"Danbury, Conn., 1874〜1954"
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Translations Before Essays





「最後に抜き差しならない混同を避ける上で重要なので、この本で取り上げる反知性主義は、私が反合理主義と呼ぶ哲学上の教義と同一ではないことを明らかにしておく。ニーチェ、ソレル、ベルクソン、エマソン、ホイットマン、ウィリアム・ジェイムズのような思想家、あるいはウィリアム・ブレイク、D.H.ロレンス、アーネスト・ヘミングウェイのような作家などの諸理念は反合理主義と言えるだろう。しかし、彼らは、私が用いている社会学的、政治学的意味においては、典型的な反知性主義とは異なる。反知性主義運動がこのような思想家の諸理念をしばしば引き合いに出したのは、勿論事実である(エマソンのみは非常に多くのテクストを反知性主義者たちに提供した)」
(リチャード・ホーフスタッター著 田村哲夫訳 「アメリカの反知性主義」 みすず書房 p.7下段)


序 St.Ivesからの読者の皆様へ


アイヴスのピアノ・ソナタ第2番、「マサチューセッツ州コンコード、1840〜1860」は主として1909から10年にかけて作曲され、1920年に作曲家によって自費出版された。その際併せて「ソナタの前のエッセー(Essays before a Sonata)」も自費出版された。アイヴス自身による前書きに書かれているとおり、当初は楽譜とエセーは一体とする予定であったが、エセーが長すぎたために分けられた。

エッセーの構成は、ピアノ・ソナタの4つの楽章、すなわちニューイングランドの超越主義の思想家達、エマソン(思想家、岩波文庫に論文集があるほか多数の著書が翻訳されている)、ホーソーン(小説「緋文字」<岩波文庫他>の著者として知られる)、オルコット家(「若草物語」の著者の父と著者を含むその家族)、ソロー(「ウォールデン」<筑摩書房、岩波文庫の邦題は「森の生活」>の著者として知られる)をプロローグとエピローグで挟んだ6章からなる。下記のペーパーバック版では、全体で102ページに及び、また、ソナタの4つの楽章の章扉には楽譜の一部が印刷されている(これはソナタの楽譜に各章の冒頭数十行が付されているのと対をなしている)。全体のうち最も長いのは32ページに及ぶエピローグである。

1920年という年は、アイヴス自身の創作活動はほぼ終わりを迎えていた時期である。アイヴスはこの後さらに更に34年の人生が残されていたが、シベリウス同様長い晩年において新たに完成された作品は事実上無く、「コンコード・ソナタ」の出版・演奏から始まったアメリカによるアイヴス発見と晩年の大絶賛を見届ける人生を送った。この点からも、「エッセー」は、アイヴスの創作の最後を飾り、彼の作曲に対する自らの思想・信条の上に、一般に理解し易いように作品を解説したものとして、アイヴス理解をより深めるためには不可欠であるという感を私は読み進める前には抱いていた。

しかしながら、アイヴスのこの「エッセー」は、その全貌については2004年2月の時点ではいまだ私には明らかではないものの、読み終えた部分を振り返る限り、作曲家自身による自作の解説よりも信仰告白、作曲に当たっての作曲家自身の精神の在り様、「超越主義哲学者」への共感を謳い上げることに遥かに重心を置いた著であるとの印象を抱いている。また、その内容や言葉遣いゆえに、現在のアメリカ合衆国の政治・文化状況と照らし合わせると、かえって作品理解を阻害し、アイヴスをその状況の参加者との誤解を抱かれるのではないかという怖れを抱きつつある。何にせよ、作曲家の言葉であることが独り歩きすることは、作品解釈の自由を失わせ、作品から受けるイマジネーションの自由な飛翔を困難ならしめる可能性は否定しがたい、例え作曲家が自らの作品はこうあれかしと望んだとしても。

ただし、人によってその受け止め方が異なることもまた事実である。アイヴスの愛好者としては、上記の恐れが杞憂であることを願いつつ、とりあえずここに非常に粗雑な翻訳であるが材料を提供して、賢明なる読者自身による審判を仰ぎたい。

なお、原文はW.W.Norton社から詳細な注が付されたペーパーバックが出版されている。また、下記の「プロジェクト・グーテンベルク」(著作権切れの著作物をオンライン上に掲載するプロジェクト)のアドレス経由でテクストのみをオン・ラインで入手することも可能である(ざっと見た感じでは、ペーパーバックとの相違はなさそうであるが、保証はできない)。

プロジェクト・グーテンベルク "Essays Before A Sonata"


目次

0.著者自身による前書き
1.プロローグ
2.エマソン
3.ホーソーン
4.オルコット家
5.ソロー
6.エピローグ

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