「Keisuke Hara - [Diary]」
2005/11版 その1


2005/11/01 (火)

残りもののパスタ (日常)

今日も JR は朝から遅れている。 通勤電車が遅れている構内アナウンスを聞くと、 何だか朝から疲れてしまう。 研究所で昼食のサンドウィッチを食べながら事務仕事をし、 12 時半から卒研。 Williams でラドン・ニコディムの定理のマルチンゲールによる証明。 いくつか困難があったが、何とかゼミ時間中に解決したので、 今日は上出来としておこう。 その後は、研究室で講義の予習。 続いて、夕方 5 時半から解析セミナ。 マンチェスタ大の P 先生の講演。なかなか面白い話だった。 歓迎会はまた失礼する。 帰りの電車では G 先生と一緒になり、数学の話をしつつ帰る。 話していると長い通勤時間も短い。 八時過ぎに帰宅。 もう御飯を炊いたりする元気がなく、 冷蔵庫の残りものパスタ。 食後は、また明日の講義の準備。



2005/11/02 (水)

C99 (tech&hacks, 日常)

窓辺のクロソフスカヤ 午前は「プログラミング演習」。 昼食を取りつつ、事務用。 その後、ちょっとわけあって、 今の c や c++ のライブラリにガンマ関数は入ってるのかなあ、 と調べてみる。 この前、LaTeX 業界の有名人 O 君と、 C99 になって逆双曲三角関数(arcsinh とか?)が入ったらしい、 と言うマニアックな話をしたのだが、 ガンマ関数 (tgamma) も入ったみたいだ。 まぎらわしいのが、対数ガンマ関数と、画像関係に使うガンマ値の関数で、 これらは以前から大抵のライブラリに入っている。そして、 普通のガンマ関数が意外と入っていない。 成長が爆発的過ぎてあっと言う間にオーバーフロウするから、 対数ガンマ関数で代用しろ(易しくないけど)、と言うことなのか。

そうこうしている内に、午後は「情報理論」。 そして今日は何と、今期初めて教室会議のない水曜日。 おかげで早めの帰宅。 夕食はオムライスに決めた。

猫愛好者へのサーヴィスカット。窓辺のクロソフスカヤ。



2005/11/03 (木)

暇つぶし (日常, math, thoughts)

午前中は、ちょこちょことプログラミング。 ちょっと数値実験してみたいことがあるのだが、 普段は数値計算など全くしないので専用ソフトの類を持っていない。 今から購入するにも私学の貧乏研究者には、高値の花(誤記にあらず)。 Mathematica のサイトライセンスがあるはずだから、 自分のノート PC にインストールしてもらえるのか、 と担当部署に尋ねたら、 法律的に微妙な問題だから法務に聞いてみると言われて以来、音沙汰ない。 そんなわけで、自前で作ることにした。 しかも、ライブラリの関数の精度が良く分からないので、 ほとんどスクラッチから。 実際は理論的証明を目指しているので、 何か手触りが分かればいいなあ、とか、 ひょっとして反例が出ないとも限らないし、とか、 その程度の動機で、 いや正直に言うと、暇つぶしとして面白いから始めたのだ。

例えば、x の y 乗と言う関数はニュートン法で実装するんだろうなあ、 とは思っていたが、その近似をどこでやめるのか、 どうすればはっきり明確な誤差の範囲に納めて計算を切り上げられるのか、 考えたことがなかった。 易しいことだが、少なくとも自明なことではないし、 こういう簡単な問題は考えるのが面白い。 普段、私が考えている数学の問題は、 自分で言うのも何だが、難しくなり過ぎていて、段々と疲れてくる。 だから時々、簡単な、しかし意味のある問題を考えるのが楽しい。 勿論、そういう問題のほとんど全ては既知の問題なので、 真の意味で、暇つぶしでしかありえない。 これは自分が現代の数学に向いていない証拠かも知れないとも思う。 多分、優秀な人は私が難し過ぎると思うような問題も難しくなくて、 それが丁度、楽しいレヴェルなのだろう。



2005/11/04 (金)

猫の進歩 (日常, math)

