「Keisuke Hara - [Diary]」
2005/11版 その3


2005/11/21 (月)

1 + 1 = 2 (日常, math)

午前もちょっと予習してから衣笠に出勤。 午後から「数理の世界」と、続けて「情報の数理」。 レポート提出が増えてきた。 「数理」の方は、超現実数で無限大や無限小などが「数」として定義できることを示し、 さらに足し算を定義し、「数」についての最終回にふさわしく、 1 + 1 が 2 に等しいことを証明した。 来週からは非ユークリッド幾何入門をしようかと。 「情報」では、エントロピーについて講義する前に、 今日はまるまる一回分をとって対数について復習した。

子供の頃、「思考機械の事件簿」と言う推理小説を読んだ。 主人公は「思考機械」と綽名される天才学者、 オーガスタス・S・F・X・ヴァン=ドーゼン教授 (記憶で書いているので、名前はあやしい)で、 その奇怪な天才ぶりを表すエピソードとして、 「2 足す 2 が 4 であることを証明するために、 生涯を捧げている」とか書かれていたように思う。 そのときは、そんな馬鹿な、と思っただけだったが、 今になっておもえば「思考機械」教授は超準的数学の研究をしていたのかも知れない。 そう言えば、シャーロック・ホームズの宿敵、 モリアーティ教授も数学者で、 「二項定理」の論文を書いている、と原典に書かれている。 子供のころにその記述を読んで、 二項定理なんて簡単なものをなんで数学者が研究することがあるものか、 と思ったものだが、 これもまた今になって思えば、 モリアーティ教授は言わゆる q-解析の研究をしていたのかも知れず、 あるいは二項分布のテイルの精密評価を出していたのかも知れず、 さすがに一流数学者だったのかも知れない。



2005/11/22 (火)

天才のチェス (日常, chess, thoughts)

またサンドウィッチを食べながら、卒研ゼミ。 分布の弱収束の概念と性質について。 もう来週が最終章の中心極限定理で、Williams は終わりそうだ。 書類作成と、生協で買出し。 注文していた "Fooled by Randomness -- The Hidden Role of Chance in Life and in the Markets" (N.N. Taleb) が届いていたので、読みながら帰宅。 大学を辞めたらヘッジ・ファンドでもやろうかと思って、 その勉強のため(嘘含有率は何パーセント?)。 夕食は、DVD で「ガタカ」を観ながら湯豆腐。 食後は原稿書きと、来週の講義の準備。 今週は木曜日から出張なので、先に沢山こいでおかないと転倒する。

昨日の「思考機械」の続き。 また、この主人公「思考機械」の天才ぶりを表すエピソードとして、 チェスを全く知らないところから、コーチについて数週間学んだあと、 大会で優勝したとか書いてあったと思う(記憶で書いているので確かでないけど)。 これはうまい表現だと思う。 と言うのも、ふつうならうっかり、この人はあまりに天才なので、 チェスのルールを覚えたらすぐプロに勝った、 と言うようなことを書いてしまいがちだろうからだ。 実際、私はそんなエピソードを「実話」として聞いたことがある。 しかし、いくら天才でもこれはあり得ない。 ニュートンが「巨人の肩」の比喩で語ったように、 個人の能力がいかに超人的であっても、 科学やチェスなど人類の理解が積み重ねられていく分野では、 一人でスクラッチから始めて先端に出ることは到底できない。



2005/11/23 (水)

愚かな決定 (日常, books)

勤労感謝の日だって? 関係ないね… 朝は「プログラミング演習」。やはり、リフルシャッフルの問題を出題してみた。 昼食は、朝作ってきたお弁当。 続いて、午後は「情報理論」。 Shannon-Fano コードについて。 今日は教室会議はお休み。 帰国以来、教室会議は毎週になったのかなあ、 と思っていたら、ここ最近は隔週くらいのペースになってきたみたい。 結構なことだ。

今日の読書。 「愚かな決定を回避する方法」(C. モレル/横山研二訳/講談社+α新書)。 原書の副題が一番、中身を表しているだろう。 「執拗に繰り返される徹底的に間違った決定に関する社会学的考察」。 人間や、組織や、そのリーダが下す奇妙で愚かな決定による失敗と事故の事例を挙げ、 何故そのようなことが起こるのかを考察した本。 ただし、邦訳タイトルにある、 それを「回避する方法」はどこにも書かれていない。 つまらないビジネス書かなと思って手にとってみたら、 紹介されている事例が面白くて、意外に楽しめた。 例えば、大型タンカーの衝突事故の航路の大多数は、 "noncollision-course collision", つまり衝突するはずもなかった航路から、 直前にあえて衝突するよう舵をきったための衝突だそうだ。 チャレンジャー号事件も事例に挙がっている。 有名な大事故だけではなく、 誰も望んでいない計画を実行してしまって、 しかもそれを執拗に続け、止めようとしない、 日常の中の「愚かな決定」の例も挙げられ、分析が加えられている。

