98年のベスト10



K3(7月14日)
b961016@is.titech.ac.jp
昨年は、はずれな映画(エイリアン4、ジャッカルなど)ばかりを見ていたので、以下のようなものしかないです。いい映画を見逃してしまいました。
1 ダーク・シティ
とにかくセンスが良かった。暗闇、変貌してゆく町、得体の知れない力、失われた記憶、いかにもSF的な素材だが、それらの配置、構成がすばらしかった。ストーリ展開は結構容易に予測できるのだが・・・。とにかく良い映画です
2 LA・コンフィデンシャル
評判通り、脚本・役者の演技が良かった気がした。
3 オースティン・パワーズ
個人的にこーいう下品なギャグはとても好きです。ちなみに今年公開さらた「メリーに首ったけ」は個人的にかなり評価が高いです。(恋に落ちたシェークスピアよりもずっと高いです。)下ネタ万歳。
4 トゥルーマンショー
そんなに悪くないです。まあまあではないでしょうか。
おんたけ(2月6日)
t-gnp@mtj.biglobe.ne.jp
http://www2m.biglobe.ne.jp/~t-gnp/index.htm
おんたけです。
私のマイベスト3を(^_^;)
10でなくてごめんなさい。
おんたけの1998ベスト3です。この年は期待の作品が多かった。
結果は、それなりといったところでしょうか。特筆すべきは、洋画部門では「プライベート・ライアン」の壮絶さ。そして、邦画では近年にないほどの傑作と思っている「愛を乞う人」との出会いでしょうか
とにかく「愛を乞う人」との出会いで今年は充分と言えた年でした。
<洋画>
1.ゲーム
この作品をベストにあげる人は少ないと思いますけど、私が大好きなn監督デビット・フィンチャーということでベストワン。とにかくこの監督の映像感覚は私にとってぴったりと来るものなのです。内容的な荒唐無稽さはさておき、映画を見る喜びを感じ取れた作品としてどうしてもこの作品を超えるものがない。決して派手なアクションシーンがあるわけではないですが、映像のダイナミズムを隅々まで行き渡らせている。見ていて飽きない作品とは私にとってこのような作品をいうのです。観客が話を追う毎に単なる観客として謎解きをしていくというのではなく、主人公と一緒になって結末まで行ってしまう感覚を観客に与えようとする挑戦は、実にフィンチャーらしいユニークさです。
2.プライベート・ライアン
今年一番賛否両論、あるいは語り尽くせない作品といえるでしょう。
私自身は、どうもファーストシーンとラストシーンが気に入らなかったので、大好きとはいえないのですが、このような作品はもう現れないのではないか?あるいは今まで見たことがない映像を見せてくれたという点で、映画史上の傑作といえるでしょう。
3.L.A.コンフィデンシャル
実を言うと、思ったほどの作品ではなかったと言うのが見てから少し経ってからの印象でしたが、マスコミが絶賛するというほどの価値の作品であったことは否めません。脚本のすばらしさ(アカデミー賞最優秀脚本賞)、キム・ベイシンガーの存在感(アカデミー賞最優秀助演女優賞)は言うに及ばず、他の役者人の存在感ときめ細やかな演出、そして、ラスト近くの銃撃戦といったクライマックスのすごさには恐れ入ります。ただ、物語自体の難しさもあるのでしょうが、冷静な演出とテンポにちょっと、物足りなさがないわけではありませんでした。そこがこの映画の良さでもあるのですが。いずれにしても私のお気に入りはラッセル・クロウとキム・ベイシンガーの大人の恋!ラストシーンは実に憎い演出で見るものを馬鹿にしてくれた(^_^;)
この作品が上位に食い込まなかった理由は、他に映像的な私の好みによるものです。どうも、印象に残る映像が少なかった。
さて、他にすばらしい作品との出会いも多かった。昨年公開されたという点でベスト3には入れていませんが、マイク・リーの「秘密と嘘」、ビデオで見たスタローン主演の「コップ・ランド」は心に残る作品でした。「コップ・ランド」はスタローンがアクションを極力抑えた意欲作ですが、実に力強い作品で、映像的好みとあいまって映画館で見ていたらたぶん「L.A....」を超えていたと思います。さらにレッドフォードの「モンタナの風に抱かれて」も秀作でしたね。
私好みのSFものでは実は「ガダカ」「CUBE」はこれから見るので何とも言えませんが、「エイリアン4」「GODDZIRA」は期待はずれでしたね。この2作品だったら、「スターシップ・トゥルーパーズ」の観客をおちょくった感覚の方が断然上だと感じました。
<邦画>
1.愛を乞う人
この映画の価値は、物語を決して、説明的でも感傷的でもなく「映画」として見るものに突きつけている点です。テーマがはっきりしていない印象を受ける方も多いでしょうが、この作品のすごさは完成度の高さにあります。海外の優秀な作品がそうであるように、その完成度の高さが知らないうちに見るものに静かでそして深い感動を与えるのです。また一本、世界に通用する日本映画の傑作の誕生です。今年、この作品に出会えたことが最大の収穫ですし、実に喜ばしいことです。
傑作を堪能あれ!
