Keisuke Hara - [Diary]
2000/01版 その2

[前日へ続く]

2000/01/11 (Tues.)

本年度、初の出勤。 「確率現象論」の補講の後、修論と卒論のゼミ。 修論も卒論も、どうなることやらと思っていたが、 どうにか目鼻がついて、何とかなりそうな気配でちょっと安心か。 これから後ひと月あまり、大変だろうが頑張って欲しいものである。 その後、今年一回目の教授会。 教授会の合間に、ばりばり積分計算をするも結論は得られず。

確率現象論のレポートを、 確率「減少」論と科目名を間違えて提出してくる学生がいて、 ちょっとくらくらする。 あくまでうっかり書き間違えたのだと信じたいが、 本気でそういう科目だと信じてたりして。
ところで、 成績報告は今週末ですから、まだの人は急いで出しましょう。

昨日一昨日と休日を遊び過ぎて、 初出勤日なのにふらふらしていた。 昔は一日寝れば疲れが取れたものだが、 最近は二日三日しないと体調が元に戻らないのは、 やはり年のせいだろうか…


2000/01/12 (Wed.)

朝、九時半から夕方六時まで期末試験のトラブルに備えての研究室待機。 具体的にはカンニング発覚の時の対応である。 その間に、十一時から情報学系の会議。 夕方四時から学生委員会の会議。 今日は試験中のトラブルはなかったようだ。 ずっと部屋に籠っているので、 計算でもしようかと思っていたのだが、 今日になってすることがたくさん出てきて、 結局そんな時間もなく、 書類を作ったり会議に出たりしている内に一日が終わった。

他の委員会はよく知らないが、 学生委員会はもっとも心がすさむ会議の一つなのではないかなあ…

締切は過ぎているのだが、今日もいくつかレポート提出があった。 昨日の「確率減少論」に続き、 「確立現象論」(かなり惜しいが、数学ではなさそう) とか「確率表現」(遠いようで意外に近い)とかいうレポートである。 最近の僕は三年間の修行の結果、 一度も出席しない学生の、 聞いたこともない教科書の丸写しレポートでも、 当然のように莞爾と受けとれるようになったが、 せめて科目名くらいは正しく書いてあげようよ。 心枯れ果てつつある先生のために。

ちなみに成績の評価方法は、 「確率現象論」と正しく科目名を書けた人が A で、 字を一つ間違えるごとに、B, C, D と減点します。 さて、ここで問題です。 「確率減少論」、「確立現象論」、「確率表現」 の評価はそれぞれどうなるでしょう?
(本気にしないように :-)


2000/01/13 (Thurs.)

大学へ。 今日は情報学科に外国からインタビュアーが来ていて、 私も二十分ほど面接を受ける。 私は初対面の人との会話がそもそも苦手な上に、 加えて英語力が貧弱である。 外国人に突然道を聞かれたりすると、 その場からダッシュで逃げ出したくなるほどだ。 そういうわけで、 通訳がついてくれていたにも関わらず、 噛み合っているようないないような、 フラストレーションのたまった時間であった。

昼御飯を学校の食堂で食べていたら、 一生懸命、図書館で借りてきた教科書の一部をひたすらノートに写し、 「よし、これで二単位。次行くぞ」 とまた次の教科書を写している学生がいた。 まあいいんだけどさ…

岡潔の講師時代に松原というまだ学生の友人がいた。 松原があと微分幾何の単位さえ取れば卒業と言うときに、 試験日を間違えてしまった。 岡が同僚であるその先生に頼んでやろうと言うと、松原は
「自分はこの講義はみな聞いた。試験の準備もちゃんとすませた。 自分のなすべきことはもう残っていない。学校の規則がどうなっていようと、 自分の関しないことだ」
と言い切って、そのまま卒業証書を受けなかったそうだ。 偉大なオカが畏友と言うくらいの松原を見習えとまで要求しないが、 もう少しプライドというものがあっても良いと思うのだが。


2000/01/14 (Fri.)

午後から卒論のゼミをして、三時からミーティング。

たいしたこともしていないのに、 疲労困憊の仕事始めの週だったなあ…

ふらふらしながら家に戻って、 ビルスマのボッケリーニを聴きながら、 ソファで仮眠する、というより、しばらく意識を失なってしまう 一時が極楽な今日この頃。

「もし神が音楽を通じて人間に何かを語りかけたいときは、
ハイドンの交響曲を選ぶだろう。だが、神自身が音楽を楽しみたいとき、
選ぶのは間違いなくボッケリーニだ」
 カルティエ(ヴァイオリニスト、1765-1841)

簡単な夕飯を作って食べ、一休みして、 チェロを少しさらう。 さて、お酒を飲みながら本でも読んで寝よう。


2000/01/15 (Sat.)

午前中はチェロのレッスン。 去年末から久しぶりなので、 なんだかスケールがかなりでたらめになっていた。 スケールに関しては、 我ながら満足に出来たということが、今だかつて一度もない。 いつか綺麗に弾ける日が来るのだろうか。

高い方の弦もガットにしたので、 チューニングはペグでやらなければならない。 右手で重音を弾きながら左手でペグをまわして音を合わせるのだ。 これがなかなか難しい。重音を弾くだけでも難しいのに、 その間に固いチェロのペグを回して音が合った所で留めるのである。 低い方の弦のペグは楽器の右側、弾く私から見れば身体側にあるので、 この場合は楽器の左側面を左足の内側に押しつけるようにすれば、 弦を鳴らしながらでも、うまくペグに力を入れて回せる。 しかし、高い方の弦のペグは楽器の左側、 弾く私から見れば外側にある。 どうやればペグにうまく力を入れることができるのだろうか? 年末以来、ずいぶん悩んでいたのだが、 今日先生に聞いて明解な回答が得られた。

回答、「楽器の首に自分の顔を押しあてるのです」
なるほど…言われてみればそれ以外にあり得ない。

夕方から、 上洛中の O さん、ゲームプログラマ km さんと新年会。 先斗町にある豆腐屋の二階で湯豆腐を食べる。 美味しいのだが、あわただしいのが欠点か。 その後、祇園に移動し、「八咫」の二階にあるバーで飲む。 ワインを一本とカクテルを三杯ほど。 なんだか、なんとかの二階、ばかりだな。


2000/01/16 (Sun.)


