 かなり良い評価があっさり出るかも知れない。



2005/03/19 (土)


2005/03/20 (日)



この日記は、GNSを使用して作成されています。