「Keisuke Hara - [Diary]」
2005/10版 その1


2005/10/01 (土)

(日常)

我が家のクロ(ソフスカヤ)が踏台にしてくれていた御蔭様で、 かなり長く使っていた CD/MD プレイヤ(ミニ・コンポ)が壊れている。 これは一年前からなので、 帰国した当日、執事に家まで車で送ってもらったときに、 CD プレイヤを買いたいのだけれど何が良いか、と相談した。 CD と FM ラジオが聴ければそれでいい、 場所を取らない小さいものがいい、と言ったところ、 「音にこだわりとかないですか」と尋ねるので、 「御存知のとおり、ない」と答えた。 私の見解では、オーディオマニアは世界で一番不幸な人々だ。 しばらく、iPod のようなポータブルプレイヤの選択肢を挙げていたが、 私はそもそもイヤフォンやヘッドフォンの類が嫌いだし、 外で音楽を聴くほどの音楽好きでもない。 たまに、頭をそれほど使わない雑用をするときに背景として流すのと、 就眠儀式用くらいだ。 どうせ据置にするなら、小型の専用プレイヤを買った方がいい。 「じゃあ、Bose の○×△□(型番)です。 あ、でも時代はもう CD とかではないので、 外部端子はチェックしておいた方が」 と言う制止を振り払って、 一秒の迷いもなく即注文した。

そして、今日届いたのですけれど、 確かに機能が私の利用方法に必要かつ十分。 音も十分に明晰で、対費用かつ対空間コストパフォーマンスで言えば抜群でした。 それにこれ以上、音が良くっても私にはその差が分からない。 これで後は、丈夫でさえあってくれれば満点だが、 外見からは割と頑丈そうなので、 心配はしていない(でも、猫は遠避けよう)。



2005/10/02 (日)

米と梅干 (foods, 日常)

九時頃起床。午前中は通信チェスの手を考えたりしている内にお昼時。 およそ一年ぶりに米を炊く。 米を炊くのに専用の土鍋を使っているので、 あまり火加減などに注意することもなく、 簡単に炊き上がる。 おひつに移して少し待つ間に、 目玉焼を作って、梅干などと伴に昼食。やっぱり米は美味しい。 そして梅干に感動した。 広島の j さんから 2002 年に貰った自家製で、 ひょっとしたら腐っているんじゃないかと思っていたが、 外見は今もつややかで、味も食べ頃とさえ言える。 これは商売にした方がいいよ、と思ったが、 きっと商売にするとこうまで行かないのかも知れない。 やはり梅干は自家製に限る。 午後は洗濯をして、書庫で本と書類の整理をし、 明日の講義の準備をする。 夕食もおよそ一年ぶりにだしを引いて、葱と豆腐の味噌汁、冷奴、卵焼、冷や御飯。 だし巻きはまだ自信がないので、今日のところはただの卵焼き。


帰国後の読書 (books)

帰国後の疲れが最高潮に達しているところなので、 あまり難しい本を読む気がしない。 ハマーショルドの「道しるべ」が良い睡眠導入剤になってしまう、この頃。 amazon で購入したカスパロフの第三、四巻も届いたが、まだ目を通していない。 「六人の超音波科学者」(森博嗣/講談社文庫)読了。 正直に言うと、やや落胆した。しかし、次作とペアになっていて、 その意味ではこれは前編らしいので、「後編」に期待。 「下流社会」(三浦展/光文社新書)、読了。 著者がマーケティング専門であるせいか、 「分析」が全く表層的で雑談のレヴェルと大差ないが、 その身も蓋もない言い切りが、 今の日本企業が日本社会をどう捉えているかを率直に表しているのかも知れない。 本屋で購入、「サイレント・ジョー」(T.J.パーカー/七搦理美子訳/ハワカワ文庫)。



2005/10/03 (月)

伝える (日常, math)

午前中は講義のおさらいなどをして、衣笠キャンパスへ。 労働組合がビラ配りをしていて、 そのビラを読みつつ、ベンチでわびしくお弁当を食べる。 午後は「数理の世界」と「情報の数理」。 「数理」では、自然数を二通りの方法で定義した。 「情報」では、平均語長とか、一意復号可能性など。 情報理論は BKC でも数理科学科向けにやっているが、 材料は同じでもこちらでは、 具体例での説明を中心に基本概念の理解を目標にしている。 いずれにせよ、私は情報理論についてほとんど何も知らないので、 毎週毎週、どちらも自転車操業。 証明は BKC 用につけて、具体例は衣笠用に沢山用意する、 と言った感じ。 そしてやはり三時間立ちっぱなし、書きづくめは身体に堪える。 今日もふらふらしながら、バスで帰る。 家を通り過ぎて少し先の大宮駅まで行ってワイン屋に立寄り、 フェルミエのチーズを購入して帰宅。 夕食の九条葱とベーコンのパスタを作りながら、 某氏から送っていただいたプレプリントを読む。 私が昔ごちゃごちゃと計算した具体例を、 きちんと一般化して「数学」のレヴェルまで持ち上げた仕事。 「数学と言うものはここまでやらんといかんのよ」と教えていただいた気がする。