2000/01/17 (Mon.)

大学へ。 投稿していた論文の初校の連絡が来ていて、 締切が今日だと言うので大慌てで校正する。 校正しながらも、 自分の論文のあまりの下らない内容に我ながら情けなくなって、 気持が落ちこんでしまったせいで、校正をfaxで送ってすぐ帰宅。 見れば見るほど何も内容が無いような気になってきた。 今回はわずか2ページの論文なので、 質だけではなく量的にもおそらく我が人生で最低であろう。 (もちろん数学の論文は内容が同じなら短かければ短かいほど良いので、 ページ数が少ないことは良いことだが)

TK 大の M さんという数学者が、
「一人立ちする前に書いた論文は、自分の力で書いたと思っていても、 実は先生にうまく誘導されたものだから、 大抵が良い結果なのは当然である。 最初に自分で書いた論文は最低で当り前なのだ。 次に書く論文をそれより良くすればよろしい」
と酒席で言っていたことを思い出して、自分を慰めつつ帰宅。


2000/01/18 (Tues.)

衣笠キャンパスで会議。 衣笠の方が本部ということらしく、 たまに遠く衣笠まで会議をしに行かねばならない。 理不尽な気もするが、しょうがない。

今日の会議の後、よい日和だったのでしばらく衣笠をぶらぶらするが、 まだ昨日のアンニュイから立ち直れず。
私の尊敬する故郷の偉大な数学者、 岡潔は大体二年に一本の割合で論文を書いた。 毎日ノートに約三ページ研究をして、 二年間でたまった二千ページのノートの中からその上澄みを掬うと、 ちょうど論文一本になるのだと岡先生は言う。 散歩の途中、校正用の論文コピーを取り出して眺めながら、 私のこの二ページの論文がこの数年の上澄みなのか、 岡先生の言う「希望」なのであるか、「希望」と言えるのか、 と思うとあまりの情けなさに、歩きながらも、はらはらと泣けてきた。

「十考えても、そのうち本当のものである可能性は一つくらいしかない。
その可能性の中で、さらにまた本当のものは十分の一だ。(中略)
可能性の可能性と言うのは、これは「希望」のことなのだ…」
 (岡潔「春宵十話」より)

2000/01/19 (Wed.)

大学へ。雑務を色々。 お待たせしました。恒例の今日のレポート。 「確率積分について」、 なるほど課題に沿った良いテーマである。 しかし、何の記号の説明も用語の定義もなく、 いきなり何かの存在証明が始まってしまい、 まったく意味がわからない。 おそらく何かの教科書の確率積分の章から写し始めたのだろう。 その定義が数ページ続き、存在証明が終了したところで、 次のようにレポートは締め括られていた。

「ところで、まったく別の定義とも一致する。以上」

はあ?ところで?…しばらく悩んだ末にようやく分かった。 彼がコピーしたその教科書では、 次の段落から「まったく別の定義」が始まり、 その二つの定義が実は一致することをその後で説明してあるに違いない。 自分で書き写しながら変だと思わなかったのだろうか… きっとコピー機になりきるあまり、思考停止していたのだろう。


2000/01/20 (Thurs.)

素晴しい Web Page を KS 大の M さんから教えていただいた。 大感激である。ありがとうございます。 最近うつむきかげんであった心が、まさしく晴れる思いである。 感涙に咽びながら、正座をしてこのページを読む。 これからますます、ページを充実させていくとのこと、 奈良女子大学附属図書館の担当者一同を心の底から応援したい。 と思ったら、知り合いの S さんがメンバーではないか。素晴しい。 何か手伝えることがあったら、もう何でもさせていただきます。
これがそのページ、 岡潔文庫です。

来月末あたりに東京で開催される、 我が R 大学企画のファイナンシャル・テクノロジー・スクール (略称 F.T.S)で講義をするので、 その準備のために朝から自宅でかりかりと C でプログラミングする。 講義内容は疑似乱数とモンテカルロ法など。 私は特にそういった分野の専門家ではないのだが、 数学科の某○堀先生またの名を赤○先生の陰謀で、 知らない内にF.T.S.の講師にされていたのである。 でもまあ、 プログラミングはやっただけ進捗するので精神衛生によろしい。 夕方になって、河原町の丸善におもむき、 モンテカルロ関係の専門書のあたりをつける。 さらに喫茶店でその方面のお勉強など。

ちなみに、モンテカルロ法とは、 直接的な理論的解析が難しい問題に対して、 乱数を用いて数値実験を繰り返し、 その期待値でもって本当の値を推定しようというアプローチを指す。 なんでもフォン・ノイマンとウラムが、 原子爆弾を開発する時の解析のために発明し、 その秘密プロジェクトを符牒で「モンテカルロ」 と称したことがその名の由来と言う。

喫茶店で本を読んでいてちょこっと計算した後に、 ペンに蓋をしないでシャツのポケットに戻したらしく、 家に帰ってみたら、青いシャツの左側が真っ黒になっていた。 う、せっかくのカルバン・クラインが、、、 シャツを脱いだら、私の左上半身も真っ黒。 気付けよ、私… 救いは水性インクだったことか。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp, kshara@mars.dti.ne.jp

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