しかし、ここで挙げられている愚かで奇妙な決定の事例たちは、 私の目からはそれほど奇妙でもないと言うか… 著者はどうして、大学に、特に私立大学に取材してくれなかったのか、 とても残念だ。 面白い奇妙奇天烈な素材が沢山あるのに。



2005/11/24 (木)

渋谷滞在 (日常)

午前中は来週の講義の準備、 昼食のあと、さらに予習。 結局、夕方近くの新幹線で東京に移動して、渋谷のホテルに到着。

到着してすぐ、渋谷のネットワーク技術者(最近は、監査専門らしい) N 氏から、 明日の会食の待合せ場所のメッセージ。 戦慄サーバの管理をしていただいている snagai 氏である。 一年半以上会っていないこともあり、 この出張の機会に夜に一緒にお食事でもしましょう、 いつもの御礼として私がおごらせていただきますよ、と連絡しておいたところ、 氏から待合せ場所に指定された場所は神泉駅。 神泉で食事?神泉…(15秒経過)…松濤のシェ・松○か? うーん、どきどき。

夜は、一年半ぶりぐらいに、「黒い月」に挨拶に行く。 バーテンダは記憶が勝負なのか、 勿論良く覚えていてくれて、カザルスの無伴奏をかけてくれたり。 おすすめのグラスワイン一杯と、 デュジャクのマール・ド・ブルゴーニュを一杯、 隣に座ったバー犬コシュにつまみを半分くらい食べられながら飲む。 このマールは前にも飲んでいて、私のお気に入りだそうだ、 ワインと葉巻についての愛を目をあわさずに語る女主人によれば。 11 時頃、切りあげて明日に備えて寝る。



2005/11/25 (金)

スキヤキ (日常)

慶応大学の矢上キャンパスでのシンポジウムに参加。 慶應の院生たちが中心に運営した若手セミナという格好で、 数理物理の視点からみた色々な数学のトピックの講演が並ぶ。 直接自分の専門に関係がないこともあり、なかなか楽しい。 最後の特別招待講演は、ポリテクのブルギニョン教授で、 キリング・スピノルとか超重力理論とかやたらに難しい話をしていたが、 質疑の時間の最後に高等研究所の宣伝をしていて、むしろそれが興味深かった。 今回の来日の目的の一つはこの宣伝活動らしい。 もちろんハードルはかなり高いはずだが、 日本人の若手大歓迎だそうだ。

夜は神泉で待合わせて、渋谷のネットワーク技術者 N 氏と会食。 高級フレンチとか言われたらどうしようかと思っていたところ、 予約されていたのは鍋/鋤焼料理の店でちょっと安心。 鋤焼ってひさしぶりだなあ…二年ぶりくらい? その後は近所のバーで少し飲んで、 ホテルまで送ってもらう。



2005/11/26 (土)

最終日 (日常)

シンポジウムの最終日。このように週末に開催してくれると、 出席し易くていい。 量子群の話などはほとんどついていけないなりに、 何が問題になっているのか少し分かったし、 ヤング図形とシューア多項式の一般化の話などは面白く聞けた。 面白い数学が色々あるなあ。 シンポジウムの後に "Pathway Lecture" と題されて予定されていた、 香港大学の女性数学者 J-H. Lu 先生によるポワソン幾何についての特別連続講義も聴くことにする。 一つ目の講演(全三回の二回目) では非常に明解にポワソン構造とシンプレティック幾何を解説してくれ、 いい勉強になった。 しかし、二つ目の講演ではラグランジュ分割のあたりから急に分からなくなり、 最後の20 分くらいは座っているだけだった。

シンポジウムの最後には、 H 大と N 大の院生がそれぞれ、 冬にまた若手セミナ的なシンポジウムを開く予定だと宣伝していた。 やっぱりやってる人はやっているのだなあ。



2005/11/27 (日)

コソウ熱 (books)

渋谷の巨大本屋の新刊書コーナーに、 S. レムの「枯草熱」を含む「天の声・枯草熱」の新訳 (正確には旧訳を下にした改訂というところのようだ)が出ていて、 それは大変けっこうなことなのだが、 訳者あとがきを立読みして愕然とした。 私は常々、この SF 確率論的ミステリ「枯草熱」を傑作だと宣伝してきたが、 常に「かれくさねつ」と言っていた。 本当は「こそうねつ」だった。 うー、かなり恥ずかしいなこれは。 その時々に会話していた相手は、 「ここで訂正してあげるべきかな、気付かないふりをしておいてあげるべきだろうか」 などと思い悩んでいたのだろうか…


2 と 1/2 (chess)