何のために証明するのか、と言う問題に対しては、 色々な考え方と答え方がある。 私が一番同感だと思うのは、 「アイデアを(正しく)伝えるためである」と言うものだ。 つまり、議論を一定の厳密さまで持って行っておかないと、 「こんなん出ましたけど」のレヴェルで終わってしまい、 他の人や後世に伝え、 それをさらなる礎石にして数学を発展させて行く力にならない。



2005/10/04 (火)

卒研 (日常)

朝自宅で少し仕事をしてから出動。 正午頃、キャンパスに到着。 昼過ぎから卒業研究ゼミの予定だったが、 担当の学生が病欠のため今日はお休み。 あれこれ事務用をこなす。 メイルを書いたり、書類を提出したり、買物したり。 そうこうしている内に、 私の研究室に知らない学生さんが現れる。 セミナーを持ってもらいたい、と言うので、 おや卒研の担当者変更とかかな、と話し始めるとさにあらず。 来年の卒業研究のことらしい。 まだ、卒業研究案内もしていないし、募集もまだ先なのだが、 もう担当は私に決めたと言う。 じゃあ、どんなことをやりたいですか、 と言うと確率論です、とのこと。 易しいフーリエ解析とか卒研案内では募集しようと思ってたんだけど、 などと言うと、「いえ、確率論で。(Full Stop)」とびしっと断定。 その上、使う教科書と、進学の方向まで決めてあった。 しかも反対しようもない、しっかりとした選択だったので、あっと言う間に面接終了。 普段は頼りない学生の愚痴を言ったりしているものだが、 あまりにしっかりした学生さんにも何だか拍子抜けするな…


幼なごころ (books)

外国にいる間に、ヴァレリー・ラルボーの「幼なごころ」が岩波文庫に入った、 という情報を耳にしていたので、生協で探すものの仕入れていないようだ。 他の本屋で買えば良いだけなのだが、 ないと何故だか今すぐに読みたくなるもので、 やむをえず図書館で貸りることにした。 丁度、amazon から "My life as a Quant" (by E. Derman)、 そしてイギリスの自分自身からチェスの本が届いていたので、 一緒に持って帰る。



2005/10/05 (水)

復帰 (日常, chess)

少し早起きして、昨日の夕食の残りと梅干をおかずに、 冷や御飯を詰めてお弁当を作成して出勤。 午前は「プログラミング演習」。 unix コマンド入門と、C 言語の第一歩のあたりをおさらい。 昼食にお弁当を食べて、 午後は「情報理論」。 前回の復習を一通りやって、一意復号可能性とその必要十分条件など。 続いて、教室会議を二時間。 水曜日がまさに一週間の山になっているようだ。 ふらふらしつつ一時間半かけて自宅に到着。 九条葱と油揚げとベーコンのパスタを作り、 ワインと夕食。

帰国直前あたりから、帰国の後最近まで、 何故か二手のヘルプメイトのプロブレムが全く解けなくなり、 「ひょっとして痴呆では」と真剣に悩んでいたのだが、 この数日になってぽつりぽつりと、 「ああ、そうだったか」と言う感じで解けてきた。 まだ油断はできないが、少しずつ頭が働き出したのかも知れない。


ラルボー (books)

ラルボーの短篇集「幼なごころ」(岩波文庫/岩崎力訳)を読む。 「ローズ・ルルダン」、「包丁」、と始めの二篇を読んだところで既に、 この作家のことを今まで知らなかった我が不明を恥じた。 自分は小説読みだとか読書家だと思っていて、 この作家のことを知らない方がいるなら、是非、御一読をお勧めする。



2005/10/06 (木)

クォンツ (books, thoughts)

メイルベースであれこれお仕事、午後は一年間の外留の報告書を書いたり。

今日の読書。"My life as a quant" (by E. Derman)。 素粒子物理の研究者から、ゴールドマン・サックス&ソロモンの「クォンツ」に転身した Emanuel Derman の自伝。しかし、 数理ファイナンスの世界の理論、現場の両面の解説としても読める。 イギリスで、香港から来た秀才 Y 君に教えてもらった。 Derman はポスドクとしてオックスフォード大の物理学科にいたこともあるせいか、 この本は当地で結構人気があった。 実際、(まだ途中までしか読んでないけれど)なかなか面白い。 Y 君も自分の進路について色々と考える頃だから、 その意味でも興味深く読んだのだろう。 今、数理ファイナンスを勉強している人にもお勧めの一冊。

一時、日本でもわーっと数理ファイナンスのブームがあったものの、 今ではかなり下火になったように思う。 流行にそのときだけ飛びついて、 あっという間に関心を失なって、次の流行を追いかける。 つまりは共鳴箱なのだ。 面白いことを探して、さまよっていくのは良い。 しかし、人が群れているところに常に自分も引き良せられていくだけなら、 それはただの凡庸さだと思う。または商売だが、商売にしても二流だと思う。



2005/10/07 (金)

