事務局講座 その19 08.03.02
審査員オーデション

事務局のお仕事とはいったいなにか?と疑問を呈した。はっきりいえば、事務局の仕事なんてないよ、事務局なんていらないよということである。しかし審査対応の業務というか雑用は残る。もちろんわざわざ事務局というものをつくるほどのことはないとは思う。

審査の対応といってもいろいろある。
審査日程の調整、これは結構大仕事である。審査機関から「いついつ審査したいんじゃきに」と言ってきても、会議室の確保やエライサンの予定を押さえるのは結構大変です。その他に昼飯の手配、歓迎○○審査機関ご一行様なんて看板も作らなければならないし、審査が終われば審査費用の振込みなどこまごました仕事もある。
本日はそのような艶のないことではなく、審査員の受諾について吟味しよう。
新規であろうと通常のサーベーランスであろうとどの審査でも、審査前に派遣する審査員の提案があり、これを受諾すると次に進むことになる。
大昔からISOを担当していた人なら、審査員の受諾確認というものがなかった時代を覚えているだろう。1991・2年頃いや95年頃まで審査員を忌避するなど思いもよらなかった。当時だってIAFのルールはあったはずだが、審査機関はそのような手順を踏まなかった。

同意確認書って次のようなものです。

-----J■●▲-----

○○株式会社 環境管理部 ご担当者様

貴社のサーベーランスに下記の者を派遣することについてのご同意を確認します。
下記をご確認いただき、同意あるいは忌避をいついつまでにXX宛て回答願います。


氏名任田 佐為(記載内容はダミーですよ)
生年月日昭和2X年XX月XX日
○年○○工業高校卒業
○年〜○年○○株式会社 ○○に従事
○年〜○年(株)○○製作所 ○○に従事
○年〜○年○○工業(株) ○○に従事
○年〜XXX審査機関
保有資格品質マネジメントシステム主任審査員(JRCA A00xxx)
環境マネジメントシステム主任審査員(CEAR A10xxx)
第一種作業環境測定士(放射線を除く)、公害防止管理者(大気1・水質1・騒音/振動・ダイオキシン)、甲種危険物取扱者、衛生管理者、作業主任者(○○)、その他もろもろ

特別管理産業廃棄物管理責任者とかエネルギー管理員と書いていた方がいたが、恥ずかしくないのだろうか?

同意する・忌避する(一方を消してください)

J■●▲審査機関 審査計画部(担当○○)
電話xxx-xxx-xxxx・FAXxxx-xxx-xxxx

普通の会社では、送られてきた派遣予定の審査員の資料を見ても、せいぜいが学歴、経歴、保有資格などを担当者内の話の種にするとか力量の値踏みする程度だろう。もちろん中には、競争相手の会社出身だから忌避するとか、他社の事務局から聞いた評判が悪いから止めておくかということもあるだろう。
しかし、審査員に我々の希望をインプットして、それに沿った審査をするように要請するということはあまりないのではないか?
本日はそのようなことを考えたい。

ISO審査機関は業種分類ではサービス業になる。そんなこと私が決めたのではない、帝国バンクとかその他の格付け機関や調査会社はそう分類している。
サービスとはなにかと難しいことを語るほど知識はないが、簡単に言えば役務(えきむ)を提供するということだ。役務とは物ではない無形のものということ。審査機関のカテゴリーはビルの清掃業とかガードマンと同類なのである。そう考えると審査員に応対するのにかしこまることなく飲んでかかれるというものだ。
サービスのもつ特徴として、無形性、同時性、変動性、消滅性がある。ここで注意しなければならないのは同時性であり変動性である。
同時性とはサービスは生産と消費が同時に行われることで、この特性から事前に品質を確認することができない。もちろんその審査会社の評判とか審査員のうわさを集めることはたやすいが、それは過去に提供されたサービスの品質であって、これから金を出して買おうというサービスの品質は確認できない。
更に問題なのは変動性である。サービスは人に依存するために、ばらつきが大きい。そして外部の者から見れば同じ行為であっても、提供する人の状況と受ける人の状況によってその品質の評価が大きく異なる。一人の審査員を優秀と評価する人と、使えないと評価する人がいても不思議ではない。
だが、金を出してサービスを買うのは我々組織の側である。自分が期待するサービスを買う権利を有するのは当然であるし、それを選ぶ権利もある。
たとえばどこの歯医者に行くか法律で決まっているわけはない。腕がいいと評判の歯医者、予約がしやすいところ、駐車場が便利などで選ぶのではないですか?
ISO審査というサービスを買うにあたり、自分が望む審査を提供する審査機関、審査員を選ぶのは当然です。

