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パッセカルトン工程
作品一覧
 『LA LETTRE』
 『マルドロオルの歌』
 『LA LEURRE OPTIQUE』
 『羊飼の時計』
 『LE TEMPS DE LE DIRE』
 『天使の生成』

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工程の説明、写真はすべて、羽田野麻吏によるものです。各工程の詳細は右下のプルダウン・メニューからもご覧になれます。お問い合わせはこちらまで。

パッセカルトン 1 本を分解する

本文を糸綴じする下準備として、本を折丁ごとにバラバラにします

仮綴じされている本は糊がほとんど使われていないので、綴じ糸を切るだけで済みます。既に版元製本されているものを製本し直す場合は、表紙を取り外して背に付いている寒冷紗や接着剤などを剥がし、必要があれば修理するなどしてきれいにします。箱や表紙の紙もボール紙から剥がして裏打ちし、カバーや扉など、全てあとで本文と一緒に綴じられる状態にします。

この本は未綴じのものでしたので、そのままの状態で作業が進められます。製本されることが前提とされたこのような本に会うと、やはりうれしいです。「お待ちどおさま」といった感じです。
丈夫さと特別な装いを得るとは言え、日本の出版界で流通上正しい形をしているまだ新しい本をルリユールするときは、分解作業に違和感がうっすらとつきまとい、「悪いようにはしないから」などと本に向かって呟きそうになるのです。この作業の間だけですけれど。(時と場合によっては「ヒギンズ博士になった気分で闘志に燃える瞬間」でもある。かな?)
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パッセカルトン 2 紙の準備 

本文の前後につける8ページ分の遊び紙と保護紙を用意します

遊び紙は、本文紙と同じ紙か、厚さ・色・質感の似たものを探します。古い本はなかなか同じ様な紙が無く、紅茶で染めて似せることもあります。「白い紙」というのは一体何種類あるのかと腕組みすることもしばしば。
保護紙は1枚1折り、作業中本文を汚れから守る他、貼り込まれる見返し紙や革のためのゆとりを確保する役目もあるので、その点も考慮して厚さを決めます。
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パッセカルトン 3 折り直し 

各折丁の版面を揃えます

折丁は2〜4枚の本文紙が重ねて2つ折りにされた形になっていますが、もとはテクストが両面に印刷された1枚の紙で、それを折り畳み、三方を化粧断ちしたものです。ですから、印刷が表裏でずれていたり正確に折り畳まれていない場合は、本をぱらぱらとめくった時に文字が上下や左右に踊って見えます。
このずれを最小限に整えるのが折り直しです。一折りの1枚(4ページ分)づつの印刷面が同じ位置に来るように折り直し、それを元のように重ね、折丁の状態に戻していきます。もちろん全てのページについてです。ちゃぶ台に裸電球を連想させる、全行程で一番地味な作業です。たぶん。
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パッセカルトン 4 サティナージュ  

1折ずつボール紙に挟んで48時間プレスに入れます

折り直しの終わった折丁を落ち着かせ、次の作業をし易くするためです。通称「2トンプレス」という(横綱の突きも2トンとか?)勇ましい呼び名を持つプレスで、しっかりと圧をかけます。
ハンドルを回した勢いでプレスごと動かないように、台に足を掛けて「カーン」と力強い音を出している姿は、初めて見る人をちょっと驚かせるようです……。
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パッセカルトン 5 切り揃え  

天・地・小口を切り揃えます

折り直しによって印刷面のずれは小さくなりますが、その分天地や小口にずれが出ます。綴じて折丁が一つの固まりになったとき、3方の小口が面として見えるよう一折りずつ切り揃えます。天は背との直角をとりつつ、地・小口もできるだけ切らずに、最小限のカットで整えます。一番小さいものに合わせて天をカットする方法もありますが、この場合はつるつるの平らな面になります。
この作業は「シザイユ」という、大きな重い刃の付いた道具を使います。カルトン(表紙のボール紙)や折丁を同じサイズに切ったり、直角を出す時に便利な道具です。(柄澤齋『ロンド』では人の首を切るために使われていましたが……。)切ってしまったものは元には戻りません。慎重に作業するに越したことはありませんが、あと一筋、一筋と何度も重い刃を下ろし、全ての折丁のカットを繰り返すと、さすがに腰が痛くなることも。でも、その一筋で、がらりと景色が変わることが間々あるので油断は大敵なのです。
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パッセカルトン 6 組み立て  

