遠いコンサート・ホールの彼方へ
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2002年12月28日

2004年4月3日

シュトゥットガルト州立歌劇場

Franz Schreker

Schatzgraber


指揮:Jonas Alber

演出:Dvid Alden

美術:Paul Steinberg

衣装:Constance Hoffman

照明:Adam Silverman

合唱:Andres Maspero

ElsSusan Bullock

Elis(吟遊詩人):Jeffrey Dowd

道化:Peter Bronder

代官:Johannes Martin Kranzler

AlbiArild Helleland

王:Gregory Frank

宰相:Michael McCown

伯爵:Nathaniel Webster

領主:Simon Bailey

王妃:Barbara Luft(黙役)


私の席は、1階パルケット3列15番、ど真ん中でした。

まずは簡単なあらすじ。そんなに知られていない作品ですし、国内盤もないので。なお、私の適当な英語・ドイツ語からの翻訳をもとにしているので、間違っていてもあしからず。

<プロローグ>

前奏曲なし。王と道化の会話がすぐ始まり、そこで、女王の美しさを保っていた宝石が盗まれ、さらに王妃は衰弱しつつある上に王を避けていて困ったと語ります。王は道化に対して宝石を見つけ出すのと引き換えに好きな女と結婚することを認めます。

1

とある居酒屋の「美しい」娘、Elsは、粗野の金満領主との結婚が決まっていまして、今日も言い寄られていますが、何とかかわして追い返します。Elsは彼のことが嫌でたまらないのですが、父親には結婚を納得してくれと言われます。結局、Elsは彼女を慕っている手下のAlbiに領主殺害の手伝いを命じます。そして、その際、彼女は盗んだ王妃の宝石を落としてしまった模様です。

彼らと彼女との会話が一段楽した頃、酒場にさまざまな客が来て、Elsに対して、あるいはElsが色目を使っていると、吟遊詩人で不思議なリュートの力で宝を見つけ出せるというElisがやってきます。彼は何者だという問いに歌で返しますが、その渦中でElsが落とした宝石を掲げます。Elsは吟遊詩人Elisから私のものだとして宝石を受け取ったところに、Albiが(領主の)死体が見つかったとやってきます。

酒場の客であった代官に立ち去ったほうが良いだろうと忠告を受けつつも立ち去らないElisElsは惹かれ、Elisが領主殺しの犯人とされて逮捕されると、Elsは代官に王に直訴すると歌い、幕。

第2幕

Elisを探すElsの前に道化が現れ、宝石を見つけだせるElisが処刑されることを知り、(多分王に助命訴えに)退場します。場面が一転し、人々が見守り坊さんたちがミサを唱える中、Elisは処刑台に送り込まれてます。そして処刑される間一髪のところで、王の使者が「機械仕掛けの神」のように如現れて処刑は中止、さらに代官に対して真犯人探しを命じます。

第3幕

ElsElisが「トリスタン」第2幕の如く延々と愛の語らいをします、その中で、Elisが宝石を捜していることを語ると、Elsは入手経路に関して問わないことを条件にElisに王妃の宝石を渡します。このさい”Lib  wohl, mein schatz”Elsが歌います。

第4幕

場面は華やかな王宮。王妃の宝石が戻り、彼女に美しさが戻ったことを祝って祝宴が行われます。Elisは宝石を取り戻した栄誉によって叙任され、さらに宝石が戻った顛末を歌うようにせがまれます。ただし、彼もElsからもらったとは言えないので、曖昧な内容の歌しか歌えず、人々は納得しません。一方で、彼はElsが持っていた宝石が王妃に戻ったことにどうにも釈然とせず、王や王妃に反抗的な態度や言動を取るので、人々に王妃を侮辱していると罵られ、険悪な状況に陥った時、領主殺しの犯人を捕らえたと代官が現れ、さらに共犯はElsだと指摘します。釈明できないElsを王は処刑するように命じますが、ここで再び「機械仕掛けの神様」が登場。今回は、道化で、彼は美しいElsを妻に迎えたいと述べます。王は戸惑いつつも、宝石を見つけた場合の約束だとして認めますが、道化としてはお払い箱だと言い渡します。とりあえず有頂天の道化の歌で、幕。