2.HANA-BI
ラストシーン、つぼに入ってしまい涙が止まらず、しばらく席を立てない感覚に久しぶりに陥りました。北野武監督の最新作は、傑作とか秀作とかの域を超えて、一つのアーティスティックな作品となった。
ベネチア映画祭でグランプリを取ったことはもちろん頷けますが、それ以上に“北野武監督作品”としての存在感が胸を熱くさせた。
3.リング
鈴木光司の同名の映画化。前にビデオ化もされていますが、本作品は原作を少し曲げた人物設定になっているもののかなり怖い!作品自体の出来そのものも今までない和製ホラーとなっていると思う。とにかく怖かったと言うことで3とさせていただきました。
はるひこ(2月1日)
ishii@binah.cc.brandeis.edu
この一年に見た映画の数は(ビデオや旧作を除くと)おそらく20本にも満たないし、見たくても見逃してしまった作品も多数ある(Live FleshもThere's Something About Maryも見ていない)のでベスト10を選ぶのはおこがましいですが、一応以下の通りに選んで見ました。こちらでは1997年に公開された作品(Sweet Hereafter, L. A. Confidential)も混じっていますが、あくまで僕が1998年中に見た映画を対象にしました。
1. The Sweet Hereafter
形容する言葉がありません。
2. L. A. Confidential
奇をてらわずに、まっとうにいい映画を作ったという感じの作品。ぐいぐいと話に引き込まれてしまいました。
3. HANA-BI (US title: The Fireworks)
北野武の映画監督としての技量を見せつけられました。暴力と静寂のコントラストが鮮やかで、一方で笑いも忘れず、映像も美しかった。本当を言うと、この映画のマッチョな死の美学のようなものには違和感を感じるのですが、ここまで面白いと脱帽です。
4. Festen (US title: The Celebration)
デンマークの作品。父親の60歳の誕生記念パーティーを機会に、ある家族のショッキングな秘密が明らかになるという話。手持ちのビデオカメラを使った、一切の飾りを排した映像が独特のスピード感を与えている。
5. Happiness
Welcome to the DollhouseのTodd Solondz監督の第二作。登場人物のほとんどが世の中に不適応や不満を感じていて、彼らが幸福を求めてあがく姿をコメディーにしている。彼らの姿はすごく痛々しいのだけれども可笑しく、でもやっぱり痛々しい。
6. Truman Show
ある意味で、すごくあっさりした作品なのだけど、この映画が面白いのは人を感動させておいて、それに水をぶっかけるようなことをしていることだと思う。
7. Saving Private Ryan
パンちゃんの評に同感。映画としての評価はいま一つ。でも、この戦場の描写は映画という枠を超えた経験だった。
8. Oscar and Lucinda
これは欠点も目立つ映画ではあります。よくあることですが、長編小説の内容を2時間余りの映画につめこんだおかげでちょっとギクシャクしている部分もある。でも、この映画の主演の二人はとにかく素晴しいです。レイフ・ファインズは主人公のうぶな牧師を軽々と演じてみせます。それに対するケイト・ブランシェットの独立心旺盛な女実業家も魅力的です。(でも、このストーリーでは、ちょっとじれったいな。)
9. Elizabeth
イギリスの王家が主題の映画なのに、主要登場人物をオーストラリア人が演じていて監督がインド人というのが面白いですが、見応えある映画になっています。
白状してしまうと、教養のない僕はストーリーの細かい部分を全然把握してないし、振り返ってみると、何かみんなジェフリー・ラッシュがうまいこと立ち回ってくれたような気がしないでもない。でも、おどろおどろしい時代の雰囲気がいいです。
