やまいもの雑記

ウルトラマン


子供のころ、私の住んでいた町には映画館というものがなかった(そういや今もないわ。あはは)。初めて映画館というもので映画を見たのは、伊勢市の世界館で上映されていた「日本沈没」(東宝、原作・小松左京)。主人公・小野寺役の藤岡弘を見ながら、あ、仮面ライダー・本郷猛だ、そういや「仮面ライダー」の原作者・石森章太郎(当時)は本名・小野寺章太郎だっけ、などとつまらないことを考えながらも(当時すでに伝説の『マンガ家入門』(秋田書店刊。とり・みきの「天才少年のためのマンガ家入門」(白泉社刊『しまった!』収録)参照。もっとも、新版の『マンガ家入門』の方が入手しやすい可能性絶大)を読んでいたのであった)、大画面に映し出されるスペクタクルに息をのんでいた。

ではスクリーンで映画を見るのもそれが初めてだったのかというとさにあらず。小学校や中学校の体育館で映画の上映会があったのである。「ゴジラの息子」や虫プロの「西遊記」はこれで見たんだっけ。

で、スクリーンで見た映画で一番古い記憶は、漁協の集会所で何度か見た上映会。田舎のこととて娯楽も少なく、開催日の夕方になると早めに夕食をすませて村中総出でゴザを持って出かけたものだった。ほとんどはニュース映画とかふつうのドラマだったらしく、内容はあまり覚えていない。母によると、私はたいてい途中で寝ていたそうだ。

そんな中で、今でも鮮明に思い出せるのが「フランケンシュタイン対地底怪獣」(東宝)。たまたま直前に『少年サンデー』か何かのカラーグラビアで紹介されていて、見たい見たいと思っていたら上映会のプログラムに入っていたので、よけい記憶に残っているのだろう。当時自宅には白黒テレビしかなく(白黒テレビさえない家も少なくなかった)、総天然色で(テレビに比べれば)巨大なスクリーンに展開される怪奇・怪獣・格闘てんこ盛りの映画を食い入るように見つめていた。

あらすじは、第二次世界大戦末期、敗色濃厚なドイツから同盟国日本に「フランケンシュタインの心臓」(「フランケンシュタイン」は怪物ではない。彼の創造した怪物が「フランケンシュタイン」と誤解されているが、とりあえず映画での呼称に倣うことにする)が極秘に運び込まれ、あれやこれやで巨大化したフランケンシュタインと、たまたまそのとき日本各地を襲っていた地底怪獣・バラゴンが戦うというもの。アメリカ映画に登場した放射能巨人や手塚治虫の「ビッグX」とどちらが先なのかは知らないが、世話をしてくれた女性(演・水野久美)のために怪獣と戦う人間の味方の怪物的巨人という設定は、実に画期的だった。

もっとも、「ビッグX」の場合はもともとが線の丸い手塚治虫の漫画で、人間が薬を使ってサイボーグになるという(この辺もなんだか怪しい設定である。どうでもいいが、ドーピング検査は大丈夫か?)ことで変身後もほとんど人間そのままなのに対して、フランケンシュタインの場合は実写で、得体の知れない怪物が人間の味方なのだから、数倍から数十倍(当社比)もスリリングだ。

ここまで書けばもうおわかりと思うが、この「フランケンシュタイン対地底怪獣」こそ、私の「ウルトラマン原体験」である。そりゃあ、変身もしなけりゃ空も飛ばない、光線技だってバラゴンのを避けるだけだったけど、巨大な体が印象づける「力」が人間の味方だという安心感は、やはり後の「ウルトラマン」に通じるものがあった。怪物ゆえの映画のラストを考えると、「ウルトラマン」はその鎮魂歌であると穿ってみることさえできると思う。

ラストといえば、この映画のラストが国内上映版と海外版で違っているというのは割と有名な話で、海外版では国内版には入っていなかった大ダコとフランケンシュタインの格闘シーンが付け加えられている。これは「キングコング対ゴジラ」(東宝)のキングコングと大ダコの戦いが海外でいたく好評だったことと無関係ではあるまい。『究極超人あ〜る』(ゆうきまさみ・著、小学館・刊)の中で怪獣マニアの少女・千里が「あ、海外版だ」と言ったのはこの故事(?)にちなんでいる。

この映画と「ウルトラマン」とのつながりはもう一つある。地底怪獣バラゴンの着ぐるみは、この映画の撮影が終わった後円谷プロに貸し出され、頭部をすげ替えて「ウルトラQ」の第18話「虹の卵」に地底怪獣パゴスとして登場している。そしてさらに「ウルトラマン」の第3話「科特隊出撃せよ」で透明怪獣ネロンガに、第9話「電光石火作戦」でウラン怪獣ガボラに、第8話「怪獣無法地帯」で地底怪獣マグラに改装された(放映は「怪獣無法地帯」が先だが、制作は「電光石火作戦」の方が先)。

「科特隊出撃せよ」のクライマックスでネロンガを頭上に差し上げたウルトラマンの姿は、まさにバラゴンを頭上に差し上げたフランケンシュタインの姿を再現したものと言えよう。

はっ、今思い付いたけど、「使徒を倒した後のエヴァ」って、案外バラゴンを倒した後のフランケンシュタイン、つまり「サンダとガイラ」(「フランケンシュタイン対地底怪獣」の続編。フランケンシュタインが、人間の味方をするサンダと人間を食うガイラに分裂して戦う話。後に「フランケンシュタインの怪獣・サンダ対ガイラ」に改題)だったりして。人間を食うエヴァとそれと戦うエヴァが描き出す黙示録の世界。どないだ?

そうそう、「ウルトラマン」放映開始の数週間前に『週刊少年マガジン』のグラビアで新番組「ウルトラマン」が取り上げられたことがあった(たしか、楳図かずおの「ウルトラマン」連載開始とほぼ同時期)。どうやら制作があまり進んでいなかったころらしく、紹介されている怪獣もバルタン星人(制作第1話)、グリーンモンス(制作第2話)、ネロンガ(制作第3話)ぐらい。

で、放映開始前の時間稼ぎの渋谷公会堂の「ウルトラマン誕生・前夜祭」でも紹介されたウルトラマン対ネロンガのパイロットフィルムをイラストにしたものなんかが掲載されてたが、未だに覚えているのがグリーンモンス。馬を捕まえたイラストのそばには確かに「ミロガンダ」と書いてあった。これは放映時にはグリーンモンスの幼体ということになっていたが、この時点では怪獣の名前だったらしい。

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