エピローグ

(元)道化の招きで彼の家をElisが訪れます。そこで道化はElsが病に臥せっていることを知らせ、Elsが目覚めた時Elisと二人だけになれるようにとその場を去ります。二人だけになってElsは目覚め、歓喜しますが、消え入るように亡くなり、(元)道化が悲嘆の歌を歌って幕。

かなり乱暴な筋書きですが、リブレットを読んで概ねこんなところだなだとって観に行きました。正直なところ、出来の悪い話だし、CDを聴く限り音楽もそう魅力的ではないしなあと思いつつ、まあ見る機会も少ないしと思ってはいましたが、演出が輪をかけて訳が分からない代物でした。

プロローグはちょっと身には期待が持てました。幕を閉めて、中央にの隙間から宝石(ごてごてとした首飾り)だけが手につかまれて示されるところで、音楽開始。おっと思わせるつかみは良かったですし、幕が開いて、長椅子に背広を着た王と、昔の大阪芸人かと思わせる下着のシャツを着て、セルロイド眼鏡をかけた背の低い道化が、現れたところまでは期待が大きかったのです。この話は何となく、マーラーの「嘆きの歌」や、ワーグナーの「タンホイザー」や「トリスタン」を下敷きにしている感じがしていたので、舞台は中世みたいな感じだろうと思っていましたが、これをプロローグでまず打ち崩してくれました。が、王と道化の会話が始まるとちょっと失望。最初と最後を締める道化役は、演技はコミカルでよかったのですけど、声が硬い。さらにシュレーカーの分厚いオーケストラと対抗しようとして、声を張り上げ過ぎてドラ声気味になってしまう。ミーメやベックメーサーやその他この手の(コミカルな)テノールではあまり聞きたくない歌声で、最後まで変わらず、これはちょっといただけませんでした。王は添え物なので可もなく不可もなく。

 道化です。黒と黄色の菱形模様の上っ張りに下着、帽子と一見「寅さん」風。

そして第1幕に入ると演出の訳の分からなさが明らかになっていきました。まず、そこはアメリカ西部の安酒場という雰囲気で、窓にはロッキー山脈かなにかの山々がみえ、壁一面が緑銀色、舞台にはアメリカの冷蔵庫と簡易椅子が無造作に置かれ、そこに、うーむ、オペラ歌手は声が大事とはいえ、かなり(中世の一見お姫様タイプという)イメージとはかけ離れた、背の低い丸々太った場末のウェイトレスという感じのおねえちゃんが座っていまして(その意味ではアメリカ映画の脇役には使える)、さらにその横に「狼男」そのものの粗野な領主がいました。この狼男が椅子やら机やらをやたらめったらひっくり返してウェイトレス、ではなくElsに近づいて歌う、この行動が全く意味不明でしたし、Elsの第一声を聞いて、失望は絶望に変わりました。声が張り上げすぎて金切り声かと思われ、ニュアンスのへったくれもないのでした。

狼男が去ると、父親が出てくるのですが、これが豚男で、顔が豚、尻尾もあり、でも人間の格好、寓意というか分かりやすさを狙ったのでしょうが、、、。そしてそこに集まる客も、車椅子に乗ったり、米軍兵の格好で皮膚を緑一色にして匍匐全身して移動したり、代官はアメリカの警官の格好で、これまたやたらと転がりまわっている。ロンドンに戻ってから知ったのですけど、FT(12月19日付け)にアメリカ映画云々という話がありましたけど、パロディにもなっていない。そこに、Elis登場。一見30代半ばのマーラーの写真のような茶系のウール地の三つ揃えの格好に、帽子、さらにシュレーカーのような眼鏡をかけており、それにリュートを持っているので、その場との雰囲気との差が大きく、異邦人登場という意味では合っているけど、違和感大なり。さらに訳が分からなかったのが、蛍光灯が降りてきて、それにElsが乗っかって上昇、全く意味不明な動きでした。

