Keisuke Hara - [Diary]
2001/10版 その1

[前日へ続く]

2001/10/01 (Mon.)

午後は情報学科での卒研案内でスタート。 (1)数学科と共通、しかもゼミ形式なので辛い、 (2)しかもゼミしかしていないのに卒研発表もしなくてはいけなので辛い、 (3)就職に有利なことは何もない、って言うよりむしろ不利なので辛い、 の三重苦であることをよくよく説明しておく。 人生の選択において、 避けられる誤ちは避けるに越したことはない。

続いてM1の解析ゼミ。 灰皿を投げつけてから目を釣り上げて説教する(嘘)。 本当はにこにこと温和な笑顔で、 「線形代数の初歩がちゃんと分かっていないと、 数学のほとんどの分野で何も出来ないかも知れないから、 よく理解しておいてね」と優しく助言する。

私は学生との関係が薄いので良く知らないのだが、 他の先生方から学生のことを聞くに、 どうも我がR大の数学の学生は難しいことを勉強し過ぎなのではないだろうか。 その割に簡単な微積分の計算が出来なかったり、 2x2行列の線型代数すら良く理解していなかったり、 位相の初歩の初歩も分かっていなかったり、 と先生方がこぼしているのを良く聞く。 数学は積み重ねではあるが、 一つ高い段階に上がると前の段階は「用のなくなった梯子」 として(ロジックとしては)外せることが多い。 とは言え、その昔の梯子が、いざ自分で研究するとなった時に、 唯一使える道具だったりするんじゃないかな、とよく思う。 もちろん、それも私の趣味嗜好なので、 あまり説得力はありませんが…

明日の夜から博多入りして週末まで学会ですので、 次回更新は来週月曜の夜、または火曜の夜です。


2001/10/02 (Tues.)


2001/10/03 (Wed.)


2001/10/04 (Thurs.)


2001/10/05 (Fri.)


2001/10/06 (Sat.)


2001/10/07 (Sun.)


2001/10/08 (Mon.)

火曜に博多入りして週末まで日本数学会。 言うまでもなく毎晩、飲み歩いていた。 日本数学会の年会は日本中の数学者が分野を問わず一斉に集まるので、 普段は顔を合わせないような人に会って消息が分かったりする。 その期間の間は街中が(特に夜は)数学者だらけである。 院生時代に同じ部屋でたむろしていた年下の院生が、 九大で助手になっていて、ちょっと温かい気持になってみたり、 何日目か最後にラーメンを食べに行こうということになって、 中洲の屋台が群れているあたりに行ったら、 同僚のK川先生が分野の仲間とだろうか、 その屋台の一つで激呑みしているのを目撃したり。 まあ、そんな調子で色んな人を目撃したり、 久しぶりに会ったりと。

土曜日に二条に帰ってくる。 知り合いから野菜をたくさんもらったので、 茄子を浅漬にしたり、 里芋を煮てだしを張って冷やしたり、 とあれこれと仕込み三昧の休日を送る。 さすがに田舎で野放図に育った野菜は健康で、 里芋が非常に美味しかったし、 適当に作った茄子の浅漬けまで意外に美味しく出来た。 そこで、これは浅漬などにしておくよりも、 本格的に糠漬けを作ってはどうか、という興味がむくむくと沸いてきて、 早速今日月曜日に糠を買いに行った。 結構、糠みそには抵抗があったのだが、 いったん糠床を作ってみると、 早く発酵しないかなーと待ち遠しい気持ちになり、 「吉兆味ばなし」の糠漬けの作り方の部分を読み返したりしながら、 まだ香ばしい匂いがしている糠床に不思議な愛情さえ感じる私である。

暗号関係の教科書を書く予定の出版社から催促のメイルが来ていて、 正直に「すみません…出来てません」という返事を書く。 進行具合を伝えて、 結局、年末くらいまでは待ってもらえそうなことになった。

学会で移動中、および休日の読書。 「審判」(カフカ)、「ボヴァリー夫人」(フローベール)読了。 短編「無月物語」「玉取物語」(久生十蘭)読了。


2001/10/09 (Tues.)

だし巻きと昆布豆のお弁当を持って大学へ。 午後から卒研をやって、 続いてM1の解析ゼミ。 どちらも不安材料の多いゼミであった。 なんというか、数学の本なのに、 まるで週刊誌かスポーツ新聞のように表面だけをぼんやりと読んでくる。 それで、一週間ずっと考えてました、などと言う。 真面目ではあるのである。 一体どうやって何を考えていたのだろうか。 一回でも演繹をしたのだろうか、 三段論法を一回でも使ったのだろうか。 彼等にとっては、この世界そのものが、 非常にぼんやりとした薄闇のように見えており、 明晰とか簡明とかいったことの対極に暮らしているようだ。 それって、すごく恐くて不安なんじゃないだろうか。 何も、はっきりと完全に分かった、ということがなく、 自分の力でこれだけはきっちり出来る、ということもなく、 何もかもがあやふやで茫洋としていて、 ブラックボックスのボタンを押すことしか出来ず、 どこか分からない所にゆらゆらと流されていくだけの世界。 それが運命づけられていて、どんなささやかな抵抗も不可能な世界。 私のごく近くのここだけでも、とさえ光のささない世界。

ある意味で彼等は、 僕のような近代的な人間に比べて、 すごく先に進んでいるのかも知れない。 自宅で南瓜を煮ながら、こちらまで不安な気持ちになってきた。


2001/10/10 (Wed.)

南京の煮っころと昆布豆の日の丸弁当を持って大学へ。 正午からM2の修論ゼミ。 今日は初めて院生三人が揃う。 それぞれが方向が定まり、 既にまあまあの物を作り始めており一安心。 それぞれ何事か新しいアイデアがあって、 動作するプログラムが書けているので、 後の数ヶ月でなんとか修論になりそうである。 ただ数学科での修論発表と言うことになるので、 数学の先生方が納得してくれるかどうかと言う心配はある。 私としては、 彼等はそもそも情報学科の学生なのだから、 何かしら新しいアイデアが入っていて、 兎に角、動くモノが自分の力で作れていれば修論としては 最低基準をクリアしているだろうと思っている。

ゼミの後は続けて一年生のプログラミング演習。 人数は多いが6名のTAが頑張ってくれているので、 なんとかなっている。 学生の中にはかなり真面目に取り組んでくれている人もいるようだ。 さらに続けて、久しぶりの教室会議。 そのせいか今日は議題が盛り沢山で、結局終わったのは7時過ぎだった。

今年もまた日本からノーベル賞受賞者が出たというニュースを見たが、 それに対するニュースキャスターのコメントは、 「中身はわかりません」のみ。 とにかく科学関係のニュースを、 難しくてわかりませんね(笑)、 といった感じで済ませる偽庶民派はよして欲しいなあ…Nステーション。 杞憂かも知れないが、 ものすごい悪影響があるような気がする。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。