Keisuke Hara - [Diary]
2002/10版 その1

[前日へ続く]

2002/10/01 (Tues.)

京都は雨。午前中はメイルでの連絡の仕事をし、 昼食は韮玉丼と納豆汁、 午後は「積分論 II」の講義の準備。 I に続いて新しく持つ講義なので、一からの準備で手間がかかる。 休憩中に楽器職人の方に電話をかけてアポイントを取つた。 夕食は冷や御飯が少しあまつてゐたので、そばめしを作つてみる。 レシピを知らないので、適当にそれらしく作つてみたが、 まあまあの感じ。冷奴とともに食す。

つい最近まで猛暑だとか言つてゐたのに、 もう雨の日の今日などは背中の方から冷え込んできて、 暖房を入れやうかな、と思つてしまつた。 最近、一年が回転するのが速い。 今年は後期が始まるのが遅かつたせゐで、 あつと言ふ間に年末になりさうだ。

名月や花もあかるしこの座敷、かな… それとも、名月や花も添ひたりこの座敷。 いやいや、名月や花も集ふやこの座敷? これじゃ賑やか過ぎるな… やっぱり僕なら、あかるし、かな…


2002/10/02 (Wed.)

お弁当に卵のサンドウィッチを持つて出勤。 私が子供の頃、母がたまにサンドウィッチを作つてくれると、 それは必ず卵のサンドウィッチなのであつたが、 味つけはケチャップ味であつた。 今ではもちろん、普通はエッグ・サンドウィッチと言ふものは、 マヨネーズ味と決まつてゐると思ふし、 当時も子供ごころに「なにかおかしい」とは思つたのだが、 育ちとは恐しいものだ、 今では自分で卵のサンドウィッチを作ると、 ケチャップ味を一つは作つてしまふ。懐しい味がするのである。

午後はさまざまな事務仕事をし、夕方から教室会議。 久しぶりに会議に出たが、結局7時過ぎまでかかり、 無理にネクタイなど締めてゐたせゐもあり、 何度か気が遠くなりさうになつた。 しかも、何人かの方はその後も続けて会議があつたやうだ。 8時半くらいに帰宅して、簡単に夕食の用意をする。

東京は某 A 社の S さんより、「名月と花」問題に素晴しい解答を寄せていただいた。 「名月や、花も黙せりこの座敷」。 「明るし」には結構、自信があつたのだが、 どうもこれが正解ではないかと思へてきた。


2002/10/03 (Thurs.)

オクラと蒸し鶏の鰹節和えをメインのお弁当を作り出勤。 午後は「積分論 II」の講義。 L^p 空間の定義、ヤングの不等式、ヘルダーの不等式、 ミンコフスキの不等式を順に証明して、 p が1以上の時、L^p 空間がバナッハ空間であることを証明。 講義の後、三名の学生がそれぞれ非常に良い質問をしてくれた。

夕食は蒸し鷄、納豆、オクラと大根の味噌汁。 並行して玉葱をじつくり炒めてトマトソースも作成。 あまつた鶏肉でトマト煮込みを作る予定。


2002/10/04 (Fri.)

昨夜は9時くらいに少し横になつたらそのまま寝てしまい、 気付いたら今朝の9時だつた。九月疲れだらうか… 朝は思ふところあつて WKB 法の勉強。すると、 私が画期的な発見だと思つて論文まで書きつつあつたことが、 とうの昔から知られてゐたことを知つて愕然とする。 物理の方で Coleman と言ふ人がやつたらしい。 この中心のアイデアに気付いたのは Warwick にゐた時で、 今までのささやかな人生では最も電撃的な閃きだつたのだが、 やはり(漠然と予想してゐた通り)知られてゐる事実だつた。 既に某大学の確率論セミナーでも自慢気に話してしまつたので、 なおショックだ。 午後は意気消沈したまま科研費の申請書を書き、 メイルで事務に提出。 今年は科研費マクロが手に入らなくて、初めて MS Word で作成。 慣れない作業でストレスがたまつてしやうがなかつた。 ワープロつて本当に難しい。

ところで、数学の研究と言ふのは、 悶々とした日々(数ヶ月、数年、数十年?)が続いたあとで、 「ああ、そうであったか!」などと、 ヨードチンキの小瓶を見つけたエラリー・クイーンのやうに、 いや、馬車に足をかけたポワンカレのやうに、 突如天啓の如くアイデアが閃き問題が解決するものらしいのだが、 実は私はそういう良い目にあつたことがない (それはろくに仕事をしてゐないからなのだろうが…)。 今までの数少ない仕事でも常に、 「まあ、こうだろうな」と言ふ漠然とした認識が序々に深まつて、 「やはりそうであつた」(または、「全然ウソだつた」)、 と言ふ所で結着したものであつた。 私の憧れの閃きによる解決は、補題程度の小さな証明とか、 友人から聞いたちよつとした頭の体操的な問題とかに限られてゐて、 上の話は珍しく研究結果に結実しさうな閃きだつただけに、 とてもとても残念だ。


2002/10/05 (Sat.)