エルスと父...。吟遊詩人のエリス、紛らわしい。

ElsElisの二人きりになって、ElsElisに惚れるシーンも、声を張り上げているだけ出し、演技は下手だし、雰囲気もないしで、どうしてこの二人が恋仲になれるのか、演劇的真実を前提にしても承服できないもので、あのビール(バドワイザー)にブランゲーネ直伝の惚れ薬でも入っていたんだろうと勝手に思わざるを得ませんでしたね。

Eliの逮捕シーンは、アメリカ映画の悪徳警官めいた代官がハンド・マイクで初め歌っていたのは、まあ演出としてよいとしましょう、しかし、その後勝手にこけてぐるぐる舞台上を転がりまわるのは、どう歌や音楽と関係しているのか私にはさっぱり分かりませんでした(アクション・シーンのつもりかな?)。

2幕、舞台両脇にドアが無数に並んでいて、そこから「アンタッチャブル」の検事のような格好の人間がぞろぞろ出てきて、これが実はオリジナルのリブレットでは坊さんたち、さらに見物の女性たちは、女中さんの格好で、タバコ吸い吸い電気掃除機で床掃除したり赤ん坊のお守りをしていて、それをElsにもさせながら、お前は下手だとばかりに、敵意丸出しで取り挙げたり、男達は、机を並べて、お役所の様に次々と判子を押していきながら「怒りの日」を歌っていますし、Elisが登場して並び替えた机の上を歩いて絞首台に向かう直前には、代官はウィスキーに酔いつぶれ、男達は新聞を読んでいた者はそれを破り捨て、カードゲームしていた者は次々と思いっきり投げ捨て、女達はスーパーのカーゴを押し回ながら、棚から物を奪い合って取るようなパフォーマンスを延々と繰り替えし、舞台上は大混乱状態、見ている方も大混乱状態。そこに王宮からの使者が登場。これを見て、「あー、演出家はこの作品の演出に匙を投げたんだなあ」と思いました。白タイツにマントという漫画に出てくるような王子様そのもの格好で、これが華やかな音楽とともに電飾付の巨大な木馬、東京リングの「ワルキューレ」でブリュンヒルデが乗っていた木馬どころではないディズニーランドのシンデレラ城か豊島園のエルドラド(巨大なメリーゴーランド)にあるようなド派手な木馬に乗って床下から競りあがってきたのでした。

その後、皆が立ち去るとAlbi登場、彼を見て今度はElsが机の上の物を次々に放り投げるという顛末で、あれは一体何を意味しているのか未だに分からないのでした。

3幕は、まあElsElisの歌だけなので、演出のしようもないだろうと思っていました。実際、宿の窓枠にもたれ掛かっている二人が歌を歌い合い、奥にはぼーっと王妃が座っているだけ。このシーンは、まあこんなものかな、でも歌手がなあ、全然ロマンティックでないしなあ、と思っていると、舞台から消えたElsが宝石を着けて舞台上方にひょっこりと現れ、さらに下におりて舞台前面に出てきました。この彼女の格好をみて思い起こしたのは、シュワルツネッガー主演の近未来映画、題名は忘れましたが、シュワちゃんが人狩りから逃げまくる(最後は反撃して、人狩りの主催者を逆に人狩りの場に追い込む)映画の人狩り役の滑稽な電飾だらけの敵役のでして、歌は一応シリアスにLeb wohl mein schatzと歌っているし、歌手も宝石との別離に耐えられないという悲しそうな顔をして歌っているのに、格好が格好なので、場内のあちこちから失笑が漏れていました。方や私は唖然としていました、前日の「ジョニー」の記憶もあったので。

