「Keisuke Hara - [Diary]」
2005/09版 その1


2005/09/01 (木)

鷲と子供 (日常, restaurants, books)

昨日の夕方、 これで数学については一段落が(一応)ついた、 戦いすんで、日が暮れて…と言う歌もあるが、 とりあえず生きては帰れそうだし、空手と言う訳でもなさそうだ、 両親とご先祖にあわせる顔がない、と言うほどでもない、 非力な私としては良くやった方だった、 などと長々しい回想を思い浮かべつつ、 いつものパブ "Eagle and Child" でビールを飲んでいると、 観光客が次々に現れて、部屋の隅のあたりの写真を撮っている。 このパブの天井にはボートとオールが、 壁にはボート競争の写真などが飾ってあるので、 オックスフォード vs. ケンブリッジのボート競争のマニアとかかなあ… (そんな人がいるのかどうか知らないが)、と思っていた。 しかし、特にその隅っこだけに集中して写真を撮っているので、 帰り際にその近辺を確認しに行ってみると、 そこには、C.S.ルイスが兄弟や J.R.R.トールキンなど仲間を連れて、 毎週このパブに飲みに来ては議論していた、と言う解説と、 彼等の写真や、直筆の文章などが控え目に飾られているのであった。 つまり、「ナルニア国ものがたり」や「指輪物語」のファンにとっては、 ほとんど聖地と言ってもよいパブだったのである。

私も毎週のようにこのパブに来ていたのだが、 そのことに気付いたのはもう一年が経とうとしている昨日で、 ああ、この一年間、私は全く心に余裕がなかったのであろうな、 と思ったことでした。



2005/09/02 (金)

ロリータ (books)

なんと、ナボコフの「ロリータ」が若島正氏の新訳で、 新潮社から出版されるらしい。予定では次の 11 月とか。 これは文学的事件です。

私は「ディフェンス」が若島訳の最高傑作だと思っていて、 その理由は、 ナボコフ的な仕掛けの隅々に押しつけがましくなく配慮が行き届き、 かつ、音楽の比喩を用いた対局シーンの日本語が素晴しい。 この後のナボコフ翻訳は難しいだろうな、と失礼にも思っていたので、 最有名作品「ロリータ」をどう訳したのか、ますます興味津々。 これはまさしく事件でしょう。



2005/09/03 (土)

人災と天災 (news, thoughts)

大統領は最悪の天災と言っていたが、嵐が去ってみて、 ますます最悪の人災の様相を呈しはじめているルイジアナ。 膨大な貧者たちの群れ、ほとんど市街戦区域のような混乱状態、 と言う映像が日々、イギリスのニュースにも流れる。 気のせいかも知れないが、 例えばスマトラ沖地震の津波災害のニュースとは違って、 アメリカの隠されたダークサイドが暴露された、 と言うイメージが感じられるように思う。



2005/09/04 (日)


2005/09/05 (月)

Oxford Eye (日常, art, foods)

研究所の前あたり、 ウッドストック通りとバンブリー通りに分かれる前の大きな通りに、 大型のトレーラーが山のように駐車し、 あれこれと店を出している。 研究所の表玄関のすぐ前なので、今日は玄関も閉ざされていて、 お休みの状態。 何かのお祭りらしく、いつも以上に町は観光客などで大賑わい。 普段のオックスフォードは美しく閑静な町だが、 夏休みのこの時期には都会らしい猥雑さの匂いがする。 豊かで親切な人々を狙って、この時期は寸借詐欺なども横行するとか。

私も秋の講義の準備をしたり、整理の仕事をしたりが中心で、 後は行楽気分ではある。 以下の綺麗な写真で、 皆さんにもオックスフォードの夏休み気分をおすそわけ。 現在、Blackwells などでも写真展が行われている、 Oxfordeye.

ちょっと追加: 昼食をカーニヴァルの屋台ですませようと、 ちょっと探索に行くと、 どう見ても中国人でないアジア人がやっている中華料理の屋台に、 「レッドカレー」なるものを見つけ、 注文してみると、本格的なタイ式カレーだった。 コリアンダーもたっぷりかけてもらい、 唐辛子もかけ放題。5 ポンド。 正直に言って、イギリスに来て食べたものの中で一番美味しかった。 オックスフォードの建物の間に突如出現した移動式遊園地の、 おっかないライドたちの間をすり抜けて、 立食いしながら歩いて研究所に戻る。



2005/09/06 (火)

有朋自遠方来、不亦楽乎 (日常)

今日もカーニヴァルらしい。研究所は休業中。 昨日から K 大の S 君がオックスフォードに来ている。 東欧でのシンポジウムの後、帰国前に少しこちらでも研究滞在して行く。 たまたまこのカーニヴァルでレセプションが閉まっているもので、 私が直接出迎えに行って研究所まで案内。 しばし、お互いの最新の研究動向の情報交換。 夜は、近所のパブに飲みに行った。 東欧のあまりの物価の安さに慣れてしまったようで、 しばらく何を買うにも勇気が必要そうだった。

S 君は私の知る中で最も頭の良い人間の一人で、 こういうと本人が照れくさがるだろうが、 「畏友」と言ったところ。 飲んでいるときに、もう十五年の付合いになるのだねえ、 と思い当たり軽いショック。



2005/09/07 (水)


2005/09/08 (木)

St. Giles' (日常)

月曜、火曜のフェスティバルは、 大学手帳によると St. Giles' フェアとなっているので、 研究所のすぐ前にある教会のお祭りだったらしい。 昨日の水曜日にはまたもと通りに普通の道路になっていて、 急に遊園地が出現したのにも驚いたが、 急にさっぱり消え去ったのにも少し驚いた。

昨日はほとんど終日、S 君と数学など。 夜はパブに行って、 数学と確率論業界の議論を肴にビール。



2005/09/09 (金)


2005/09/10 (土)

bird by bird (books)

帰国に向けて、本の整理など。 滞在中に読んだ本はせいぜい月に二、三冊と言った程度で、 ほとんど読書に割く時間はなかった。 しかし、その中でのベストを挙げれば、 多分 Anne Lamott の "bird by bird". 小説家入門の格好を取っているが、ほとんど、 良く生きるための人生入門として読める。 傑作とか名著と言うわけではないのですけれど、 少し時間があるときに、 開いたところを少し読むだけで、 何かほっと心が安らぐような、 前より少しだけ世界が良いところに見えるような本。

ただ私には英語の文章がやや読み難かった。 非常に平易に書かれていて、 (おそらく)いかにもアメリカ西海岸と言う感じのフランクさなのだが、 そういう文章こそが外国語としては難しい。 残念ながら、この本の翻訳は今のところない模様。 この著者の作品では、「赤ちゃん使用説明書」 という子育て日記みたいなエッセイ集が翻訳されているのみ。 "bird by bird" の翻訳出版を強く希望。




この日記は、GNSを使用して作成されています。