そして、何よりもケイト・ブランシェット演じるエリザベス女王が素晴しいです。ルシンダとはかなり違う役なので彼女の実力を感じます。
10. Shakespear in Love
これは肩の力を抜いて楽しめるロマンティックコメディーです。脚本執筆に悩むシェイクスピアが精神科医(?)を訪ねたりするくらいですから。それでも、最後のロメオとジュリエットの初演の場面は、ダイジェストとは言えなかなか見応えがあります。前口上をのべる役の人が緊張してどもったりしていて気をもませるのだけれど、やがてせりふが淀みなく流れ出て、その途端に舞台がまるで別の世界に変わります。主演のジョセフ・ファインズは、これから人気が出るでしょう。(でもパルトロウは好きになれんな。)
タカキ(1月21日)
TakakiMu@ma2.justnet.ne.jp
はじめまして。拙劣ながら、私の98年ベスト10を紹介させていただきます。
98年新作ベスト10
1.地球は女で回っている
  異論はあるでしょうが、私、W・アレン贔屓なので。
  フェリ−ニと言うよりはエヴァンゲリオンと言った方が近いような気のするラスト。
  そして、そんなアレンにあこがれてしまう私はまだまだ青いのか。
2.スタ−シップ・トゥル−パ−ズ
  素晴らしすぎる!!ブラックユ−モア映画の傑作。
  地球連邦軍(全部アメリカ人)の制服が、ナチスの軍服の色違いになっているのは、
  インディペンデンス・デイの監督が実はドイツ人であることをふまえたジョ−クであ
  るし、現在のアメリカの行き過ぎたフェミニズム運動を痛烈に皮肉った露骨な描写な
  ども随所に見られる。そして、ラストの敵のあまりにも悪趣味な口の形!
  SFXや人物描写などどうでもいい。「ブラックユ−モア・バカ映画。」この一点の
  みにおいて、この映画は傑作足り得るのだ。
3.ブギ−ナイツ
  素晴らしすぎる!!この監督、天才なのでは?
  本当は1位にしてもいいくらいなのですが、、最後のシ−ンにモザイクが掛かっちゃっ
  てて(笑)、よく判らなかったのが悔しいので3位。
  いかにもな場面でのビ−チボ−イズ「ゴッド・オンリ−・ノウズ」も、甘い、と思い
  つつ泣けてくる。役者陣も素晴らしい!
4.プライベ−ト・ライアン
  戦争を愛してやまないS・スピルバ−グによる、最高の戦争映画。
  実際の戦争よりも怖いとの評判を受けて観に行ったのだが、あの、スピルバ−グ映画の美
  しい画のなかで人肉が飛び交っている様は、確かに異様で、怖い。
  この映画をモンティ・パイソン風のブラックユ−モアととらえる向きもあるが、私にはそん
  な心的余裕はない。
5.CURE
  こういった「やりすぎ」な映画を愛してやまない私は、やっぱり、青い。
6.「A」
  私はこのドキュメンタリ−映画を評せる力を持ち合わせていない。
  とにかくショックを受けた。ただ一つ言えるのは、これこそ、真のドキュメンタリ−だ、と
  いうこと。
7.オ−スティン・パワ−ズ
  60年代の英国音楽と、その周辺の文化に対する愛情に満ちた傑作コメディ。
  でもちょっと下品、、、、、。
8.ムトゥ踊るマハラジャ
  インドの方には失礼かもしれないが、バカ映画だろう、これは。
  もう、バカ映画大好き☆な私にとってははずせない映画。でも、2度と観たくありません。
9.プ−プ−の物語
  意味不明な話なのだが、鈴木清順が出演しているのを見て、納得。
  松尾れい子がかわいい。
10.がんばっていきまっしょい。
  船は船でもこっちはボ−ト。
  瀬戸内の遠景が素晴らしいが、女の子はあんまりかわいくないような気が、、、、。
98年旧作(リバイバル)ベスト5
1.非情の時(ジョセフ・ロ−ジ−)
  素晴らしすぎる!!!!!!!!!!!!!!!