東京出張のついでに、 日曜日にあったチェスの公式試合に参加してきた。 (現実に相手と対面する)ボードゲームの公式戦に出るのはチェスに限らず、 生まれて初めて。 Teach yourself シリーズの "better chess" に、 「これはあなたに、より良いチェスとは何かを教える本であって、 より良いチェスの指し方を教える本ではない」 と断り書きがあったのを思い出した。 それくらい、棋譜をとりながら、時間を決められて公式対局をするのは、 チェスについて議論するのと全く違うものだった。 今回の目標は、(1) どんなに時間に追われてもリアルタイムで棋譜をとる (*1)、 (2) 4 対局を勝ち越す、 だったが両方とも一応ぎりぎりクリアした。

*1: チェスの公式試合では自分で棋譜をとることが義務づけられている。 とは言え、そんなに厳しく守られていないような。



2005/11/28 (月)

負けて悔しき (chess)

昨日の一敗の相手は学生らしきお嬢さんだった。 自分ではかなり優勢だと(誤って?)信じていたためか、 攻め切れずにあがいた上に持ち返され、 1 ルークただ取られの大ポカを放って事実上負け、 しかもそれが納得できずにずるずる続けてしまった。 後で思い直すに何とも悔しい。 しかし、夜、棋譜を整理しつつ調べていたら、 この人がこの前の全日本女子で中川笑子さんと同率二位になっていたことを知って、 ああそれなら負けても当然か、と急に納得して良く眠れた。 むしろ、それならさらに綺麗な態度で指すべきだった、 と反省すべきところなのに現金なものだ。


公準 (日常)

衣笠講義日。 「数理の世界」は非ユークリッド幾何学へのイントロとして、 ユークリッドの「原論」の最初の定義と公準の中から、 平行線公理の説明に必要なところをやった。 公準って、初等幾何くらいでしか聞かない言葉だけど、 悪くない響きではある。 「情報の数理」はエントロピーの定義と、 簡単な具体例によるエントロピーの計算。 今日は、中間レポートの提出締切りで、 実際の聴講者数の二倍はありそうなほどレポートを受けとった。 それぞれ二百弱ずつくらい。 かばんに入れると持ちあがらないほどの重さ。 文字通り、ふらつきながら控室に戻る。 これ全部に目を通すのか…



2005/11/29 (火)

あなたはこの講義を「(1)それなりに (2) かなり (3)ほとんど」理解している (日常)

さすがに週末休まないと、きついなあ… 朝がなかなか起きられず。 12 時半からサンドウィッチの昼食をとりつつ、 卒研ゼミ。 Williams の最終章、中心極限定理について。終了。 次からは Durrett の教科書をやる予定。 彼は大学院は O 大に行くことになっていて、 この教科書を勉強するように言われているらしいので。

私の知らない内に、全講義で学生アンケートをとることになっていたらしい。 この前は、自分が持っている講義の中で一つだけだったのになあ。 そんなわけで、 昨日はそれぞれ 100 人以上聴講者がいる衣笠講義二つでアンケートをとったし、 今日はマンツーマンの卒研ゼミでさえアンケート記入をしてもらった。 明日も、「プログラミング演習」と「情報理論」の講義でアンケートをとる。 ところで、教員用アンケートもあって (講義別に全く同じ質問に何度も答える)、 最後にこのアンケート自体についての質問がある。 大体、こんな感じ。 (1) 学生からの評価は信用できない (2) 授業時間が取られるので困る (3) 学部や大学が必要と言うなら協力する (4) 授業の改善に生かしたい(複数選択可)。 アンケートと言うものは、そもそも、 回答選択肢を作った側の意見を反映してしまうものだ。 この設問で言えば、 この選択肢を作った人間はこの四つが同じ方向の四段階だと思っているのだ。 もちろん、(1) から (4) に向かうごとに望ましい、とも思っている。 学生向けのアンケートで言えば、 授業は「双方向的であるべきだ」とか、 「視聴覚設備を生かしたものであるべきだ」と言う見解が露骨に反映してしまっており、 極端な意見を外すと、自然と作成側に都合の良いものが選ばれる。 私はアンケート作成者側に意図や悪意がある、と言っているのではない。 自然とそうなってしまうものなのだ。



2005/11/30 (水)

ぽん酢 (日常)

朝、「プログラミング演習」。 昼食、生協サンドウィッチ。 午後、「情報理論」。Shannon の第一定理と証明、 具体的な例でさらに別証明。 続いて、 四時から七時二十分まで教室会議。 やれやれ…

家に到着して、早速一人鍋を作成。 幸せとは何か長らく考えてきたが、 最近になってようやく答が出た気がする。 幸せとは、ぽん酢醤油のある家だ。




この日記は、GNSを使用して作成されています。