4幕。王宮に戻りますが、演出家は何かせねばという強迫観念にとらわれているかのように(それはそれで必要ですけど)、イブニング・ドレスやタキシードを着ながら、大きな動物や漫画のキャラクターのような被り物を被った合唱団を階段に並ばせ、三輪車に乗った道化、跳ねる空気椅子に乗った「007」に出てくる(前作までの)Qを思い起こさせるような格好・容姿の宰相、子供用の自動車をこぎまくるタキシードを着た式部官、そこに電飾だらけでコードを引っ張って歩いていている王妃、そのコードを抱える王、演出家は、もうシュレーカーなんかやってられないと演出を放棄しているのか客を馬鹿にしているのか、はちゃめちゃな舞台が現れました。背景は、2001215日ドレスデンで見たシノーポリ指揮の「影のない女」の第2幕、バラクの家を思い起こさせる黄金色に幾何学的な飾りがついている物でした、あの舞台の素晴らしかったこと!まさかあれが最後になるとはねえ、ザルツブルクでのR.シュトラウスを楽しみにしていたのに(バイロイトは買えないとあきらめていたから)。Elisはなぜかここだけ吟遊詩人っぽい格好で当初は登場。何にしても、彼は声が細いので豪華で分厚いシュレーカー・サウンドに半ば呑み込まれている。私の席(パルケット、3列のど真ん中)ならば聞こえますけど、他の後方や天井桟敷には通っていないだろうなあというものでした。

この舞台でも、Elisが王妃を侮辱したという合唱団が叫ぶシーンでもつかみ合いがあって何度目かの混乱状態を演出家は作っていましたが、何を意味しているのやら。25日に再度舞台をみても分かりませんでした。そして、またもやコップじゃなくて代官が転がりながら登場、続いて、宮廷の人々が20年代のシュレンマーのバレエのように発条仕掛けの人形のようにギクシャクした動きで退場し、道化と宝石を失って王妃のように呆然としたElsを残して幕が下りました(このシーンはドイツのオペラ誌の表紙を飾っていたので見たことがある方もいるかもしれません)。

表紙にもなったシーン。背景は黄金色、色とりどりの風船、様々に着飾った人々、皆大きな被り物を被っています。










エピローグ

真っ暗な舞台、上手にElsが舞台の枠にもたれ掛かって座っています。下手奥に扉。上手中ごとに薄ら「緑」の蛍光灯と首吊り用の丸くした縄。音楽が静かなので、道化のドラ声は収まり、Elisの声も通りますが、時既に遅し、その上、Elsが首に自分で縄を巻いて自殺するという設定に変えてあり、あれだけ少なくとも領主殺しの前にも数人殺したはずで、宝石泥棒までした彼女がどうして自殺するのか分かりません(病死は王妃同様に宝石の反作用だとするとまだ分かるとしましょう)。ともかく、大してか細くない声で最後の歌を歌い、Elisに歌が引き継がれている間に、彼女は縄を自分の首に巻くのですけど、これがもたもたしてなかなか解けない、ついにはあれだけ緩慢な動きをしていたElsが突然手先だけ異様に早く力強くなってしまい、ああ、こりゃだめだ、と思ったところで道化の歌も終わり、幕となりました。

拍手はElsと道化に集中しましたが、はっきり言ってフランクフルト州立歌劇場の歌手の水準に疑問を呈するものでした(オケは中々によかったのですがねえ)。それと、「私に演出させろ!」と思わせた初めての舞台でした。いやはや、オペラは総合芸術だということがある程度よく分かる舞台でした。


追記:25日の公演

キャストは23日と同じ。行ってみて驚いたのはお客さんが殆どいないことでした。23日はほぼ満席状態だったのに、今日は数えられるほど。クリスマスにドイツ人は家族と過ごすのが慣わしなので、こんな結果になったのでしょうが、それにしても少なすぎる(なお、席は23日より一列後ろの4列15番とほぼ同じなのですが、価格は20ユーロほど高かったです。クリスマス特別手当でしょうか)。

しかるに演奏の方は、歌手は総じて変わらず、やはり声にも演技にも問題あり。オケはガラすきのホールがどれだけ響くのかということを如実に感じさせてくれるほどの大音量のため、終わったと耳が痛くてたまりませんでした。少しは手加減して欲しいもんですが、クリスマスなのに働かないといけないので自棄になって弾いているのか?と思われる節もありました。

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