土曜日は休日。 昼食はトマトと鷄のパスタ、赤ワイン。 午後は昼寝と読書。「ドン・キホーテ 前篇(一)」 (セルバンテス作 / 牛島信明訳 / 岩波文庫)。 夕方から食材を買ひ出しに行き、 夕食はオクラ、納豆、大根の糠漬、大根の味噌汁。 食後は野菜と鶏でスープを仕込む。

この前、執事が真顔で言ふには、 ビールなどの発泡性の缶入飲料を吹き出させずに安全に開ける方法として、 缶を横倒しにして、(机面に対して垂直方向を軸に)三回まわしてから、 プルトップを開けると吹き出さない、とのこと。 今まで常にそんな呪いをしてからビールやコーラを飲んでゐたのか、 と想像すると私の方が吹き出してしまつたが(うまいねどうも)、 私も科学者の端くれである、早速、普段は飲まない缶ビール (バドワイザ)2缶を購入し、実験してみた。 2缶を同じ状態で冷蔵庫に数時間保管してから、 両手にそれぞれを持ち、同じ回数だけ上下に振つた後、 片方は普通にテーブルに置き、 片方は横倒しにして三回まわしてからテーブルに立て、 同時にプルトップを開ける。その結果は… 言ひ伝への真偽を一つずつ検証していくことには、 きつと意味があると信じたい。


2002/10/06 (Sun.)

昼食は冷や御飯に適当に鷄野菜スープをぶつかけて済ませ、 午後はチェロを修理に持つて行く。 表面から簡単に応急処置しておくか、 開腹手術をして裏側から完全に直すかどうする、と聞かれ、 購入以来特にメンテナンスもせず今までずつと放つておいたことを反省し、 非常に高額ではあるが後者を頼み入院させる。 代わりに同じ製作者の別の楽器を借りて帰宅。 夕方は「積分論 II」の講義の準備。

楽器の修理でかなり出費するので、 さらに清貧生活を磨くことを決意する。 楽器のために貧しい食卓からさらに一菜を削る、 なんと人間らしく、美しい生活であらうか…


2002/10/07 (Mon.)

朝起きて御飯を炊き、お弁当を作り、出勤。 午前は「プログラミング演習」。 内容に入る前に今日のおまけとして、 タッチタイプの仕方を教へる。 午後は事務作業をして帰宅。

夕食はカレーライス。食後は PC で作業をしつつ、 「檀流クッキング」で読んだ謎の台湾料理を仕込む。 ブロックのままの豚バラ肉と、 根だけ取つて適当に折り曲げた数本の葱を中華鍋に入れ、 水と大量の醤油と酒少々を注いで二時間ほどとろ火で煮る。 火にかけたら後は放つたらかしと言ふ、 おおざつぱきわまりない料理だが、おいしく出来た模様。 ついでに茹で卵も一緒に煮て、醤油卵も作つておく。 味のポイントは大量の葱か。 他に生姜や大蒜で味をつけるとか、 わかりやすい甘みが必要な方は、 砂糖や味醂などをお好みで足してみると良いかも知れないが、 まつたく凝らないストレートさが良い料理のやうにも思ふ。


2002/10/08 (Tues.)

昨日仕込んでおいた豚バラ飯をお弁当に出勤。 昼は数理ファイナンスシンポジウムの準備ミーティング。 海外からの招待講演者は決定。そろそろ準備コミッティも本格始動。 ミーティング終了後、大阪大学に移動。 阪大確率論セミナーでの U さんの講演を聞く。 その後、S さんの研究室で珈琲を御馳走になり、 夜は講演者の U さんと梅田で飲む。 帰宅は 10 時過ぎ。


2002/10/09 (Wed.)

出勤前に剃刀をあててゐると、 インターホンの鳴る音がしたので、 出てみると、
「近くの焼肉屋さんのほうから頼まれまして、 大変おトクな割引券を配つております」
「それは御苦労さまです。今、取り込んでおりますので、 郵便受けに入れておいて下さい」
「それがご主人、 入り切らないほど、おおーきな割引券でして
朝から爆笑させてもらつた。

午後は卒研ゼミ。確率変数から決まるσ加法族の直観的意味について。


2002/10/10 (Thurs.)

昼食は豚バラ煮込み、納豆、若布の味噌汁。 午後は「積分論 II」の講義。 続いて、某研究室の卒研のミーティングに参加。 夕方帰宅。 木曜日の夕方で一週間の講義と定例の会議は終わるので、 後期は木曜の夜に一番、ほつとするやうに思ふなあ。


[後日へ続く]

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Keisuke HARA, Ph.D.(Math.Sci.)
E-mail: hara@theory.cs.ritsumei.ac.jp
kshara@mars.dti.ne.jp (for private)

この日記は、GNSを使用して作成されています。