2.エル・ス−ル(ヴィクトル・エリセ)
  10年に一本しか映画を撮らないエリセの第2作。
  何度でも見たい。ほかの2作も素晴らしかった。
3.エヴァの匂い(ジョセフ・ロ−ジ−)
  素晴らしい!ジャンヌ・モロ−が怖い!
4.中国女(J・L・ゴダ−ル)
  最近のゴダ−ル・ブ−ムはどうかと思うが、J・P・レオ−のファンなので。
5.水の中のナイフ(ロマン・ポランスキ−)
  あ、これも船映画だ。
というわけで、98年は船映画の年なのでした(?)。チャンチャン。
ダグラス・タガミ(1月7日)
tagami@nick-net.co.jp
1)LAコンフィデンシャル
  原作者の大ファンですが、映画はそれを上手に作った見本でしょう。
  内容も写真も見事の出来でした。
2)ライアン
  オマハの冒頭シーンの衝撃。これにつきます。
3)FACE
  昨年、最後に見た映画でしたがひきつけられました。
4)愛を乞うひと
  原田美枝子が奇麗で、恐ろしかったので。
昨年唯一、途中で眠ってしまった映画
  ・トゥルーマンショー
という感じです。
パンちゃん(1月1日)
1.スィート・ヒアアフター(95点)
  癒しと傷つける行為との深い関係を緊密に描いている。
  最後の少女の嘘の悲しさと血の温かさを、冷たい雪との対比で美しく描いている。
2.パーフェクト・サークル(90点)
  戦争を望まぬ人間にも戦争は押し寄せる。
  その現実を現実の場から、笑いを忘れずに描ききっている。
3.L.A.コンフィデンシャル(95点)
  華麗な映像。流麗なストーリー。ハリウッドの底力。
4.ライブ・フレッシュ(100点)
  完璧。4位なのは、1位にしたいという思い入れがわいてこないため。
  アルモドバルにしては清潔すぎた。
5.ハムレット(65点)
  「to be, or not to be」の意味が初めて理解できた。『ハムレット』そのものが初めて理解できた。
6.ブギー・ナイツ(98点)
  全体をストーリーに収斂させるのではなく、細部に血を通わせることでつくりあげた傑作。
7.愛を乞うひと(70点)
  最後に台湾の青い空があれば100点だった。
8.河(85点)
  人間の、風景に占める位置が独特。
9.アンツ(55点)
  笑える。『地球は女で回っている』も好き。
10.プライベート・ライアン(70点)
  前半の30分はストーリーを拒否することで輝いている。
  後半はストーリーのもつ悪い部分が全部噴き出した。
  その結果、前半と後半にどうしようもない亀裂が入った。
*
  他に印象に残ったのは、『フル・モンティ』『ブラス!』『普通じゃない』の3本のイギリス映画。
  『HANA-BI』も初めて北野武の映画を見たので衝撃的だった。ただ大作というより佳作という感じ。
  私の選び方はかなり恣意的で、ベスト3なら1、2と10。ベスト5なら1−4と10になる。
  『プライベート・ライアン』は力作だが、私はスピルバーグのストーリー主義に疑問を持っている。
  このことは『アミスタッド』についての批評に書いたので、そちらを読んで下さい。
  
アレックスのパパ(12月31日)
dimsum@eclipse.net
1.A Soldier's Daughter Never Cries(★★★★★)
  『日の名残り』、『ハワーズ・エンド』のマーチャント=アイボリーが完全復活。
  今回は、英国の時代物ではなく、フランスに暮らすアメリカ人小説家一家と、彼等が母国に帰ってからの逆カルチャーショックを背景に、「美しき核家族」のあり方を丹念に描いた秀作です。クリス・クリストファーソン演ずる父親の静かな存在感を土台にして、リリ・ソウビエスキ(『ディープ・インパクト』の少女役)が堂々たる演技でエモーションの中心を抑えています。抱きしめたくなるような佳品。
