道楽者の成り行き
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6.頽廃音楽ですが、何か?


12月22日 ヴィーン

フランクフルト

朝6時半に起きまして、朝食。ドイツのホテルの良いところは朝食がたっぷりとあることで、さまざまなハム・ソーセージ類、青赤黄色の野菜のサラダ、異なった形や材料からなるパンやフレーク、数種類のジャム、色とりどりの果物、ジュースも紅茶も多種多様で、選ぶのも楽しいもんです。

のあとチェック・アウトして、中央駅へ。今日は列車でヴィーンに向かいます。


8時19分フランクフルト発ヴィーン行きのEC(ユーロ・シティ)、列車名を「フランツ・リスト号」、パリ始発で、途中フランクフルトやニュルンベルク、ヴィーンを経由してブダペストに向かう列車に乗りました。欧州の列車にはこのような歴史上の著名人の名を冠した国際・国内列車が幾つかあり、これもその一つです。もっとも、最近はただの記号だけという味気ない列車が増えたようです。

しかし、駅に行って列車編成表を見たら、私の乗るはずの車両が掲載されていない。この列車編成表というのは、同じホームに止まる列車でも編成が非常にまちまちなので、列車別にホームに表示されているアルファベット番号のどこにその列車の車両が止まるかを示したものです。因みに「フランツ・リスト号」の車両番号は255から264までしか編成表には載っていないのですが、私のは508とかいう全然違う番号の車両が指定されていて、こりゃ困ったなあ、と思っているうちにリスト登場。若い頃ではなく写真が残っている頃の彼並みに野暮ったく、汚れ、、疲れた感のある赤いオーストリア国鉄の列車だったのに拍子抜けしていますと、一両だけ白い車両が、牽引する先頭の電車の次に繋がっていたので、とりあえず観に行きました。それが臨時編成で追加された508号車両でした。

フランクフルトからヴィーンまではおよそ7時間の列車の旅でして、当初は窓の外の風景を一生懸命に眺めていました。ただ、季節は冬で、どんよりとした曇り空、葉の落ちた木々、雨で増水して濁った川や池、場所によっては10m先も見えない濃霧に覆われるといった風景が延々と続き、ヴォツェックかイェヌーファの背景に使えそうだなとか思いましたけど、正直退屈しました。かといって寝ようにもコパートメントは狭く、座席も快適ではなく(乗った車両はドイツ国鉄の古い車両)、筋肉痛(昨日走り回ったせいです)もあって途中の2時間程は日本ではほぼ見られなくなった食堂車で過ごしました。前菜で注文したサケのテリーヌが主食並みに多量で、それにヴィーナーシュニッツェルとビール、さらに食後に緑茶を頼んでしまったので、お腹がはちきれそうになりましたが、「こんなのロンドンで頼んだら40ポンド(約8000円)はするのに(その上不味い)、全部で20ユーロ(約2400円)もしないなんて」と、それが嬉しくて全部食べてしまいました(付けあわせのジャガイモも含めて)。

ヴィーン西駅には午後3時半定刻どおりに着きました。ヴィーンには前日くらいに雪が結ったようで、道路の端には雪が寄せてありました。フランクフルトに比べると相当寒かったです。今回泊まったのは大荷物をあまり移動しないですむようにと西駅前のDrint Am Europaplatzに泊まりました(昭文社の「個人旅行 オーストリア・プラハ・ブダペスト」にも掲載されていますが、ネットで予約した価格は本に掲載されている価格の三分の一でした)。ダブル・ベッドの部屋で浴槽も広く、中々よいホテルでした。

シャワーを浴びて背広に着替え、ヴォティーフ教会、ヴィーン大学、オーストリア中央銀行、再びヴォティーフ教会と歩きまわり、そこからリンク・シュトラッセを周回しているトラムに乗ってOperringへ。途中のラートハウス前にはフランクフルト同様にクリスマス・マーケットが立ち、色とりどりの星が市庁舎や巨大な樅ノ木に輝いていました。オペラ・ハウス横のマーラー通りも光のページェントでして、当然シュテファン大聖堂へ向かうケルントナー通りもクリスマスの飾りつけで綺麗でした。ただ、今日は日曜日なので楽譜店のドブリンガーを初めとして大方の店が閉まっていたので、人通りはそれほど多くはありませんでした。