私は、書面を見て審査員を受諾とか忌避をしているものは見聞きしている。
しかし、本日は審査員の受諾を決めるに面接してオーデションすることを推奨する。
だって考えてごらんなさい。一回の審査で少なくても数十万から百万円、会社の規模によっては何百万とかかかるのですからサービスの品質はわからなくても、サービス提供者の人質(「ひとじち」ではなく「じんしつ」)くらいは確認しなければなりません。
派遣社員だってパソコンがどのくらい使えるか、英語ができるか、愛想がいいかくらいは確認するでしょう。審査員を決めるにあたって、常識があるか、挨拶ができるか、アイソ規格を理解しているかくらいは確認しないと心配です。
愛想とアイソの韻を踏んでいるのをご理解いただけましたか 
これは冗談ではないのです。つい先日、審査員の言葉使いが悪くて、後でインタビューを受けた取締役からえらく叱られた事務局担当者から愚痴を聞かされました。ちゃんとした敬語も使えない審査員では困りますよね。

まず、審査機関から派遣者の提案が来たら、電話をかけましょう。
「あー凸凹株式会社だがね、今度更新審査でお宅から派遣提案あった○○さんと○○さんにいついつ当社までご足労願いたいんじゃきに」と言いましょう。
../phone.gif 万が一、「そういうことでしたら当社まで来てください」なんて相手が応えたなら、審査員を忌避するのでなく、審査機関を鞍替えした方がよさそうです。
いまどき、数十万、百万円の機械設備を買うとき、セールスマンが我社に来いなんていったら、お客さん逃げていきますよ。
「当社は審査員のインタビューなんて応じません」なんておっしゃったなら、即電話を切って他の審査機関にかけなおしましょう。

インタビューでは何を聞くかですが、確認したいことはたくさんあります。
前に述べたように、まず挨拶ができるか、ちゃんとした言葉使いができるかをチェック
会社幹部を怒らせるような気配があれば、忌避する前に「当社は一応東証一部上場ですし、経営層もそれなりの方ですので言葉使いやご対応にはご配慮ください」くらいは釘を刺しておきましょう。
それに気付かず審査でため口きいたならその場でご注意申し上げるか、審査終了後、審査機関にお便りするか、まあその時しだいです。

ISO19011で求めている力量は、
7.3.1品質マネジメントシステム監査員及び環境マネジメントシステム監査員としての共通の知識及び技能
7.4教育、業務経験、監査員訓練及び監査経験
7.2個人的特質 監査員は4.に示す監査の原則に従って行動できるような個人的特質を備えていること

簡単にいえば、ISO規格を知っていること、監査する力、品質や環境の専門能力、コミュニケーション能力です。

コミュニケーション能力は話せばわかります。
ご自分だけ話をしているのはもうだめです。だって監査って英語でオーデットといいます。これはずばり聞き取りという意味。人の話を聞かないで話し続けるタイプはオーデターとしては不向きで、噺家とか漫才師になるべきです。
話が論理的でない人もいます。とりとめのない話をする人は頭の中もとりとめがないような気がします。刑事コロンボとか古畑任三郎はち密な計算の上でああいった話し方をしているのであって、中身まであのままではパーデンネンです。
経営を熱く語る人、過去の仕事ぶりを自慢する人はみなペケです。前野さんという言葉がありますが、前の会社では、前の仕事ではという人も来てもらわなくていいです。私どもはコンサルタントを依頼しているのではないので、そのような能力はいりません。

ISO規格を理解していない審査員も困ります。まさか理解度をペーパー試験するわけにはいきませんから、口頭試問をして確認しなければなりません。
具体的には、これこれは適合と判断しますねと確認するしかないでしょう。
あるいは冗談ぽく、「まさか○○さんは有益な側面なんて説を信じてはいないでしょう」といって、もし「あれ、御社では有益な側面を把握していないのですか」なんて真顔でいうなら忌避の方に丸をつけましょう。

品質や環境の専門能力となりますと、どうしたらよいのでしょうか? ちょっと評価方法がわかりません。なにしろ手始めに法規制の知識なんて確認したら、ほとんどの審査員が理解度テストに落ちてしまいそうです。
先日立ち会った審査では、「○○法の改正に対応しましたか?」とどこでも繰り返してました。前回の審査からの一年間に環境関連の法改正はたくさんありましたが、その審査員はそれしか知らなかったらしい。
俗に○○の一つ覚えという 
まあ、審査は遵法確認ではなく、マネジメントシステムの適合性なのだから良しとしよう。

