「Keisuke Hara - [Diary]」
2005/05版 その2


2005/05/11 (水)

ハードアナリシス (math)

たまには数学の話を書かないと、 何屋さんか分からなくなるかな… この前、セミナの合間に香港出身のY 君とこんな話をした。 Y 君は D の学生だが非常に優秀かつアグレシヴで、 最近、なにがしの定理のかれこれ版を証明し、 意気軒昂である。 彼が(やや逆説的に)言うには、マリアヴァン解析や、 ラフパス解析は確率論の重要な進歩とは言えない。 そのココロは、 それらはあくまで「ハードアナリシス」であって、 本当の意味で「確率論の成果」とは言えない、 と言う主張である。確かにそうかも知れない。

私の理解によれば、 ハードアナリシス、と言う言葉は、 ある種の、非常に面倒かつトリッキーかつテクニカルな議論を、 がりがりやることで得られる結果で、 かつ、そのような厄介で面倒な方法によってしか得られない、 と言う種類の数学を指す。 解析学者が「深い」と言うときは、 このようなハードアナリシスを指していることが多い。 つまりハードアナリシスとは、 人間が賢くないからハードなのでなく、 本質的に遠い所にあるからハードな真理であり、 エルデシュの言う「神の本」を覗いたところで、 そこにも二十ページに渡って、 ごちゃごちゃした不等式がずらずら並ぶ証明が書かれているような、 そんな定理である。 私はハードアナリシスに憧れがあるのだが、 自分ではしたことがないし、 出来るとも思えない。 しかし、憧れがあると言うことは、 まあ、解析学向きなのであろう。



2005/05/12 (木)

国民的パズル (日常)

今朝、BBC のニュース番組を見ていたら、 "Su-Doku"(数独)が爆発的人気を呼んでいる、 と言うニュースが流れていて驚いた。 TIMES に連載されているのは知っていたが、 クオリティペイパーのみならず、 スポーツ新聞の類にまで、 沢山の新聞で連載が始まっているそうだ。 ニュースでは、 問題例を出して、「ここに2がありますので、 第 7 列目に注目すると…」などと専門家(?) が説明を始め、 イギリス人は朝っぱらからこんな話を聞いて面白いのか、 と思わないでもなかったが、 良く考えるとその今、 各家庭の食卓で「数独」が解かれているのだ。 私もレストランで相席になったおばさんに、 "Su-Doku" について話しかけられたことがあるし、 喫茶店で「ここに8が入るかどうか」について熱く語りあうカップルも目撃したことがある。 私の実家の母が夢中らしいのだが、 日本ではそんなにポピュラーじゃないと思うけどなあ。

イギリスと言えばクロスワードパズル。 しかし、これが非常に難しい。 普通に日本人が考えているクロスワードパズルと見かけは同じでも、 中身が全く違う。 「ウナギをラテン語で何と言いますか」 などと言う知識を問う鍵はほとんどなく、 例えば、鍵の問題文が答の文字の並び換えになっていたり、 鍵そのものが一種のパズルになっているのである。 しかもそのことに対する説明はまるでない。 特にこの傾向の強いクロスワードパズルは、 「クリプティック(暗号的)」と言う形容詞をつけるようだ。 私も何度か挑戦してみたが、 答を見ても何故それがこの鍵に対する答なのか、 分からないことが多かった。 しばらく考えて、「ああ、 この鍵のこの部分に答の単語が逆向きに埋まっているわけね」、 などと納得できる場合はむしろ易しい鍵なのである。 イギリス人であっても、 相当の教養と言語パズルの才能がないと、 まるで歯が立たないんじゃないかと思う。

一方で、「数独」は非常に簡単なルールがあるだけの、 全くユニヴァーサルなパズルで、 しかもかなり深いロジックが必要になる問題も作れる。 マニア化のあまりクリプティックの袋小路に入ってしまったクロスワードに、 取って代わろうとしているのかも知れない。 いずれは、イギリスの新聞と言えば"Su-Doku"、 と言うくらいの国民的パズルになるかも…



2005/05/13 (金)

the status quo (日常, science)

今朝のゼミは L 先生の都合でキャンセル。 現状報告のメイルを "the status quo" というサブジェクトで送って、 おだやかに週末を迎える。 普段通り、金曜の午後はお休み。 最近、気温が下がっていたが今日はやけに寒い。

この前、 遺伝子実験キットについてここに書いた勢いで、 しばらく色々調べていたら、 アメリカで市販のものだけでここまで出来る、 という遺伝子実験やその設備の情報を集めたサイトを発見しました。 でも、危険そうなのでリンクを貼るのはやめます ;-)



2005/05/14 (土)


2005/05/15 (日)


2005/05/16 (月)

化石 (日常, thoughts)