別丁を本文に張り込みます

もとの表紙や別丁の扉、挿し絵などにテープ状の和紙を貼り、折丁に貼り足します。
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パッセカルトン 7 ブロックプレス   

折丁をひと固まりにし、48時間プレスに入れます

折丁をノンブル通りに重ね、背と天小口を直角に整えた状態でプレスに入れ落ち着かせます。これまでの作業が正確であればなんのことはないはずですが、あちらを建てればこちらが建たず、圧がかかった途端に動いてしまったりと、結構手間取るところです。
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パッセカルトン 8 目引き 

折丁を綴じるための糸を通す穴を開けます

全ての折丁の同じ位置に糸が通るように背と天を良く揃えた状態でエトーに挟み鋸で刻み目を付けます。両端を除く5カ所をV字型にしてあるのは、かがる時にフィセル(麻の綴じ紐)がその窪みに収まるようにするためです。
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パッセカルトン 9 かがり 

かがり台にフィセルを張り、1折りずつかがっていきます

かがり台にフィセルを張り、一折りずつ綴じつけていきます。1本の糸が外のフィセルを抱えながら折丁の内側を通ることによって、全ての折丁がフィセルによって連結した状態になります。背は糸の入った分だけ膨らむことになり、それが背の丸みを作ります。糸はかがり終わったときに本の背が束の3分の4の厚みになるように計算して決めます。本文紙の堅さや糸の引き具合、折丁の数などが微妙に作用し合い、計算通りに行くとは限りません。背が思うように上がらず途中でかがり直すこともしばしばです。
習い始めたばかりの人には、ようやく製本しているという実感の湧く作業でしょうか?
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パッセカルトン 10 背固め  

かがり終わった本の背を平らに固めます

本をボール紙に挟み背だけ出した状態にし、膠を塗ります。金槌の平らな部分を利用してこすり、一折り一折りの丸みを潰すようにして平らにし、そのまま乾かして固めます。左右の手に力の差がありすぎるのか、左手が右手の金槌にどうしても負けてしまうのでこの作業は一番苦手なところかもしれません。
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パッセカルトン 11 カルトンの準備  

本の大きさに合わせカルトン(表紙の厚紙)を切ります

本の大きさや厚さ、重さなどからカルトンの厚さを決めます。
今回は表紙の内側に絹をはめ込むので、後でくり抜けるように細工した、貼り合わせのカルトンを作っています。本の天地左右の寸法を測り、一回り大きなサイズでカルトンを用意し、内側になる面によく伸びる紙を膠で貼ります。
水分が入ると紙は伸び、乾くと縮みます。その性質を利用し、カルトンの片面に紙を貼ることによって、あらかじめカルトンを内反りさせておくのです。これは後で表紙に貼る革や紙がカルトンを外側に引っ張る力と、バランスを取るためです。乾いたら、天の角を直角に切り、化粧断ちしておきます。
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パッセカルトン 12 丸み出し 

本の背に丸みをつけます

フィセルのヨリを解し、背固めした本の背を海綿でわずかに湿らせます。左手で本の前小口を引きながら、右手の金槌を背の丸みに合わせて角度を変えながら叩きます。
かがりで増えた背巾は、丸みによって吸収されることになります。ここでバランスよく均等な丸みが出ているかどうかが、後の作業の明暗を分けます。背の丸みはそのまま小口に反映されますから、小口にきれいなカーブが出ているかが確認のポイントとなります。

背の丸みは時代によって、かなり平らに近い形に仕上げるなど、好みや流行で特徴がある部分ですが、一般的には薄い本は強め、厚い本はやや弱めの丸みにします。
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パッセカルトン 13 耳出し 

