道楽者の成り行き
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6.頽廃音楽ですが、何か?


12月23日 フランクフルト

1223日 ヴィーン 曇り

8時30分ヴィーン西駅初フランクフルト行きの列車に乗り、昨日と全く同じルートを戻ります。列車名は「ヨーゼフ・ハイドン号」。ブダペスト始発からヴィーン経由、パリ終着なので、エステルハージの宮廷からパリ・セットということから思いついたのでしょう。

フランクフルト 曇り

風景は前日と全く変わらないフランクフルトに到着。二日前と全く同じホテルに宿を取り、そこからカイザー通り沿いで見かけたコイン・ショップに行ってみました。私のクラシック以外の趣味の一つに、クラシック愛好歴よりも長い外国コイン収集があります。きっかけは二人の叔父、方や日航で欧米に赴任していたことからその地域の現行コインを、片や日本原子力研究所に努めアフリカ、アジア、中近東にウランを探しに行っていたので、その地域の現行コインをくれたことからです。奇妙な模様やデザインが面白かったので、少しずつ集めていましたが、闇雲に集めてもキリがないことから、ここ近年は、デザイン的にお気に入りが多い(旧)東ドイツ、ヴァイマールの記念コイン、戦後のフィンランド、(旧)西ドイツ、それと音楽・建築家関係の図柄のコインと範囲を決めています(もっとも、日本のワールド・カップ500円硬貨の両替位はしました)。基本的にボチボチという程度ですし、めちゃくちゃ高いコインには手を出さないことにしています(幸い私の収集範囲で最も高価なのは、ヴァイマール共和国最後の年の1932年のゲーテ没後5マルク銀貨30万円くらいです。ただし、私は偽物<そう表示してありました>しか持っていません)。因みにロンドンにもコイン・ショップはかなりありますが、日本同様に、あるいはそれ以上に自国コイン中心でして、さらにそれも19世紀より古いものが対象となっているため、殆どご無沙汰状態です。なお、コイン収集は日本では、一頃以上にかなりマイナーな趣味になってしまいましたが(切手収集は若干復興しているようです)、英国、ドイツでは立派な趣味として確立されており、ドイツには毎月発行のコイン収集雑誌が少なくとも4誌、イギリスでも2誌あります。

さて、フランクフルトのお店、両替店を併営していますが、どんなものがあるのかねえ、買いそびれていたドイツの博物館島100周年記念コインの状態が良いのでもあればいいなあ、と軽い気持ちで入ったところ、いきなり目の前に数年に渡って探していたロシアが93年に発行したI.ストラヴィンスキー記念コイン(表にストラヴィンスキーの肖像とペトルーシュカを踊りダンサー、裏にはロシアの国章がデザインされている)が目に入ったのでした。長年探していたCDや楽譜を見つけた時と同じで、まさかこんなところで出会えるとはと興奮してしまい、プラチナ製で結構なお値段だったと後から思ったのですが(コインの相場とほぼ同じでしたけど)、即刻購入。ただ、買い終わった後で店内をみると、スペインのガウディ記念やイタリアのヴェルデイ記念やら、かねがね欲しいなあと思っていたコインが多々ありましたが、資金面の不安、カード決済時点の為替レート予想から今回は購入を手控えました。3月にベリオの”Un re in ascolto”を見に再訪問する予定でしたので。ただ、世界中の比較的新しいコインを取り扱っている店がロンドンにあれば、月1枚程度のペースで買い集めることができるのですがねえ。

とりあえず思いもかけなかった「お宝」を手に入れ(これで現状のロシアの収集対象が残り1枚、プラチナ製のムソルグスキー記念のみ、これは本当にみつからない、となりました)、寒かったのでホット・ワインでも飲もうと再びレーマーに向かったところ、レーマー前広場のクリスマス・マーケットはすでに跡形もなくきれいさっぱり消え去っており、仕方なく、夕食をとるには早かったので、パウルス教会方面に歩いて、音楽ともコインとも関係ない店に行きましたが、こちらは収穫なし。

午後の6時を回ったところで、腹ごしらえにレーマー広場に面したドイツ料理の店に入って夕食を取ろうと思ったら、皆がこっちをジロジロ見ているのには閉口しましたねえ、白色のドイツ人だらけ、ロンドンではちょっと考えられない光景です(ロンドンでは時と場所によっては白人の方が少数派)。その上、ウェイトレスは店の兄ちゃんとしゃべりまくるは、抱き合うは、はてはキスをしまくるは、と全く給仕の意思なし。ドイツでは珍しい光景ですけど、レーマー広場前という絶好の観光ポイントでサービスを疎かにしても大丈夫ということなのか、クリスマス前で気が緩んでいるのか、ともかくあまり感じの良い店では無かったです(その上、椅子が背凭れなしの木の椅子で硬かったこと)。

料理を食べ終わると7時前、ちょうど良い時間になったのでシャウシュピール・ハウスを目指しました。今日の演目はシュレーカーの「宝を掘る人(Schatzgraber)」です。

シャウシュピール・ハウスの1階(日本的には2階)にシュレーカー関連の資料が展示されていました。1923年録音の「宝を堀る人」第3幕冒頭のElsの歌(ソプラノ、Else Gentner Fischer)や、ミヒャエル・ギーレンが1970年代末にフランクフルト歌劇場時代に上演した際の「烙印を押された人々」の録音などが聞けました。ギーレンのこのレコード(紫のカートン・ボックス入り)、海賊盤らしいのですが、CD化されないでしょうかねえ(2月、3月に彼はベルリンで「はるかな響き」を振りますが、ちと行けそうに無い。年度末はさすがに忙しいのだ)。そう言えば、ソプラノのC.シェーファーはギーレン時代のフランクフルト歌劇場に良く通って、ツィンマーマンの「軍人たち」を8回見たという話です。彼女に「マリー」を歌わせる劇場はないでしょうかねえ。


 フランクフルト州立歌劇場 シュレーカー:歌劇「宝を掘る人」
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 ヴィーン国立歌劇場 クルシェネク:歌劇「ジョニーは演奏する」
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