定例月曜セミナで第四週開始。 最終学期のトリニティタームでは、 スタッフやポスドク、博士課程の学生など、 内輪の講演が多いようだ。 この一年の成果をレヴューする、 と言う意味があるのかも知れない。

どうして、政情不安定で貧しい地域に化石燃料が埋まっているのか、 と言う問いは間違っていて、 どうして、 化石燃料が埋まっていると政情が不安定になり貧しくなるのか、 と問うべきだろう。



2005/05/17 (火)

神の両手 (thoughts)

アインシュタインの言葉によれば、 この世に果てしないものが二つあって、 一つは宇宙でもう一つは人間の愚かさだそうだ。 または、マーラ・ルジーカの葬儀で牧師が言っていたように、 おそらく神の両手は今、ふさがっておいでなのだろう。



2005/05/18 (水)

GTD (books)

寝る前に読んでいる二冊の本の一冊、 "Want to Play?" (P.J. Tracy)を読了。 昼間に十分頭は使っているので、 就眠儀式本は下らない本に走りがちではある。 英語で読むのに余計な労力を要するので、 つい洋書には採点が甘くなりがちだが、 まあ、上出来のスリラーなのでは。 コンピュータゲームのシナリオ通りの連続殺人事件、 と言う陳腐なストーリーながら、 登場人物たちがうまく造形されている。 このキャラクタたちを使い捨てるのは勿体ないなあ、 と思っていたら、ちゃんと続編が出ていた。 次はこれを読んでみよう。

もう一冊、読了。これは食事の時に読んでいるもの。 何かをしながら読む本だから、こちらも駄本。 "Getting Things Done" (D.Allen). 最近、プログラマ系の blog でやけに "GTD" と言う謎のキーワードが目立つなあ、 と思っていたら、 この本のことらしい。 本屋で探したら簡単に見つかったので読んでみた。 一言で言うと、ずばりアメリカ式「超整理法」。 著者はエグゼクティブたちに仕事の仕方を教える、 有名なコーチだそうだ (そんな職業があり得るのも超競争社会のアメリカらしい)。 この本の教える "GTD メソド" が本質的に、 「ハッカー・フレンドリィ」だと言うので、 必ずしもエグゼクティブではない、 むしろ末端労働者(これは私の語法では褒めている) のプログラマなど IT 関係者に急速に広がった模様。 内容は確かに納得できるものではあった。 確かに効率は上がるだろうし、ストレスも下がるだろう。 しかし、概ね、ほとんどの人には必要ないメソドであるし、 あまりに滑らかに超効率的に仕事をこなすのは、 何かを失なっているような気もする。 既に人間組み込みOSと呼ばれていたり、 社内で「マシーン」とか「般若」とか呼ばれていて、 もう失なうものは特に何もないような、 個人的な例を挙げれば、 我が家の執事とか、渋谷の N さんとかにお勧め ;-) ちなみに翻訳も出版されているみたいです。



2005/05/19 (木)

Hullo (日常)

久しぶりにヴィジタ部屋に新人登場。 上海の証券取引所で働いていると言う方で、 次の秋までの短期滞在。統計屋さんのようなので、 数理ファイナンスのグループに参加するのかも知れない。 おそらく証券市場関係者は、 中国経済の将来を左右する鍵なんだろうな… 取り敢えず、草の根から日中友好に励む。

昨日、さあ帰ろうかな、と荷物をまとめたころに、 「はろはらはわゆーはう゛せおれーむ?」 ("HulloHaraHowareyouhaveTheorem?") とほとんど一単語に化したいつもの挨拶と伴に L 先生が現れ、一時間ほどセミナをしていただく… 何だか一週間に二、三回くらいセミナがあるような気がする、 今日この頃。



2005/05/20 (金)

スターリングの公式 (日常, math)

四週目のセミナも無事終了。 出来ないと思っていた第三の定理が出来たみたいだが、 本来の問題に使うには定理の条件が満たせそうにないので、 おそらく副産物と言うやつだろう。 とりあえず、ささやかながら結果はいくつか得られたし、 色々と実解析のテクニックも覚えたが、 本来の目標の問題は少なくとも今学期中には解けそうにない。

他の人と数学の議論をしていて、 頭の使い方がまるで違うことに気付くときがある。 例えば、L 先生はどうして、 スターリングの公式を一々、その度に証明しようとするのか、 全く謎だ… それは n 割る e の n 乗かけるルート n のオーダーだと言っても、 ちょっと待て、まずログを取って積分で近似すると… とか、やり出す。 普通の確率論屋は寝言で言えるくらい暗記しているものだと思う。 そこのところが、あくまで実解析屋っていう証拠なんだろうか。 かと思うと、思わぬ所で深い確率論的なテクニックを繰り出すときもあり (この積分を期待値だと思って、条件付き期待値をとってから、 マルチンゲール不等式を使うと…)、 かなり頭の中身が違うなあと、しばしば思う。




この日記は、GNSを使用して作成されています。