とりあえず、オンラインで予約したチケットを取りに行こうと、93年に手紙で「薔薇の騎士」(元帥夫人が3ヶ月後になくなるポップ)のチケット予約をした時の記憶(隔世の感がありますなあ)に基づいて、劇場横手のチケット・センターに向かったらお休み。またもや困ったことになったなあと、とりあえず何か分かるかもと年中無休の音楽関係お土産屋、アルカディア、に入ると、たまたま私と同じように予約したものの、チケットを受け取れないで困っていた日本人数人が事情通らしい年取った日本人女性からチケットの受け取り方を教えてもらっていましたので、ちょっと聞き耳を立ててみましょうと、クルシェネクについてドイツ語で書かれた最新本を読めもしないのに眺めながら聞いていると、開演1時間前から30分前までの間に劇場内のチケット売り場に行けば受け取れるとのことでした。何だフランクフルトとおなじではないですか。

さて、アルカディアには当日の公演の写真や宣伝用のポスター、上演日当日のポスター(日付と歌手の名前が掲載されている)が内外に展示してあって、真っ赤な銀ラメのスーツにアフロヘアで顔を真っ黒に塗ったジョニー役のスコウフスの写真を見て思わず笑ってしまったのですが、それよりも宣伝用のポスターを見て、一体これは何だ?と不思議に思ったのでした。もっとも、それは実際の上演を見て氷解しましたが

まだ時間があったので、腹ごしらえをしようと思いましたが、あいにくガイド・ブックをホテルに忘れた上に、チケットを取りに行く時間を考えると劇場からあまり離れたくなかったので、近くのWienerwaldという、ケンタッキー・フライドチキンをファミリー・レストラン化したようなところで済ませました(同じ店をマインツやシュトゥットガルトでもみましたし、後者にはまたもやオペラ前の腹ごしらえに入ってしまいました。鶏肉が好きなもんで)。その後チケットを受け取りにいくと、またもや人だかり。翌々観察すると、当日券を求める人と予約を引き取りに行く人が分かれている(ただしきちんと並んでいない)ようなので、群れに押し入りチケットを入手。それでも時間があるのでどうしたかというと、泊まれはしないがケーキは食えるとばかりに、ホテル・ザッハーに向かい、おのぼりさんよろしくザッハ・トルテを食べに行きました。

ホテル・ザッハーでザッハ・トルテを食べるのは93年3月のヴィーン初訪問以来。その時は一番普通っぽい喫茶店の方に入りましたが、今回はそれと知らずに高そうな所、クロークで預かり料90セント(100円くらい)も取られる方に入ってしまいました。さすがにさらにお隣のレストランは一人で入るのが憚れそうな雰囲気で、また要予約の感じでしたので避けましたけど。

久しぶりに食べる本家だか元祖だかのザッハ・トルテはおいしかったです。日本ではデーメルの元祖だか本家だかのザッハ・トルテは食べられますけど(例えば日本橋高島屋地下1階)、ホテル・サッハーのザッハ・トルテは、ここヴィーンとヴィーン空港とザルツブルクでしか売っていなかったはずなので、東京では食べられないのです。じゃあ、デーメルとどっちがおいしいのかとか、どれくらい違うのかと聞かれると、食べ比べまではしたことがないので良く分かりません。どっちもおいしいです。要はその土地その土地の物をその土地その土地で食べるのが旅行の楽しみだということです(もっとも、これまでに「名物に上手い物無し」を散々経験させられていますけど)。


さて、ようやく上演時間がやってきました。本日はエルンスト・クルシェネク オペラ「ジョニーは演奏する」 二部からなるオペラです。




 ヴィーン国立歌劇場 クルシェネク:歌劇「ジョニーは演奏する」
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 フランクフルト州立歌劇場 シャリーノ:歌劇「マクベス」へ
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