朝、どこかで物凄い音量でクラシック音楽がかかっているなあ、 と寝床の中で思っていた。 起きて階下に降りてみると、うちのクロが自分でかけたようだ。 リビングの MD プレイヤのスイッチを自分で入れたらしい。 以前、階下のクロから二階の電話子器を呼出されたときにも驚いたが、 猫でも偶然に思いがけないことが出来るものだ。 結局、人間の発明とか発見とか言うものも、 この程度の偶然が違うスケールで起こっているだけかも知れない。

ちょっと考えていたのだけれど、 ガンマ関数を与えられた誤差の範囲で近似するのって、 かなり難しい問題じゃないかなあ… 数値計算の教科書を見ると、 目の覚めるような素晴しい解決策が載っているのだろうけど。



2005/11/05 (土)

Maxima (日常, math, tech&hacks, followup, foods)

O 君にメイルで教えてもらった "Numerical Recipes in C" によると、 やはりガンマ関数は対数ガンマ関数から作り、 対数ガンマ関数はスターリングの公式のタイプの漸近展開で作るのが定跡らしい。 うーむ、あまりに普通。 (ついでに、GPL フリーの数学ソフトウェア Maxima も教えてもらった。これは素敵だ。貧乏研究者の味方である。) ガンマ関数は階乗の一般化だからその対数を近似するのは自然だが、 近似を指数関数に代入するのはちょっと気にいらない。 定義式の積分からできるだけ一様に近似する方法はないのかな。

午前中は定期バックアップ作業と週の反省。 午後は「科学を志す人々へ」(石本巳四雄、講談社学術文庫) を再読したり、セミナー発表の準備をしたり。 夜は近所のワイン屋の試飲会。 私はあまり好きでないボルドーワインの特集で、 高いものは値段相応に立派なものだったが、 その前座に提供されていた安価な二本に感心した。 Ch. ラモット・ヴァンサンと Ch. グラン・ジャンの キュヴェ・セレクション(2002). 一本 1500 円以下の価格帯なので、 ここほど管理の良くない店ではかなり安い値段で出ているかも知れない。



2005/11/06 (日)

Chariots of Fire (日常, films)

午前、午後と講義の準備と、セミナ発表の準備。 昼食はカルボナーラ、夕食はカレーライスとお子様食続き。 夕食後、映画「炎のランナー」を観る。 甘っちょろいとは分かっていながら、何度観ても感動するなあ。 差別と偏見に打ち勝ち自分の力を示すために走るランナーと、 信仰のために走るランナーの二人の物語で、 まことにイギリス的な映画である。 しかし、一方はユダヤ系、一方はスコットランド人らしく、 主人公二人ともに正統的なイギリス人ではないところが味噌か (実話の映画化なのだけれど)。

この映画を観るときは、 どちらの主人公に肩入れするかで、 そのときの自分の心の持ちようが分かる。 時には主人公のどちらでもなく、脇役の貴族のランナーが、 主人公の恋人の相談に乗ってあげた後、 僕にとっては走ることなんか何でもない、ただの遊びさ、 などとかっちょいいことを言って、 延々と遠くまで続く広大な庭で、 シャンパンを注いだグラスをハードルの上に載せて練習するシーンに感動したりして、 そんな時はどこか心が歪んでいるのかも知れない。



2005/11/07 (月)

うめおかか (日常, foods)

衣笠講義日。 御飯を炊いて、梅干と鰹節のおむすびを作って持っていく。 キャンパスのベンチで、おむすびだけの簡素な昼食。 今日は天気も上々だ。 でも、おむすびってどうしてこう美味しいのだろうか。 ただ、ごはんをまるめただけなのだがなあ。

一時から連続二コマ講義する。 「数理の世界」は「数」と「不等号」について推移律が成立することを証明したり。 「情報の数理」はハフマン符号について。 前回に続き新たな例をさらに挙げて構成法を再説明し、 実際のコードを作るまでもなくハフマン符号の平均語長が求められることを示す。 来週からはエントロピーの話かな。 中間レポートのシーズン。 それぞれ二百名以上の受講者がいるので、 その全部に目を通すのが大変だ。

疲れた身体に鞭打って、たまった洗濯物を片付け、 その一方で夕食を作る。 冷や御飯を使ってオムライス。 オムライスはかなり難易度の高い料理で、 特に見栄えのいいものを作るのは至難の技である。 しかし、 どう失敗したところでオムライスの味がするのがいいところだ。 私は卵でうまく巻けないので、 オムレツを別に作って載せ、その背中を割って開く方式で作る。 正しくオムレツを作れる人なら、一番手軽。



