道楽者の成り行き
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6.頽廃音楽ですが、何か?


12月28日 シュトゥットガルト

曇りのち雨

午前中、シュトゥットガルトから電車で30分ほど離れたゲッピンゲン市に向かいます。この街は鉄道模型メルクリンの本社&工場があります。このあたりの南ドイツ一体にはぬいぐるみで有名なシュティフをはじめとする玩具メーカーが色々な街に本社&工場を構えていて、ドルトムントなどで玩具市が開かれたりしているようです。

ゲッピンゲン市のたたずまいはドイツ最大(世界最大という話もある)の鉄道模型会社のある街とは思えないほど、雑然とした街で、メルヘン街道の街々を想像するとがっかりくるような詰まらないところです。そこからタクシーにのって6ユーロほどの距離にメルクリン博物館があります。

もともとメルクリンは19世紀後半に会社を立ち上げた頃は鉄道模型以外のブリキの玩具も作っていましたので、博物館にはそれらも展示されていましたが、やはりメインは鉄道模型です。創立140周年記念の総プラチナ製のHOゲージ(縮尺1/87)のスイス鉄道の電気機関車や今ではカタログ上でしかみることができない過去の製品が幾つも並べられていました。

若干メルクリンについて語ると、日本では主流のNゲージ(線路幅9ミリ)とはかなり異なる鉄道模型です。

まず、製品の主流は、HOゲージ(線路幅16.5ミリ)とZゲージ(線路幅   )です。また、多くの鉄道模型が直流2線式(二本のレールの片一方をプラス電流が、もう片方をマイナス電流が流れる)であるのに対して、交流3線式(線路以外にもう一本プラス電流が流れるレールがあり、二本のレールにはマイナス電流が流れる。東京近郊にお住まいの方ならば、地下鉄丸の内線を考えてもらえればよいでしょう)。そのため、集電用のシュー(金属の板)が機関車に着いているのが特徴です。この交流三線式は電気的な問題を考えることなく、複雑な路線を組み立てられる利点がありますが(また、デジタル制御で複数の機関車を運行するのも比較的容易)、集電シューがレールとこすれるのが煩いという人もいます。また、当初はHOゲージが主流で(現在は世界最小規格と言われるZゲージもあります)、狭い日本家屋では広げられないことや、日本型の機関車・車両を製造していないこと、そして他の日欧米の多くがプラスチック車両中心なのに対して、ダイキャスト製で精密なこともあって高い(現地でも結構なお値段が、日本にはいると1.5〜2倍に高騰)こともあって、日本ではあまり普及している方ではないと思います。昔は日本語カタログもありましたが、現在は英語カタログしか日本ではお目にかかれませんし、私が小学生の頃には多くのデパートに売り場がありましたが、現在は東京圏では高島屋日本橋店くらいでしかお目にかかれません。ただし専門店は、渋谷の東急プラザ5階のレオや銀座の天賞堂、北欧の工芸品・雑貨(超お高いのだ!)を扱う北欧ビル五階の「銀座ショールーム」(並行輸入業者)他いくつかがあります。なお、北欧ビルの工芸品・雑貨の店長さんはレゴを日本に初めて導入された方です。住所は東京都中央区銀座1-15-13です。機会があれば北欧もののCD(とかスコア)直輸入の可能性を聞いてみようかと思っているうちにロンドンに転勤となってしまいましたので、他の方でトライして欲しいものです。

さて、お高いメルクリンですが、よほどひどい扱いをしない限り親子3代は持つと言われています。実際亡くなった祖母が、私が生まれる前、少なくとも35年以上前にクイズで当てたモデルは、ボディーも壊れず、問題なく動いています(勿論ゴムやモーターの刷毛といった消耗品は交換する必要があります)。さらに、走行性能の安定性は鉄道模型の中でもぴか一であるとも言われています。

鉄道模型に興味がない人もいるでしょうからこれくらいにして、話を先に進めましょう。

さて、博物館でのみ売っている客車を購入してから、表に出ると鉄道模型の大きな店がありました。ドイツでは鉄道模型は立派な大人の趣味として認められていることから、どの街にもそれなりに大きな鉄道模型店があり、家族で訪れている姿を良く見かけます。大体旦那に連れられて奥さん子供が来て、旦那と子供が熱中し、奥さんが財布の紐を締める役割のようです。ただ、大都市シュトゥットガルトから離れた辺鄙な街に大きな鉄道模型店があるとはねえ、と入ってみたら驚きました。堆く積まれたメルクリンをはじめとする模型の箱、箱、箱。さらに中古オークションでしか見かけないような珍しい車両も売られていました。

年末の土曜日でクリスマス明けバーゲンということもあるのでしょうが、店内は結構な客がいまして、真剣に吟味したり、店主と話をしていまして、私も、おおこれは買い損なったものだとか、欲しいが値段がなあ、とか思って店内を巡っていると、高くて手が出なかった製品がバーゲンで3割引と表示されていました。30分くらい店内をうろうろと考えて、結局遅かれ早かれ買ってしまうならば、早いほうがよい、というマクベス夫人めいたセリフを自分に言い聞かせて購入、そのとき、「St.Ivesは支払いの心配でもう眠れない」というセリフは聞こえませんでしたが、さすがにちょっと先々の生活費が心配になりました、10万円以上使ったので。


博物館から駅への帰りは、別段お金が心配という訳ではなかったのですが、タクシーを使わずに歩きました。薄ぼんやりと陽も射していたので、どんな街かなという興味を持って歩いてみましたが、メルクリンが無ければ日本の雑然とした中小都市のドイツ版という趣でした。

ゲッピンゲンからシュトゥットガルトに戻るとまだ午後2時、オペラは午後8時スタートなので、どうしようかねえと観光案内をパラパラ捲ると、ダイムラー・クライスラー博物館の案内があり、買えないけど見るだけでもいいかと出発。

博物館はシュトゥットガルトからSバーンで二駅ほど先、温泉町の隣にあるダイムラーの巨大な工場の中にあります。駅から工場近くのバス停まで10分ほど歩き、そこから専用バスで工場内に入るのですが、当日は専用バス乗り場が移動して工場の入り口になっていました。年末で雨なのでお客さんは少ないだろうと思ったら、黒山の人だかり、博物館内も外人観光客だけでなくドイツ人も多数の大人気博物館でした、実際人気があるはずです、各国語(日本語あり)の丁寧な音声解説、ぴかぴかに磨き上げられたクラシック・カー、今のベンツよりも豪華そう、がズラッと並び、見ていて楽しいし、子供に限ってそれらの内の幾つかに乗れるのですからねえ、こうやって将来のユーザーを確保していくわけですな。

結局2時間ほど館内をうろうろ回って、アデナウアーや昭和天皇が乗ったベンツ(菊の御紋付き)を眺めてからシュトゥットガルトに戻り、少し寝てからオペラ・ハウス、シュトゥットガルト州立歌劇場に向かいました(途中で例のWiener  Waldでクランベリー・ゼリー&七味唐辛子ソースの鳥のから揚げをたべて行きましたが、意外な取り合わせのソースがおいしかったです)。


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