さて、大事なのはそれからです。
一応ここまで合格ラインでしたら、審査を受ける側が期待することを審査してほしい旨を伝えましょう。
「○○部門においては内部監査の結果を尊重してないのでお灸をすえてください」
「前回○○部門を褒めてましたが、内部監査ではボロボロです。しっかりと見てくださいね。」
「○○部門は本社方針をないがしろにしてるので、上位組織との整合性がとれていないと4.3.3で不適合にしてください。」
「目的目標の設定は当社の専決事項ですから、異議をはさまないでください。」
「アドバイスの類は一切しないでくださいね。あなたのためです」
というふうに要求しましょう。
なにせ、私どもが大金を払って審査というサービスを購入するのですから当然です。掃除婦が言われた部屋を掃除しなければ人を変えてもらいますし、ガードマンの愛想が悪ければやはり人を変えてもらいます。サービス業ってそういうものです。
もし、ここで「そんなことは・・」というなら忌避のほうに丸印をつけるしかありません。

ここに書いたことがとんでもないと思われた方、そんなことはありません。
実は某審査機関のおえら方とお話しましたが、まさしくこの通りの心構えと手順で審査をしていました。
時代は21世紀です。
有効性のある審査、経営に寄与する審査でなければ生き残っていけません。


本日のお願い
ぜひ、経営に寄与する審査をお願いします


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(08.03.02)
言うまでもなく「力量」とは、「知識と技能を適用するための実証された能力」であります。
審査員にその力量があることは当たり前どころではないのですが、不思議なことに審査機関から送られてくる「同意確認書」なるものは、たいていおばQ様が紹介されたような内容です。学歴、職歴、保有資格などが淡々と列記されているだけで、言ってみればまあ履歴書と大差のないものです。
(志望動機にあたるものがない分、履歴書以下かもしれません。せめて審査に対する考え方や抱負、想いというものをぜひ書いて欲しいものです)
そこには「実証」がないわけで、これでどうやって審査員の力量を判断せよというのでしょうか。しかも、たいていの場合は「○月○日までに忌避の申し立てがない場合は了承されたものと見なします」という一文があるので、半ば自動的に同意することになってしまいます。おそらく実際に忌避されたケースはほぼ皆無でしょう。

「同意確認書」に基づいて事前に審査員の面談をさせて欲しいと審査機関に申し出ても公式には受け付けてもらえないので、ウチの場合は審査前日か審査後に雑談の形で力量を判定するための面談を行っております。
ビジネスマナーやコミュニケーション能力は常識として、一番重要なのは当社が志向するマネジメントシステムの考え方に、審査員のそれがどれだけシンクロしているかです。具体的には、あらかじめ50個ほどの想定問題集をこちらで用意してあり、その中から話の流れに沿って切り出す(出題する)わけです。
この想定問題集は、たまに営業に来られる他の審査機関さんに使うこともあります。その審査機関さんのスタンスを知るのに役立っています。
つまり既存の審査機関はもちろんのこと、審査機関そのものを購買先の一つと見なして、その評価にも使えるというわけです。
せっかく高いお金を出して審査してもらうわけですから、それがムダにならないようにいろいろと工夫をするのは当然ですし、審査機関や審査員だけを特別な存在として扱う謂れもありません。

こういう試みを始めてからは、審査機関を客観視できるようになりました。
今や審査員や審査機関は受審組織側が選ぶ時代に入ったと思いますし、こうした評価を下すプロセスを備えることは、自社のマネジメントシステムをより有効なものにしていく上でも役立つのではないでしょうか。
「審査をしていただいている」のではなく「審査をさせている」という視点に立つと、いろいろと見えてくるものがあります。

たいがぁ様 毎度ありがとうございます
まさしく審査機関は購買先の一つに過ぎず、評価するのは我々の権利ではなく義務のようです
しかし審査員の方はそこまで考えが進んでおらず、いまだお殿様と勘違いしている方も多いようです
オープニングとかクロージングでカラオケのマイクをもったように、もう己の世界に浸って感情をるる語る方もいて、審査ではなく所信表明かと
ありがたくご高説を聞くような人は最近は減り、黙らせろなんていう偉いさんもチラホラ
時代はドンドン変わっているようです


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