2005/11/08 (火)

訃音 (chess, news)

JPCA(日本郵便チェス協会)の早川茂男会長が 7 日お亡くなりになったとのこと。 通信チェスの未来について、世界でも議論の多い昨今ではあるが、 とりわけ日本では重要な岐路にさしかかったところだった。 一度、会ってみたい御方であった。御冥福をお祈りする。


カスタマーレヴュー (日常, books, foods)

いつものように遅れている JR を乗り継いで出勤。 昼食にサンドウィッチを食べながら、卒研ゼミ開始。 補遺に寄り道して、 停止時刻、任意抽出定理などを終え、 次は直積測度とコロモゴロフの定理の予定。 訳書ではこの補遺のところの翻訳はだいたい私が担当したのだったが、 任意抽出定理のところで、 接続詞の前と後ろを逆に翻訳している間違いを発見して赤面。 きっと訳書で勉強している人は、 こんな間違いをしてよっぽどこの訳者は数学が分かっていないな、 などと思っているんじゃないだろうか。 某 H 大の方の書評によれば、 この翻訳では 5 箇所、原書にない間違いが加わっている、 とのことである。 原書は名著ではあるが、翻訳の改訂が出るチャンスはあるかなあ。 卒研の後は、臨時の教授会。 帰宅して、夕食は葱と油揚げなどでいい加減なパスタ。 夕食後は自転車操業で明日の講義の予習。

隠れた名著シリーズ第一回、そして最終回? "On food and Cooking: The Science and Lore of the Kitchen" (by H. McGee)を amazon で購入。

amazon で思い出したが、amazon のカスタマーレヴューは、 ときどき凄いことが書いてある。 例えば、「岩波 数学辞典」に対して、 説明が分かり難いのは 「著者が実は執筆項目についてあまり良く理解していないからだろう」 と書かれているのを目撃したことがある。おいおい。 恐るべし、amazon カスタマーレヴュー。 電気製品などのカスタマーレヴューは役に立つのに、 書籍についてはさっぱりなのは、 やはり本と言うものが非常に複雑な商品である、と言う証拠だろうか。



2005/11/09 (水)

3n + 1 問題 (math)

午前は「プログラミング演習」で 3n + 1 問題の実装など。 午後は「情報理論」。 3n + 1 問題と言うのは、 勝手な自然数から始めて、 偶数なら 2 で割る、奇数なら 3 倍して 1 を足す、 と言う操作を繰り返していくと必ず最後は 1 になる(だろう)、 と言う予想のことで、かなり昔から知られている未解決問題。 現代数学をもってしてもこんな簡単なことが証明できない、 と言うことはいささか奇妙ではある。 しかし、何と言えばいいのか…、 筋の悪い問題と言うものがあるもので、 手のつけようがない、と言うか、 数学の言葉にし難いというか、 簡単そうに見えても今のところ歯の立たない問題は多い。

学生時代からこの問題に興味を持っていた K 大の S 君に聞いたところによると、 この予想が有名数学者シナイによって最近、少し進展したらしい。 そのとき S 君と一緒にその論文を見たところ、 かなり難しいが手をつけられないわけではない、 と言った程度の難問に問題をすり変えたものの性質を調べているようだった。 S 君が言うには、シナイはこういう問題設定がうまいそうだ。 それはともかく、 こんな娯楽数学的な問題にも興味を持っているシナイって、ちょっと好感が持てる。 いかにもエルゴード理論らしい問題ではあるから、自然なのかも知れないけど。



2005/11/10 (木)

明鏡当台、妍醜自辨 (日常, books)

昼食のあとに、少し仮眠を取ると午後の仕事がはかどる、 と聞いたのを真に受けて、ちょっと横になったら、 二時間熟睡してしまった。反省。 と言っても、夜あまり寝ていないと言うわけではなく、 夜もやたらに良く眠れる。

明日のセミナの準備をしていて、 帰国してから全く進んでいないことに気付く。 やってないわけじゃないのだが、 進展しないときは進展しないのだね。

最近の読書、「碧巌録」。 寝る前にちょっと読んだりするのだが、 おもしろいほどにさっぱり分からない。 明鏡台ニ当リテ、妍醜自ラ辨ズ。 ばくや手ニ在リテ、殺活時ニ臨ム…




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