カルトンの厚みと同じ高さの耳を出します

丸み出しの終わった本の背の端の部分が、カルトンの厚さより少しだけ多めに出るように調節して、エトーにしっかりと挟みます。
金槌の薄い部分を使って天と地を左右に倒します。綴じ糸の入っていない端の部分は叩くことが出来ないので、予め金槌を押しつけるようにして開き、大まかに形を作っておくのです。その後、背の中央から両側に順に少しずつ折丁を叩いて倒します。
倒れて折れ曲がったところを「耳」と呼び、ここにカルトンがぴったりと納まることになります。エトーから出して重石を乗せて一晩おき耳が戻っていたり、背の丸みの形が悪ければ金槌で整え直します。
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パッセカルトン 14 フィセルを通す 

カルトンにフィセルを通します

フィセルの先を糊で平らに固めておきます。フィセルの位置をカルトンに写し、端から10ミリ程のところに平目打ちで穴を開けます。フィセルを穴に通し 、きっちりと均等に引き、尚かつ若干の遊びを持たせます。すぐに抜けないように金槌で穴を潰し、糊で固めたフィセルの先をもう一度ほぐしておきます。これはあとでプレスに入れたときに本文にフィセルの跡が付かないようにするためです。
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パッセカルトン 15 フロッタージュ前のプレス 

このあとの工程(フロッタージュ)のために、プレスします

本に歪みがないか慎重にチェックした後、プレスに入れ一晩おきます。
パッセカルトン 16 フロッタージュ 

背の丸みを整え寒冷紗を貼ります

金槌で耳だしした後の背には、まだ折丁個々の丸みやフィセルの出っ張りなどが多少残っていたりします。背だけ出るようにプレスに挟んだ本の背を、フロットワールという木ベラで擦り、滑らかでシンメトリー且つ、ほんの僅か真ん中辺より天地の方が窄まった葉巻型にします。
背が綺麗に整ったら膠で寒冷紗を貼ります。背に入った湿気がしっかりと乾く迄、2晩プレスに入れたままにします。背を頭の凹んだ木ベラで擦るだけなんですけどね、「フロッタージュ前のプレス」も入れて3晩かかります。
お気づきのことと思いますが、じっと待つ、というのが作業工程のあちこちにくっいてきます。焦れったい方もおられると思いますが、この「待ち」の間に本という物体の質量が増していくような気がします。もちろん大きさは変わりません、気がするだけなんですが。因みに、「フロッタージュ」は絵画用語でも使われます。幼稚園の時に葉っぱに紙をのせて上から鉛筆で擦って拓本?したことがあると思いますが、あれです。
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パッセカルトン 17 ラッパージュ 

天地の小口に歪みがある場合はやすりで調整します

パッセカルトン 18 天金 

ヤスリをかけ整えた小口に金つけします

現在は本文の保護というよりも、装飾としての要素が強く、クラシックなスタイルのもの以外は、何もせず白いままにしておくことが多いようです。構造に工夫を凝らした現代的な製本の場合は別として、やはりパッセカルトンは「小口に金の一つも付いていなくてどうする!」といった感があります。絹の花ぎれも良く映えますし重厚感も増します。本全体のバランスを考えると放って置きがたい部分でもあります。天小口のみ、または天・地・前小口の三方に、金やプラチナ、マーブル染めなどをします。完璧に平らにした後、卵白を使って金箔を密着させ、さらにめのう棒で擦って定着、艶出しをします。通常は専門の職人さんに依頼します。
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パッセカルトン 19 花ぎれ編み 

背の天地に花ぎれを綴じ付けます

楽器の弦や、紙を巻いて作った綿棒の軸のような細い棒を芯(バトネ)にして、チリと同じ高さの花ぎれを編みます。背の丸みに合わせてカーブさせた2本のバトネに、絹糸を巻いていき、何目かおきに本文にも刺し、固定しながら編みます。別に作った花ぎれを貼り付けるよりも、ずっと丈夫ですし、色と目数によってデザインも自在です。今まで地味な作業や、力仕事の続いていた裸んぼうの本に最初に色の入る作業ですし、小さな部分ですが絹糸を選びながら頬の緩む楽しいところです。もちろん、表紙と本の背の高さを揃えるために必要な重要なパーツでもあります。今回は表紙に装飾のない様式の本ですので、色は1色のみ、糸も太めの穴糸です。比較的モダンなデザインの本には、ミシン用の細い絹糸を使ってアシンメトリーな模様にするなど、色も模様も本に合わせて様々です。(まだまだつづく)
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