2.Shakespeare in Love(★★★★★)
  『ロミオとジュリエット』執筆中のウィリアム・シェイクスピア、いやウィル君が、本当に燃えるような恋をしていたとしたら?世の中には想像力の逞しい人がいるんですねえ。で、そのウィル君がジョセフ・ファインズ(ラルフの弟、個性的な兄よりもずっと端正な二枚目)、そしてお相手が英国訛を完全にマスターしたグィネス・パルトロウ。この二人が凄いです。何しろ「現在進行形」の恋に触発されて『ロミ・ジュリ』の筋書きが出来ていくから笑っちゃいます。そしてグィネスは、最初は男装して(これが可愛い!!!)ロミオ役を稽古していたと思うと、最後には(おっと危ないネタがばれそう)、ってな仕掛けもバッチリです。甘いシーンはあくまで甘く、一切手抜きなし。脇役のジェフリー・ラッシュ(間抜けな芝居小屋の座長)、ジュディ・デンチ(今度は女王エリザベス一世)の二人がクラクラするような秀演。これは色々な賞に絡んできますぞ。
3.Saving Private Ryan(★★★★★)
  これぞ映画の醍醐味。何よりも、様々な議論を自分自身の内外に、喚起してくれました。
4.The Thruman Show(★★★★★)
  とにかく、設定、筋書、演技、演出のアンサンブルが完璧な作品。ジム・キャリーとエド・ハリスは最高。「個人の尊厳」ということへの確信が全編を貫いた大傑作。それも誰も思いつかないようなアイディアが満載されてです。「仮の奥さん」との性生活は?アメリカでもそこを突いた疑問は結構騒がれてたけど、良いじゃないですか。   完璧な作品にもプロットの穴の一つや二つ。だって、有りにしたって無しにしたってプロットには齟齬を来たしますしね。
5.Elizabeth(★★★★★)
  16世紀イングランドのエリザベス朝時代。その「明」の方が"Shakespeare in Love"なら、こちらは「暗」の方。宗教戦争に苦しむイングランド、特に愛人アン・ブーリンとの問題をきっかけに新教に走ったヘンリー八世の娘として、そして旧教側の弾圧者メアリ一世(ブラディ・マリー)の後継者として乱れた国内外を鎮めた処女王ことエリザベス一世の前半生の伝記映画。絢爛たる衣装とCGを駆使した往時の光景を映像化しつつ、演出は正に現代の政治ミステリー。スピード感と、矛盾、錯綜した状況での指導者の苦悩と決断とがリアルに描かれていて手に汗握る素晴らしさ。最大の見所は、もちろん主演のケイト・ブランシェットの熱演。この奇跡的なカリスマ指導者にして、生涯を独身で通した四〇〇年前の女王、その体温というか肌の感覚というか、実際にその女王と同席しているかのような魔術を感じます。
6.The Prince of Egypt(★★★★)
  言うこと無し。見事な映像と音楽。そして整理され、洗練された台詞。これは古典として繰り返しの鑑賞に耐える傑作です。敵に対する過酷な天罰に涙するモーセ、自身の信仰が周囲に受け入れられぬ苦悩に打ちひしがれるモーセ。旧来の峻厳な人物像に反して「暖かな」モーセ像の表出に成功しています。これは一神教という人類の大切な文明を創始した天才への新たな賛辞であり、全ての世界宗教に対する和解のメッセージであり、今世紀の最後を飾る立派な記念碑です。
7.Beloved(★★★★)
  テンポの遅い脚本と演出は、ハリウッド流のストーリー・テリングに慣れた観客には受け入れられませんでした。けれども、奴隷制への告発という大テーマをここまで重厚に芸術にまで高めた作品の価値は興行の失敗などでは消せません。ジョナサン・デミの演出、オプラ・ウィンフリーの全身全霊を傾けた演技は、全てのシーンが脳裏に焼き付くような力に溢れています。
8.One True Thing(★★★★)