入門 (日常, math, books)

今日もお弁当を作って出勤。午後から卒業研究ゼミの案内。 その後は事務用を片付け、 生協で「岩波 数学入門辞典」を購入。 師匠が一枚噛んでいるから、と言うわけではなく、 最初から買おうと思ってましたよ、本当に。 岩波には世界に誇る「岩波 数学辞典」があるが、 こちらは専門家が参照して使うと言うより、 数学に興味を持つ様々な人が「読んで楽しい」辞典、というところ。 購入して思わず、例えば「確率積分」や「マルチンゲール」 がどのように説明されているかとか、 「大偏差原理」や「マリアヴァン解析」の項目はあるのか、 などあちこち見ていると一時間くらい過ぎてしまった。 小雨の中、帰路につく。 最寄り駅の近所のスーパーで食材を買って帰宅。 日本は(または三条商店街は)相変わらずのデフレーションらしく、 野菜は一袋や一束が百円とか。 食べ尽すのに一週間かかりそうなほどの食材を野菜中心に購入し、 さらに贅沢もして出来合の料理なども少し買ったが、 全部で 1500 円ほどだった。これで、8 ポンド以下? まるで夢のようだ。


オプション (books, math)

"My life as a quant" より、日本語訳して引用。

「十六、七の頃、私は第二のアインシュタインになりたかった。 二十一歳のときは、第二のファインマンになれれば幸せだと思っていた。 二十四歳のときには、未来のT・D・リー(*1)で十分だった。 そしてオックスフォードで他のポスドクたちとオフィスを共用するようになった1976年までには、 隣の部屋の某ポスドクに嫉妬するにまで至った自分に気付いた。 彼がフランスでのセミナー講演を依頼されているからといって。 まさにこのようにして、 オプション理論の専門家たちが時間減衰と呼ぶ過程により、 株式オプションは満期が近付くに連れて内在価値を失っていくのである」。 (by E. Derman)

*1: 訳注:リーは「対称性の破れ」の理論によりノーベル物理学賞授賞。



2005/10/08 (土)

お買物 (日常, math)

朝から激しい雨。午後になっておさまってきた。 午前中は一週間の反省と再検討、定期バックアップなどいつもの週末。 午後は休憩を入れつつ三時間ほど仕事をして、夕方から買物のため河原町方面へ。 寺町通りの靴屋でローファーを買ったり。 一年間も別の場所で暮らして帰ってくると何故だか、 色んなものを購入する必要がある。 主な理由は、どうせ一年も留守にするなら戻ってきてから買おう、 と考えて、ありあわせのもので無理矢理に済ませてしまっていたからで、 戻ってくると、 色々なものがそれでは済まなくなってしまっているのだ。

そう言えば、どうして家中の電池が同じ時期に切れたり、 種類の違う蛍光灯や電球までが揃って同じ時期に切れたりするのかと思っていたが、 それは一つ切れたときに、 もう一つ切れてからまとめて買いに行こうと思うものだから、 どんどん更新時期が揃って行くんじゃないだろうか。 これって確率過程のモデルになるかも。



2005/10/09 (日)


2005/10/10 (月)

ステーキ (日常, foods, books)

世間は休日でも我が R 大学は平日。 太葱のぶつ切りとベーコンを厚く切ったものを炒め、 半熟卵、梅干などを詰めて弁当にして出勤。 衣笠キャンパスの庭で食事して、 午後から「数理の世界」と「情報の数理」。 「数理」は一対一対応と集合の濃度、可付番濃度、連続濃度など。 「情報」は一意復号可能性の必要十分条件、 サーディナス・パターソンの定理。 どちらも講義の後、けっこう質問があるのだが、 今日は「質問カード」なるものも何枚かもらった。 直接質問できない内気な学生さんのためだろうか… まあ、この講義は両方とも、 きちんと数学的内容を講義をすると言うよりも、 数学とは何かを味わっていただくことに主眼があるので、 質問を沢山もらって次の講義中に答えることを大歓迎している。 未だに月曜の衣笠三時間講義に身体が慣れず、ふらふらとしつつバスで帰宅。

帰り道に本屋で、「作家の食卓」(コロナブックス編、平凡社)を立読み。 つい買ってしまう。 この本はダイジェストのダイジェストとでも言おうか、 まったくもって浅いヴィジュアル本ではあるものの、 やはり「作家」と「食」は相性が良く、何だってそこそこ面白い。 本の表紙は鎌倉の澁澤邸の庭のテーブルと、 その上の甘鯛の唐揚げとワイン。 これがちっとも美味しそうに見えないところが澁澤らしく、 その意味ではイメージが良く捉えられている。 澁澤龍彦は食べ物について色々書いているが、 私見では、全てつまらない。 他の蘊蓄と同じで本だけを読んで書いているようで、 どこか薄ぺらい。 そういう偽ものの百科全書派のような感じが持ち味の作家ではある。

とりあえず、石川淳のところなど立読みしている間に、 ステーキが急に食べたくなり、 近所の定食屋にてステーキ定食で早めの夕食。




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