  メリル・ストリープの演技ばかりが話題ですが、どう見てもこれは両親との和解を模索する娘の話で、その娘役のレニー・ゼルゥイガーが大健闘。実に緻密な演技は、本人の考え抜いた努力の跡が見え思わず拍手。お涙頂戴ものの公式に入るものの、娘と病床の母、そして父の三人のキャラクターが深まってゆく工夫が売り物の脚本を、演出、演技がちゃんと支えて傑作になりました。
9.City of Angels(★★★★)
  冒頭シーン、病気の少女の傍らのニック、そして患者の死への自責に苦しむメグ。この二人に感情移入が出来れば、やや甘みの濃い映像と音楽仕立てのおとぎ話にも十分酔えます。「水」(洋梨、シャワー、海)をキーワードに、人間が人間であることへの賛歌も描けていて、組立ても合格点。台詞が少ない作品でのメグの秀演は新たな発見。天使がカラスみたいだって?良いじゃないですか。アラニス・モリセットの主題歌『アンインバイテッド』だけが評判だけど、作品もなかなかですよ。
10.The Horse Whisperer(★★★★)
  これは、思春期のアイデンティティ・クライシスに苦しむ少女と母親の物語。馬とかモンタナの自然、老カウボーイは全て点景みたいなものです。それも贅沢な。冒頭の悲惨な事故、そして「馬を救う。それが娘を救う唯一の手段だ。」と母親が見抜く話に乗れれば、後は名匠の世界に2時間を委ねれば良し。スコット=トーマスは、台詞の切れ味を中心に良い仕事をしてきた人ですが、表情だけでも立派なもんです。本人は欲のない人みたいだけど、売れれば売れたでこんな役も来るし、ファンとしては幸せ。娘役のスカーレット・ヨハンスンは今後が楽しみだし、父親役のサム・ニールも流石の一言。
(次点)What Dreams May Come(★★★)
  CGでの天国と地獄の映像に唖然。おまけに地獄に堕ちた人間の魂を救ってしまおうというストーリーにもびっくり。宗教界や批評家達からのブーイングなんてブット飛ばせ。これぞ今年の努力賞。ロビン・ウィリアムスは益々ロビン・ウィリアムスで、何が悪いってなもんです。
(次点)Enemy of the States(★★★)
  ブラッカイマーの神髄ここにあり。正当アクション大作ながら、国家によるプライバシー侵害への告発という今日的主題を真っ正面に据えての大傑作。ウィル・スミスがキラキラ輝くような演技。これぞ、1998-9年現在のエンターティメント映画の、質的スタンダードでしょう。

石橋 尚平(12月27日)
shohei@m4.people.or.jp
98年劇場鑑賞映画(新作のみ)ベストテン
1. ブギー・ナイツ (97年 米 監督:ポール・トーマス・アンダーソン)
2. プライベート・ライアン (97年 米 監督:スティーブン・スピルバーグ)
3. ライブ・フレッシュ (97年 スペイン仏 監督:ペドロ・アルモドバル)
4. 愛を乞うひと (98年 日 監督:平山秀幸)
5. ニル・バイ・マウス (97年 英 監督:ゲイリー・オールドマン)
6. 河 (97年 台湾 監督:葵明亮)
7. 桜桃の味 (97年 イラン 監督:アッバース・キアロスタミ)
8. タイタニック (97年 米 監督:ジェームズ・キャメロン)
9. スウィート・ヒア・アフター (97年 加 監督:アトム・エゴイヤン)
10. バタフライ・キス (95年 英 監督:マイケル・ウィンターボトム)
ワースト3
1. ドーベルマン (97年 仏 監督:ヤン・クーネン)
2. シューティング・フィッシュ (97年 英 監督:ステファン・シュワルツ)
3. トゥルーマン・ショー (97年 米 監督:ピーター・ウィアー)
ビデオ鑑賞作品(番外)
身も心も (97年 日本 監督:荒井晴彦)
今年のベスト選考は、後半観た作品のインパクトが強くなって有利になってしまう不公平に配慮して、年始から徐々に何度もノミネートを繰り返して選びました。今年のベストワンはダントツです。文句なし。選出に微塵の逡巡もない! 本当にこの映画には才能のきらめきを感じます。論評については、私は2度ばかり書いているから、それを参考にして下さい。というか、ご自分の目で是非観てください。東京での上映期間は短く、東京以外の都市でどれほど上映していたかも分かりませんが(第一、東京でもあまり入りそうな映画館ではなかった)、石川三千加さんもベストワンに推していますし、『カイエ・デュ・シネマ』も強く推しています。テレビ東京の『シネ通』の視聴者投票で6位だったのも、意外な喜びですね。それぞれかなり推す映画のテイストや観点が違う(私も含め)人々が、強く推しているということを言っておきたいだけの話ですが…。
2−6位の作品もそれぞれ素晴らしいですが、1位ほどの絶対性はありません。それぞれいいんですが、1位に推すほどの作品ではないということです。7位以下に関してはもう混戦状態。正直言って、この日の順位という感じですね。ここに『フェイス』や『ラブ&デス』や『L.A.コンフィデンシャル』や『ビッグ・リボウスキー』や『普通じゃない』や『アイス・ストーム』がきてもおかしくはありません。その時々の好みの問題です。また、その水準にまでには至らないのですが、『Jam』、『大いなる遺産』、『ポネット』、『東宮西宮』、『のら猫の日記』、『がんばっていきまっしょい』、『アサシンズ』等も好印象を残しました。
ちなみに、旧作(リバイバル)を入れた、映画館でのマイ・ベストテンでは、『反撥』(65年英 ロマン・ポランスキー監督)と『ひとりで生きる』(92年露・仏 ヴィターリー・カネフスキー監督)がそれぞれ2位と5位に割り入ります。どちらも痛い痛い作品です。機会があったら是非鑑賞して下さい。
思うに、公開が前半に集中した『フェイス/オフ』や『HANA−BI』と言った、脂の乗った監督の手になる、他のベストテンには入っていそうな作品ももう少し上位に入ってもいいのですが、どうしても同監督の他の作品との比較から、インパクトが小さくなってしまいます。『フェイス/オフ』より、『男たちの挽歌 最終章 狼』、『HANA−BI』より『ソナチネ』と思うので…。
今年の選考の最も大事な点は、『映画的であるか、否か』です。『ブギーナイツ』は最も映画的な作品だったということです。特にベスト6の作品は、いずれも感動的なストーリー以上に映画的な眩さに眼がくらむばかりの作品が揃いました。しかるにワーストの3作品は、極めて映画的ではないということです。いずれも狭い平面的な平べったさで自閉しているが故にワーストなのです。『トゥルーマン・ショー』については、以前書いた通り、J・キャリーとE・ハリスの演技が素晴らしいの一言に尽きますが、映画的な膨らみがないんですね。この映画の感動は所詮、TV番組『トゥルーマン・ショー』の感動なんですね。きっぱり言って。ワースト1位と2位の作品については、悪口にしかならないから、もうとにかく何も触れたくないです…。
ビデオもそれなりに観たのですが、1作だけ書いておきます。97年公開の『身も心も』(97年、日本)。この作品を映画館で見逃してしまったことを強く後悔しています。ここで紹介するのはその懺悔の念からです。この作品は4人の中年男女がからむ(奥田暎二、柄本明、かたせ梨乃、永嶋暎子)成人指定の映画なんですけれども、非常に良質な映画です。良かったら是非ご覧ください。
しかし、ユーロも発足するというのに、欧州大陸の映画が駄目だな…。イギリスは絶好調なのに。それでは皆さん、よいお年を。

ベスト10目次
フロントページ


あなたのベスト10を教えて下さい。(コメントは適宜)
あなたのお名前をどうぞ(省略不可)

あなたのE-mailアドレスをどうぞ(省略不可)

あなたのURLをどうぞ(省略可)

ベスト10を記入してください(5および3でもかまいません)

内容を確認して、よろしければ送信をクリックしてください。



感想はE-mail:panchan@mars.dti.ne.jpでどうぞ。